異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第37話 奥の手召喚

 俺達は階段を下り第4階層へと侵入する。安全地帯の外から猿がこちらを見ていた。リリが少しでも役に立とうと威嚇してみるが反応はない。この猿の役割は監視のみなのだろう。

 

 天耳通で索敵するが近くには猿しかいない。どうやら緑川は奥へと進み待ち構えているようだ。

 

「お嬢ちゃんは緑川の隙を見て盗み取るのに専念してくれ」

 

 前階層での戦いを踏まえて、小紫長男が指示を出す。ちなみに前階層で脱落したのが次男で、今も無言で兄に従ってるのが三男らしい。

 

 通路を進んでいく。長男が先導し、三男が殿を務める。俺の戦闘能力に期待されずお姫様待遇だ。

 

 マップ中央のひらけた部屋で緑川はいた。召喚しているのは無限に猿を召喚するハヌマーンとドラゴン。事前情報からするとドラゴンは絶対防御を持つヴリドラだろう。

 

 それに対して小紫兄弟は6体のモンスターを召喚する。

 神、悪魔、獣、精霊。種族をバラけさせ相性有利を取られずらくすると同時に、二体一対により召喚枠の数の差という有利を広げる。

 

 緑川対策としては有効な策だろう。

 

 しかし一般的にグラディエーターは使用するカードが近い特徴で固まっているほど強い傾向がある。

 その点でいえば、インド系のみを使う緑川は、種族をバラけさせる小紫兄弟より優位である。

 

 俺は幻術で潜伏する。小紫兄弟が緑川からカードを引き離せば、すかさずライフを奪いに行く手筈だ。

 それが出来たら全力で安全地帯に向けて走る。戦闘になれば小紫兄弟に勝てないからだ。

 

 互いに睨み合う中、小紫兄弟の精霊が動いた。

 

「3対1でそっちが不利だ。お互い無駄にロストはしたくないだろ?ライフ譲ってくれねえか?」

「不利だとしても負けるつもりはないな」

 

 悪魔の提案にハヌマーンが答える。カード同士で交渉し始めたら、マスターって何のためにいるんだよ。

 どうでもいいけど2体とも喋り方がマスターに似てるな。ペットは飼い主に似る的なことか。リリや結菜もそのうち俺に似るのだろうか。

 

 口火を切ったのはハヌマーン。眷属を召喚し、壁とする。その隙にヴリドラを引っ込めた。

 

 小紫兄弟も思いどおりにはさせまいと眷属を掻き分け緑川に迫る。それでも再召喚は間に合いヤマとダルマが姿を表す。悪魔から倒す算段なようだ。

 

 俺は後方でそれを眺めている。そもそも眷属の壁を乗り越える手段がない。少なくともハヌマーンが倒されるまではこのまま待機だ。

 

 

 時間は流れ互いのカードが1枚、また1枚と負傷し交代する、何枚かはロストした。それでもお互いに層が厚いようで次から次へとカードを召喚する。

 

 

 長い攻防の末、ついに三男がカードの追加召喚をしない。1枚となる。

 

 召喚枠という有利を十全に活かすために、長男と三男で同じ程度の枚数の戦力を所持していると考えられる。

 長男の戦力が底をつくのも近いだろう。

 

 そろそろ頃合だ。

 

「結菜、1つ嘘ついたかもしれない」

 

 篭手がモゾモゾと動き、唐突に声をかけられ戸惑っているのが伝わってくる。

 

「"みんなを守りたい"そう願った人がいた。

 彼女は負傷し意識を失う直前まで戦い続けた。そのさまがかっこよく見えたんだ。

 だから()はその願いを守りたいと思った。

 "みんな"がどうなろうと構わない。でも彼女願いだけは守りたい」

 

「なんの話?」

「本当の話」

 

 これは意味の無い話かもしれない。けれども、命をかけてもらうために、ただ信用してもらう必要がある。

 

「その願いを守るために()は死なない」

「そっか。その言葉は真実なんだ。なら信じるよ」

 

 

 

 突如、周囲が霧に包まれた。

 

 後ろにあったはずの壁は消え、上には暗い空が見える。完全に別の場所来てしまったかのようだ。

 おそらくこれはヘルヘイムだ。ロキの子供の1体、ヘルが支配する領域。

 

 スマホを取り出すも、うんともすんとも言わない。やはり機械破壊か。

 

 遠吠えが聞こえる。近いな。

 

 俺は慌てて華音から借りてきた外套を着る。すると俺は透明になり、周囲から見えなくなったはずだ。

 目の前をアンデッドが通過しその効果を確認できた。

 

「ロキのマスターはどこ行った!」

 

 近くで小紫長男が叫んだ。小紫兄弟と緑川が背中を合わせながらそれを取り囲むアンデッドと戦っていた。

 

「ロキの眷属の情報を持ち帰れたものはいない。おそらくマスターを倒しても眷属は消えない」

「クソが!眷属の3体を倒すしかないってことかよ!」

 

