机に並べられたカードを見る。どれもDランクの妖怪だ。
もしかして浅黄さんは妖怪のカードしか見えない呪いにかかっているのか?
「レンタル料は1枚につき月額5万円、ロストした場合は市場価格で弁償、ルールはそんなとこですかね」
「はい」
一般的な相場はわからないので、大人しく従う。
しかし、これが一般的相場なら、登録料含めて15万円程度で冒険者になれるのか?
「この中だとおすすめは…まずは水虎ですね。河童の上位の存在で、スキルにより眷属として河童を召喚することができます。一般にはそのスキルで有名なのですが、水虎の魅力はそれだけではありません。河童よりも屈強なその体は……」
浅黄さんは妖怪が好きなのだろう。話が長い上、性能と関係の無いことにまで発展していった。
Dランクなんて買うも出くわすも程遠かったため、何も知らない。ここはお勧めに従うべきだろう。
しかし、カードの中の妖狐を見て、あることに気づいた。
鞄の中を探れば、そこには数枚のFランクカード、そして色彩を失ったリリのカードがある。
「名付けていたんですね。でしたら、復活用カードを安く買えないか知り合いに当たってみますよ」
「何から何までありがとうございます」
「いえいえ、お気なさらず」
何故ここまでしてくれるのか。彼の胸に秘めた思いはわからない。
レンタルの話も終わり、気になっていた話を聞いてみる。
「ところで、浅黄さんは遭難届を受けて救助に来てくれたんですか?」
「いえ、毎日来ていたのに、2日続けて来なくなったのを心配して、近くのFランク迷宮を探したんですよ。」
救助が早いと思ったら、そういうことだったのか。
明らかな過保護。何が彼を駆り立てているんだ?というか、ここまで来るとちょっと怖い。
「言い忘れてましたけど、迷宮を出てすぐ、親御さんから連絡があって、うちで休んでいると伝えてあります」
普通にありがたい。両親も心配しているだろうからそろそろ帰ることにしよう。
「大変お世話になりました」
「いえいえ、またのご利用をお待ちしております」
「大丈夫だったのか!?心配したんだぞ!?」
家に帰り、ドアを開けたら不意打ちが襲う。しかし負けじと、父親の口から次の言葉が出てくる前に潰しておく。
「見ての通り大丈夫だよ」
奥から母親も出てくる。こちらは一言も話させてはいけない。
「強敵に苦戦したけど、ちゃんと帰ってきたよ」
両親は俺の姿を見て安心したようだ。実際は死にかけだがそれは隠し通す。そして、安心からくる隙を見逃さない。
「それでも疲れたから、休ませて」
両親は俺の意見を受け入れる他なく、道を譲る。
俺はシャワーを浴び、部屋着に着替え、自室に入る。
モンスターの脅威を両親は知っている。
前のアンゴルモアで、この辺りは自衛隊の対応が遅れ、他地域よりも被害が長引いた。
それを見届けた両親は俺に脅威から離れた生活を送って欲しいそうだ。
しかし、それは夢物語だ。
またアンゴルモアが来る可能性は捨てきれない。
脅威が訪れる。備えなくてはいけない。
話し合ったが平行線だった。
無理矢理押し切ろうとする俺に対し、両親が選んだ落とし所が中学卒業まで待つことだった。
俺は大人しく従った。それでも両親は今も冒険者を辞めさせようとする。
我が家に味方などいなかった。
日付が変わる頃、寝静まった街の中を人目を避けて進む。見つかれば補導されかねない。
1時間ほど自転車を漕いで、辿り着くのは隣の市のFランク迷宮。
ここなら、朝までに踏破できるはずだ。
レンタルしてきたカードはどれもまともなDランク。
1枚でも十分とされるものを2枚も借りてきた。過剰すぎる戦力だろう。
夜中に1つ、昼間に1つ、1日2つずつ攻略していけば4日後には二ツ星への昇格試験を受けられる。
二ツ星となりEランク迷宮に挑めるようになれば、踏破報酬は2倍に跳ね上がる。
ひとまずは、そこを目指すとしよう。俺は黒い渦へと手を伸ばした。
さて、順に性能を見ていくことにしよう。まずは水虎、見た目はでかいマッチョな河童だ。
【種族】水虎
【戦闘力】190
【先天スキル】
・河童の大親分:眷属である河童を召喚できる。一日最大48体。
・水妖:水辺を生きる妖怪。水中にいる時、全ステータスにプラス補正。
・相撲:相撲の技に対するプラス補正。
【後天スキル】
・自由奔放
・目利き:対象をより細部まで観察できる。また、対象の性質などを見抜く事ができる。
「おう、お前がマスターか?」
「うん、そうだよ」
「では、マスター。お前は相撲を取るか?」
「やったことは無いよ」
「これだからガキはよぉ」
やめて欲しい。無駄な手間を増やさないでくれ。今日中に2つの迷宮を攻略したいんだ。
俺は手早く地面に円を描き、中央付近で四股を踏んでみる。
そうすると水虎も向かいに立ち四股を踏む。
俺はカバンから取り出したナイフを宙に投げる。これが地面に落ちたら、それが開始の合図だ。
コトンと音がした。
それと同時に水虎は接近し、組合に持ち込もうとする。
俺は水虎の伸ばした腕の片方をつかみ、後方へと振り返る。背負い投げだ。
「んな?!」
予想外だったらしく、やたらすんなり持ち上がった水虎は、スポーツマンシップに則り、そのまま場外に投げられた。
「終わったね。次行くよ」
「はじめましてぇ。マスター」
「早速だけど、攻略始めるよ」
「え?はぁい。わかりましたぁ」
【種族】一反木綿
【戦闘力】170
【先天スキル】
・紙一重:わずかな距離を見極める。回避行動にプラス補正。
・中等攻撃魔法
【後天スキル】
・忠誠
・初等補助魔法
・騎獣
続いて召喚したのは一反木綿、大きくて宙に浮く紙だ。騎獣スキルを持っている彼女には、俺の足となってもらう。
素直に言うことを聞いてくれて、マジありがたい。
「マスター!もう一本だ!」
「また今度ね」
「約束だぞ!」
水虎の勧誘を振り切り、迷宮攻略を開始する。
とは言っても、俺は一反木綿の背から水虎の戦闘を見下ろすだけである。
「おらよ!喰らえ!おら!」
なんで張り手なんだ?殺傷力低くないか?ただそれでも敵は倒れていく。
これがDランクでも上位と言われる水虎の力、その一部。
浅黄さん宅から帰った後、情報収集を行った。
もう、慢心はしない。徹底的に完膚なきまでに、攻略をする。
この迷宮の主は、水棲のEランクがランダム。河童の仲間である水虎なら水中戦もおてのものだろう。
迷宮を出れば朝日が昇っている。
家には、「早朝から迷宮に出かけた」と置き手紙を残してきた。
そこから自転車で駅まで行き、電車に揺られ次の迷宮を目指す。
次の迷宮の主は、物理攻撃のみなので、一反木綿が空中から攻撃すれば、攻略は容易だろう。
夕暮れ頃にギルドを訪れると、浅黄さんへと通された。
何があったかと問われ、何もないので、とりあえず2つの魔石をカウンターに並べる。
そうすると浅黄さんは驚きつつもどこか喜ばしそうな顔をしていた。