天才は妖精の尻尾にいる。   作:田中滅

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マキナ「前回のあらすじ、妖精の尻尾の魔導士にして天才科学者であるボクことマキナは……トーちゃんと三年振りの親子喧嘩をしたかな」

ディンガ「博士の負けだったけどね」

マキナ「ボクは負けてねーかな」

ギルダーツ「往生際の悪いバカ息子だな、今回も俺の勝ちだ」

マキナ「ウルセェかな、クソ親父」

カナ「コラコラ、喧嘩すんじゃないよ」


第九十三話 天才くん、愛される喜びを知る

「それで話ってなにー?トーちゃん」

 

夜も更け、星が瞬く時間帯。夕食を終えたマキナは酔い潰れた姉を寝室に寝かせ、リビングのソファに腰掛けていた父に問いを投げかける

 

「マキナ。お前……今年でいくつになる?」

 

「んーと……13歳かな?それがどしたの?」

 

問いの答えの代わりに意味深に問われた年齢。首を傾げながらも、自分の年齢を口にするも、それが何を意味するのかがマキナには理解出来なかった

 

「そうか…もうそんなに経ったのか…」

 

染み染みと呟く背中、哀愁を纏う其れは正に父の背中。何かを慈しむかのように、寂し気にギルダーツは瞳を閉じる

 

「さっさと話してよ。ボクも忙しいんだよ?こー見えて……わっ!なんだよー!?もー!」

 

親の心子知らず、マキナはギルダーツを前に呆れた眼差しを向ける。刹那、父の手は息子の頭に触れた。乱暴に撫で回され、不服そうに文句を口にしながらもその顔は嬉しい感情が現れていた

 

「マキナ………お前は………とある錬金術師が生み出した人造人間(ホムンクルス)だ。純粋な人間じゃねぇ」

 

告げられた衝撃の言葉、其れを放った相手は愛する父。血の繋がりがない事は理解していた。それでも信じたい気持ちがあった、自分には本当の親が、家族が居ると信じたかった。しかし、現実は残酷だった

 

人造人間(ホムンクルス)……錬金術……?なにそれ……冗談はやめてよ」

 

「冗談じゃない……お前を造ったのはロジック・モルデュール、遠く離れた地から移住してきた錬金術師の機械族(マキアス)だった」

 

聞きたくない、聞きたくなかった。自分は造られた存在、人間ですらなかった。何故?捨てられた、其れを考えない日はなかった。それでも信じたかった、自分は愛されて生まれてきたのだと、信じたかった。それなのに何故?何故、自分は生まれてしまったんだ。愛される資格さえもないない機械、心も、魂も、記憶も、全てが造りモノの仮初だった

 

「なんで……なんで………なんで!ボクを拾った!!愛してもないのに!!機械だって!人造人間(ホムンクルス)だって言うんなら!!どーして!ボクを……拾ったりなんかしたんだ!!」

 

信じる気持ち、想い、愛を踏み躙られた少年は涙を流し、煮え切らない感情を叫ぶ

 

「マキナ……俺は…」

 

「聞きたくない!!!」

 

それでも言葉を紡ごうとした父を拒絶し、彼は走り出す。翡翠色の瞳から涙を流し、悲しみを、絶望を、その身に宿し、彼は飛び出そうと玄関に向かう

 

「マキナ。何処に行くつもりだい?アンタ」

 

扉に手を掛けようとした瞬間、背後に触れた優しい温もり。この温もりを彼は知っていた、優しく包み込む大好きな匂い、普通の匂いではないが慣れしたんだ匂いだ。その温もりは如何なる時も彼の側にあり、寄り添っていた

 

「離してよ……ネエちゃん…」

 

捻り出したのは呟きにも似た声。しかし、その温もりが離れることはなかった

 

「何があったかは知らないけど……アンタは私の弟だ。それ以外でもそれ以下でもない……違うかい?」

 

