異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第22話 ズレてる

 夏休み初日、俺は電車に揺られ、遠くへ行く。

 

 これで、赤塚さんやそのほかの青葉玉音の知り合いを避ける。

 

 ダンジョンマート内の迷宮へのゲートには監視カメラがあり、それを誤魔化すために、姿を青葉玉音に変える必要がある。

 その時彼女の知り合いに遭遇して、偽装が露見するのを避けるためだ。

 

 都会や観光地を避けつつも、近くに迷宮がある場所を目指す。

 

 電車の中から見える風景はビルや住宅から、山河や田畑が多いものへと変わっていく。

 虫の声も聞こえてくるような気がする。

 

 電車が目的の駅に着き、降りてみれば、田舎らしい背の低い建物が立ち並んでいた。

 予約していた宿に入れば女将さんが迎えてくれた。

 

「ようこそおいでくださいました」

 

 女将さんはやたら丁寧な出迎えの言葉をくれる。

 

 俺は夏休みの間ほとんどをここに泊まることになっている。

 つまりは、俺はここに30泊以上する上客なのだ。

 

「お部屋はこちらになります」

 

 連れていかれた部屋は、前情報通りのベッドとテレビがあるだけの小さな部屋。

 

 上客などと言ったが、泊まるのは1番安い部屋だ。

 鍵がかかる部屋なら何でもいい。

 

 荷物を置いて、早速迷宮へと向かう。

 

 この近くにはFランク迷宮とDランク迷宮があり、両方徒歩で30分程だ。

 

 まずはFランク迷宮の方から行くとしよう。

 

 

 

「少しくらいは反省なされるべきかと思います」

 

 数週間ぶりにあって第一声がそれか。

 

 しかし、俺の不手際で不快な思いをさせてしまったのだ。ちゃんと謝るべきだろう。

 

「急に体内に入れてごめん」

「その事ではありませんよ」

 

 違うのか。だったらなんだ?心当たりがないな。

 

「えぇ……。正気ですか?あの四ツ星の方に迷惑かけたことですよ。謹慎を言い渡されたのでしょう」

 

 なんだその事か。なら俺の姿を見ればわかるだろう?今の俺は比嘉秀羽ではない。

 

「私は青葉玉音」

「中身がシュウなのは変わっていませんよ」

 

 確かに普段の俺の振る舞いでは中身が透けて見える。

 青葉玉音がどんな人物か知らないが、きっと俺とは違うだろう。ならば……。

 

「青葉玉音でぇす!よろしくお願いしまぁす」

「うっわ、気持ち悪!」

 

 こうではなかったか。

 

 だったら、適当に青葉さんの真似でもしとこう。

 

「とりあえず、攻略始めよっか。戦力減っちゃったけど、Fランク迷宮なら大丈夫でしょ」

「あ、その気になれば普通に喋れるんですね。普段からそれでお願いします。あと、笑顔が下手くそです」

 

 文句が多いな。疲れるから迷宮の外で人と接する時だけにしよう。

 

 それと後で笑顔を練習しておこう。

 

「いくよ」

「はい」

 

 

 

 自室で今日の反省をする。

 

 戦力的には十分だった。

 

 しかし、体力的にきついな。休憩を挟みながら攻略して夕暮れになってしまった。

 今までは戦闘も移動も任せてたからな。

 

 この結果ではDランク迷宮の攻略には1週間はかかるんじゃないか?

 

 宿は5週間ほど取ってあるから、戦力を少し集めてから最後の週にでも挑んでみるか?

