久しぶりに自分のライセンスを持ち出した。今日は赤塚さんからカードホルダーを返してもらう予定だ。
警戒されているようで、受け渡しは迷宮の中で行うこととなっている。
「ほら、一応中身も確認してくれ」
言われた通り、投げ渡されたカードホルダーの中身を見る。E、Fランクのカードが数枚、幸せの王子の指輪、殺生石、謎の稲穂。確かに渡した時のままだ。
「なんか試したいことがあるとか言ってたよな?」
そう。試したいことがあるのでわざわざ名義上のチームを組んでCランク迷宮まで来たのだ。
まず俺は結菜を召喚する。そしてさらに7枚のカードを取り出す。Cランク迷宮では8枚までのカードを召喚できるのだ。
召喚されたのは黒いドレスに身をつつみ、背中からつばさを生やした女性たち。その手にはそれぞれ管楽器を携えている。
彼女らはCランクモンスター、トランペッター。黙示録において、終末を知らせるラッパを吹く7人の天使たち。
【種族】トランペッター
【戦闘力】400
【先天技能】
・災いを告げるラッパ:演奏に合わせて周囲に攻撃が発生する。(中等魔法使い、演奏を内包する)
・7人の天使たち:他のトランペッターに続いて演奏した場合、人数に応じて効果上昇、また追加効果が発動する。4人以上では敵全体デバフ付与、5人以上では敵の眷属召喚を封じる、6人以上では眷属である騎兵の召喚、7人以上では七つの金の鉢を召喚する。
・集団行動
彼女らは目を見合わせ、そしてそのうちの1人が前に出る。
「主よ、指揮をお願いします」
「トランペッターたち、その演奏で終末を起こすのだ」
「……指揮官じゃなくて指揮者の方の指揮をお願いします」
「僕がやるね〜」
結菜が構えるとトランペッター達は隊列を整え姿勢を正す。手をあげれば楽器を構え、演奏が始まる。
その音色は心を落ち着かせるような、間近で音も大きいのにとても穏やかに感じた。
演奏が終われば、俺も赤塚さんも自然と拍手を送った。
「アンゴルモア……終末は起こせたか?」
「そんな効果はありません」
「結菜、追い討ちにラグナロクを起こしてくれ」
「そんな能力ないよ」
やはりダメか。次はインド神話のカリとか足してみるか?ゾロアスター教のアジダハーカは終末に目覚めるなんて話もある。あとは仏教だと末法があるな。それを司るモンスターとかいないかな。
「どうしてアンゴルモア起こそうとしてんだ?」
「今の社会を打ち壊し、もう一度アンゴルモアの恐ろしさを知らしめるためだ」
「なんか嫌なことでもあったんだな」
嫌なこと?社会の大半はそうなんじゃないか?まあ、そんなことより今できることをしよう。
トランペッターは単体では平均的なサポータータイプだが、7体以上揃えた場合はデバフは大幅に強化され、眷属封印、眷属召喚などの効果も追加される。
このままCランク迷宮の攻略と行こうじゃないか。
「行かせないから。自粛も終わりでいいから、四ツ星になってから出直しな」
邪魔されるか。しかたない、ここは諦めるとしよう。
「玉音のライセンスもういらないだろ。俺から返しとくぞ」
……返さないとダメか?ダメですね。後ろのモンスターたちの臨戦態勢解いてください。
俺は青葉玉音のライセンスを投げ渡す。
代わりにはならないが時間はあるし近くにFランク迷宮に行くか。
踵を返して歩きだそうとすると、呼び止められた。
「アンゴルモアのときのこと覚えているか?」
当時の俺は8歳だ。一般的に考えれば物心もついて、きちんと記憶してるだろう。であれば、なぜ質問をするのか。答えは簡単だ。
「5日目以降は覚えていない。呪われたんだ」
「やっぱりそうか」
俺は一般的ではない。昔は覚えていたのだがアヤカがかけた呪いによって消されてしまった。ロストさせても戻らず、人魚の短剣を用いた時も戻らなかった。
わざわざ聞いてくるあたりおそらくアンゴルモアのときに俺に会っていたとでも言うのだろうな。
俺は覚えている時点まではサマナーとして救助活動していた。以前赤塚さんが言っていた恩人というのが俺なのかもしれない。
「お前はこの街のそこら中に現れてモンスターを倒していた。俺や鏡介、玉音もそれぞれお前に助けられたんだ」
予想通りではあるが、浅黄さんや青葉玉音まで知り合いだったのか。過去の俺は相当頑張っていたのだろうな。
「そうか。心当たりもないんだな。そうならいいんだが」
……どういう意味だ?素直に受け取るなら心当たりがあるとなにか不都合があるということになる。
過去の俺はなにかやらかしたということになる。この反応からして、赤塚さんを襲撃した件よりも重大な何かだ。
そもそも何故俺の記憶は消された。
消した当人、アヤカにとって都合の悪いようで、教えてはくれなかった。
だが、カードであるアヤカと人間である赤塚さんでは立場が大きく違う。その両者にとって重大ななにかとはいったいなんだ。
「悪いが話すわけにはいかない。諦めてくれ」
尋問は得意じゃない。口を割らすには暴力しかない。
彼の背後には筋骨隆々なモンスターたちが控えている。無理を言ってでも地上での対面にしておけば良かった。ここは諦めるしかない。