俺は高校2年生となった。何が言いたいかと言えば、帰りたい。
そもそも授業ってなんのためにやるんだ。教科書にかいてあることを別の語彙で説明してるだけじゃないか。誰も教科書読んだりなどしないのだから2通り示す必要などないだろう。
(悪態ついても何も得ません。大人しく予習でもしておきましょう)
つい体がはねた。いきなり頭に直接語りかけるのはやめて欲しい。ここ数年、アヤカが大人しくしていたから驚いてしまった。
「比嘉!何して……何もしてないな。問2解いてみなさい」
「(x+y)(x-y)(x²-xy+y²)(x²+xy+y²)です」
「何見て解いたんだ。ちゃんと教科書とノート開いときなさい」
俺は出来るだけ早く回答することで、注目を浴びる前に授業を再開させる。このためだけにやるであろう範囲は暗記してきている。
というかノート取れというが去年1度もノート提出なかったじゃないか。
(ごめんなさい。驚かせてるつもりはなかったんです……)
リリは再びカードの中から頭に直接言葉を送り付けてくる。彼女はこれをできるようになって日が浅いため、仕方ないことだ。
人魚姫の影響か、いわく付きの葛の葉狐か。彼女は迷宮の内外問わずこれができるようになってしまった。
ここは呪いのカードに長年抗い続けてきたサマナーの実力を見せてやろう。
例えるならコンセントからコードを通して電化製品に電気が流れるように、カードからマスターに思念を流すにはコードがあるはずだ。
そのコードは物理的には観測できないが、干渉出来ないわけじゃない。細く細く何も通さぬように絞っていく。
(何をする気で……)
リリの言葉は途中で遮られた。これは呪いのカードからの干渉をシャットアウトするための技術。
昔は常時シャットアウトで口うるさいアヤカに対抗していた。アヤカはさらに対抗して別のアプローチをしかけてきて、熾烈な戦いとなった。
リリとは話したくないわけではないが、人前ではシャットアウトしておこう。
「そういえば、伝えてなかったけど部の申請ダメだった……」
授業が終わると今年も同じクラスだった凛月が声をかけてくる。
冒険者なんて危険だし許諾は降りないだろうな。当然のことじゃないか。
「みんな口を揃えて危ない、危ないってさ。リスクを取らなきゃチャンスは来ないだろ……」
確かにそうかもな。でもそう考えない安全第一な人も多い。どれだけ話しても相容れないから強硬手段を取るしかなくなる。面倒だよな。
「颯太たちも、まだ危ないからソロ攻略はやめろって言うんだぜ。いつまで経っても強くなれない……」
チームを組めば召喚枠が増える。その分安全に攻略できることは間違いない。その反面、報酬が分配され少なくなる。間違いなくタイパは悪い。
そのせいで凛月ら新人たちは未だ一ツ星らしい。Fランク迷宮程度Dランクカードがあれば攻略できるだろうに、颯太たちは相当過保護なようだ。
「しかし、そんな我々もついに二ツ星昇格試験を合格しました!」
それはめでたいな。二ツ星となりEランク迷宮に行けば収入も増え、更なる強化がしやすいだろう。
「やっと罠の発見の仕方覚えたからね」
"颯太たち"の"たち"の方、華音が口を挟みに来た。今年は同じクラスだから気軽に寄ってくる。
罠か。カードがあるとはいえ、それらがロストしたら自力での回避が求められる。きちんと見分ける必要がある。
「罠なんてカードで……」
「そのカードがダウンしたら?万が一にも備えなさい」
華音もまた同じ意見のようだ。先程の断定は訂正しよう。これは過保護ではなく最低限の危機管理だ。
「というか秀羽なんか口数少なくない?なんかあったのか?」
「また話しそらして……」
……そうか。確かに口数が少なかったな。もう少し意識的に話すように気をつけなくては。
帰路を自転車で走る。もう1人だしシャットアウトしなくて良いだろう。
(これで聞こえるわけですね)
リリは良い子だ。こうしてこちらの状況を見て話しかけてくれる。アヤカのやつなんて少しでもコードの絞りを緩めると思念をねじ込んでくるから油断ならなかった。
(そのアヤカさんというのはこの前の付喪神ですよね。付き合いが長いんですか?)
そうだな。前のアンゴルモアのときに出会ったから、9年前になるな。
(やっぱりそうなんですね)
何がやっぱりなんだ?
(シュウが思考を口に出さないのって今みたいな会話になれてしまったからなんでしょうね)
なるほど。つまり全部あいつのせいってわけか。
(そこまでは言ってないです)
そうは言うが、あいつが勝手に俺の口で話すから、いつも自分で話すタイミング奪われてきたんだよなぁ。
……もしかして結菜から嘘つき扱いされたのも、あいつのせいなんじゃないか。