翌日、俺は狸に頼んで蘇生用の妖狐を用意してもらった。
狸は俺の単勝に少額賭けており、それが万馬券どころか億馬券になったそうだ。気前よく僅か1日で用意した挙句、無償でくれた。
マイナススキル3つ、初期のリリより弱いな。
俺はその場でリリを蘇生した。
【種族】妖狐(リリ)
【戦闘力】300
【先天技能】
・変化
・初等攻撃魔法
【後天技能】
・野心
・渾身の一撃→乾坤一擲(CHANGE!):魔力の消費量を増やすことで次の攻撃の威力を大きく上昇させる。
・運動音痴
・詠唱短縮、魔力強化→知恵の泉(CHANGE!):魔法分野に様々なプラス補正
・初等補助魔法→高等魔法使い(CHANGE!)
・臆病(NEW!)
・耐性貫通(NEW!):低確率で対象の耐性の一部を無視する。
・耐性破壊(NEW!):低確率で対象の耐性を僅かに下げる。
・百発百中(NEW!):遠距離攻撃の命中精度に大きくプラス補正。
【固有技能】
・人魚の取引(NEW!)
後天技能がやたら成長している。これらについては調べればわかった。強力なものがほとんどだ。
強くなったように見えて、臆病が復活したので使い物にならない。
問題はもう1つ固有技能だ。何もわからない。これについてはあとで本人に聞いてみるとしよう。
「緑川さんからの伝言なんですが、『急いで用意するから待っていて欲しい』とのことです」
いくらスポンサーがついたとはいえ、複数のカードがロストした緑川……さんが150億をポンと出せるわけがない。
「一応、前金として10分の1を今週中に渡すよう伝えてあります」
気が利くな。売り払う前提のカードが手元にあっても、戦力にできないから助かる。10分の1と言ったら15億だ。これで大幅に強くなれる。
最後の用事として人魚姫の魔石を狸に売りつける。Fランク迷宮なので100万円くらいだ。
ところが狸が差し出したのは1枚のカードだった。
「妖狐を使っているならこちらへのランクアップはいかがですか?」
【種族】葛の葉狐
【戦闘力】220
【先天技能】
・狐の恩返し:受けた恩を人に化けて返す。変化、良妻賢母を内包する。
・稲荷の神使:稲荷大明神の権能の一部を借り受け、食品を出現させる。
・陰陽道:陰陽五行思想に基づく占術。占術、呪術、式神召喚を内包する。
【後天技能】
・零落せし存在
・歌唱
・初等補助魔法
後天技能は弱いな。戦闘に役に立つものが1つ、マイナススキル1つだ。
だが女の子カードだ。それだけで値段は釣り上がるだろう。これがたった100万円なんてことはない。
「こちらはいわく付きのカードです。所有者は皆恐怖心に支配され、何も手につかなくなり、お金のためにカードを手放してしまうのだとか」
皆ってことは複数人に同じ症状が出ているのか。それなら100万円にもなるかもしれないな。
で、なんでそれを俺が受け取ると思ったんだよ。仮に使おうにもマイナススキルで戦闘力3割減だしいいとこなしじゃないか。
狸が目の前で困惑してる。そうだった。この人はろくに戦力のない俺を高ランクカードひしめく裏モンコロに送り込むような人だ。
俺のことをなんだと思ってんだか。
いらないなぁ。そう思いながらも手が勝手に動いてリリをランクアップさせている。
【種族】葛の葉狐(リリ)
【戦闘力】370
【先天技能】
・狐の恩返し
・稲荷の神使
・陰陽道
【後天技能】
・野心
・乾坤一擲
・運動音痴
・知恵の泉
・高等魔法使い
・臆病
・百発百中
・零落せし存在
・歌唱
【固有技能】
・人魚の取引
マイナススキルが増えて、有用なスキルが減ってしまった。
というか今、狸に固有技能見られたな。やらかした。俺はそそくさとカードをしまい、退散した。
リリに話を聞くため、適当な迷宮へ入り結菜を召喚する。
『約束通りその体はいただくわ』