何があったかは分からない、それでも姉であるが故に彼女は弟を無条件に愛すると決めていた。大事だからこそ、大切だからこそ、彼の側にいる。姉になると決めた日から、彼女の中で彼は弟という大切な存在となった

 

「ボク………ボクね……人間じゃないんだって……それにね……造られたんだって……」

 

「造られたからなんだい、人間じゃないからなんだってのよ。アンタはマキナだ、私の弟のマキナ・アルベローナ」

 

優しい言葉、温もりと共に紡がれる言葉。揺るがない、揺らがない、姉だからこその言葉。彼が誰よりも優しく、強く、頼りになることを誰よりも知っている。故にカナはマキナを抱き締める腕に力を込める

 

「いいの?ボク……ネエちゃんの弟で……きっと……迷惑かけるよ…」

 

「そんなこと構わないよ。私が知ってるマキナは迷惑かけるのが大好きな悪戯っ子だ」

 

「……高笑いしたり…発明したり…してもいいの…?」

 

「当たり前よ、アンタは天才なんだからね。姉ちゃんはアンタの笑い声が大好きだよ」

 

矢継ぎ早に放たれる弟の発言にカナは優しく答えていく。すると、その頭上に一つの影が重なった

 

「カナにだけ、言わせねーぞ。お前を拾った日から、俺はお前の父親になった。コーネリアに預けたり、サクラに預けたりはしたが……俺はお前を他人だと思ったことは一度もねぇ。お前は間違いなく……俺の息子だ」

 

照れ隠しなのか、頰を掻きながらも優しい言葉を紡ぐギルダーツ。愛されていないと決めつけていた。しかし、それは違った。確かに自分は愛されていた、血の繋がりが無くても、自分を愛してくれる人たちが存在した。造られた?そんなことは関係ない、彼はマキナ・アルベローナという一人の掛け替えのない存在なのだ

 

「なら、どーして……借金の保証人にすんの?」

 

「…うっ」

 

「貸した金も返してもらってないよ」

 

「うぐっ……」

 

それでも納得が出来ない父の性分に息子(マキナ)(カナ)は冷ややかな視線を向ける

 

「偶にご飯を集ることもあるね」

 

「博士の教育の見本になることをしてください」

 

「女癖もどうにかしろ」

 

「うぉっ!?何時からそこにっ!!」

 

そして、そこに姿を見せたのは自室で研究に没頭していたであろうディンガ、デウスとエクス。同じ家に居るが故に彼等もギルダーツがどのような存在であるかは割と理解していた

 

「まぁ……頼りにならねぇかもしれねぇが……お前を大事に思う気持ちだけは本物だ。俺は何があってもお前の……マキナとカナの父親だ」

 

二人を抱き締める力を強く、包み込むように、離さないと言わんばかりに強い力を込める。温かい、優しい、強い、それなのに心地よい温もり。マキナはこの温もりを知っていた

 

『マキナ!お前は今日からマキナだ!』

 

『きゃっきゃ』

 

名前をくれた

 

『マキナー!デッカくなったぁ!父ちゃんが来たぞー?』

 

『あう?とと?』

 

『マキナが喋ったぁぁぁ!!』

 

居場所をくれた

 

『コーネリア……すまねぇな。カナもいるのに、お前に押し付けて』

 

『いいのよ、貴方が仕事先で何を見たのかは知らないし聞くつもりないわ。私はただマキナをカナと同じくらいに愛してあげたいだけの母親…理由はそれだけよ』

 

『ねーたん、ねーたん』

 

『んもぉ〜マキナは可愛いなぁ〜』

 

『お?カナ!俺にも抱かせてくれよ』

 

『イヤ、おとーさんの匂いがマキナに移るもん』

 

『なにぃ!?』

 

『きゃー!おとーさんが怒ったー!』

 

『仕方ないお父さんとお姉ちゃんね?マキナ』

 

