電車に揺られ、バスに揺られ、俺は目的の迷宮へと到着した。
ただ、迷宮に入る前に、ダンジョンマートで買い物をする。
昨日の迷宮攻略では、獣たちが餌を欲していた。なにか買っていこうか。
けれども生肉を鞄に入れておくのは抵抗がある。2体ともイヌ科だしドッグフードでいいか。
そうして俺は自分用の食料と犬用缶詰2つ、それと紙皿を買い、黒い渦へと手を伸ばした。
森。どちらを見渡しても木が立ち並んでいる。
見た目は昨日の迷宮よりも開放的だが、通路をそれれば木々の間隔が段々と小さくなり、壁の役割を果たしている。
昨日と違い、今日は最初から召喚しておく。とりあえずランクが高い順に、リリとスパルトイにしておこう。
【種族】スパルトイ
【戦闘力】70
【先天スキル】
・ 骨の髄まで:急所を持たない。常時知能が低下する。
・怪力:人外の力を持つ。筋力が常時大きく向上する。
【後天スキル】
・思考活性:一時的に知能が大きく向上する。発動中体力の減少割合が上昇する。
・見切り:相手の動作を読む技術。回避、反撃の際、行動にプラス補正。
このスパルトイは知能の上昇だけでなく、見切りのスキルまで持っているようだ。
普通のアンデッドでは被弾が多くなるが、こいつにならば安心して前衛を任せられそうだ。
飛びかかってくる2体のアルミラージをスパルトイの大剣が連続で打ち落とす。
1体には追撃、もう1体にはリリの火球が撃ち込まれる。
前衛がしっかりしている分、昨日よりも安定した動きをしていた。
しかし、あんな力任せでぶれた剣筋では、切れるものも切れないだろう。
あとでスパルトイに武術の指南をしておこう。
それよりも先にサイズのあった剣も欲しくなってくる。
いや、盾を持たせて耐久に寄せた方が良いか。
他の仲間の火力が高いならそうしたいが、現状は正直微妙だし、どうしようか。
リリの魔法だけでなく、ワイルドウルフによる奇襲という手もあるが、正直Fランクでは見劣りしてしまう。
かと言って、ワイルドウルフがお役御免かと言えばそうでもない。
ワイルドウルフが奇襲、スパルトイが前衛引き継ぎ、獣同士で交代、リリの火球という流れが我がチームの最高効率だ。
入れ替えるのが手間なので普段使いはしないが。
「……」
そんなことを考えていると、スパルトイが被弾した。
このスパルトイは視界から外れた敵が完全に意識の外に行ってしまうようだ。
俺が前衛に加われば、解決できる問題ではあるが、人間の俺ではモンスターに体力で敵わない。1日攻略を目指すなら、あまり使いたくない手だ。
とりあえずスパルトイは一旦下げて、前衛はワイルドウルフと俺で行くことにしよう。
安全地帯で休息を取りながら考え事をしている。だんだん慣れてきた。
俺は戦闘には参加しないものの、位置調整をすることで敵がスパルトイの視界に収まるよう誘導する。
そして時々、ワイルドウルフが奇襲する。
魔力が尽きたリリに代わり、ワイルドウルフを使っていた。
その時に、奇襲+急所が上手く行けば、リリより一撃の火力が出ることがわかった。
リリは数で火力をさらに上げるが、それで魔力が尽きてしまうので、交代で使うのがよいだろう。
スパルトイの追加とリリの回復待ちがない分、昨日よりも攻略のペースが早い。残すは主を含めて2層。
前回よりも階層が多いが早く終わりそうだ。
「君って食事できるの?」
「……」
スパルトイは無言で首を横に振る。
声帯がないから喋られないのか。いや、それなら同様に耳がないから聞こえないはずだ。
単に無口なのだろうか?
「だったら、少し休んでて」
「……」
スパルトイに代わりリリを呼び出し、2枚の紙皿を並べる。
困惑する獣たちをよそに、紙皿にドッグフードを乗せる。
「ワォン!」
「……」
勢いよく食べ始めるワイルドウルフに対し、リリは食べようとしない。
何も仕込んでいないのだが、どうしたものか。
あえて無視して、俺も食事を始める。さて、リリはこの同調圧力にどう出る?
