街中を歩けば、聖なる夜に浮かれた人々が蔓延っている。
今日はクリスマスだ。
富者も貧者もこの日は大切なようで、恋人や、子供連れの家族なんかが多い。
俺は人混みの中を通り、奥へと向かう。
広く場所を取っているそこは小さなオークション会場だ。
今日はクリスマスだからと浮かれた人々をターゲットに、いつもよりも高価なものが出品されるらしい。
例年その高価なものにはBランクカードも含まれるらしい。
今回の目的はそれだ。
想定よりも人が多いな。
競売人の声は聞こえるが、ものが見えない。
今更どうにもならないし、このまま参加するか。
『まずはこちら!冒険者御用達のミドルポーション!その詰め合わせです!500万円から!』
何個入りだろう。1つなら50万円程だ。値段からも予想がしづらいし、周囲の人達も戸惑っている。
「1000万!」
『1000万出ました!これ以上はいませんね!ミドルポーション25個入りを1000万で落札されました!』
「よし!」
適正価格は1250万円ほどか。彼の儲けは250万円ほどだ。
ギルドを介していないこのオークションでは、このように通常よりも安い価格で物を買うことができる。
その分出所不明の怪しいものが紛れているらしい。
それでも高価なものばかりだ。
これは目的の品以外は手を出さない方がいいな。このまま少し待つことにしよう。
時間が経つにつれ、場が盛り上がっていく。そろそろだろうか。
『続きまして、ついに今日の目玉!Bランクカード!最初の1枚はインド神話における戦いの神カーリー!1億から!』
次々と入札されていき、あっという間に100億に昇った。それはもう普通に買った方が安いだろ。雰囲気に飲まれたのだな。哀れな人たちだ。
『2枚目は北欧神話のトリックスター、ロキ!性格には難がありますがBランク、1000万から!』
前の方に座っている人達は動かない。おそらく、何らかのマイナススキルを持っているのだろう。
それを察した後ろの人たちは少額ずつ入札する。
ここしかないだろう。
「1億5000万!」
『入札1億5000万!他にいませんか!』
今日はわざと子供の姿で来ている。
俺の姿を見た大人たちは馬鹿にして笑っている。
その空気がこれ以上の入札を防いでいた。
『では1億5000万で落札!』
俺は裏手に回り、商品の購入を行う。
アタッシュケースごと金を渡し、その枚数を数えて貰う。
1億5000万円とは、俺の貯蓄のほとんどになるが後悔はない。
マイナススキルは確認できていないが、Bランクなら最低限役に立つはずだ。
支払いが終わり、ついに商品が渡された。
【種族】ロキ
【戦闘力】600
【先天スキル】
・トリックスター:物語を展開する者。自由行動に対する極めて強いプラス補正。変身、幻術、話術、飛翔を内包する。
・終わらせる者:自身の子供たちと共に神々を苦しめたロキの侵攻。フェンリル、ヨルムガンド、ヘルを召喚可能。それぞれ1日1回1体。
・高等魔法使い
【後天スキル】
・神のプライド
・乙女心
・運動音痴
運動音痴か……。運用するにはリリと同様に護衛としてそばにいる必要があるな。
戦闘スタイルの幅を増やしたかったが、これでは難しそうだ。
……Bランクを買えただけでも儲けものか。
少し気を落とし帰ろうとすれば、お兄さん達が盛大なお見送りをしてくれるそうだ。
返り討ちにした後、鳥となって空から帰った。
クリスマスの翌日、俺は降り積もった雪を、掻き分けながら道を行く。
この先には迷宮があるのだが、この雪の中近づく者はそうそういないだろう。
やっとの思いで辿り着いた迷宮でリリを召喚する。
「仲間が増える。仲良くして」
「やっとですか!」
彼女の喜びもそのはず、かれこれ半年も彼女だけだったからな。
とりあえず、ロキを召喚する。
その姿は乙女心による変化で女性のものとなっている。
「よろしく」
「え?ヤダ」
「わかった。さがってて」
彼女をカードに戻し、リリと迷宮攻略を始め──
「いや、もうちょっと頑張りましょうよ」
「嫌がってたよ」
「誠心誠意頼み込めば変わるかもしれません」
仕方ないので、もう一度召喚する。
「力を貸して」
「だからヤダ」
「理由をお聞きしてもよろしいですか」
「だってその人つまんなそうだもん」
確かに俺は面白い人間ではない。
そしてそれはすぐに治るものでもない。
諦めよう。
「この人面白いことできるんです。それを見て審査してください」
リリの指示に従い、パフォーマンスを始める。
「姿を自在に変えます!」
「ありきたり、不合格」
変化、変身、人形。この場にいる全員にできることだ。
「罠の回避から解除まで1人でこなします!」
「映えない、不合格」
罠を起動させないために最小限で動く。映えるわけがない。
「1人でモンスターを倒します!」
「弱い、不合格」
Fランク程度には対応できるが、それ以上だと厳しくなる。
モンスターに比べて弱いのは確かだ。
「ぐぬぬ……」
一通り不合格を言い渡され、リリも諦めかけている。
ロキは神のプライド持ちであり、眼鏡にかなうまで言うことは聞いてくれない。
面白くなる方法を本格的に考える必要があるな。
あ、階段が無くなった。
長期休暇の度に遭遇しているな。確率おかしいだろ。
「またですか」
「まただね」
「……」
そんな時、ロキの表情は少し動いた。
それに彼女を攻略する糸口があるのかもしれない。
【Tips】トリックスター系神・悪魔
高位の神や悪魔などにはプライド系スキルがあり、認めた相手の言うことしか聞かない。
高位のカードは種ではなく、固有名詞なことも多く、性格が同じことも多い。
それ故にそのカードに合わせて口説き方もある程度解明されている。
しかし、トリックスターなどを持つ一部の自由なカードたちは気分で決めている疑惑が上がるレベルでよく分からない。認められた本人もよくわかっていないケースも多い。
その上、持ち前の自由さにより、認めた相手の指示も無視したり、勝手な行動をとったりする。