中年は警察へと引き渡した。若い冒険者からカード巻き上げようとしたとか言っていたが、俺が未然に防いでしまったため、どういう待遇になるのだろうか。
それはさておき俺の罪状についてだ。
「私の目の前で壁が壊れました。私は何もしていません」
俺の代わりにリリが口を動かす。これで虚偽判定の魔道具は潜り抜けられる。警察は俺が呪いのカードと協力しているとは考えてないだろう。
これで壁の破壊についてはとぼける。
さらに迷宮への侵入については、あの場にいた冒険者の誰かが救助要請したこと、そして中年が企みを明かしたことにつけ込む。俺は救助に行ったということにする手筈だ。
計画は完璧。俺は無罪を勝ち取れるはずだ。
免停になった。
俺は自室で金槌を片手に反省する。
たとえ救助目的だとしても資格のない迷宮には入ってはいけないそうだ。
(頭の固い人達ですね)
一応情状酌量されたおかげで罰金と2ヶ月の免停で済んだらしい。本来は免許取り消しが妥当だとか。
罰金は150億を手に入れた俺からすればはした金だ。気にする事はない。まだ15億しか届いていないが。
「浅ましいよ。成金が」
「そこか」
俺が振り返り金槌を振りかぶるも、視界の内にはもう何もいない。
……免停の方は深刻な問題だ。三ツ星昇格試験は続行不可能で不合格が確定している。さらにせっかくの夏休み迷宮に入ることができない。
俺はまた誰かのライセンスを入手するしかないようだ。
「反省は?鶏なみの記憶力なの?」
青葉玉音には華音経由で打診してみたが断られた。2度目はないそうだ。仏よりも厳しい。
そうすると俺の知り合いに活動していない冒険者はいない。穏便な手段では手に入らないな。
だが思いつく限りの手段は去年試して失敗している。どうしたものか。
「大人しくぐへぇ!」
ノールックで金槌を振り抜くと、上手く命中したようだ。俺は壁にバウンドしてきたそれを掴み取る。そのまま押さえつけ、金槌で叩きまくる。
「人はカードに勝てないよ」
結菜が力を貸してくれればこいつを再びロストさせられるのに……。
(地上に出られるのはアヤカさんだけですもんね。そちらではロストさせることはできませんね)
そうすると次ロストさせられるのは迷宮に入れるとき、つまりはライセンスを手に入れた時だ。早急に入手しなくては。
「免停開けた時だよ」
ひとまずはかつてアヤカを黙らせた手法を再現しよう。俺は金槌を片付け、部屋着から着替え、外に出る。
外は暗いがこれくらいなら問題なく見える。俺は適当な方向に向けて軽く走り出す。
(ランニングでアヤカさんが黙るんですか?)
リリ、その名前を出してはいけない。話しかけられても答えてはいけない。姿を思い浮かべてもいけない。
究極的に無視をするんだ。アヤカの心が折れるまで無視を続ける。前回は2年かかったが、1度されたことは記憶に深く刻み込まれているはずだ。
「芸がないよ。ね、リリ」
(そうですね、あ……)
この作戦は無理かもしれない。こんなとこでリリが足を引っ張るとは……。別の手段を考えるよう。物理的に遠くに捨ててくるとかどうだろうか。
(アヤカさんはこんな扱いでよく力貸してくれましたよね)
「才がある。失うには惜しい」
(それはわかります。けれど、でしたらなんで災いを招くんですか?)
「栄光を手にするためだよ」
(あぁ、なるほど)
何に納得したんだよ。というかついに白状したな。やはりお前がイレギュラーエンカウントを招いていたのか。
さて、ここら辺でいいだろう。俺は周囲を浮いていたアヤカを手に取り、しっかりと握る。
思い切り川へと投げ捨てる。
そして全力で逃走を開し、痛い。頭に何かぶつかった。
「行動を改めなよ」
「お前が改めろ」
「僕は間違ってない」
これまでの人生においてアヤカの小言はほぼ全て役に立ってないだろ。不快にさせる以外に意味あったのか?
「免停が」
やはり平行線か。ここは公平にリリに判決を下してもらおう。さあ、言ってやれ。
(お二人は仲良しなんですね)
そんなことは聞いてない。しかし、聞き直さないでおこう。その方がいい気がする。
捨てるのには失敗した。別のアプローチを考えよう。例えばシャットアウトにさらに磨きをかけるのはどうだろうか。それで干渉を防ぐ。
そのうえでカードは菓子の箱に戻しておけば、アヤカは家族の目があるため現界を止める。
方針は決まった。目指すはシャットアウトの常態化だ。
「それ必要なの?勉強でもしなよ」