異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第36話 協調

 奪ったライフを投函し、階段を下る。変わらず続く石室には誰もいない。どうやら一番乗りなようだ。

 

 第2階層ではスタート地点が最もひらけた部屋となっている。眷属や大型を使いたければここで戦うことになるだろう。

 

 他の突破者が降りてくる前に結菜を召喚し、篭手へと変身してもらい、顕明連を握る。いつものスタイルだ。

 

 そのまま待機していると続々と突破者が降りてきた。彼らもまた安全地帯で待機する。そして全16人が一堂に会する。

 

 それも当然だ。安全地帯は外からの攻撃を防ぐ。内と外に別れれば、攻撃のタイミングを選ぶ権利を内の人間に譲るようなものだ。余程実力に自信がない限り避けるだろう。

 1人目の俺が待機を選んだ時点でこの結果は決まっていた。

 

 けれども膠着状態は長くは続かなかった

 

「提案があるんだけどいいかな」

 

 メガネをかけた小綺麗な見た目をした男、緑川虎太郎。狸の情報によればインド神話系カードを使う表のグラディエーター。

 そして優勝の最有力候補。

 

「5分間の休戦をしません?1階層同様にその間に散開するってことで」

 

 皆それに同意をする。

 

 だからこそ、全会一致で視線は緑川へと集まる。

 

 そもそも膠着状態は1人が出てしまえば解決する。1人目を攻撃するために2人目が外に出て、2人目を狙った3人目以降も続く。その後は乱戦だ。

 それが俺の狙いでもある。

 

 緑川の提案の是非は置いておいて、まずはお前が出ろと皆言いたげだ。

 

 さて、では俺も動くとしよう。

 

 俺は立ち上がり、緑川の前に向かう。そこから体を外へ向き直し、1歩近づく。

 

 俺は緑川の提案に乗る。発案者が降りる訳には行かないだろう?

 2人は並び歩き出す。それに緑川のカードたちも追ってくる。ついに外へと踏み出した。

 

 それでも俺たちは進み続ける。今は休戦中、戦いやすい場所を陣取るために。

 

「お嬢さんはそんなすぐ隣を歩いて俺が裏切るとは思はないのかい?」

 

 緑川が声掛けてきた。お嬢さんとは変身中の俺のことだ。だが、答える必要はないな。すぐに俺の真意もわかることだろう。

 

 背後から一斉に足音が聞こえてくる。振り向けば6人の参加者がこちらに向けてカードを差し向けていた。

 

 横の1人が裏切る確率と背後の14人のうち誰かが裏切る確率など比較するまでもない。付け加えるなら横は優勝候補、後ろの彼らはタイマンではなく囲んで戦いたいと思っているはずだ。

 

 緑川に焦る様子はなく、となりで猿を思わせるカードが眷属召喚をする。大量の猿型モンスターが溢れ肉壁となり、侵攻を止めた。ハヌマーンだろう。

 

 猿たちを飛び越えてコウモリの翼を持つ悪魔系モンスターが来れば、2柱の神が迎え撃つ。

 一方が錫杖を振るうと、獄卒が召喚され悪魔を取り押さえる。もう一方の攻撃で悪魔が消し飛ぶ。

 ヤマとダルマ。正義と法を司る神であり悪属性に対する特攻を持つ。

 

 続いて猿を退け、身体が本当に光ってるような神々しいモンスターが来る。ヤマとダルマが引っ込み、変わるように20の腕を持つ羅刹、ラーヴァナが出る。

 ラーヴァナは一方的に敵を追い詰める。彼の持つ神仏に対する特攻のおかげだ。

 

 その後も緑川は相手に合わせカードを入れ替え有利を取り続ける。これが優勝候補と言われる所以だ。

 

 

 

 乱戦が続くなか、1匹の猿が緑川にライフを渡す。彼は眷属のみを残し戦場に背を向ける。

 そうすれば当然緑川の後方、部屋の隅で待機していた俺と目を合わせることになる。

 

 乱戦の流れ弾を避けようとした結果、強いやつの近くにいただけの事だ。

 

 俺は奪ったライフを緑川に見せつけ、戦う意思がないのを示す。結菜が幻術で姿を隠しながら乱戦の中から奪ってきたものだ。

 目の前で大立ち回りをする緑川とそのカードたちに目を奪われ隙だらけであったそうだ。まだライフを失ったことに気付かず戦闘続行してるだとか。

 

