異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第3話 前借り

「ワゥゥン!」

「とぉぉりゃ!」

「いい調子。そのまま行こう!」

 

 4階層も終わりへと近づき、この頃には獣たちの人となりが見えてきた。

 それでも獣たちの諍いは鬱陶しく、抱っこ紐はやめた。

 

 ワイルドウルフは手柄を重視し、少しでもリリより多くの敵を倒すと調子に乗り始める。

 敵を倒すと言っても、2体とも自身のみで敵を倒せないので、とどめを刺すことが重要らしい。

 これは間合いと視界を調整して、2体の手柄を均等にすることで対応した。

 

 リリは報酬を重視し、褒め言葉ひとつも聞き逃さない。こちらも均等にすることで対応する。

 

 それらを意識し始めてからは諍いも減っていた。

 また、連携にも慣れてきて、2階層の時よりも格段に効率が上がっていた。

 

 敵を見つければワイルドウルフが奇襲をしかけ、その後、俺とワイルドウルフで一体ずつ足止めして、順にリリが倒す。

 

「ワァゥ!!」

「ちょっと、横槍やめてください」

 

 そして軽く言い争う。もはやルーティンとなっていた。もう気にもとめない。

 

 

 

 そんなこんなで俺たちは安全地帯へとたどり着き、主戦前の最後の休息をとる。

 

 俺は遅めの昼食を摂り始めた。俺が食べているのは、ダンジョンマートで売っていた人間用の携帯食だ。

 

 そうしていると、両サイドに獣たちが獲物を求めやってきた。

 だが、これは狐や狼が食べれるものなのか。

 モンスターだから胃腸も強いのかもしれない。

 しかし、こんなことで体調を崩したら笑えないので与えないことにした。

 

「あ……」

「ワゥ……」

 

 俺が最後の一口を飲み込むと、両サイドから落胆の声が聞こえる。

 似たもの同士だ。諍いの原因は同族嫌悪なのかもしれない。

 

 それはさておき、そろそろ休息を切り上げ軽くストレッチして、階段へと向かっていく。

 何も言わずとも獣たちは着いてきた。

 

 たどり着いた5階層、そこは相変わらずの遺跡である。

 響く足音は今までの階層よりも少ないが、複数ある。

 恐らく眷属だろう。主との戦いで邪魔をされたら面倒だ。

 

「先に眷属を消す」

「ワォン」

 

 作戦の共有はできた。俺は耳をすまして、足音を聞き分ける。……1つだけほかよりも重い音がする。

 それがこの迷宮の主、スパルトイだろう。

 

「重い足音に注意して、近づいた来たらすぐに伝えて」

「かしこまりました」

 

 この階層ではスケルトンが1体ずつ徘徊している。

 ワイルドウルフが奇襲をし、リリが渾身の一撃を撃ち込む。

 それだけで安全に倒すことが出来る。

 

 やすやすと眷属を倒し終え、そして、目の前の角を曲がった先に主がいる。

 作戦は変わらない。

 

 角を曲がると、爬虫類のような頭蓋骨と自身の背ほどある大剣が特徴的なスケルトンがただずんでいた。

 

「ワォォォン!!」

 

 状況の確認よりも早くワイルドウルフは敵に飛びかかり、そして、主の腕に容易く弾かれる。

 そのまま床を転がり数メートル先の壁にぶつかる。

 

「ワゥ……」

「これでも食らいなさい!!」

 

 そして、主が視線をこちらに向けると、リリが渾身の一撃を撃ち込み、それは大剣により撃ち落とされる。

 

「なっ?!」

 

 スパルトイはEランク、これまでのアンデッドとは文字通り格が違う。

 ただ、敵はアンデッド1体、まだまだ手はある。

 

 俺は駆け出し、主にナイフを突き立て……ない。体制を崩させるべく、足払いをする。

 

 予想通り、主はナイフを防ごうと身構え、足下への注意を怠った。

 

 しかし、無防備の足でも俺の力ではびくともしない。

 地面を転がり、主の反撃を回避しつつ、距離をとる。

 

 塵を積もらせるのは途方もないことは確かだが、今の攻撃も無駄では無いと信じたい。

 

 次は正面から主に向かっていき右側に駆け抜けるように見せて、急に旋回し左側───

 

「ワゥゥ!」

「くっ!」

「うっ、ごめん」

 

 大剣が俺をはじき飛ばした。

 痛みはない。その代わり、カードのバリアによりダメージはカードたちに分配された。

 衝撃はあるのに痛みはない。妙な感覚だ。

 

 それよりも驚くべきことがある。

 今この主は知能の低いアンデッドでありながら、フェイントを見破ったのだ。

 おそらく知能を、上昇させるスキルを持っている。

 

 だが、その一方で今までに見せた動きはどれも力任せで技術を感じない。

 武術系スキルは持っていないに違いない。

 

