浅黄さんたちを放置して、迷宮の出口へと向かう。
その道中でリリが口を開く。
「その胸の穴は大丈夫なのですか?!」
「大丈夫」
「え?あ、そうですか」
あらかじめ内蔵をずらし、胸に穴を開けておくことで、天逆毎の攻撃は服を破るだけで俺に当たることはなかった。
外に出る前に見た目を取り繕った方がいいな。
俺は再び人形の力で体を歪め、見た目を入った時と同様に戻す。
GPS付きの懐中時計も捨てていこう。もうこれに用はない。
そして、黒い渦へと触れ、地上に戻った。
「やっぱり玉音だな。お前も鏡介の企みに加担してたのか」
地上に戻ると、目の前に赤塚さんがいた。
殺すか?ダメだ。ダンジョンマート内には監視カメラが設置されている。
外に誘導しなくては。
「久しぶりだねー。鏡介も来てんの?入れ違っちゃったかー」
「誰だお前?」
「男子三日会わざれば刮目して見よって言うでしょ。私も日々成長してんだよー。立ち話もなんだし、近くの宿に泊まってるからそっち行こ」
「無理があるだろ。もっと表情筋動かせよ」
ダメか。迫真の演技だと思ったんだけどな。
じゃあ、ここは分かりやすく行こう。
「表出て、殺す」
「そんなこと言われたら、絶対でねぇよ!お前、比嘉秀羽か?!こんな物騒な奴他にいて欲しくないんだけど!」
バレたか、仕方ないな。
姿を変える魔道具を持っていたのが唯一の救いか。
これがあれば、この後でも適当に社会に紛れ込めるだろう。
「待て。戦う気は無い。鏡介を捕まえに来ただけだから。お前を止める気はない」
本気なのか?以前も俺が犯罪者になるのを食い止めてくれたが、目的はなんだ?
「この前も鏡介を呼び出したら大事になっただけで、お前をどうこうする気はなかったんだ」
「目的は何?」
「お前が恩人に似てるからだ」
確かに、恩返しならば動機としてありうる。
けれども、殺されかけておいてその判断はおかしいだろう。
いや、でも自分の腹を切るような異常者だからな。
「ここは見逃す」
「そうしてくれ。鏡介はこの中にいるんだな?」
「うん」
その会話を最後に彼は迷宮へと入っていった。
さて、なぜ彼がここに来れたのだろうか。
あの下手な尾行では、誰だって気づくはずだ。
人質に気を取られていたのかと思えば、人質はいなかった。連れてくる利益があるようにも思えない。
あの二人は手を組んで何か企んでいるのか?
そうなら無理をしてでも始末するべきだったな。次に会った時は必ずそうしよう。
けれども、その機会が訪れることは無いまま、夏休みが終わった。
今は始業式の最中、校長が何かを話している。
まるで興味がない。
後ろの凛月なんか思いっきり寝ている。
それに対し俺は眠ることができず、そのせいでこの虚無の時間を過ごしている。
あ、凛月が目覚めた。
「おはよう」
「おはよう。終わるまであとどれくらい?」
「予定だと5分」
「二度寝はできないな」
「お疲れの様子だね」
「ああ、夏休みは働き詰めでさ。高校生だと夜勤できないけど、家にいる時間は内職してたんだ」
かなりハードな生活をしているようだ。
これが冒険者部全員だとすれば、相当なガチ集団になるだろう。
青葉さんや颯太はすぐに置いてかれるんじゃないかな。
「その分、結構稼いでもうすぐ100万円貯まりそうなんだ。そうなれば俺達も冒険者デビューだぜ」
「それだと安くて弱いのしか買えないよ」
「やっぱそうなのか。颯太と華音にも止められたんだよね。だったらキリよく年明けからとかにしておくか」
その勢いで稼いでいるなら、あと4ヶ月もあればまともなカードが買えることだろう。
あ、冒険者やってる事伝えてないままだ。それにしては自然な反応だな。
「てか、秀羽も冒険者なの隠してただろ。颯太から聞いたぞ」
「タイミングを見失って……」
「今は謹慎中なんだって?ずぐに追いついくから、楽しみしとけよ」
なんとも頼もしい言葉だ。これが6人とか将来有望すぎる。
早めに唾をつけておこうか。でも大人数に近づきたくないな。
夏休み前の勉強会も目を合わせないことで、ギリギリ乗り切れた。
徐々に慣らしていこう。そしていつかまともに関わればいい。
始業式が終わり、授業が始まる。
高校の授業って何日出席すればいいんだろう。明確に示してくれれば、自主休講できるのに。
次に遠出できるのはシルバーウィークだろうな。
週末にFランク迷宮攻略ならできるだろうけど、移動費を考えると旨みが少ないし。
いっその事バイトしてみるか?いや、人と接するのは嫌だな。
それに迷宮攻略に比べて、収入が少ないよな。
行くあてはあの類しかないか。