オバロ本とリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの頒布を予定
詳細は活動報告ご参照いただけると嬉しいです。
「どうかなさいましたか? モモンガ様?」
モモンガこと鈴木悟は、ユグドラシルからのリンクが切り離されたことで、0時すぎに自分の部屋で目を覚ました。目覚める瞬間、蠱惑的な女性の声を聴いた気がするが、気のせいと記憶の彼方へ消えていく。
目を開けば何の変哲もない部屋が広がっている。強いて言えば私物が少ないわりに、ダイブユニットを搭載した高級なリクライニンングシートがあるぐらいだろうか。
そんないつもと変らぬ現実にもどった鈴木悟は、そのまま目を閉じる。
――ユグドラシル。
自分の人生においてもっとも長く熱中したものが先程終わった。楽しい余韻でも思い出そうとしたが、いざ考えると残ったモノはぽっかりと胸に空いた穴だけだった。
例えば先程仲間との会話の中にあった楽しかったイベントについて再度思い返しても、あの時のような感動はなかった。
なにより、先程まで仲間と共に作り上げたナザリックが電子の藻屑に消えたことに対する憤りや無念感など、今日を迎えるまで燻っていたものがすっかり抜け落ちてしまったのだった。
「これが胸に穴が開くということだろうか?」
そのように言葉にしてみるが、いまいちわからない。
「案外こんなものだったのだろうか? それともコレが終わるってことなのか」
情熱という熱量を感じることができなくなった瞬間、ユグドラシルは鈴木悟にとって、もう一つの世界からゲームへと変わったのかもしれない。そう納得したときメール着信のランプに気が付く。
「うわ、けっこう溜まってるな」
鈴木悟は携帯端末を手に取りメールを確認する。どうやら、最終日の連絡をしたギルメン達が、今日は都合が悪いという返信にはじまり、まるでチャットのようなやり取りがはじまり、最後には二週間後にOFF会をしないか? という方向でまとまったようだ。
なにより、当日の費用は音改さんと美由さんが全額持つという。うすうす世界の違う上級国民では? と思っていたが、どうやらその予感は真実だったようだ。
たしかにOFF会に指定された日は三連休の中日。多くの人間があつまりやすい日であった。どうやら会場はMRカフェの個室のため、当日現地にこれない人も店のVR空間にダイブすれば、アバターで参加できる形式らしい。
なにより、すでに八割が参加表明をしていることに気が付いた時
「ユグドラシルの最終日に来てくれればよかったのに」
と、やるせない気持ちを口にする。もっとも、今日は平日。OFF会は休日。やはり集まりやすさという点では段違いだ。なにより、鈴木悟自身も年休を強引に勝ち取って参加したぐらいなのだ。そんなことをゲーム自体辞めた人間に期待するのは酷というものだ。
「参加しますっと」
どうやら幹事はたっちさんとウルベルトさんらしい。二人がケンカしながら調整するのを脳裏に浮かべながら、就寝の準備をするのだった。
***
アインズ・ウール・ゴウンのOFF会はアーコロジー下層のうらぶれた場所にある酒場、BARナザリックで行われることとなった。
普段は別の名前の店なのだが、今日は貸し切りということで、BARナザリックという簡単な造りのプレートが扉に飾られていた。聞けば、音改さんの知り合いが経営する店らしく、協力してくれたそうだ。
そんな店の扉をくぐり、エア洗浄ブロックの先、そこは外界と切り離された落ち着いた空間が広がっていた。
マホガニーと思われる年季の入ったカウンターに、四人掛けのテーブルが二セット。奥には小さなピアノと大きな壁掛けの時計が一つ。目を引くのは空間を仕切る様に置かれた数多くの鑑賞樹と、窓際にところ狭しと置かれたハーブのプランター。自然が黄金に等しい価値を持つこの都市で、アーコロジー内の自然公園などを省くとこれほど緑を身近に感じる空間は少ないだろう。
「いらっしゃいませ」
年季を感じるバリトンボイスに呼ばれ視線を向ければ、カウンターに一人のバーテンダーがいた。年のころは四十を超えているだろうか? 落ち着いた雰囲気とぴしっと伸びた背が、年齢をより一層わからなくさせている。