 

 いや、戦力の話をするなら、Dランクカードが欲しい。

 

 明日にでもそちらに行ってみるか。変な心配をかけないよう、女将さんにはその旨を伝えておこう。

 

 俺は、中途半端に余っていた時間をランニングで潰した後に、大浴場に向かった。

 

 男湯と女湯があるが女湯に入った。

 なんと客が俺しかいないので、男湯には湯を張ってすらいないそうだ。

 

 宿が潰れていないのは別の商いをしているのだろう。

 

 体を洗い流し、湯に浸かる。看板曰く、この湯には疲労回復の効果があるようだ。

 心なしか体がほぐれていくような気がする。

 

 大きな浴場を独り占めするのは、とても気分がいい。

 まるで王様にでもなった気分だ。

 

 気持ちよく浸かっていれば、すぐに時間が流れた。そろそろ上がるとしよう。

 

 今度は併設されたランドリーで今日来ていた服を洗う。

 

 この場面で偽装がバレるのを防ぐためだけに、女性物の服を数日分買ってきた。

 

 あまりにも無駄な出費だ。冬休みは冬物の服を買うことになるし、何よりも自粛が終われば使わなくなるのだ。

 

 この服を着るのもこの夏限り、なんとももったいない。

 

「少しお時間いただけますか?」

 

 女将さんが後ろから声をかけてきた。

 

 こちらから話したいこともあったしちょうどいい。

 

「ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます。宿の中で過ごされてお気づきかと思いますが、この宿は閑古鳥がないています。それでも商売を続けられるのは、お客様のような冒険者に別の仕事をしているからです」

 

 ここに来る冒険者の目的が俺と同じで迷宮の攻略とすれば、女将さんの言う別の仕事は魔石の売買だろう。

 

 ギルドよりも高価で買い取り、安価で地元住民に売る。それで生計を立てているのだろう。

 

 わざわざそんなことをしてまで宿を続けるのは、この宿に強い思い入れがあるからか。

 

 ちょうど換金先を探していたところなので、利用させてもらう。

 俺は鞄から魔石を取り出した。

 

「話が早いようで助かります」

 

 ついでに明日からDランク迷宮に行き、数日戻らないことを伝えた。

 

 

 

 

 

 翌日、迷宮の中で敵を避けて駆け抜ける。

 低ランクモンスターを倒しても旨みは少ない。

 

 いつも通りそう思っていたが、人間の足だけでは厳しい。

 リリが魔法で足止めしてるおかげで何とかなっている。

 

 最初の迷宮攻略を思い出すような光景だ。このまま元に戻っていくのだろうか。

 

 結局俺は何も守れず、傷つけただけ。目を背けても事実は変わらない。

 

 カードは死後どうなるのか。

 

 マスターに使い潰された彼らはその一生をどう思うのだろうか。

 

「前方に敵が3体います」

 

 リリだけは残っていた。

 

 彼女は自身の願いのために最善を尽くし、生存の道を選び続けている。

 

 その生き方はなんとも気高く、美しいものだろうか。

 

 これ以上はもう失わない。彼女だけでも守り抜きたい。

 

 

 

 1階層が終わり、安全地帯にたどり着く。

 人間の体力ではこまめに休まないといけない。

 

 休んでいる間に1つ聞いてみるか。以前は答えてくれなかったが、今ならどうだろうか。

 

「君の願いは何?」

「……貴方ならば、受け入れてくるでしょうね」

 

 その言い方からして正常な人間では受け入れられないようなものだろう。

 彼女は一体何を願うのか。

 

「私は……玉座が欲しいのです」

 

 彼女は言葉を選びながらそう言った。

 

 確かにそれは一般に受け入れ難いものだ。

 玉座を手に入れるためには、まず玉座を作り出さなければならない。

 

 それはつまり現在の社会を壊し、新たな社会を作り出すということだ。

 

「世界の全てを私を尊び、崇め、信仰する。それが私の願いです」

 

 あまりにも自分勝手な願いだ。

 けれども、彼女はそれを理解した上で、本気で叶えることを目指している。

 

 その願いを叶えてあげたいとすら思った。

 

「シュウの願いはなんなのですか?以前聞いた時は過程しか教えてくだいませんでしたよね」

 

 言われてみれば、過程しか教えてなかった気もする。

 

「みんなを守ることだよ」

「え?」

 

 質問に答えたのにそれはおかしいだろ。

 何も疑問に思うことなんてなかったはずだ。

 

「この前、筋肉質な冒険者の方に何をしたか覚えていらっしゃいますか?」

「手段を選ばないだけ」

「……そうですか」

 

 なんか引かれた。

 

 四ツ星の力が欲しかったから、合理的に行動しただけだ。別におかしなことはないだろう。

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