異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第32話 一生の傷

 ドロップは諦めることした。昨日が丸一日何も得られなかったことを反省し、クリア報酬を着実に集めていこう。

 ということでFランク迷宮に来た。ロキが味方に着いたとはいえ、迷宮からの強化を受ける主と戦うなら安全マージンを用意する必要がある。

 

 道中のモンスターを無視して駆け抜ける。追いついてくるモンスターはリリとロキが魔法で迎撃する。

 

 俺たちは難なく最下層へと通じる階段まで到達した。最後の安全地帯でしっかりと休み、万全の用意で最下層へと侵入する。

 

 

 

 

 普通に攻略できた……。

 久しぶりに最下層に入ったら、イレギュラーエンカウントに襲われる気がして怯えていたが、そんなことはなかった。

 

 そうすると採算が合わない。今日の稼ぎがたった7万円だ。Eランク迷宮にしておけば倍以上稼げたのに。

 

 わざわざ人の少ない田舎まで来たのにな。帰り道にちょっと寄り道して、別の迷宮行ってみよう。

 

 俺は近隣の迷宮を調べながらダンジョンマートを出る。スマホに目を向けながらも、うっすらと周囲を見る。

 

 ……見た事ある顔だ。

 

「お姉ちゃんこんなとこで何してるの?」

 

 青葉さんだ。歩いてこっちへ寄ってくる。

 

 今、俺の見た目は青葉さんの姉、青葉玉音になっている。先の発言からして偽物であることはバレていないよな?油断を誘うためのブラフじゃないことを祈るばかりだ。

 

 選択肢は4つ。

 1、倒す

 2、青葉玉音のフリをする。

 3、逃げる

 4、事実を話す

 

 まず2は無理だ。俺は青葉玉音の人柄など知らない。妹である青葉さんを騙すことなど不可能だ。

 

 3は面倒なことになる。俺の正体を隠すことができる。だが、姉の姿をした不審者なんて通報するに決まってる。青葉玉音に尋問すれば全てバレて、俺は世捨て人になる。

 

 4はどうだろう。姉が共犯であるこの一件を青葉さんは見逃してくれるかもしれない。確証は無いが青葉さんが協力者となる、唯一のプラスのある選択肢。

 

 1を選ばざるを得ないな。この道は人通りが少ないが、念の為、迷宮内に誘導しよう。

 

 方針を決めた俺は目の前の青葉さんに狙いを定める。定める……?

 

 そこには青葉さんはいない。

 

 俺は目を離していない。彼女は忽然と消えてしまったのだ。

 驚きも束の間に何かが勢いよくぶつかり、腹部に鈍い痛みが走る。

 

「死ね偽物」

 

 目の前に青葉さんが現れ、そう言った。

 

 目の前に犯罪者がいる。

 

 俺は安堵した。

 

「青葉さん、僕は比嘉秀羽です」

「だから何?」

 

 相手が犯罪者であるこの状況で、警察沙汰にされる可能性が低い。"4、事実を話す"が上手くいく可能性が高くなる。

 

 俺は青葉さんを迷宮に連れ込み事情を説明した。

 

 

 

 

 

「そんなことにお姉ちゃんを巻き込むな」

 

 また刺された。

 

「お姉ちゃんが悪事に加担するわけないでしょ」

 

 俺が本来の姿に戻ったから躊躇いがないのか、さらにグリグリと押し込んでくる。

 とりあえず青葉さんを押しのける。包丁を引き抜き、体を変形させ傷を塞いだ。3度目は面倒なのでもう包丁は返さない。

 

 青葉さんを落ち着かせ、どうしてここまで来たのか話を聞く。

 

 

 まとめると街中で見かけた比嘉秀羽(俺)を怪しんでつけてきたところ、姉(俺)を見かけ比嘉秀羽(俺)そっちのけで追跡してきたらしい。

 姿消しの魔道具と包丁は護身用だとか。どちらも違法だ。

 

 たしかに迷宮への違法入場を隠すために、何度聞かれても家にひきこもってると伝えていたが、街中で見かけただけで怪しまれるとは……。もう少し誤魔化し方に工夫が必要だな。

 

 それはさておき、目の前の青葉さんをどうして説得しようか。このままではライセンスを取り上げようとしてくるだろう。

 

 彼女が望むものはなんだ?

 以前、Bランク迷宮で落し物探しをするとか言ってたな。だが、それには既に協力することになっているがこれだ。

 ほかになにか……

 

 そうだ、この人シスコンだ。

 俺は姿を再び青葉玉音へと変える。青葉さんの正面から両手を広げ、そして言った。

 

「できる範囲で望みを叶えるよ」

「……」

 

 好きな人の姿に好きなことできる。これは変身能力を持つカードがあれば青葉さん個人でもできることである。

 

 しかし、自発的に行うのと、他者からの提案では心理的ハードルが変わるはずだ。なんとかなってくれ……。

 

「さっきからぐちゃぐちゃと体が変化するのは魔道具だよね。もっと細かく操れる?」

「……はい」

「髪で分かりにくいけど耳なんてまるで別人。というかライセンスの写真だから数年前の再現だよね。今とは結構違う」

 

 再現度の低さを指摘してきた。これは安心していいのか……?一応警戒しつつも指示に従い変形していく。

 

「まあ、顔はこれでいいか」

 

 顔の造形には納得してくれたようだ。顔はってことはまだ続くのだろう。

 次はスタイルだろうか。俺は立ち上がり指示を仰ぐ。

 

 だが青葉さんはカードホルダーに手を伸ばす。

 

 俺は咄嗟に距離をとり、バレないよう背後にリリを召喚する。

 呪いのカードであるリリは今の状況きちんとを見ていたようでひっそりとベルトストラップへと変化した。

 

 これでバリアが貼られ攻撃を防げる。

 

 青葉さんが召喚したのは古びた家、ウィンチェスターハウスだ。泊まりがけで共に迷宮攻略した際に利用させてもらった。攻撃性能は低い。

 

「次は首から下やるよ。早く入って服脱いで」

 

 え、待って、服の下再現して何する気、え。

 

 

 

 

 協力者を得た。

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