異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第6話 再開の約束

 約24時間経過。

 

 外では再び日が傾いている頃だ。両親の性格を考えれば、もうそろそろ捜索願が出されていてもおかしくはない。

 

 だからといってすぐには救助は来ない。それに救助が来るからといって気を抜いて死ぬなど本末転倒だ。

 

 マップの端でリリと共に敵への警戒を続ける。

 敵を撒いてから十数分が経過した。敵がいつ来るかはもう見当もつかない。

 

「シュウ、お疲れではありませんか?見張りは私がしますので少し休むべきです」

「いや、このままいく」

 

 持久戦にすると決めた時から、主力3体には交代でカードに戻し、休息を取らせている。

 

 それに対しマスターの俺は休むことなく気を張り続けている。

 彼女の気遣いはありがたいが今はそうもいかない。

 

 ここまで生き延びたのも、ワイヤートラップに爆竹、煙幕、催涙スプレーと便利グッズたちでねこだましを続けて、逃げてきただけに過ぎない。

 

 そしてどれももう手元には残っていない。次に接敵した時、それは正面衝突を避けられない。

 

「そんな格好で言われても不安しかないですよ……」

 

 そう言われ、自分の姿を見れば、両腕と胸部、そして頭部に包帯を巻き、どう見ても怪我人の格好である。

 

 臆病な彼女は俺よりも恐怖や不安を抱いているに違いない。

 けれども、大丈夫とも、安心しろとも言える状況ではない。

 

「僕を信じて」

 

 それぐらいしか、俺には言えない。

 自分の弱さが嫌になる。最善を尽くしてきたつもりだったが、本当にそうだったのか。

 

 ……ダメだ。余計なことを考えてはいけない。

 

「……では、貴方も私を信じてください」

 

 また、気を使わせてしまった。ただ、その一言で曇りは晴れたような気がする。

 

 

「敵が近づいてきます!」

 

 リリの一声で緊張が高まる。

 

 敵は足音を殺して近づいてくる、今はリリの嗅覚が頼りだ。

 俺たちは壁に背にし、敵の姿を探す。しかし、どこにも敵の姿が見えない。

 

「シュウ、気をゆ──」

 

 仲間の声に少し気が逸れる。

 

 その時、騎士が現れた。

 森の壁、間隔の狭い木々の間から飛び出し、俺の心臓目掛けてその槍を突き出した。

 

 完璧に死角をつき、完璧なタイミングの完璧な奇襲。

 うちのワイルドウルフにも真似て欲しいものだ。

 

 しかし、完璧であるが故にそれは、完璧に予想通りだ。

 体をひねり回避し、リリを抱え距離をとる。

 

「これまで躱すとは、なんとも小癪な奴だ」

 

 十数分ぶりに再開した騎士は悪態をついてくる。

 いやむしろ、こちらが文句を言ってやりたいくらいなのだが、そんな余裕もなく、敵の一挙一動に目を配る。

 

「お褒めいただき光栄だよ」

 

 敵は妄想に囚われた男「ドン・キホーテ」。騎士自身が名乗っていたから、間違いない。

 

 その姿は鎧と兜で身を包む醜い老人。露出した肌はゾンビのように腐っており、周囲に腐臭を漂わせている。

 

 アンデッドのような見た目でありながら、技術、知能、速度、なにをとっても、同ランクのスパルトイとは比較にならない。

 洗練されたその突きの技術はプロの武術家にも負けないだろう。後手に回れば回避することなど叶わない。

 その上、高い知能から繰り出される奇襲やフェイントを見抜くのも一苦労だ。

 

 リリを抱えたままでは、回避などする余裕はない。

 しかし、リリを後方へと逃がそうとすれば、その隙を逃さず騎士は真正面から渾身の突きを繰り出すだろう。

 

 視線を逸らす。それを見逃さず騎士は向かい来る。

 リリを投げ飛ばし、反動で横に転がる。俺たちの間を通った槍は背後の木を抉る。

 これを食らってはいけない。それは一撃で勝負を決めてしまう。

 

 大きな音を立てて倒木が俺たちとリリを分断する。

 

「一騎打ちだよ」

「ハハハ!!その意気良し!!」

 

 その一言で、妄想に生きる彼は俺だけに視線を向けてくれる。

 必要なのはロールプレイ。彼を満足させ、時間を稼ぐ。少しでも長く。

 

