異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第29話 罠

 世間は春休みの最中だ。

 

 俺は人気のない場所で自身の姿に戻り、一度家に帰るところである。

 

 春休みも俺は相変わらず青葉玉音に扮して迷宮攻略をしていた。

 特筆すべきこともなく時間が過ぎていく。

 

 そう、特筆すべきこともなく。

 

 冬休みと今日までの春休み6日間で合計3つのDランク迷宮を攻略したが、ろくにドロップしなかった。

 もうこれは不運とかそういう次元じゃないだろ。

 

 夏休み以来、Dランクではイレギュラーエンカウントを避けるために最下層に踏み入ってないから、踏破報酬もない。

 

 はぁ……ないものねだりをしても仕方ないか。

 

 俺がこんなことをしてる間に凛月達は冒険者活動を始めていた。

 

 凛月を含む新人6人を颯太と華音が指導しているらしい。

 

 正直な話をするとあの2人に指導できるほどの実力はないが大丈夫なのだろうか。

 

 ふと、スマホを覗けば凛月から連絡が来ていた。

 

『秀羽も自粛開けたら一緒に行こうな!』

 

 その文面と楽しそうに火を囲んで談笑してる写真が送られてきた。

 

 なるほど。エンジョイ勢指導者の2人に気を使ってそっち方向に割り切っているようだ。

 

 1年の頃のバイトの詰め方からして、凛月はガチ勢だ。

 現状に不満があったりしないのだろうか。俺の気にすることでもないか。

 

 俺は適当なスタンプでも送り返しておいた。

 

 既読がついた。

 

 早いな。すぐにメッセージが送られてくる。今度は写真ではなく首を傾げる男性のスタンプ付きだ。

 

『次の攻略は初心者6人で行こうと思うんだけどオススメある?』

 

 オススメか……。6人もいればどこでも問題ないと思うけどな。

 

 とりあえずは俺が初めて入った迷宮を勧めておいた。アンデッドばかりだから攻略しやすいはずだ。

 

 頭を下げる兎の上に『ありがとう』と書いてあるスタンプが返ってきた。

 

 

 その時、知らない番号から電話がかかってきた。

 

 怖いな。けれども一応出ておくか。

 

『お久しぶりです。綿貫です』

 

 相手は闇賭博を取り仕切っていた狸であった。なんで電話番号知ってるんだよ。

 

「要件は?」

『簡潔に言うと、迷宮に立て籠っている元部下を捕まえてきて欲しいんです。そいつは私が非常時用に保管していたカードを盗んで行ったため、我々でも捕まえるのは難しくなってしまいました』

 

 立てこもりなんてして、問題にならないということは元部下が逃げ込んだのは秘匿迷宮だな。

 

 秘匿迷宮は政府から隠すことで、その迷宮から得られる利益を無償で独占する事が出来る。

 彼が闇賭博を取りしきれるようになったのもその財源によるものだろうか。

 

 だとすれば、この件の報酬は秘匿迷宮の開示ということになるか。

 

『付け加えて言うと、盗まれたカードや魔道具はなるべく消費させないようにしてください』

「わかった」

 

 なるべくと言うことは、多少はちょろまかしていいということだ。

 こちらは口止め料だろうな。

 

 狸が手を出せないほどのカードとなれば、強力な戦力になるはずだ。是非とも手に入れたい。

 

 

 

 

 狸の部下に案内されて、地下通路を歩いていく。

 彼は以前狸と会った時に、後ろにいた男のうちの一人で、名前は右京というそうだ。

 

「あいつは俺の相棒だったんだ。まさかこんなことをするなんて。きっと何かあったに違いない」

「着いてきてもいいよ」

「……ありがとう。恩に着るよ」

 

 どうせ俺が何を言おうと着いてきただろうが。めんどくさいやつだな。

 

 彼は本職の護衛ということもあり、肉体は赤塚さんよりも屈強で、歩き方からは何らかの武術を感じさせる。

 戦力として数えるには十分だろう。

 