「本日予約したモノですが」
「ではネームプレートにキャラクターの名を書いていただいたら、奥へどうぞ」
「あ、はい」
鈴木悟は促されるまま、ネームプレートにモモンガと書き胸につける。なんでこんな名前にしたのだろうか? 若干の恥ずかしさを感じるが、よく考えればギルメンはもっとヒドイ名前もいるのだから、まあいいかと開き直る。
そして扉をくぐると、そこにはナザリックの円卓の間を感じさせる壁のデザインが投影されていた。
なにより、すでに集まっていたメンバーを見ればわかる。
「ペロロンさん。茶釜さん。たっちさん。ウルベルトさん……」
「お? やっと主役がきたな」
そういうと、いかにもオタクとわかるキャラもののTシャツを着た、残念な美青年が声をあげる。それにつられ、みんなが顔を鈴木悟、いやモモンガのほうに向ける。
「いや~モモンガさんに会いたくって気が付いたら早く集まってしまいましたよ」
「ブループラネットさん」
ダイブ参加とおもわれる、ユグドラシルのキャラに似せたアバターのブループラネットが声をかける。よく見れば部屋のそこかしこに設置されたカメラや空間投影スクリーンを使って、ダイブ参加者も臨場感を共有しているようだ。
「現場に行けば酒が飲めるのに、リンク参加を選択して失敗でした」
そんなことを言うのは、先日同様、若干死にそうな声で話すスライム。ヘロヘロであった。
「じゃあ、モモンガさん駆け付け一杯のんで、開会の挨拶をお願いね」
そういうと小柄の美少女というには少々年齢を重ねている女性、ぶくぶく茶釜が何の酒かわからないジョッキを持ってくる。モモンガはジョッキを受け取ると、一気にあおる。普段は飲まない酒が喉にながしこまれる。それはビールのような、それでいながら甘い不思議な味が一気に胸を満たす。
「茶釜さん、これ何ですか?」
「ここのマスター特性のビールカクテル。度数高めのブレンドだけど甘口にしてもらったから、普段飲まないモモンガさんでも飲みやすかったでしょ」
「ちょ……」
モモンガは度数高めというとこにツッコミを入れようとするが、かわいくウィンクをしながら女性陣の方に戻っていく茶釜を捕まえることができなかった。
「はぁ~」
「じゃあ挨拶と乾杯の音頭よろ」
まわりはすでにそれぞれの酒を手に持っている。ダイブ参加のメンバーもみんな飲み食いできないが、視線は感じる。そう、久々に集まった仲間達の視線。気が付けば、バーテンダーが新しい酒をもってきており、モモンガも渡される。
「なんで最終日来てくれなかったんだよ。寂しかったぞ! このやろ~。乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
すでに最初の一杯で酔いが回ってしまったのだろうか? ここまでくればすでにヤケとばかりに、モモンガは叫び、周りは一斉にグラスを掲げる。楽しい時間は始まったばかりだ。
***
しばらくみんなでいろんな話をする。中にはユグドラシル時代の動画データを持ってきた人もおり、投影しながらバカ話が広がる。
楽しかった思い出。
苦労した思い出。
モモンガの胸に空いた穴は少しずつ埋められるような気がした。
そんな風に楽しい話が進んでいく中、たっち・みーと、ウルベルトさんが若干真剣な顔で近づいてくる。
「どうしたんですか? お二人とも」
「モモンガさん、一点だけ確認させてもらっていいですか?」
「最終日……最後までログインしていましたか?」
「はい、してましたが?」
何でもないことのようにモモンガは答えるが、二人は顔を見合わせる。その表情は驚きと戸惑いだろうか。
ウルベルトは落ち着くためだろうか、バーボンを一口し、モモンガに向きなおる。
「実はモモンガさん。ユグドラシル最終日にログインしていたユーザーの一部が、意識不明の重体になっているんだ。中にはナノマシン残量不足で切り離されたはずなのに、意識がもどらずそのまま衰弱したケースがみつかりました」
「え?」
「直接の担当ではありませんが、一応みんなに聞いて回ってまして、ヘロヘロさんからモモンガさんが最後までログインしていたっぽいと」