 突きが来る。まずは右足。横に飛び退き回避。

 次が飛び退く先。無理矢理踏みとどまり回避。

 そして止まった俺の胴へ。踏み込んだ足を軸に殺しきれない勢いで回転しつつ、ナイフを突きつける。

 騎士は後方へ下がり回避する。

 

 丸1日彼を見続けたことで、動きが読めるようになった。

 しかし、俺のナイフなど彼にとっては蚊に刺されるのと等しいだろう。

 この虚仮威しがバレれば、一巻の終わりだ。

 

 俺がナイフを振り切ると同時に、攻撃が再開する。

 次は右肩、回避せずそのまま後方へ吹き飛ぶ。

 騎士が続けて繰り出した本命の突きは俺には届かない。

 

「うぐっ!」

 

 倒木の向こうからリリの呻き声が聞こえる。何度も使える回避手段ではない。

 

 転がりながら体勢を立て直し、距離を開いて騎士と向かい合い、睨み合い、動かない。

 

 そして先に動いたのは、

 

「…シュウ、敵を押しとどめてください」

 

 リリだった。頼もしい台詞だ。何らかの策があるのだろう。

 けれどもその声色には怯えが残ったままだ。

 

 自暴自棄に考えた無謀な策ではなく、怯えて考えた現実的な策。

 ならば、その策は信用できる。

 

「ごめん。一騎打ちは終わりみたい」

「まあ、いい。我が騎士道の前に数の差など関係ない」

 

 互いに前身する。槍とナイフでは、槍の方が間合いが長い。攻撃が届くのはそちらが先となる。

 

 槍の突きに合わせ、ナイフを叩きつけ、無理矢理軌道を曲げる。

 ナイフは折れてしまったが、初めて見せたそれは意表をついた。

 

 その隙に槍を掴む。慌てて引き戻される槍と共に距離を詰める。

 

 騎士の顔面に向け右手を伸ばす。右腕の包帯の中に仕込んだミニサイズの催涙スプレーが吹き出す。

 

 右腕の包帯を解き、それで首を絞めつつ、押し倒す。

 この包帯は耐火耐水その他色々の高級包帯、そう簡単に切れ──た。

 それでも騎士は包帯に気を向けて、倒れることには対処できなかった。

 

 倒れた勢いそのままにマウントポジションを取る。

 そして、逃げ出すべく暴れる騎士でロデオする。

 

 その直後、リリの策が始まった。俺たち目掛け次々と火球が飛んで来る。

 

 生き急ぐかのように、死力を尽くすかのように猛烈な勢いで俺と騎士は燃え上がる。

 

 騎士は絶叫をあげる。熱いが、痛みも火傷もない。

 それは全て、リリ自身が引き受けてくれている。

 

 

 火はやまない。……まさか、そんなわけない。絶対にない。俺は彼女を信じている。

 

 やがて、騎士は動かなくなり、火も止む。

 

 慌てて立ち上がり、振り返るもそこには何もいない。

 全身の火傷がヒリヒリと痛む。

 

 何故?何故?何故そんなことを?そんなことになんの意味が?意味なんてないのか?だったら何故?わからないわからないわからないわか──

 

 油断。勝利を確信した時、誰もが油断をしてしまう。

 

 音もなく立ち上がった騎士が背後から俺の心臓に渾身の一突きを打ち込む。

 

 背中に伝わる痛みが俺を現実へと引き戻す。

 吹き飛ぶ俺の背後で騎士が笑っていることだろう。

 

 行け、ワイルドウルフ。

 

 包帯を破り後頭部から飛び出したワイルドウルフは、勝利を確信し、油断した騎士に奇襲を仕掛ける。それは決して避けられない必中の一撃。

 

「ワゥゥゥン!!」

「なに?!」

 

 一方で、吹き飛ぶ俺は左手に仕込んだ『リジェネレイト』を発動する。全身から火傷の痛みが引いていく。

 

 そして、背中に仕込んだカードからスパルトイを召喚する。

 スパルトイは俺を担ぎ走り出す。

 

 渾身の突きはカードを挟んだことにより、貫通は防いだが、その衝撃は大きく、呼吸をするのがやっとだ。

 

 その上、この怪我はリジェネレイトで治らなかった。

 

 怪我は予想よりも重症だが、概ね作戦通りだ。

 あとはねこだましを終えたワイルドウルフとともに昨日のうちに用意したワイヤー地帯まで移動し、さらに時間を稼ぐ。

 

 

 ……しかし、ワイルドウルフは追いつかない。

 

 何故?作戦通りに動けば、手はまだある。

 何故?パキンと何かが割れるような音が聞こえた。

 手に力が入らない。確認できない。そんなわけない。何故お前まで?何故従わない?何故?

