天才は妖精の尻尾にいる。   作:田中滅

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マキナ「前回のあらすじ、妖精の尻尾の魔導士にして天才科学者であるボクことマキナは……ニルヴァーナを破壊する為に立ち上がったかな。やっぱり、ネエちゃんの声は力をくれるね」

ディンガ「そうだね、困った時のカナだ」

カナ「なにはともあれ、アンタたちが無事で良かったよ」

マキナ「ありがとーネエちゃん」

ディンガ「因みに今回は初めての一万字越えだから、心して読んでくれると有り難いね」


第八十四話 天才くん、古代魔法を破壊する

「さてと……こういう時はなんて言うんだっけか………ああ…そうだ。燃えてきた(・・・・・)

 

ニヤッと意味深に笑う白衣の少年、その側には揃いの白衣に身を包んだ赤い猫の姿があり、その腰には二振りの双剣が帯刀されている。幼い頃、ギルダーツ・クライブに拾われた少年は彼が唯一愛した女性に育てられ、彼女が死別してからはその知人の女性に育てられ、同時に剣術を叩き込まれた。生傷だらけの生活の中で少年は血の繋がらない姉に送られたゴーグルを宝に、自分也の道を歩むことを決意する。その矢先、傷だらけの赤い猫は少年の前に現れた、自分が何者かを頑なに語らない赤い猫に興味を惹かれた少年は「相棒にならないか?」と誘った。初めての言葉、自分を理解してくれる者は愛した黒い猫の他には存在しないと思っていた赤い猫にはその言葉が自分を肯定してくれたように聞こえた。それから少年と赤い猫は共に歩んできた、魔法が溢れた世界で唯一の科学者として、一人と一匹は常に歩いてきたのだ

 

「博士。キミが言っていたもう一人は誰なんだい?」

 

「ん?ああ、アレね。ジェラール(・・・・・)だよ」

 

長い通路を進んでいた矢先、唐突に放たれた相棒からの問いにマキナは普通に答えた。あの場に於いては伏せた名を口にしたのを聞き、意外そうに目を丸くしたディンガは翼で空中を並走しながら、頭のガスマスクに触れる

 

「随分とすんなり口にしたね。先程は言葉を濁したのに」

 

「その名前をあの場で口にしてみなよ。何人かは絶対にウゼェ反応するに決まってるかな」

 

「言われてみると確かに…。元は敵である彼が何の因果かは分からないけど、協力者の立場にあると知れば、黙ってない者が約二名は存在しているね」

 

「理解が早くて助かるかな」

 

頭に浮かぶ約二名、一人は話を聞かない火の竜、もう一人は話を聞いても理解しない野生児。故にジェラールの存在を明かした顛末は目に見えていた

 

『博士。もうすぐで座標の場所ですよ』

 

『博士よぉ…こんなデケェの壊せんのか?マジで』

 

「我々だけでは不可能だろうね。しかも博士は魔力切れ間近だ」

 

「壊せるよ。ボクたちに頼もしい仲間がいる……だから、力を貸して?デウス、エクス、ディンガ」

 

不安気にな二体と一匹の声に、少年の幼いながらも逞しい声が重なる。自分だけじゃない、仲間が、相棒たちが居るからこその自信。それが含まれた問いは不安が渦巻く心中に〝希望の火〟を灯す

 

「「「博士の御命令とあらば…!」」」

 

その答えが意味する彼等の意志を汲み取ったマキナは頭のゴーグルに触れ、満足そうに頷く。如何なる時も、自分には信じてくれる仲間たちがいる、自分には頼もしい相棒たちがいる、だからこそ、彼は如何なる時も笑える。それが彼の魔導士としての在り方、マキナ・アルベローナという魔導士なのだ

 

「さぁ……不思議(ワンダー)に決めてやるかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……」

 

「マナ!大丈夫?無理はしちゃダメよ」

 

「大丈夫……まだまだ……アタシは……」

 

「マナツ……」

 

3番に向かう道中、激戦の傷も癒えない状態での移動はマナツの幼い体に負荷を掛けていた。心配そうにリアンが声を掛ければ、彼女は力無い笑顔で答えを返す。その姿にルーシィは動かせない身体を壁に寄りかからせながら、小さな背中に視線を向ける

 

