異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第19話 異常者

 俺は再びギルドの入口へと近づき、標的の様子を伺う。

 

 すると、ちょうど標的、赤塚剣一がこちらへ向かってきた。

 少し大振りなその歩き方は、現在彼が感情的になっていることを表している。

 

 言い争いは終わったが、納得がいかない様子だ。

 間に合った。これなら策が通じるはずだ。

 

 俺は彼の前に姿を現し、そのままギルドから離れていく。

 

「あ。お前、ちょっと話が……て、おい!まて!」

 

 予想通り彼は追いかけてくる。

 

 俺は追いつかれないようにしつつも、彼が俺を見失わないよう距離を一定に保ちながら目的地を目指す。

 

 

 

 辿り着いたのはFランク迷宮、この中に相手を誘導する。

 

 先に迷宮に入った俺は準備をして、標的の侵入を待つ。

 

 離した距離は20mほどであり、彼はすぐに俺を追って侵入してくる。

 

 そして現れた彼を光が包み込む。

 

「くそ!なんだ?!」

 

 俺は彼を背後から蹴飛ばそうとするも、回避され距離を取られる。

 

 しかし、彼を出口から遠ざけることに成功した。

 

「ぐっ!なんなんだよ!」

 

 彼は腰袋に右手をかけるも、力が抜けてぶらりと下がる。

 肩には俺の投げた杭が刺さっている。

 

 カードのバリアがある限り、マスターは負傷しない。

 ならばカードの使用を防げばいい。

 

 俺が彼の腰袋を切り落とし、先程の光の正体、グレムリンがそれを回収する。

 先ほど青葉さんから買い取ってきたばかりだが、従順で有能だ。

 

 この場には丸腰の標的と華美な籠手と刀で武装した俺、そしてグレムリンがいた。

 

 グレムリンの光で機械を破壊し、外部との連絡を絶った。

 出口は俺の後ろまたは迷宮の最下層。

 

 王手だ。

 

 俺は敗北勧告をする。

 

「命が大人しく従え」

「は?お前は何がしたいんだよ!」

 

 この状況で分かるだろう?降伏して服従しろ、ということだ。

 ……状況が呑み込めていないようだ。今度は左腿に杭を打つ。

 

「うぐ!」

 

 彼はその場にしゃがみ込む。これで逃走はできなくなった。

 

 そして彼の口にローポーションを流し込む。

 

「うぅ!」

 

 傷口に杭が刺さったまま出血が止まり、命は守られる。

 しかし、体を動かせば、傷が開くと共に強い痛みがするだろう。

 

 彼もようやく状況を理解したようで、こちらの出方を伺ってくる。

 

 俺は彼を蹴飛ばし仰向けにし、そして鞄から殺生石を取り出す。

 それを薄い紙で包み、刀で彼の腹を裂き、それを埋め込んだ。

 

「っっ!」

 

 まだ死にはしない。けれども頭痛、目眩、吐き気、あらゆる体調不良が彼を襲う。

 

 そして今度はミドルポーションを飲ませる。

 腹の傷は塞がり、殺生石は取り出せなくなる。

 

「紙が溶ければ君は死ぬ。余命は僅か。臓器を傷つけずに取り出せる?」

「要求はなんだ」

「服従だよ」

「はい。分かりました……って従うとでも!」

 

 彼は左手をポケットへと伸ばした。

 

 しかし、刀がその手を貫通し地面へと突き刺さる。

 

「ちっ!」

 

 ポケットを探れば、1枚のカードがある。

 それはBランクモンスター、温羅。

 わざわざ隠し持つとは警戒心が強いようだ。

 

「死にたいの?」

「そんなわけあるかよ」

 

 刀を引き抜き、様子を伺う。互いに動かないまま時が進む。

 

 グレムリンはカードホルダーを抱えこちらに寄ってくる。

 

 魔道具であるカードホルダーは所有者しか開くことはできない。

 

 しかたないので、温羅のカードを赤塚さんに差し出す。

 

「所有権を放棄して」

「……」

「カードホルダーは返すから」

 

 温羅と引き換えにカードホルダーの返却を約束する。

 反応が悪いな。本命はこの中ではないのか。

 

 本命の人質。

 

 それは彼の相棒である護法童子だ。

 

 赤塚剣一はこの地域で有名であり、エースやお気に入りの相棒なんかが露見している。

 

 エースであっても名付けもしていない温羅では人質として不十分。

 

 数年前から使い続けて、名付けにランクアップまで行う相棒。

 そいつなら人質としての役割を十分に果たすはずだ。

 

 エースを隠し持っていたように、相棒もどこかに隠しているのだろう。

 

 カードホルダーの外にあるのは好都合だ。力づくで奪い取ることが出来る。

 

 相手の動きを見て、先ほど同様に相手の動きで隠し場所を探り当てるしかない。

 

 動きだした。

 