 彼らは周囲のアンデッドを倒しながら、ロキの子供たちを捜索するそうだ。

 緑川のヴァーユが風を操り周囲の霧を払う。視界が開け、3人は補足できたアンデッドを倒していく。

 

 

 突如現れた巨大な影がヴァーユを押し倒した。

 

 それはフェンリル。彼らの探していたロキの子供の1体。神話において最高神を倒した存在。間違いなくAランクの力を持っているだろう。

 

 フェンリルはヴァーユ噛みちぎり、周囲のアンデッドを引き裂く。見境なく攻撃をしかけていく。

 

 彼らの所有するカードは最大でもBランク、圧倒的な地力の差を前に歯が立たない。

 だが、黙ってやられているわけではない。アンデッドを誘導し、盾とすることで、周囲の敵の数をどんどん減らしていく。

 

 小紫兄弟の戦力は底を尽き、緑川の背後に隠れる。カードがなければバリアもない。一撃でも喰らえば命はないだろう。

 

 その直後、緑川のヴリドラが最後のアンデッドを倒した。これでやっとフェンリルと向き合える。

 

 突進を仕掛けるフェンリルに対して、ヴリドラが絶対防御で迎え撃つ。動きが止まった隙に側面からカーリーが攻撃を叩き込む。

 

 

 つまり、ついに緑川からカードを引き離したわけだ。

 

 俺は緑川たちとの距離を整え、自身の足に刀を打ち付けた。

 そのダメージはバリアを通して俺のカードが肩代わりする。

 

 今も安全地帯で猿とにらめっこしてるだろうリリが肩代わりをする。安全地帯は消失する。

 

 安全地帯が消失したことでモンスターの階層移動が可能になった。つまり、下の階層にいる主が登ってくる。

 

 

 ヘルヘイムが崩壊する。再び世界は置き換わる。

 

 フェンリルと、それと戦う2体は足場を失い荒れ狂う海へと落下していく。一方で俺たちマスターは1隻の船の上に立っていた。

 

「海に人魚がいる!今度はイレギュラーエンカウントの人魚姫だ!ロキのマスターが何かしたのか!」

「ヴリドラ!カーリー!そのまま海の中で耐えろ!」

 

 緑川が自身のカードに海の中での待機を命じる。それは人魚姫のリドルスキルのためだ。

 

 フェイズ1、海に飛び降りるか、否かを選ぶ。そして一度した選択を変更することは許されない。

 

 遠くで巨大な蛇が海から顔を出す。ロキの子供が一体、ヨルムガンドだ。そのまま高く高く海上へと出ていき、

 

 雷に打たれた。

 

 イレギュラーエンカウントは出現した迷宮のランクに合わせてステータスが変動する。しかし、スキルは変化しない。

 スキルによるペナルティであるその落雷は人魚姫本来のAランクのものだ。

 

 雷に対抗しようと天を目指すヨルムガンドは繰り返される落雷により、ついに倒れた。

 

 船の間近でフェンリルもまた倒れる。やがて不死者も姿を消した。

 これで残兵は緑川の海上待機中のカード、人魚姫(Fランク迷宮)、そして万全の俺たち。

 

 俺は外套を脱ぎ、姿を表す。緑川らは俺が何をせずとも、お手上げだとライフを手渡してきた。

 

 これであとは人魚姫を倒すだけだ。俺は緑川らを海へ突き落とした。

 嵐が過ぎ去り、俺は意識を失った。

 

 

 何も見えず何も聞こえない。また2分の1を外したようだ。今回は飛び降りた側に緑川らが残っているので心配はない。

 

 予想通り、すぐに視界を取り戻した。目の前には半魚人、胸には短剣が刺さっている。見捨てられたようだ。

 

 俺は半魚人を押し退け、胸の傷を塞ぐ。

 

「ああ、私の王子様。私の力を利用するなんて悪い人なのね」

「王子は人の上に立ち、従えるものでしょ?」

 

 俺はそう言いながら半魚人を切り裂いた。今後も、今回のように利用するためにも、グッドコミュニケーションをしなくては。

 

 前回の対話はリリが対応したため、彼女のことはまるで知らない……。即興で頑張るしかない。

 

「ええ、そうね」

 

 なんか上手くいってそう。

 

「約束通りその体はいただくわ」

 

 あ、上手くいってない。リリはいったいどんな約束したんだ。憑依か?洗脳か?対抗できる手段はない。逃げるしかない。

 

 人魚姫の体は光となって散る。そこから1枚のカードが俺目掛けて飛んでくる。急ぎ後退するも近接戦の間合いだったため、逃げるには時間が足りない。

 

 カードは腹部にあたり服を貫通していった。

 

 俺には異変はない。だがそこにはリリのカードを入れていたはず。

 

 急ぎ取り出して確認すると、リリは知らないスキルが増え、そしてロストしていた。

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