その言葉が本当ならリリはもうリリでないかもしれない。俺たちはすぐにでも戦える用意を整えてからリリを召喚した。
目の前に現れるのは白く長い髪の人間。それはバタりと前に倒れる。
倒れた姿を見るとその下半身は魚。つまりは人魚であった。人魚は両手で体を起こすも今度は後方へと倒れ込む。
そして見えるようになった顔には見覚えがある。初めて人魚姫と戦った時に見たリリの人間に化けた姿だ。
「人魚の皆さんはどうやって立っているのでしょうか……」
人魚は立たないだろ。目の前の人魚から悪意のようなものは感じ取れない。俺は近づき手を差し伸べる。
人魚はその手を見ると、なにか諦めた様子で手を取る。その直後人魚は体が歪み、白い毛並みの狐へと変わった。それは葛の葉狐だ。
「リリ、調子はどう?」
「戦闘力が上がりスキルも増えてなんだか活力に満ちてる感じがします」
彼女がリリである確認は取れた。俺たちは警戒を解きながら、彼女の状態について聞いた。
「まず話すべきは、人魚姫との1度目の遭遇時ですね。
あの時私は彼女と取引をして、見逃すことと引き換えに、いずれ呪いのカードである私の体を引き渡す契約を結びました。
契約が絶対であると示すために彼女は私の恐怖心と引替えにいくつかのスキルをくれました
この本来受け渡しできないものを取引する力こそが固有技能として現れたスキルです」
なるほど。格上の人魚姫相手にリリがフェイズ2を突破したのはそういう事だったのか。
ついでに恐怖心を失っていたから、臆病も消えていたのだろう。
そして固有技能はチートだ。スキルの受け渡しができれば、育成の時間やコストを大幅に削減できる。
その後も俺たちは次々と質問を続ける。
「なんで後天スキル増えてたの?」
「乗っ取ったあとの為に人魚姫が押し付けたのでしょう」
「なんで黙ってたの?」
「そういう契約でした」
「どうやって人魚姫を呼び出したの?」
「シュウは常に歪みを抱えているから、呼べばいつでも行けると言ってましたね。」
「歪み……心の話かな」
俺の心は歪んでないので別のなにかだろう。
イレギュラーエンカウントを呼び出すなんて聞いたことない。おそらくその歪みとは人間には観測できない何か……。
「さっき話だとさ、今のリリちゃんは人魚姫に体を引き渡したってことだよね?」
「私だって体を渡したくなんてしありません。なので抵抗しました。
フェイズ1で海に溺れロストし、その間に体に入り込まれ、そして妖狐を蘇生する。
細かい仕様は知りませんが、偶然にも私の作戦は上手く行きました。人魚姫は今も私の中で眠っています」
相変わらず強かな狐だ。命懸けで人魚姫にいっぱい食わせたわけだ。
ただ"眠っている"、か。いつか目覚めるのかもしれない……。
「お兄さんはさ、今のリリちゃんを信用できるの?」
結菜も同じことに気がついたようだ。なぜか楽しげに問いかけてきた。
俺は迷いなく答える。
「信用なんてしないよ」
結菜は困惑したのか一瞬顔が凍った。一方でリリは同意を示すかのように、俺の膝に乗ったきたので撫でてやる。
信用。それはリリに限った話ではない。狸も緑川さんも小紫兄弟も、いつ華音のように牙を剥いてくるかわからない。
結菜やトロールだってカードのルールに縛られていはいるが、迷宮は突如発生したもの、そのルールが突如変わったとしてもおかしくはない。
誰もが裏切る危険性を抱えている。故に絶対的な信用などしない。疑い続ける。
結菜は小さくため息を着いた。
「やっぱりつまらない人だ。そうも警戒されていたら、付け入ることもできやしない」
トリックスターとしてなにか企んでいたのだろう。けれども簡単に利用されるほど俺たちは愚かではない。
マスターとしてその話を聞いやるべきもしれないが今は必要ない。結菜は落胆するようなことを言っているがその顔は楽しげだ。
「隙を見せたら取って食べてしまうからね、