 

 ワイヤー地帯に到達し、スパルトイはワイヤーを躱しながら目的地を目指す。

 

 パチン、パチンとワイヤーの引きちぎられる音がする。

 騎士が追いついてきたのだ。

 

 ワイヤーを躱すスパルトイと、無視する騎士では移動速度が段違いだ。

 それでもひとまずは問題ない。目的地まではたどり着いた。

 

 騎士が次々と引きちぎるワイヤーの中に1つ切れないものがあった。

 ワイヤーではなく、それを繋いだ木が耐えられなかったのだ。

 

 それは抉られ折れやすくなった木。ここに来るのは2度目、これまでの交戦で騎士が木を抉った場所。

 

 騎士は倒木に巻き込まれ、足を止める。その間にスパルトイは距離を稼ぐそういう手筈だ。

 

 しかし、スパルトイは立ち止まり、俺を地面に下ろす。

 何故?そんな指示は出てない、やめろ。

 

 スパルトイは騎士へと駆けていく。

 

 まさか、待て、それは今じゃない、お前じゃない。

 しかし、声は出ない。俺の意思に背きスパルトイは止まることはない。

 

 スパルトイは騎士と向かい合う。

 

「……」

「一騎打ちか?ならば受ける他ないな」

 

 騎士の攻撃をスパルトイは見切り回避する。

 しかし、スパルトイは押され、どんどんと位置が逸れていく。

 

「……」

「防戦だけでは勝てないぞ」

 

 騎士の煽りもスパルトイには効かない。もくもくと準備を進める。

 その様子に騎士は苛立ちを覚える。

 

 しかし、準備は整った。スパルトイがワイヤーを踏めば、倒木が騎士へと襲い掛かる。

 そしてそれを避けた騎士へと、大剣が振り下ろされる。

 

 騎士が反撃しようとすれば、保護色で隠されたワイヤーにかかる。

 

 まるで、スパルトイの独壇場だ。

 

 事実はそうではない。

 あれは俺とスパルトイで連携してやる予定だったもの。

 2役を1体で担うとなれば綻びができる。

 

 騎士の意表をつくのも数回限り。もう後がない。スパルトイは大剣を大きく振りかぶる。

 

 騎士はその隙を逃さない。まっすぐ渾身の突きをくり出そうとする。

 踏み込んだスパルトイの足はまたもワイヤーを踏みつける。

 

 倒木はスパルトイと騎士両方を巻き込むように倒れる。

 しかし互いに攻撃を中断する気はない。揃って倒木の下敷きとなる。

 

 倒木が押しのけられる。そして、パリンと音が聞こえた。

 

 騎士はこちらへと歩み寄ってくる。

 

 騎士は地に伏した俺を見下ろす。体に力が入らない。逃げることも、戦うこともできない。無力だ。

 

 何故こうなった?どこが?いつが?だれが?どうすればよかった?

 

「それが貴様の騎士道か?」

 

 は?そんなわけがないだろう。こんなものを望むわけがない。俺は……。

 

 声が出ず、騎士の問いには答えられない。

 それでも俺はただ全力で騎士を睨みつけてやる。意味はない。それでも何もせずにはいられなかった。

 

「……答えはないか。次までに用意しておけ」

 

 そう言い残し、騎士は倒れ光となって散っていく。

 

 そこには宝箱と魔石と、そして人形が残されていた。

 




【Tips】ドン・キホーテ
 騎士ドン・キホーテとその愛馬ロシナンテと戦う純戦闘型のイレギュラーエンカウント。

 その特徴は主に2つである。
①召喚制限による一騎打ち
 フロア内における全マスターの召喚枠の合計が2つになり、それぞれがドン・キホーテとロシナンテと戦うことになる。
 そのため、騎士が愛馬に乗ることはほぼない。
②ドン・キホーテの妄想の現実化
 わかりやすいものを言うと、ドン・キホーテは任意のタイミングで望むスキルを習得することができる。
 また、ロシナンテに羽が生えたり、角が生えたり、ゴリラになったという目撃情報もある。


 ちなみに作中においてロシナンテは初日にドン・キホーテの突きに巻き込まれて倒れた。
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