異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第23話 覚醒

 3日かけてEランク階層まで攻略した。

 

 ここから先はDランクモンスターが闊歩する階層だ。

 

 味方はマイナススキル持ちのリリだけとなると、敵は格上と考えていいだろう。

 それも複数体で現れるとなれば、一切気の抜けない戦いになる。

 

「敵は2体です」

「奇襲する」

 

 息を潜め、敵の様子を探る。

 

 敵はオークとコボルト、人型になった猪と狼のようなモンスターたちだ。

 

 こちらに背を向けたコボルトに迫り、心臓に刀を突き刺す。そして刀身が爆ぜる。

 

 爆発音にオークが気づき、こちらに突進してくる。

 刀を引き抜きつつ、コボルトをオークの動線へと蹴飛ばす。

 

 彼らは衝突し揉み合いながら倒れた。

 

 動転しているコボルトの首を切りつける。

 切り落とせはしないが、コボルトはたおれる。

 

 オークがこちらに襲いかかる。

 

 足元に火球を撃ち込めば、回避しようと不安定な体勢になる。

 

 その隙に斬りかかれば、オークは回避できない。

 何度も斬りつければオークは倒れた。

 

 カードは落ちないか。

 

 Dランクのドロップ率は1%、気長にやっていくしかないだろう。

 

 

 

 

 

 5日かけてDランク5階層全てのモンスターを倒したが、ドロップ0だった。

 100体倒せば1枚落ちるという訳でもない。こういうこともある。

 

 気を落としていても、時間の無駄だ。切り替えよう。

 

 階段を下れば、この迷宮の主であるCランクモンスターがまちかまえている。

 戦力は少ないが、勝ち目はある。

 

 

 

 しかし、そんな想定は一目で覆る。

 

 大荒れの天気の中、今にも転覆しそうな船の上に俺たちはいた。

 振り返るとそこには階段がない。

 

 イレギュラーエンカウントだ。

 いつも通り外部との連絡は途絶えている。

 女将さんには数日戻らないと伝えたし、両親にも夏休みは帰らないと伝えた。

 

 救助は来ない。生き延びたければ戦って勝つしかない。

 

 イレギュラーエンカウントと出会うのはこれで5回目となる。

 

 しかし、今までの4回は全てFランク迷宮のものである。

 ここにはこれまでとは比べ物にならない強敵がいるはずだ。

 

 まず、敵の正体は「人魚姫」で確定していいだろう。

 海を覗けば人魚たちが船を揺らし笑っている。

 

 人魚姫の第1フェーズはリドルスキルになっている。

 海に飛び込むか、嵐が過ぎるまで待つかの二択だ。

 リドルスキルを知っている場合、どちらが正解かはランダムになる。

 

 選択を誤った場合は第2フェーズをマスターが昏睡状態で挑むことになる。

 つまり、俺達ではリリが一人で挑むということだ。

 それは避けなくてはならない。

 

 

 けれども、考えたところで答えはわからない。

 揺れる船上で無駄に体力を減らすのは避けた方がいいな。

 俺は海へと飛び込んだ。

 

 水の中に入ると視界が黒く染まり、音はなくなり、呼吸もできない。

 

 そんな状態で波に揺られる。激しい運動で上も下も分からなくなる。

 

 船にぶつかったのか背中に衝撃が走る。

 

 次の衝撃はそれほど硬くはない。人魚にぶつかったのか。

 

 

 

 とても長く感じた1分ほどが過ぎた。

 

 そろそろ時間経過で第2フェーズに進むはずだ。

 

 波が次第に弱まり、やがて動きが完全に止まる。

 

 けれども、体は動かない。2択を外したのか。

 つまり、第2フェーズ終了までこのまま寝たきりだ。

 

 第2フェーズは海から出てこようとする人魚姫を追い返すというものだ。

 

 こうなれば、リリに期待する他ないが、頼りないな。マイナススキルが2つもあるし……。

 

 Eランクモンスターを召喚しておくべきだったか?