『あい』

 

家族をくれた、愛をくれた、愛される喜びをくれた

 

だから、だからこそ、これだけは、この想いだけは、嘘も、偽りも、存在しない本物。あの日、その手に抱きしめた瞬間から揺らがない、揺るがない。あの笑顔が造りモノで仮初だとしても関係がない。確かに感じる温もりは人である証。誰かが造り出した存在だとしても、誰かを想い、笑い、守り、強くあろうとする姿に意味はいらない。人だから、人間だから、マキナ・アルベローナだからこその想いが、魂が、心がある

 

「俺に………俺にお前を愛する資格をくれ……!!」

 

父から息子へ紡がれた温かい言葉。小さな手は其れに答える代わりと言わんばかりに力を強く、一層に込める。生まれが、育ちが、存在が何であろうと関係がなかった。父はギルダーツ、姉はカナ、相棒はディンガにデウスとエクス、それ以上でもそれ以下でもない。自分はマキナ・アルベローナ。其れが答え、少年が考えても考えても辿り着けなかった唯一の答えに他ならない

 

「あったかいかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うみゅ〜…………黒いドラゴンかぁ……」

 

ギルダーツ帰還の翌日。兄と共に家に招かれたマナツは予想打にしなかった話を聞き、放心状態となっていた。100年クエストの最中にギルダーツは黒いドラゴンに遭遇した、母を知っているかもしれないドラゴンに興味が無いと言えば嘘になる。興味がある、会ってみたい、それでも踏み切れない理由があった

 

おかーさん(ラベンダリア)……アタシはどーしたら……いいの…?」

 

問いに対する答えは返ってこない、来る筈がない。それは彼女が誰よりも理解していた。思い出さない日はない、自分を育ててくれた母の姿を。ドラゴンが人を育てることは有り得ない、それでも彼女には唯一無二の存在であると同時に確かに母親だった

 

「マナ。ご飯出来たわよ」

 

「うん、ありがと」

 

相棒の黒猫は何かをする訳でも無く、何時もと変わらずに側にいる。その手には少女の好物である野菜を軽く調理したサラダがあり、目の前にゆっくりと置く

 

「何も聞かないわ」

 

「………うん」

 

語るつもりがないならば、聞く必要は無い。故にリアンは彼女の心に踏み入るのではなく、寄り添うと決めた。自分にも話したくない過去がある、其れを知ってか知らずかは不明だがマナツも触れようとはしない。何時からか始まった暗黙の了解が其処にはあった

 

「もぐもぐ……やっぱ、リアンのサラダは何時食べてもうめーかな」

 

「おやおや…行儀が悪いよ?博士」

 

「博士!?勝手に入ってはダメだと言っているでしょう!」

 

「今更だろーが」

 

静かな空気を破壊するかのように姿を見せたのはマナツの幼馴染でもある白衣の少年と相棒たち。これがルーシィならば、真っ先に「あたしの部屋ーーー!」という叫びと共に蹴りを放たれているが彼女たちは違った

 

「あら、マキたちじゃにゃい。何時の間に?」

 

「おはよー!マキナ!」

 

冷静に状況を見たリアンは驚きながらも仕方がないと言わんばかりに肩を竦め、マナツは元気に挨拶すると同時に彼に飛び付く

 

「おはよー」

 

「今日はどうしたのー?」

 

「ん〜……別になんでもないよー。マナツの顔を見に来ただけかな」

 

「じー……………」

 

煮え切らない態度に取り繕ったような笑顔、その姿に幼馴染であるが故にマナツは違和感をを感じ、何かを怪しむ様にマキナを凝視する

 

「なにー?」

 

「なんか怪しい……アタシに隠し事してたりしない?なにか言い難いこととか」

 

