「ありがとう。助かったよ」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
今回生き残れたのは紛れもなくリリのおかげだ。
しかし、なぜ彼女が第2フェーズを突破できたのか。
彼女のカードにその一端が現れていた。
【種族】リリ(妖狐)
【戦闘力】300
【先天技能】
・狐火
・変化
・初等攻撃魔法
【後天技能】
・野心
・渾身の一撃
・臆病→(LOST!)
・運動音痴
・詠唱短縮
・魔力強化(NEW!)
・初等補助魔法(NEW!)
いくつかのスキルが変化していた。それだけで対抗できたというのか?
「何をしたの?」
「貴方の目を通してイレギュラーエンカウントの攻略法を一通り見ていたのです」
呪いのカードであるリリは俺を通して地上が見えるらしい。
それにより、俺が見ていた攻略情報を一緒に見ていたということか。
それを活用して、第2フェーズを乗り切ったと。
「すごいね」
「シュウには及びません」
背を撫でてやれば、嬉しそうに身を寄せてきた。もう少し休んでいよう。
1週間ぶりに戻ってきた宿からは、騒がしい声が聞こえてくる。
俺以外にも客がいるらしい。
玄関から入ると、女将さんが出迎えてくれる。
そして、テーブルと椅子だけがある個室へと通された。魔石の買取をしたいのだろう。
踏破報酬の方はギルドの買取額よりも少し高く買い取ってくれた。
しかし、イレギュラーエンカウントの方は無理なようだ。
それもそのはず、ギルドの買取価格なら1億円ほどのそれは、急に買取なんて出来るものでは無い。
これは保管しておいて、そのうちギルドに持っていくとしよう。
商談を終えた後は、体の汚れを落としたいので浴場へと向かう。
男湯には湯を張っていない旨を伝える張り紙がある。他の客は女性のようだ。
今は浴場に人がいないようなので、遭遇しないうちに入ってしまおう。
俺は急いで体を洗う。
けれども、それは間に合わなかった。脱衣所に人が入ってくる。
人数は2人で、話の内容から大学生だと思われる。
まずいな。相手が1人なら死角をついて脱出できただろうが、2人となると難易度は上がる。
いや、自然に振る舞えば声をかけられることも、ボロが出ることもない。
そう自然に。俺は悠々と体を洗う。
「あ、いた!」
「女将さんの言うだったね」
やばい。俺になにか用がありそうだ。落ち着け、相手はたった2人だ。
颯太達との迷宮攻略と変わらない。自然に振舞うんだ、比嘉秀羽。
「私をお探しでしたか?」
「はい!お話を聞きたくて」
「構いませんよ。なんでも聞いてください」
「「ありがとうございます」」
ここまでは問題ない。このままボロを出さずに切り抜けろ。
定型文だけで対応すれば、怪しまれるかもしれない。
予め想定解を用意するべきか。
わざわざ俺に話ということは、Dランク迷宮についてだろう。
マップ情報や、出現するモンスターの情報か。
「私、先輩たち呼んでくるね」
「うん。お願い」
え?増えるの?それはまずい。
宿に来た時に聞こえた声からして、最低でも6人はいる。
さらに話に参加していなかった人がいるかもしれない。
その人数で相手にボロを出さずに切り抜けるのは無理だ。
いや、違う。
無理なのはボロを出さない事ではない。会話自体だ。
会話が成立しなければボロが出ることもない。
最悪のケースがなくなり、一安心。
そもそも落ち着いて対応すれば、問題なんてないんだ。
「ごめんなさい。人に囲まれるのはちょっと苦手で……。先輩さん達を呼ぶのは待ってくれませんか?」
「あー、はい。分かりました」
「逆に来ないでって伝えてくるね」
「今度こそ行ってらっしゃい」
リスクを減らすことに成功した。あとは質問に正しく答えるだけでいい。
他に打てる手は……。
「先輩たちは部屋で待ってるって」
「では、湯船に浸かりながらお話しましょう」
「「はい」」
湯船に浸かることでのぼせるというタイムリミットを用意する。
俺がやばくなった時も、のぼせたと言いながら退場できる。
「女将さんからDランク迷宮に行ってたって来たんですけど──」
話の内容は想定通りだ。想定解を使っていけば乗り越えられる。
はぁ……どっと疲れた。
自室に戻ってきた俺はベッドに突っ伏す。
浴場での会話はおそらくなんの問題もなく終わったはずだ。
今日はこのまま休もう。
明日からは彼女たちがDランク迷宮に行くそうなので、俺はFランク迷宮を周回することになる。
こんな田舎まで人は来ないと思っていたが、そうでもないのか?
もう1組冒険者が来たら、迷宮が足りなくなってしまう。
その場合に備えて、別の活動場所を探しておくか。
翌朝、俺は迷宮攻略に向けて荷物整理を始める。
Fランク迷宮なら日帰りを想定した荷物でいいだろう。
鞄には食料は少なめ、着替えは念の為一式入れておこう。
当然鞄からは昨日の荷物が出てくる。ゴミは捨て、衣類は纏めておいて帰ってきてから洗濯しよう。
この短剣は持っていくべきか?いらないか。
それは人魚の短剣。
童話において人魚姫の体を元に戻すために姉達が用意したもの。
目の前の短剣は刀身に血液を塗ることで、デバフを解除することができる。ちなみに絶対攻撃の効果は持たない。
俺はそれを自身の胸へと突き刺す。
塗った血液の量に比例し効果が上昇するらしい。
俺の怪我にかかった呪いを解くにはどれほど必要なのか。
「………………………ッ!」
意識が飛びかけた。これ以上は危険だ。
呪いが解けたかどうか判断するには、どうするか。
俺は人形の効果を部分的に解除し、先週のFランク迷宮で手に入れたミドルポーションを飲んでみる。
怪我が治ったかは分からないが、痛みが引いた。
呪いが解けたのだ。あとはハイポーションを手に入れれば俺は完治する。
けれども、この怪我は完治したところで何も変わらないので、後回しにされてきた。
そしてこれからも後回しにする。
偶然手に入るまではこのままでいいだろう。それよりも戦力を補強したいしな。
俺は荷物整理を終えて、Fランク迷宮に向かった。
【Tips】人魚の短剣
人魚姫のドロップ品。柄には人魚があしらわれている。
刀身に血液を付着させることで使用者及び味方にかかっているデバフを解除できる。付着した血液の量に応じて効果が強まり、強いデバフを解除できるようになる。
絶対攻撃の効果は無いと言われている。