 いや、ランク差を前に為す術もない。無駄な犠牲にしかならない。

 

 詰んだな。

 

 戦力が整う前に主の階層に入るべきではなかったか。

 

 いや、勝算はあった。問題はイレギュラーエンカウントに遭遇するという不幸だ。

 お祓いでもしておくべきだったか。

 

 今日で人生が終わるなんて、後悔しかないな。

 まだ願いを叶えていない。

 

 それまで死ぬわけにはいかない。けれども体が動くことはない。

 

 神や天使がモンスターとして地上に降り立っているが、天国なんかはあるのだろうか。

 

 まあ、あったとしても俺が行くのは地獄に決まっている。

 だが、もしそこがあるなら、いっその事そこで願いを叶えればいいか。

 

 そういえば、入場の処理を青葉玉音にしてあるから、ここで死んだのも彼女という扱いを受けるはずだ。

 

 実際には生きている訳だから、冒険者カードの不正使用がバレて、青葉玉音と関与しただろう浅黄さんは処罰を受けることになる。

 

 巻き込んでしまって申し訳ないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……長いな。かれこれ1時間は経つんじゃないか?

 

 思いのほかリリが健闘しているようだ。

 

 そんなわけないか。

 

 だとしたら、既に死んでいて、意識だけが囚われているのかもしれない。

 

 つまり永遠にこのまま。それは嫌だな。外部からの干渉がなくとも、精神が削られそうだ。

 

 

 

 突如、世界が色を、音を、全てを取り戻す。

 

 目の前では、グロテスクで大柄な半魚人が俺の心臓に短剣を突き刺していた。

 

 第3フェーズ、人魚姫の短剣を回避するか否かで敵が変わる。

 回避しなかった場合、敵は本来の姿に戻った人魚姫だ。

 

「シュウ!敵は1体、勝算はありますよね!」

 

 横から飛び出してきた少女が、勢いのまま半魚人に飛びかかり、そう言った。

 

 半魚人は飛び退き、容易く回避する。

 

 その少女の手には顕明連が握られ、その背には俺の鞄がある。

 

 恐らく彼女がリリだ。

 

 その手に持った刀を使うために、人型をとっているのだろう。

 

 彼女が第2フェーズを突破したのか?しかし、どうやって?

 

 いや、今はどうでもいい。俺は人形で怪我を塞ぐ。

 

「力を貸して」

「もちろんです」

 

 少女は華美な籠手へと姿を変え、俺の右手に取り付く。

 

 刀を握り、半魚人と向き合う。

 

「ああ、私の王子様、そんな女狐は捨てて、私と一緒になりましょう。私の全てを貴女に差し上げます」

 

 返答はしない。

 

 王子の時に学んだが、イレギュラーエンカウントは余計なことを言えば、不規則な動きをしてくる。

 

「お前のじゃない!身の程をしれ勘違い女が!」

「黙れ女狐!お前には聞いてないわ!」

 

 おい女狐、思いっきり余計なこと言うなよ。

 彼女にとってはそれほど重要なことなのか?まあ、いいや。

 

「命だけ貰っていくよ」

 

 俺は半魚人の首に刀を突きつける。

 

 彼女はそれを容易く回避する。回避した先を二手目で斬り裂く。

 

 しかし、それは空を斬る。遅れて彼女が、そこに来た。

 

 彼女が何かした訳ではない。

 

 俺が速くなっている。補助魔法が掛けられているのか。

 リリは成長しているようだ。負けてられないな。

 

 半魚人が短剣で突きをする。

 

 その短剣は先ほどもカードのバリアを貫通し、胸を突き刺したように、防御を無効化する絶対攻撃の効果を持つ。

 

 ついでに原点通りのデバフ解除効果もある。

 

