戦力が足りない。それは俺たちが抱える極めて深刻な問題であった。
狸から請け負った仕事、カードや魔道具の横流しをしようにも、今のままでは迷宮攻略の効率が悪い。
その問題を解決すべくDランク階層にて、カード集めをしていた。
「全然ドロップしないですね。やはりEランクから集めた方が効率が良いのではないですか?」
リリの言葉に思わず同意したくなる。しかし、俺は素直にステップアップするしかない一般冒険者と違い、四つ星のライセンスを使えば任意のランクのモンスターと戦える状況にある。
すぐに型落ちするとわかりきったものを集めるのは不毛だ。タイマンなら問題なく倒せるDランクから集めるのが未来を見据えれば効率がいいはず……。
「早く拠点捕まえないといつまでも野宿だよ〜。ほら、頑張って」
後ろからロキの他人事のような応援が聞こえてくる。彼女は借り物の異空間系カードを利用して以来、野宿に嫌気が刺したようで催促ばかりしてくる。
借りたカードたちは疫病神の呪いを受けているだろうから、何も言わずに狸に返してしまった。あれは早計だっただろうか。
「拠点についてはロキさんも利用するのですし、協力してくださりませんか?」
「僕は戦闘とか柄じゃないし〜」
そもそも、ロキが協力してくれれば格段に攻略が楽になるのだが、数ヶ月行動を共にしていても、微塵も手を貸してはくれない。もういっそ聞いてみるか。
「ロキはどうしたら協力してくれる?」
「うわ、それ聞いちゃうあたりほんとに面白くない人だよね」
ロキは呆れるように振る舞いながらも、こちらを見つめ続け、ついに口を開いた。
「お兄さんの言葉はさ、嘘ばっかりでしょ?僕嘘つきは嫌いなんだ〜」
「……君のマスターは嘘つきじゃないよ」
「まじか、自認はそうなんだ」
俺がロキに嘘をついたことなどあまり無いはずだ。いや、もしや俺は口数の多い方でもないし、言ってないことが多いという点を指摘しているのか……?
「僕は比嘉秀羽、16歳の高校生。君たちのマスターであり、より多くの命を守るため強大な力を求め冒険者になった」
「え?いや、まさか……」
俺の自己紹介を聞いたロキは顎に手を当て何かを考え出した。自己紹介を中断し、その思案の結果を待ってみる。
するとロキは急に顔を近づけ、俺の目を覗き込んできた。
「君の望みはなんだい?」
「栄光」
「なるほど、そういう事か。珍しくていいね。君たちに力を貸してあげるとしよう」
よく分からないが協力してくれるらしい。これでカード集めの速度が上がる。俺はリリを抱え、喜びを分かち合う。
「その子みたいに戦う時は篭手にでもなればいいのかな?」
その言葉で状況の理解を強制された。
はっきり言うとロキはリリの上位互換である。ロキが参戦するのであれば、もはやリリに出番はなく、ただの愛玩動物に成り下がってしまう。
せめてどちらか運動音痴でなければ……。そう思いながら視線を落とすと、
「はい。それで問題ないと思います」
腕の中で俺に頭をスリスリしてくるリリがいた。彼女は既に愛玩動物の立場を受け入れていたのだ。
俺は向かってくる獅子を跳躍し回避した。ロキの補助魔法を受けた状態では物理法則を凌駕した脚力を振るうことができる。
そのまま獅子の背に乗りうなじに刀を突き立てる。すれば、刀身から風の刃が回転するように溢れ出し、ドリルのように深く傷口を広げていく。
暴れる獅子も次第に力が抜け光となって散る。
流石は上位互換と言わざるを得ない。刀を振るい、刀身から魔法を放つという同じことをしていても、速さも威力も段違いであった。
Dランクであれば、避けていた眷属召喚持ちを狙ってもいいかもしれない。
その一方で役割を失ったリリについては、当初は自由に歩かせていたのだが、走れば転び、目を離せば襲われる。運動音痴の酷さを思い知らされた。
今は左の篭手となり、たまに渾身の一撃を打っている。ちなみに最大の威力ですらロキの通常攻撃魔法に及ばない。
「ロキさんの眷属は召喚しないのですか?」
リリが篭手のまま話しかけている。
ロキの眷属、それは神話において最高神オーディンを倒したフェンリル、最強と名高いトールと相打ちとなったヨルムガンド、死者の国を支配するヘル。
全員とも強力な存在に違いないはずだ。
「え、召喚してもいいけど、めっちゃ暴れるよ」
「それは恐ろしい……」
これがロキが安い理由だ。本来の眷属召喚が自身より弱いモンスターを呼ぶのに対して、ロキは逆に自身より強いモンスターを呼ぶ。故に制御できない。
あくまでこれは歴代のロキたちの証言に過ぎない。なぜなら眷属の情報を持ち帰れたマスターはいないからだ。
というか、左右の篭手が会話してるのはとても珍妙な光景だ。2人とも親指と他の指で口の動き表現するせいで地味に疲れる。
勝手に手が動くのって案外気味が悪いな。言葉が詰まった時とか無意識に口が動くことは気にならないのに、部位が違うだけでも印象が違うもんだな。
「あ、お兄さん、後ろでオークみたいなのが振りかぶってるよ」
あぶな、ロキのやつおしゃべりに夢中で索敵を怠たりやがった!いや報告の方かもしれない。
それはさておき、背後にいたボアオークは奇襲を回避されたと見るや眷属召喚を始めた。
ここまでの接近を気づかせないとは、何らかの隠密スキルを持っているに違いない。是非とも欲しいものだ。
ドロップしなかった。もっと言うなら、本日の成果はロキを味方につけたことのみであった。