 そのまま俺はユニコーンの背に乗りまた一番乗りで突破した。

 

 

 

 

 第3階層では膠着状態とはならなかった。俺も、2番目に来た緑川も早々に進んで行ったからだ。

 

 第3階層はひらけた部屋はなく細長い通路での戦いを余儀なくされる。マスターの前後をカードで挟まれるだけで、ライフを盗むのは無理だ。

 

 仕方ないので出口側の安全地帯の直前で油断した人から奪い取る方針。

 

 だが緑川との戦闘での勝利は厳しいため、天耳通で索敵しながら全力で逃げた。複数のルートを取れるタイプのマップで助かった……。

 

 緑川が突破したのを確認して、早速安全地帯直前の曲がり角に身を潜める。

 

 

 

 待っていると3人組の参加者が歩いてきた。まずいな。人数が増えれば視線も増え、隙をつくのが難しくなる。

 

 それでも彼らを狙う他ない。この階層に来るのは8人。俺、緑川と彼に倒された人、目の前の3人。そして彼らの手にライフが2つ。

 残りの未突破者はこの場にしかいない。

 

 さて、どうしたものか。少しづつ近づく彼らに対して、ギリギリまで待機を続けるしかない。

 だがそう簡単には行かない。距離をとって彼らは立ち止まった。

 

「そこにいるのはわかっている。交渉をしよう」

 

 真っ当に戦えば俺に勝ち目はない。彼らの前に立ち、交渉の内容を尋ねる。

 

「緑川は強敵だ。3対1で挑むつもりだが、それでも無駄に戦力を減らしたくない。君に勝ち目はない。ライフを譲ってくれないか?」

 

 そっと自身のライフに刀を当てる。タダで脱落するくらいならライフ壊して1人道連れするぞ、という脅しだ。

 

「悪いが一銭も払う気はない。その代わり戦うのはまだライフを奪っていない俺だけってのでどうだ?」

 

 それを了承し構える。前の男はカード2枚を横並びにして、マスターには向かわせない構えだ。

 

 彼らの目の前の俺は真っ直ぐに走り出す。

 

 そしてすっ転んだ。

 

 

 一方、彼らの背後で幻術をといて姿を表した本物の俺は突きを後ろで気を抜いていた男に放つ。

 ガン、とバリアに阻まれ衝撃が手に伝わってくる。

 

「マスターに攻撃したいならバリア解除させてからじゃないとだろ?お嬢ちゃん」

 

 確かにバリアがある限りマスターへの攻撃は阻まれる。そう、バリアが守るのはマスターだけだ。

 

 剣先で風が回る。強力に回るそれは相手の服をねじり、巻き上げる。

 

 相手が事態を察しても既に遅い。俺が刀を振り下ろせば服はライフを巻き込んでねじ切れた。

 

 所持ライフが0になれば敗退。だが目の前の男はまだ手に奪ったライフが握られている。

 

 俺はそのまま刀を床に叩きつける。剣先に巻きついた服もまた叩きつけられる。

 剣先の服も魔道具である刀も叩きつけられた程度で変化はない。

 

 ライフだけががバラバラと散る光景が目に入る。

 

 次の階層に進むには2つのライフが必要。この階層の残りライフは5つ。

 つまり進めるのは2人。

 

 彼らは何が面白いのか大きな声で笑いだす。

 

「俺たちは即席の仲間って訳じゃないんだ」

 

 目の前の男は手に持つライフを仲間に投げ渡す。

 

 俺は慌ててライフに向け駆け出す。刀に巻きついた服を取るまもなく、後退する敵に追いすがる。

 

 敵を射程範囲に捉え、再び突きをしようとするが、

 

「残念だったな。ここはもう安全地帯だ」

 

 そもそもが安全地帯直前の場所。フィジカルでは俺が勝っていても、追いつくには距離が短すぎた。

 

「マスター、今どういう状況?」

 

 安全地帯寄りにいた索敵能力持ちカードが困惑した様子で尋ねているのを横目に俺は刀に巻きついた服を外す。

 

 さらにとった服からライフを外す。

 

「は?!まさか、幻術?!」

 

 やっと気づいたマスターは通路の床を確認するが、散っていたはずのライフはない。運動音痴の狐が倒れているのみだ。

 

 このライフはそこそこ硬い。人間が床に叩きつけた程度では割れない。

 俺は投函しながら声をかける。

 

「一緒にラスボスを倒そう」

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