「アタシ……前にギルドがファントムに壊された時……すっごく…悔しかった…。なのに、おじじもマキナも平気そうに笑ってて……でも違った…二人は二人也に…たくさん考えてた…。きっと…このまま、何にもしないで、ウーちゃんのギルドが壊されたりしたら……明日(アタシ)(アタシ)を許せない…!」

 

「マナツ……アンタ……本当に強いのね」

 

「わっ…!ルーねぇ…?」

 

揺らぐ視界、霞む景色、その全てに惑わされながらも歩みを止めようとしない小さな背中をルーシィは優しく抱きしめた。不思議と、彼女が居るだけで、消費した魔力も忘れそうになる。その笑顔を見るだけで、一歩を踏み出す活力が湧いてくる

 

「「時にはその想いが力になるんだよ」」

 

その力は正に希望。想いは力を生み、水色の肌をした小人の星霊、ジェミニを呼び出した。優しい想い、声に導かれ、小さな少女と星霊魔導士の為に、姿を見せたのだ

 

「ジェミニ……きてくれた……」

 

「マナツの声が僕たちを呪縛から解き放ってくれた」

 

「だから、僕たちがキミたちの代わりに……意思になる。一緒にニルヴァーナを止めよう、ルーシィ」

 

「ありがとう……ジェミニ」

 

〝星霊は友だち〟。かつて、消えそうになったロキを命懸けで、星霊界に戻そうとした二人の魔導士が存在した。一人は新米の星霊魔導士、もう一人は甘えん坊の滅竜魔導士、畑は違えど、想いを重ね合わせた彼女たちの声を聞いた星々の王は、その願いを確かに聞き届けた。天に還れなくなった星は、輝きを取り戻すことを許されたのだ

 

「マナ。これ、ニルヴァーナに乗り込む前に摘んでおいた食べられる野草よ」

 

その意思を汲み取ったリアンは懐から取り出した野草をマナツに手渡す。彼女に出来ること、それは相棒を支えることだ。だからこその気遣い、その手に触れた小さな手は野草を手にし、ゆっくりと口に運ぶ

 

「ありがとう…リアン…やっぱり、アタシの相棒は頼りになるね!もぐもぐ……もぐもぐ……ぷはぁ〜!食べたら、力が湧いてきた!!ジェミニ!」

 

「「ピーリピーリ!」」

 

マナツの呼び掛けに応えるかの如く、ジェミニは姿をルーシィに変化させる。対象をコピー可能な能力は姿形、更には魔力までもが同様になる、それはもう一人のルーシィが居ると言っても過言ではない状況ということだ

 

「一発ドデカいのを咲かすよ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ………やべぇな……天狼の力はやっぱ……乱用出来ねぇ…」

 

本人曰くファンキーな数字である4番に向かうスコル。その体は消費量の激しい魔狼と天狼の力を解放したことによる魔力切れを起こし、更にはゼロに受けた傷も癒えていないが故に体力的に不安定とコンディションは最悪。それでも彼には歩みを止められない理由があった

 

『ありがとうございます!あっ!わたし、ウェンディです!ウェンディ・マベール!』

 

初めて、彼女に出会った日。何故かは分からないが運命を感じた、今までに知らなかった感情が溢れ、彼女と再会した時は、その再会に喜びを感じた。今まで、灰色だった世界に舞い込んだ藍色の景色、彼女の笑顔を見たいと、彼女とたくさんの話が話したいと、だからこそ、彼は歩みを止めようとはしなかった

 

「マキナのヤローにだけ……良いカッコはさせねー……俺のファンキーさを見せてやる……」

 

「だけど、ボロボロだよ?スコルくん」

 

「ホントにバカなオスね」

 

荒い息を吐きながら、壁伝いに歩くスコルは背後から聞き慣れた優しい声とこれまた聞き慣れた呆れた声が耳に入ったことに気付き、振り返った

 

「なっ……ウェンディにシャルル…!?」

 

其処に立っていたのは数刻前に別れたはずの守りたいと思った少女と彼女の相棒である白い猫。まさかの合流に流石のスコルも目を丸くした

 

「前にスコルくんには助けてもらったから、今度はわたしがスコルくんを助ける番だよ。治癒魔法使うから、動かないでね」

 

「ああ……す、すまねぇな…」

 