 

 

「ついたぜ。ここが件の迷宮だ」

「用意はいい?」

「俺はいいがそっちは大丈夫か?ここ全階層機械破壊だぞ」

 

 何それ聞いてない。だったらマップ情報をデータで送ってくるなよ。暗記したからいいけどさ。

 

 ここは全35階層のCランク迷宮。

 

 Dランク以下と違いフィールド効果があるのは知っていたが、機械破壊か。

 

 仕方ないので携帯などは袋にまとめて、壁沿いに置いておく。そうしてから迷宮の中へ入って行った。

 

 

「おい、流石に舐めプは良くないだろ」

「問題ない」

 

 リリとロキを見て、右京は言った。

 

 けれども、俺の残りのカードはEランク以下であり、役に立つとは思えないのでこのままである。

 

「……そうは言っても俺も人の事は言えないが、支援は任せてくれ」

 

 彼はそう言いながらフェニックスを召喚した。

 魔法による攻撃と補助が売りのカードだ。

 

 発言からして、道中は後方からの支援に徹してくれるのだろう。

 

 前衛を任された俺たちは、いつも通りリリは籠手になり、ロキは姿を消した。

 

 姿を消したと言っても、奇襲などする訳ではない。何をしているのだろうか。

 

 

 

 バフのおかげもあり、道中はサクサクと進むことが出来た。

 

 後ろからつけてきている奴らがいるが、数は少ない。後回しでいいだろう。

 

 Dランク階層まで到達した。

 

 踏破するだけならともかく、立て籠っているのであれば、この辺なんじゃないだろうか。

 

 あまり深くまで行けば、不測の事態に対応しづらくなるからな。

 

 

 ああ、ちょうどいた。

 

 階段を降りれば、後方からグリフォンが突進をしてくる。

 対してこちらはフェニックスを投げつけ、囮とする。

 

 そのままグリフォンとフェニックスは戦闘を始めた。

 

「おい、左川!なんでこんなことをしたんだ!」

 

 右京の問いに返答は無い。

 

 リリは天耳通で敵の位置を特定しようとするも、見つからない。

 

 隠密系のスキルか魔道具を使っているようだ。

 

 そして俺はほどほどに弱ってきたフェニックスを背後から刀で突き刺し、ロストさせた。

 

「「は?!」」

 

 流石は相棒。息ぴったりの反応だ。

 近くに潜んでいた今回の主犯、左川の声も聞こえた。

 

 それはどうでもよくて、カードのバリアがなくなった隙に、右京の両手を切り落とす。

 そして、すかさず白紙のカードを使い、落ちる両手を回収する。

 

「ッ!」

「上手く騙したんじゃなかったのかよ!」

 

 簡単に言えば、彼らはグルとなって、俺をはめようとしていたのだ。

 

 機械破壊というのも嘘だろう。

 

 おそらく本当のフィールド効果はカードに対するバフで、それを支援魔法と誤魔化していたのだ。

 

「カードを差し出して」

 

 俺はカード化した右京の両手を見せびらかしながら、そう言った。

 

 マスターが死ねば、所有権を持つカードは全てロストする。

 両手を返して欲しければ、俺と交渉するしかない。

 

 外れた体を繋ぎ合わせるだけならハイポーションレベルならこと足りるが、失った部位を元に戻すことはできない。

 

「わかった。差し出す」

 

 左川はそう答えつつ、グリフォンをカードに戻した。

 そして、カードホルダーからカードを取りだし、所有権を放棄していく。

 

「なあ、先に腕を戻してくれよ!必ずカードは渡すから!」

 

 俺は右京の言葉を無視し、左川の監視を続ける。

 

 さらに右京は何かを投げ捨て、服従を示した様子だ。おそらくカードホルダーだろう。

 

「なあ!頼むよ!」

 