「……」
食った!どんどん食べる。作戦は成功した。
そして、俺は食事を終えた頃に尋ねてみる。
「美味しかった?」
「ワォン」
「はい」
それは良かった。明日も買ってくるとしよう。いくつか種類があったし、別のものがいいかな。
今度は獣たちを引っ込め、スパルトイを呼び出す。
安全地帯にいるうちに簡単に武術を教えておく。
トレーニングをするなら獣たちも巻き込みたいが、四足獣の動きを教えられる自信がない。
帰ってから勉強するとしよう。
休息は終わりにして、リリを呼び出し、攻略を再開する。
スパルトイにはざっくりと説明したので、実践の中で身につけてもらう。
早速、ゴブリンが現れたので、俺とリリが1体を引き付け、もう1体に実践してもらう。
初撃、ゴブリンに向けて雑で大ぶりの一撃。ゴブリンの左腕が地に落ちる。
えぇ……そんなの教えた覚えないんだけど。
続いてゴブリンの攻撃。大剣は地面に刺さり、動かすのは間に合わない。
スパルトイは、即座に大剣を手放しゴブリンに向き直す。
襲い来るゴブリンを完璧に受け流し、時間を作る。
その時間で大剣を引き抜き、再びゴブリンに向け振り下ろす。
これにも先程の教えは見受けられない。
おそらくそれは、スパルトイのスキルによるものだろう。
思考活性、一時的に知能をあげるスキル。
スパルトイは受けに回った時にのみ、このスキルを使っているのだろう。
人間の俺には、スキルの使い方は分からないが、何らかの制約があるのかもしれない。
攻めの時は知能がただのアンデッドに戻る。
ならば、スパルトイには盾を持たせてタンクになってもらうとしよう。
育成方針が決まったことで、トレーニングメニューも練り直すとしよう。
俺たちは階段降り、主のいる階層へと突入する。
ここの主はコボルト。人型の犬のようなモンスター。
俺相手に練習してきたスパルトイには、やりやすい相手となるだろう。
「敵が1体近くにいます」
「うん、わかった」
情報通りコボルトに配下はいないようだ。
その分、コボルト自身に強化がある訳だが、視界の外からの攻撃がないなら、スパルトイはこの上なく戦いやすいだろう。
一旦リリを下げ、ワイルドウルフを呼び出す。
そして、コボルトがこちらに背を向けた時、ワイルドウルフが奇襲をしかけ、戦いが始まる。
コボルトの反撃からワイルドウルフを庇うように、スパルトイが割り込む。
スパルトイが引き付けてる間に、ワイルドウルフをリリと入れ替える。
予めスパルトイには防御に集中するよう伝えてある。
これでスパルトイは常に真価を発揮できるはずだ。
リリの火球が次々とコボルトに当たって、コボルトはどんどんと劣勢になっていく。
こうなってしまえば、とくに指示することも無い。
俺はそのままコボルトが倒れ、宝箱が現れるのを見届けた。
宝箱には魔石と、カードが1枚入っていた。
マジックカード『リジェネレイト』、一定時間回復し続けるらしい。
これはスパルトイに使えば、負傷を即座に回復するので無敵なのではないか?
まあ、回復の程度にもよるか。
調べ物をしながらリリの頭撫でる。ワイルドウルフはまた今度撫でるとして、スパルトイはどうだろうか。
ほかの2体は撫でてもらいたがるが、カードは皆そういうものなのか。
「……」
無言でこっちを見ていた。近くに座るよう指示を出す。スパルトイの頭に手をかける。
そして気づいた。スパルトイの視線は俺ではなく、リリの方に向いている。
スパルトイの手を取り、リリの頭に触れさせる。
そうすると、スパルトイは勝手に手を動かし撫で始めた。2体とも心地よさそうだ。
ひとしきり休んだあと、俺は迷宮を後にした。