優しく笑う彼女は治癒魔法を使い、傷だらけのスコルを治療していく。すると、魔力切れだった体は不思議と活力に溢れ、体中の傷も最初から無かったように消えていく

 

「感謝しなさいよ?アンタ。ホントは治癒魔法を使うのは、ウェンディにとっても危険なんだから。全く…この子、アンタのことになると私の言うことを聞こうとしないんだから……困ったもんよ」

 

「んもぅ!シャルル!変なこと言わないで!」

 

呆れた眼差しのシャルルが指摘すれば、顔を真っ赤にしたウェンディは彼女に余計なことを言うなと怒る。しかし、スコルはその光景に何故かは分からないが〝心〟が暖かくなるのを感じた

 

「ありがとよ…ウェンディ。ついでに悪ぃがよ、俺と一緒に来てくれねーか?」

 

自分でも何故、こんな事を言ったのかは理解出来ない。しかし、本能がウェンディの力が必要だと告げているような気がした

 

「わ、わたしも?」

 

「頼む。オメーの力を貸してくれ」

 

その昔、名も亡きケモノとしての生を受けた少年がいた。闇を生きることしか知らなかった少年は、其れが当たり前だと思っていた。そんな変わり映えのしない毎日に嫌気が差した少年は全てを捨てようとしたが、周りは其れを赦そうとはしなかった。傷を負い、意識も混濁する中で、少年はマカロフ・ドレアーに拾われ、名を与えられた。そして、その知人である男性に育てられ、頭角を表した少年は魔導士としての道を歩むことを決めた

 

「わたしはスコルくんみたいに強くないし……マキナさんみたいに頭も良くないし……マナちゃんみたいに優しくない………それでも良いの?」

 

「ああ。ウェンディじゃねーとダメだ」

 

だからこそ、手を差し出す。自分は弱いだけと思い込む彼女に名を与えられる前の何者でもなかった自分を重ね、その手を彼女に差し出した

 

「一緒に………行こう!スコルくん!」

 

「おうよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっ……傷口が開いてきやがった……」

 

「無理すんなよ!バレル!やっぱり…ここは一夜に任せよーぜ…」

 

「……ダメだ……男が一度でも任せろって口にしたからには……やり遂げるのが筋ってもんだ」

 

5番に続く通路を進んでいたバレル。開いてしまった傷口を抑え、辛そうに洗い息を口から漏らす彼を心配するトリガーは後から来るであろう一夜に任せることを推奨したが、返ってきた答えは男としての決意。本来ならば、何を馬鹿な事をの一言で一蹴するべきだろうが、トリガーは生憎とバレルに対しては全てが肯定しなければならないという暗黙の理解をしているが故にその答えを無碍にするつもりは毛頭更々持ち合わせてはいなかった

 

「大丈夫だ、俺も一緒だぜ。相棒だからな!」

 

「助かるぜ……相棒。こんな姿はレティさんに見せられねーな……情けねぇって笑われちまう」

 

「鬼ショックなんだけど?流石に怪我人を笑うくらいに薄情じゃねーし、レティも」

 

初恋と言っても過言ではない少女の名を呟いた瞬間、呆れたような声が耳に入った。幻聴か?と疑いを抱きつつ、体を動かす度に激痛が走るが、その首を動かさずにはいられなかった

 

「レティさん………それに…おやっさん…」

 

その視界が捉えたのは藤色の二房の尻尾(ツーテール)を揺らす少女と尊敬する憧れの男が佇んでいた。情けない姿を見られてしまったと俯き、罰が悪そうに目を逸らすバレルだが少女は気にした様子も無く、澄ました顔をしている

 

「鬼ダサくね?アンタ」

 

「ああ……そうだよな……こんな傷だらけで……ダサいよな…」

 

鼻で笑うかのように放たれた無慈悲な一言、見て欲しくなかった、見られたくはなかった。しかし、今の姿を見て、罵られることは理解していた

 

「は?違ェし。レティが言いたいのはそういうダサいじゃねーし」

 

されど、その意味は違った。レティがバレルに放った一言に隠された〝本当の意味〟、誰よりも優しい彼女だからこその罵倒。其れが意味するのは彼女の思いやりである

 