 右京がもたれかかってきて、俺は対応せざるおえなくなる。

 

 ただ、そんな隙を見逃すものはいない。

 

「行k──」

 

 反射神経の差だった。

 

 隙を逃さず奇襲をかけようとする左川に対し、それよりも早く俺は彼の首を落とした。

 

 そもそも彼らが見ていたのは隙ではなく、刀を振る予備動作だった。

 

 彼の死に反応し、カードがロストしてしまった。

 残ったのは7割ほどだ。主力と言えるものは最後に残していただろうな。

 

 まあ、及第点か。

 

「ヒッ!」

 

 右京は慌てた様子でカードホルダーを開ける。

 彼は足を器用に使い所有権を放棄していく。

 

 彼の目を見れば、恐怖だけが感じ取れる。

 

「これで全部だ!腕を返してくれよ!」

 

 俺はカードを回収した後、約束通り腕を返す。

 

 その後、安全地帯から1歩でて、自分の体に刀を打ち付けた。

 

「おい!これじゃ戻らねぇ!ポーションをくれよ!」

 

 やっと気がついたようで右京が這いながら叫んでいる。

 それを無視して俺は上層へ戻って行った。

 

 

 

「クソ!なんで入ってくんだよ!」

「いいから!とっとと応戦しろ!」

 

 そこでは待ち伏せしていた男たちが、安全地帯へのモンスターの侵入に、対応していた。

 

 正確には安全地帯は既に消失した。

 

 先程の安全地帯外での俺の自傷を、安全地帯内にいたロキがカードのバリアで肩代わりしたことにより、迷宮のルールに触れたのだ。

 

 彼らはまだ俺に気がついていないようだ。俺はそのまま彼らの戦いを傍観する。

 

 おっと、階段の下からも来ているようだ。

 姿を変えて周囲に擬態しておこう。

 

 

 

 次々とやってくるモンスターの中には、Cランク階層からやってきたものまで紛れていた。

 それでも、彼らは健闘し、襲い来るモンスターを撃退することに成功した。

 

 残す脅威は俺だけだ。

 

「全て差し出して」

 

 満を持して姿を現す。

 

 先の戦いで疲弊しきった彼らには俺と戦う余裕はなさそうだ。

 

「待ってくれ!全てはダメだ。1枚でもいい。帰るための戦力を残してくれ」

「死にたいの?」

「死にたくないから……クソ!」

「そんな……」

「……まじかよ」

 

 最終的には彼らは大人しくカードを差し出した。それを受け取り、俺はそそくさと帰って行った。

 

 

 

 これはすべて狸の仕込みだ。

 

 フィールド効果を伏せていのも、マップ情報をデータで渡したのも、元部下達が機械破壊と偽るのを予想していたためだろう。

 

 そして、追手は俺が失敗した時のための保険だろうか。

 だとすれば、彼らは俺と同じ立場だったのかもしれない。

 

 

 以前と同じ雀荘に行けば、狸とその仲間と思われる数名が俺を出迎えた。

 

「帰ってきたのはあなたでしたか。予想通りですよ」

「うちのエースが……」

「こっちも先鋭だったのに……」

 

 誰が帰ってくるかで賭けでもしていたのだろう。

 その様子では俺に賭けたのは狸1人なようだ。

 

「どんな汚い手を使いやがった!」

「そうだ!不正に決まっている!」

 

 言いがかり。とも言いきれないし、それを伝えに来たのではっきりと言っておく。

 

「安全地帯を消失させた」

 

 その場は一気に静まり返る。

 

 安全地帯が消失すれば、迷宮内をモンスターは自由に行き来し、いつ何に遭遇するかもわからない混沌とかす。

 

 そんな状態では利益を得るための安全な運用はできない。

 誰かが踏破して安全地帯を取り戻さなくてはいけない。

 

 先程の発言からして、彼らのエースや先鋭はいなくなったようだ。

 

「支援してくれるよね?」

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