 情報の更新はできた。回避に専念すれば対等にやり合える。

 しかし、それは俺の体力が底を突くまでのジリ貧でしかないうえ、主がこれ以上スキルを持ってないとも限らない。

 

 俺は周囲を見渡す。

 

 なるほど。やはり俺が、この主の相手をするしかないようだ。

 

 体勢を立て直しきらないうちに、主が襲いかかってくる。

 大剣を振り上げ、そのまま振り下ろす。そして振りかぶって頭突き。

 

 素直なその連撃を回避して、ナイフを首に突きつける。やはりビクともしない。

 

 地を這う大剣を飛び越え、そのまま主の肩の上に乗る。

 即座に主は振り落とすべく大剣を持ち上げる───後方からの奇襲に気づかずに。

 

 主はワイルドウルフの奇襲をもろに食らう。

 重い大剣を掲げた姿勢で体当たりなどされたら、怪力の主と言えどバランスを崩す。

 

 俺が主の後頭部を蹴飛ばしながら距離をとると、その勢いのまま倒れる主に先程よりも大きな火球がぶつかる。

 さらに続けざまに小さな火球が撃ち込まれ続ける。

 

 主の知能が高いと言えど、それには「アンデッドの割に」という枕詞がつく、目の前の敵に集中して、周囲が見えていなかったようだ。

 

 主が起き上がる。そして、今度は最も強い攻撃をしたリリに狙いを定め行進する。

 ただ、移動中は重心もまた移動し続ける。

 それも注意がこちらに向いていないとなれば、たとえ力の差が大きくとも崩すことはできる。

 

 倒れる主に火球が注がれる。主は次の狙いを俺に定め、再び立ち上がろうとする。

 

 しかし今度はワイルドウルフによる追撃で、地面に伏した。

 追撃はやまない。左右の爪で連撃を続ける。

 

 そしてついに、主は光となって散っていく。そこには宝箱と1枚のカードが現れた。

 

「お疲れ様です」

「ワゥン」

「おつかれ」

 

 俺たちは集まり互いに労い合う。ともに死地をくぐり抜け、絆も深まることだろう。

 

「ワゥワァウ!」

「あら、そちらこそとどめを刺すのに必死すぎではありませんでしたか?」

 

 ……調子が戻ってきたところで、俺はカードを拾い、そして目の前にある宝箱を開ける。

 中にあるのは小さな魔石と稲穂の束。

 

 中身が気になるのか、また俺の両サイドに獣たちがやってくる。

 稲穂なら、獣たちでも食べれるのではないか。

 事実を確かめるべく、稲穂を2本抜き取り、それぞれ獣たちの口に近づける。

 

「それは食べるためのものではありませんよ」

「……」

 

 言葉で否定してくるリリ、反対側では行動で肯定してくるワイルドウルフ。どっちだよ。

 

 俺はアプリでそれを調べた。稲穂の束、買取価格なし、効果不明。なしではなく不明。

 現状では豊作祈願の効果が期待されているらしい。

 

 そのうち明かされることを期待し、この束は家で保管しておこう。

 

 

 

 そして、一休みも終わりにして、俺は離れたところにあった黒い渦に触れ、迷宮から帰還した。

 

 外に出ると、ギリギリではあるがまだ日が登っている。この調子でどんどん迷宮を攻略したいものだ。

 

 俺は魔石を換金すべく、ギルドへ向かう。Fランク迷宮の魔石は階層×1万円であり、今回の迷宮では5万円となる。

 雑に計算すれば、1日1迷宮攻略するとして、春休みはあと約1月近くある。つまり、春休みの間に150万程集まる。

 

 そこに宝箱の魔道具の値段も加われば、入学式までにまともなDランクカードも買えることだろう。

 そうすれば、攻略の速度も上がり、学校のある日でも迷宮攻略ができるかもしれない。

 

 そんなことを考えているうちにギルドへとたどり着く。

 

 とっとと換金して家に帰りたいものだが、そうもいかないらしい。

 

 ギルドに用のある冒険者は俺以外にも沢山いる。俺は整理券を受け取り、待合室の椅子に腰掛ける。

 

 暇な俺は明日攻略する迷宮を選定する。

 今日はアンデッド中心だったが、明日は他の種族が出てくる迷宮に行き、活躍出来るカードを手に入れたい。

 2つ隣の駅の近くに、6層の迷宮があるらしい。明日はそこに行ってみよう。

 

 ふと、周囲に目を向ければ、ほかの冒険者たちが順番を待っている。

 今日が平日ということもあってか、大人ばかりだ。彼らはきっと職業として冒険者をしている人たちなのだろう。

 

 そんな中、1人だけ俺と同じくらい年頃の女の子がいた。

 彼女も春休みに入った卒業生なのだろうか。それとも彼らと同じなのだろうか。

 

 目が合った気がする。正確にはこちらを見るのを察知して、先に逸らしたのだが。なんでこっち見んだよ。俺の言えた義理ではないか。

 

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