「バレルよ。レティくんの言っているダサいとは、今のキミを見て笑う者がいるという発言についてだ。友の為に傷だらけになりながらも動くキミを誰が笑うというのかね?我々、天馬は如何なる時もスマートかつカッコよくいなければならない……だが、カッコ良さとは外見だけではないのだ。キミはキミの思う道を歩みたまえ」

 

「お……おやっさん……」

 

「流石は一夜のおやっさんだぜ……心に染みる…」

 

「なんだし…この茶葉は…。つーか、レティの言いたかったことを全部言ってんじゃねーし」

 

一夜の有り難い御言葉を聞き、バレルとトリガーは彼の素晴らしさを改めて理解するが、自分の言いたいことを先に言われたレティは不服そうに眉を顰める

 

「レティさん。こんなダサい俺ですまねぇが、力を貸してもらえるか?」

 

「誘い文句としては及第点だけど……いいよ、レティの力貸してやんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と待たせちゃったかな!久方振りのボクの代名詞!天才と言えばの必殺技!天才斬撃(ジーニアスラッシュ)!!」

 

 

 

 

 

「「開け!!金牛宮の扉…タウロス!!!」」

 

「花よ……舞い……咲狂え!!滅竜奥義!!桜花天晴(おうかてんせい)!!」

 

 

 

 

 

「ファンキーに決めてやらぁ!!!点火(イグニッション)・牙狼………!牙狼天眼…!!!」

 

「天竜の咆哮…!!」

 

 

 

 

 

「引き金は二度引かねぇ……一発が全てさ……滅竜奥義!!竜鱗滅弾(スレイヤーブレット)!!」

 

「予測不能はお手のもの!どっから来るかは気分次第!縦横無尽に駆け巡れ!!テレポートパンチ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「全魔力解放!!滅竜奥義…〝不知火型〟…紅蓮鳳凰劍!!!」

 

 

 

〝想いの炎〟は金色に輝き、ゼロを巻き込み、魔水晶を破壊。同時刻、全ての割り振られた番号に向かったマキナたちも想いの力を出し切り、ニルヴァーナは崩れゆく。この日、一つの闇は光に敗北を喫した、其れが何を意味するかは誰にも分からないが、これだけは理解出来た。其れが意味するのは、ただ一つということだ

 

「いやぁ……破壊と同時に崩れちゃうとは思わなかったかな」

 

「どうだい?僕の力も必要だっただろう?」

 

「ありがとー、ディンガ」

 

崩壊するニルヴァーナから、ディンガに掴まれたマキナは脱出に成功し、肩の荷が降りたかのようにけらけらと笑う

 

「あっ!マキナだ!おーい!」

 

「わっ…!マナツ!暴れないでよぉ〜!上手く飛べないよぉ〜」

 

「ちょっと、ルーシィ。重いわよ?アンタ。ダイエットしてみたら?」

 

「失礼ね!?アンタ!これでも痩せてる方よ!あたしは…!」

 

その後を追随するように脱出してきたマナツとハッピー、背後からはルーシィを掴んだリアンが彼女にダイエットを推奨している姿が確認出来る

 

「なんとか脱出できたし」

 

「助かった、レティくん。キミの技はなかなかに良い香り(パルファム)だったぞ」

 

「おっさん……なんもしてねぇのに偉そうにすんじゃねーよ!!ほとんど役に立ってねーじゃん!!」

 

「はしたないわよ、レティ。目上の人には敬意を払いなさい」

 

「は?だって、このおっさんってば特になんもしてねぇんだよ?それなのに敬意払えとか無理じゃん?つーか、毎度毎度、イッシュねぇはそんなんもワカンねぇワケ?」

 

「あ?なんか言ったか」

 

「ぴえ……!ご、ごめんなさい!うわ〜ん!エルねぇ!イッシュねぇがいじめるぅ〜〜!!」

 

「泣くんじゃない……全く…仕方ないヤツだな」

 

姉に睨まれ、涙目で震えるレティがエルザに飛び付くと、苦笑しながらも妹分の頭を優しく撫でる

 

「おやっさん。さっきは目頭が熱くなったぜ…」

 

「流石はバレルの師匠だぜ!おやっさん!」

 

「うるさいわよ、ちんくしゃ」

 

「あ?なんだアバズレ」

 

「リアンが何時ものリアンじゃないよ〜!」

 

「あんなリアンやだぁ〜!」

 

「博士、カナ。この場合はどうするべきだい?教えてもらえるかい?」

 

