周囲は元の石室へと戻っている。緑川らはくたびれた様子で座り込んだ。俺は魔石を回収して次の階層へと向かう。
「待て待て、ちょっと話聞かせろよ」
「ロキの眷属の力で通信機器は壊れている。今ここなら情報が漏れることはない」
恐喝だ。早くリリを蘇生したいのだが……。
リドルスキルが解除されたため、緑川のカードは戦闘できる状態にある。逆らう訳には行かないだろう。
では先程の戦闘で俺の知ってることを話そう。
「俺はロキの眷属を召喚した。そして安全地帯を消した」
「それは見てりゃわかるんだよ!」
文句つけられた。だが仕方ないだろう。
ロキの子供たちについては召喚しただけでそれ以外の知識は世間一般と変わらない。
イレギュラーエンカウントについてはリリが何かやったのであって、俺は何も教えられていない。
俺は何も知らない。結菜も別に知らないだろうし、唯一何か知ってるリリはロストしている。
俺の様子見て真実を言っていると理解したようで、彼らは呆れ、頭を抱えだした。
それを他所に俺は出口を目指す。優勝者の凱旋だ。
『今大会の優勝者は佐藤花子選手です!皆様盛大な拍手をお願いします!』
佐藤花子は俺の偽名だ。俺は案内に従ってカメラの前に立ち、続いて景品を選び受け取る。
上位入賞者は再び第1階層に集められ、表彰式が開かれた。俺は中継カメラに見えるよう渡されたカードを掲げる。
カメラが2位タイ達に向くと、こちらに近づいてくる人がいる。
「いや〜、君が優勝してくれてよかった!本当にありがとう。君のおかげで奴らは大損害さ!」
そう言って背中を叩いてくるのは主催者であり、兄の遺産を奪おうとして、割り込まれた愚かな人だ。
狸が俺の所持カードの情報を断片的に流したらしい。Bランク1枚とDランク3枚が主戦力の俺に賭けるものはそういない。ほぼ全ての馬券が紙くずとなったことだろう。
主催者は自身から搾取してきた人らが損失を負って上機嫌な様子だが、1番儲けたのは俺である。
ドゥルガーとパールヴァティーが手に入れば百人力だ。それにきちんとした前衛がいれば後衛は固定砲台でもなんとかなる。
その2枚があるなら三相女神の最後の1枚、カーリーも欲しくなる。お金貯めてみるか……?いや数十億貯めるなんて流石に夢のまた夢だ。
「ところで相談なんだが、景品の2枚買い戻させてくれないか?あれが手に入るという前提での支援者が結構いたんだ……」
俺はそれらにこだわりがあるわけではない。適正な額を払うなら、手放すことも視野に入る。
だが、
「その話には一枚噛ませてもらおうか」
こだわりの強い人がいた。緑川だ。インド系カードの専門家であり、カーリーを持つ彼も喉から手が出るほどそれらが欲しいだろう。
「それらの為に経歴に傷をつけてまで参加したんだ。簡単には引き下がれない」
裏社会と繋がりあるグラディエーターにスポンサーはつかない。彼の覚悟は相当なものだったのだろう。
睨み合う2人。どちらに売るかなどわかりきっているだろう。
「いくら?」
高い金を出した方だ。
最終的に両者とも抱える赤字が大きいことから、緑川が150億で買取を確約、主催者は緑川とスポンサー契約をしたらしい。
実際の買取はまた今度とのことだ。
そんな事をしてると表彰式も終わりらしい。最後にカメラの前に立たされた。
帰ろうとすると3人組、小紫兄弟に遮られる。長男が紙を差し出してくる。受け取って見ると、カードではない、名刺だ。
「お嬢ちゃんは戦闘面が弱いからな。用心棒が必要なら連絡しな」
「それはそれとして、敵として会ったら容赦しねぇからな」
なんと清々しい別れだ。後ろで睨んでるくる低階層敗退者達は見習って欲しい。
俺は軽く手を振り、迷宮を後にした。
路地裏で鳥となって空へ舞う。150億は何に使おうか。一先ずは蘇生用の妖狐だ。ギルドか、それよりも狸に連絡した方が早いかもしれない。