モモンガはたっち・みーとウルベルトの言葉に混乱しながらも必死に考える。たっちさんは警察関係、ウルベルトさんは探偵関係の仕事していたことに考えが至ると、モモンガも嫌な予感に口を開く。
「いや、最後会えませんでしたが音改さんと美由さんもログインされるといっていましたが? 事件だったんですか?」
「一応昨日の夜に報道が入ったから、言える範囲は狭いけど事件があった」
そう言うとたっち・みーは守秘義務の範囲ないで事件の状況をおしえてくれた。もちろんこれがかなりグレーな行為であることはモモンガもわかっていたが、友人が心配してということで、なにも言わず耳を傾ける。
どうやらユグドラシルを運営する会社は、ゲームの運営の裏で電脳倫理法に違反する実験、ゴーストダビングの実験を行っていたようだ。そして最終日のサービス終了コードに合わせ、なんらかのコマンドが実行されたそうだ。
「意識不明ってのは」
「報道ではゴーストダビングの影響と言われてる。実際は専門家が調査中だがな」
「じゃあ、この集まりは?」
モモンガは先ほどまでのほろ酔い気分が覚めるのを感じながら、嫌なことを口にする。しかし、ウルベルトはにやりと笑る。
「これは偶然だ。なんせ事件が表ざたになったのは先週。正式な報道発表は昨日だ」
「そうですか」
「まあ、もし気になることや、問題が見つかったら連絡をください。捜査本部の方に連絡して検査医療の手配とかしますから」
たっち・みーはモモンガとのやり取りに問題ないと判断し安心したのだろう。にこやかに笑いながら、仕事用と思わしき名刺を渡してくる。
「っていっても気を付けろよモモンガさん。警察の連中、いまだにユグドラシルの量子サーバを止めてないんだぜ。原因究明といいながら、ゴーストダビングの実験結果の回収をしてるって話だ。信用しすぎるなよ」
「あれは、捜査上必要な処理と聞いている。なぜそんな風につっかかるんだ。そういうウルベルトさんだって、最後にログインしたって言ってたじゃありませんか」
「はっ。俺のことは俺が一番よくしってる。それよりも捜査上の処理といえば、大抵のことができることをいいことに、技術の回収と独占、横流しをしてる連中の言うことは違うな」
「量子サーバはうちの資産だから、おいそれと渡すわけにはいかないだが?」
たっち・みーとウルベルトが酒を片手に嫌味の応酬をしていると、一人の青年がわりこんできた。その姿にウルベルトはあからさまに嫌な顔をし、たっち・みーは普通に笑顔でむかえる。
「モモンガさん。もし何かあれば警察の方でなくこっちに連絡してくれてもいいから」
モモンガは渡された名刺をみるとそこにはこう書かれていた。
――レンラク・コンピュータ・システムズ
メディア・エンターテイメント本部 第三事業部 事業部長 姉木多々良
そう。メガ・コーポの幹部……姉木といえば創業一族の姓ということは……
「モモンガさんはわざわざ悪の総本山にかかわる必要はないぜ」
「私としてはせっかくプライベートで親しくなった友人に何かあっては困るとおもっただけだよ。他意はない」
気が付けば、たっち・みーとウルベルト、そして音改が酒を片手に嫌味の応酬をはじめる。まわりも、ああ、いつものことかと割って入らず放置する方向に向いているようだ。それを見たモモンガは、まるでユグドラシル時代のようだと感じながらも、仲裁にはいるのだった。
そしてまた酒を酌み交わしながら、昔話がはじまるのだ。
そんな楽しい時間の中、モモンガはふとあることを思い出す。
「そういえば、サービス終了間際に女の人の声を聴いたような・・・・・・」
「モモンガさん。グラス開いてるじゃないですか。これおいしいですよ。じゃあそろそろモモンガさんのいいところ、見せてもらいましょうか!」
幸いにもそのセリフは、ぺロロンチーノの酒瓶片手の叫び声にかき消される。なにより言った本人も苦笑いしながら、グラスと一緒に疑問も飲み込んでしまったため、それ以降思い出すこともなかった。
そんな姿をみた多々良はつぶやいた。
「どうやらゴーストダビングは成功のようですね。あとはあちらがうまくやってくれることでしょう」
――Aエンド「シン・現実での再会」
Aルートまたの名を表世界ルート
Bルートは次回作のプロローグ予定。