 しかし、防御を無効化すると言っても、それはカードのバリアや魔法、魔道具などの非物質的なものに限られる。

 

 刀を左手だけに持ち替え、短剣を打ちつけ軌道をそらす。

 

 その隙に籠手が変形し、飛び出した鉤爪がを袈裟斬りにする。

 

 浅いな。けれども、爪の先で起きる爆発は確実に半魚人の体力を削っていく。

 

 距離を取ろうとする彼女に対し、追撃をする。

 

 鉤爪が傷跡を逆になぞり、刀が片足へと食い込む。

 

 どちらも傷は浅く、彼女は気にも留めていない。

 

やはり骨が折れそうだ。

 

 

 

 

 さらに1時間ほど経過した。

 

 そろそろ互いに限界が来る。決着をつけよう。

 

 無理矢理攻勢に出る半魚人は短剣を振り回そうとする。

 勢いづく前に、鉤爪で絡め取り、短剣はその場に落ちる。

 

 慌てて繰り出せる拳を刀で流し、鉤爪で袈裟斬りにする。十分だな。

 

 彼女が腕を引き戻す隙に、刀を両手に持ち直し、その胸へと突き刺した。

 

 鉤爪による何十度もの斬撃と爆発が重ねられ、抉られたその場所のさらに奥深くへ。

 

 目覚めの時は心臓を突き刺された。

 

 仕返しにこちらは、眠りの時に心臓を突き刺した。

 

 半魚人の胸の内から爆発音が響く。

 

 心臓は大抵の生物にとって急所となる。そこに直接攻撃されればひとたまりもないだろう。

 

 半魚人の両手が俺を掴みにくる。

 

 俺は籠手から手を抜き取り、襲い来る手を打ち上げる、蹴り落とす。

 

 俺に攻勢に出る余裕は無い。半魚人も俺の防御を掻い潜れない。

 

 千日手を思わせる攻防だ。

 

 しかし、その間も爆発はやまない。

 

 俺は一人ではない。力を貸してくれる味方がいる。負ける気はしないな。

 

 半魚人の抵抗は刀へと届くことはなかった。

 

 ついに彼女は倒れた。その体は端から泡となっていく。

 

「ああ、私の王子様、貴方はお強いんですね」

「貴方の王子様ではなく、彼は私の王です」

「ふふ、今はそういうことにしておくわ」

 

 半魚人は不穏な会話が気に入ったのか、そこには先程の短剣が残されていた。




【Tips】人魚姫
 人魚姫のイレギュラーは全3フェーズに別れている。

 第1フェーズでは荒れ狂う船の上で選択を迫られる。不正解を選んだ場合、マスターは第2フェーズ中昏睡状態となる。
 選択の答えは、何も知らない場合は海に飛び込む。童話を知っている場合は嵐が過ぎるまで耐える。リドルスキルを知っている場合はランダムとなる。
 ちなみに船は非常に激しく揺れており、素人ではたっていることすら叶わない。また、海からは人魚が投石を、空からは怪鳥が体当たりをしてくる。

 第2フェーズでは浜辺に舞台が移る。
 人魚姫が海から砂浜へと上がってこようとするので、それを一定以上のダメージを与えるか、一定以上海へ押し込めると第3フェーズへ移行する。
 ちなみに人魚姫が砂浜に上がってしまうと、その時点で敗北が決定し、海から無限に人魚が湧き出てくる。

 第3フェーズでは舞台が再び船に移る。開始と同時に人魚姫が短剣を突き刺してきて、その対応で敵が変わる。
 攻撃を受けた場合、本来の姿に戻った、つまりは第2フェーズよりも強化された人魚姫と戦うことになる。短剣には絶対攻撃が付与されているが、特徴はそれくらいである。
 攻撃を避けた場合、人魚姫は海の泡となり、その姉5体と戦闘になる。単にCランク5体が完璧な連携をしてくるだけだが、普通に強い。
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