「何度も言わせんじゃねーかな、知ってるワケねぇかな」

 

一夜を褒め称えるバレルの足元でトリガーと火花を散らすリアン。その様子に涙目のハッピーとマナツを見守るディンガが問えば、呆れた眼差しのマキナは自分に聞くなと答えを返す

 

「あっはっはっはっ!あんなリアンは初めて見るね。友だちかい?マキナ」

 

「ほら、ジェニーさんの弟だよ。前にソーサラーの取材を受けた時に会った」

 

「ジェニー…………ああ!あのホステスみたいな!そういや、いたね。そうか、あの子の弟か。だけど、この中で一番不思議(ワンダー)なのはマキナだと姉ちゃんは思うわ」

 

「なーっはっはっはっ!当然かな!だってボクは天才(ジーニアス)!つまりは天才だからね!」

 

高笑いしながら、自分を天才だと自慢するマキナ。その様子にカナは微笑ましそうな眼差しを向け、自慢気な弟の頭を撫でる

 

「やれば出来るじゃねーか!ウェンディ!」

 

「ひゃう!?」

 

「ちょっと!!ウェンディに触らないで!バカオス!」

 

「ぐもっ!?なにしやがる!白猫!!」

 

喜びを分かち合う為にウェンディを抱き寄せるスコル、その指導の一環と言わんばかりに保護者の飛び蹴りが放たれる。既に何度も見た光景は少ない時間の中で見慣れた光景となっていた

 

「で…アレは誰なんだ?」

 

「天馬のホストじゃねーのか?多分」

 

「見たことねぇツラだぜ」

 

「天馬の人間ではねぇな」

 

「見知らぬ香り(パルファム)だ」

 

見知らぬ存在、ジェラールに注がれる視線。一瞬は躊躇ったエルザだったがイッシュに視線を交わせば、彼女は肯定するかのように首を縦に振った。其れが合図だったのだろう、エルザは閉ざしていた口を開いた

 

「ジェラールだ」

 

「なに!?」

 

「あの人が!?」

 

「アニキが倒したんじゃなかったの!?」

 

「どーなってやがる!?」

 

「ボクは知ってたかな」

 

「レティも知ってたし」

 

ジェラールの名を聞いた瞬間、驚愕するルーシィとグレイ、マナツにスコル。しかし、その存在を認知していたマキナは自分は知っていたと口にし、レティも澄まし顔で答える

 

「だが、私たちの知っているジェラールではない」

 

「記憶を失ってるみたいよ。だから、今までのはしたない悪行は忘れてるらしいわ」

 

「だとしても……良い反応は出来ないね」

 

擁護するかのようにジェラールが今までとは違うと主張するエルザとイッシュ。しかし、思うところがある様子のカナは表情を歪める

 

「あ…あの…マキナさんのお姉さん…ジェラールはホントはいい人なんです…」

 

「ネエちゃん、今回はジェラールも力を貸してくれたかな。だからまぁ……今は味方ってことにしといてあげてよ」

 

「仕方ないね……マキナが其処まで言うんなら…。あと、ウェンディだったかい?アンタもジェラールを信じてんのね」

 

「は…はい…!記憶が無くても、ジェラールはわたしの恩人ですから…!」

 

記憶を失っていたとしても、ウェンディはジェラールに救われた。だからこそ、信じる気持ちに嘘偽りは存在しない、その瞳に全てを感じ取ったカナはそれ以上の追求を止め、彼女の頭を優しく撫でた

 

「マキナ!マキナ!アタシね、今回はすごーくがんばったよ!」

 

「知ってるよー」

 

「へっ……ヤダヤダ、頭でっかちと胸無しの戯れ合いなんざ見てると胸焼けしちまうぜ」

 

何時の間にか、定位置と言わんばかりに木の上に腰掛けていた、スコルはマキナとマナツに悪態にも似た文句を吐き捨てる

 

「「あぁ?やんのか!!バカ猿!!」」

 

「上等だ!!」

 

「やれやれ、何奴も此奴もクールに行こうぜ。レティさん、暫く離れるが安心してくれ」

 

「だから、マナになんかしたら許さねーって言ってんじゃん?ついでにマキナとスコルも」

 

「おお!言ってやれ!たぬきオンナ!」

 

「スコルはあとでシバく」

 