 左手を内ポケットに伸ばす。

 

 それはブラフだ。視線をたどれば、その先には胸ポケットがある。そこか。

 

 俺は彼の手を峰で打ち、胸ポケットに入っていたものを奪い取る。

 

 しかし、それはカードではなく、懐中時計だ。

 

 思い出の品かそれに変わる何か。この状況において、生存よりも思い出を意識したのか。

 

 その隙に彼はポケットからカードを取り出す。

 

「来い、乱丸!」

 

 現れたのは背丈が3m程はある鬼。

 頭には角を生やし、全身が分厚い筋肉におおわれている。

 片手に下げた大剣は圧倒的な腕力を示している。

 この鬼が護法童子だ。

 

 俺は鬼の首へと刃を突きつけた。しかし、鬼の首には傷一つつかない。

 

 相手はBランクであり、戦闘での勝ち目は薄い。

 

 護法童子はBランクの近接向きモンスター。本来はこの距離なら瞬殺されていただろう。

 

 けれどもそうはならなかった。目の前の鬼はマイナススキル、「零落せし存在」により、戦闘力と先天スキルに制限が掛けられている。

 

 プランを持久戦へと移行する。

 

 殺生石が彼を蝕み、限界が来るのを待つ。そうなれば、俺に救援を求める他ない。

 

 鬼は大剣を俺をめがけ振り抜いた。

 

 後方へ下がり回避したものの、すぐにその剣は太刀筋を返していく。

 籠手から炎を吹き、その勢いで無理矢理さらに後方へ飛び退き回避する。

 

 続いて大剣は下段を薙ぎ払う。

 

 跳躍して回避すれば、ここぞとばかりに鬼は大剣を両手に持ち替え、振り上げた。

 刀で受けた俺は勢いよく吹き飛ばされる。

 

 少し試してみたが、やはりBランクモンスターの相手は厳しいな。

 

 その技量は今まであった中でも騎士に次いで高い。

 その上、あの時の騎士よりも強い筋力から繰り出されるそれは、今までで最大の脅威と言える。

 

 ただそれは純粋な武力の話でしかない。

 

 

「君のマスターに毒を持った。治せるのはこの場に僕だけ」

「チッ……どうすればいい」

「君が人質になって」

 

 鬼はその問答に頭を悩ませる。

 

 その間に背の裏でハンドサインをする。

 それを見たグレムリンはカードホルダーを持ったまま迷宮の奥へと進んでいく。

 これで敵戦力の増加を防ぐ。

 

「またせたな」

 

 覚悟を決めたようで、鬼の顔つきが変わる。

 

 そして鬼の体から赤いオーラが溢れる。

 何らかのスキルか?いや、そんなスキルは知らない。それは公開されていない隠し玉なのだろう。

 

 敵を注視し、天耳通での索敵も行う。けれども、鬼は動かない。

 

「あぁぁ!」

 

 動いたのはマスター、赤塚剣一。彼は隠し持っていたナイフで自身の腹を裂いた。

 傷口に手を入れ、紙の包みを取り出す。

 

 ホームセンターで買ってきた耐水性のその紙は一切溶けることなく初めのままだ。

 

 痛みを堪えて歯を食いしばる標的に代わり、鬼が口を開く。

 

「そうだよな。お前はそういう奴だ」

「異常者だね」

「お互い様だろ」

 

 初めから死なせる気などない。彼の力を求めているのに、そんなことをすれば本末転倒だ。

 しかし、見破られてもまた同じか。

 

 それでも彼の腹からは勢いよく血が流れていく。

 このままではそう長くは持たないだろう。

 

「ゴールデンウィークに言ってたよな。『救助だよ』ってさ。自分の命を惜しまずに人助けする奴が人殺しなんてするわけねぇ」

「……」

 

 なぜそれを知っているのか。この鬼もリリとおなじく呪いのカードなのか?

 

「お前の目的は分からねぇ。けどもよ、その暴走は俺が止めてやる」

 

 鬼は突然動き出したかと思えば、近くの木の裏に隠れていたグレムリンを取り押さえ、カードホルダーを取り上げる。

 

 先ほどハンドサインでグレムリンに伝えたのは、迷宮の奥に行ったフリをして、近くに隠れることだ。

 

 俺の持ち合わせたミドルポーションは底を尽きた。

 赤塚剣一の腹から包みを取り除くには、彼の持ち合わせたものを借りる他なかった。

 そのために近くに潜ませていた。

 

 鬼は彼の肩と股から杭を抜き、ミドルポーションを飲ませた。

 

 傷は完全に治り、彼は立ち上がる。

 

 これ以上はグレムリンを傷つけるだけだ。

 もう打つ手は無い。詰みだな。

 

 俺はモンスターと刀をカードにもどし、カードホルダーにしまい、前へと投げる。そして両手を上げる。

 

「降参です」

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