女の勘は鋭いとは正にこのこと、何時もは頭の良い方ではないマナツは身内である兄と幼馴染のマキナに関する物事に於ける勘は鋭く、隠し事をしていても直ぐに見抜かれる。其れがマナツ・ドラグニルという少女の隠された一面であると同時に真骨頂とも呼ぶべき長所の一つだ

 

「何もないかな。人を疑うのは良くないって前に誰かが言ってたよー」

 

「ふぅん?そういえばぁ〜、この最近、王都で噂のレストランが二号店をマグノリアに出したらしいよ?なんでも、全メニュー半額で食べ放題なんだってさ……一緒に行かない?」

 

「うっ……た、食べ物で買収されるボクじゃないよ……」

 

シラを切ろうとするマキナ、その態度に長い付き合いのマナツは何かを感じ取り、食べ物を餌に揺さぶりを掛け始める

 

「じゃあ……聞かない!」

 

「へ……?いいの?」

 

言いたくないことは誰にでも存在する。だとしても疑いの眼差しから何時もの花が咲いたような笑顔を見せた幼馴染の発言にマキナは素っ頓狂な声を挙げた

 

「マキナが話したくなったら話してよ!」

 

彼女には話そうと思っていた、彼女にだけは知ってもらおうと思っていた。しかし、それは杞憂だった。彼女は無理に誰かの秘密を探ろうとするようなことはしなかった。言いたくないならば言わなくても良い、話したいと思った時に話せばい良いと自負の心中を察してくれた

 

「あらにゃに?内緒話?」

 

「人には言いたくないことくらい、誰にでもあるものだろう?」

 

「それもそうね。秘密を着飾るのは女の嗜み……マナもそういう年頃になったのね、良い女への一歩はここから始まるのよ」

 

「おお!流石はリアン!良いアドバイス!」

 

「というかリアンはメスじゃないの?」

 

「引きちぎるわよ」

 

「なにを?」

 

女の定義をアドバイスするリアンをマキナがメスであると突っ込むが即座に彼女は謎文句で反論する

 

「そーいえば、もーすぐお花見だね!」

 

暗い雰囲気を変えようとマナツが切り出したのは、一週間後に迫った花見の話題。花の滅竜魔導士であるが故に花の話題を選んだの安直とも言えるが、暗い話題よりは明るい話題の方が盛り上がると彼女也の配慮に違いない

 

「うん?あー…もう、そんな季節かー。今年は色々とあったから忘れてたよー」

 

その急な話題転換に疑う素振りも見せずに白衣の少年はけらけらと何時もと変わらない笑顔で笑ってみせる。貼り付けたかのように笑う彼を何度も見て来た、こんな風に笑う時は何かを隠している時だとマナツは知っていた。それでも彼女は自分の考えを曲げずに笑顔を返す

 

「今年はルーねぇにアーちゃんにレーちゃん、ウーちゃんたちも一緒だから前よりも…もっともーっと!楽しいよ!きっと!」

 

「わぁー、そいつは大所帯かな。無事に終わるといいねー」

 

「物騒だよー!マキナってばー!」

 

何時もと変わらない笑みでゴーグルに触れ、物騒なことを言い放つマキナ。其れに突っ込みを放つマナツの頬を膨れており、視線はジト目を向けていた

 

「晴れると良いねー」

 

「晴れるよ!満開に咲く花があるんだからね!」

 

何気ない一言に花が咲いたように笑った彼女の表情に少年は恋をした。其れはもう今は少し遠い記憶、初めて彼女を見たあの日から少年は少女に想いを寄せていた

 

『ボクはねーマキナかな。キミはー?』

 

『マナツだよ!よろしくね!マキナ!』

 

あの日の出会いは忘れたことがない。今も、これからも揺るがない、揺らがない想い。彼女と一緒ならば、自分は自分でいられる

 

「うみゅ?どしたのー?マキナー」

 

「なんでもないよー」




マグノリアにも花見の季節がやってきた!しかし、その前に依頼を受けたマキナたちは雪山に!

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