「レーちゃんを悪く言うな!おバカスコル!!」

 

「お前はさっさと帰るかな」

 

「んだとゴラァ!」

 

「ちょっとだけ静かにしなさい。おチビちゃんズ」

 

騒ぎあう年少組を前にルーシィは彼等をやんわりと叱りつける。彼女は保護者ポジションを確立しつつあることは火を見るよりも明らかだ

 

「取り敢えずは力を貸してくれたことに感謝せねばな」

 

「エルザ……」

 

「確かに許されない罪を犯したかもしれない……それでも、歩む為の足があるなら、未来(明日)は誰にでも来るのよ」

 

「忘れたいなら、忘れちまえばいいんじゃね?だけど、レティは忘れてやんないかんね。記憶が戻った時は、今までのことを絶対に謝らせてやる」

 

「その時は私がついてる。例え、再び憎しみ合うことになろうが、今のおまえは放っておけない…私は」

 

「メェーン!!」

 

その先が続くことはなかった、一夜の叫びが聞こえ、その場にいた全員が彼に視線を注ぐ。その先には何かに阻まれ、顔がひしゃげる一夜がいた

 

「どうした!?オッサン!!」

 

「顔が潰れてんぞ!なにがあった!?」

 

「ほう……どーやら、術式に閉じ込められちまったみてーかな」

 

何が起きたか理解出来ない者たちとは裏腹に足元に刻まれた文字に視線を落としたマキナは自分たちの身に起きた現状を把握し、頭のゴーグルに触れた

 

「手荒なことをするつもりはありません。しばらくの間、そこを動かないでいただきたいのです」

 

「…………マキナ。あれは」

 

「ネエちゃんの思ってる通りかな。おにーさんは新生評議院の人だよね」

 

「な……なにーーっ!?」

 

「新生評議院!?」

 

「もう発足してたの!?」

 

「うぇ?ジェラールが潰したんじゃなかったの!?」

 

評議院、ジェラールが起こした楽園の塔事件に於ける最大の被害を受けた魔導士たちの最高機関。機能を停止していた筈の組織が短期間で再発足していたことに楽園の塔事件の関係者たちは驚きを隠せずに目を丸くする

 

「私は新生評議院、第四強行検束部隊隊長…ラハールと申します。我々は法と正義を守るために生まれ変わった。如何なる悪も決して許さない」

 

如何にも冗談が通じそうにないラハール。これは嘘を吐けば、即座に見抜かれると本能が告げていた

 

「オイラたち、何も悪い事してないよ!!」

 

「お…おう…!」

 

「はっ……まさか…!お腹すいた時に畑から野菜を盗んだのがバレた!?」

 

「マナ。その農家さんにはあたしが事前に断りを入れといてあげたから大丈夫よ」

 

「わぁー……ボク等、全員火炙りになるのかー」

 

「焼き方はウェルダンだろうか?個人的にはミディアムが好みなのだけどね」

 

「アンタたちはちょっと黙ってなさい。てか!発想がエグいわ!!其処のバカ科学者どもっ!」

 

素直故に嘘吐けない竜兄妹(ドラグニルブラザーズ)、ハッピーとリアン。その隣では相も変わらずに科学者の一人と一匹が物騒なことを言い放ち、ルーシィの突っ込みが火を吹いた

 

「我々の目的は六魔将軍(オラシオンセイス)の捕縛。そこにいるコードネーム・ホットアイを、こちらに渡してください」

 

ラハールの目的、其れは六魔将軍(オラシオンセイス)の捕縛。そして、その矛先は改心したホットアイに向けられていた。改心したとは言え、闇ギルドの一員である彼は身柄捕獲の対象、この場に於ける最大級の重要案件なのだ

 

「待ってくれ!」

 

「いいのデスヨ……ジュラ。善意に目覚めたからって言って、私が過去に犯した悪業は消えませんデス。零からまた始めます……その時はまた私とお話ししてくれデスか?」

 

「………ああ、約束しよう。我が友よ、次に会う時は共に盃を酌み交わそう……リチャード(・・・・・)

 

「リチャード?アナタ……リチャードって名前なの?」

 

ホットアイの本来の名をジュラが口にした時、その名に反応したのはイッシュだった。彼を見ながら、「確かに似てるわね…」と呟き、その姿に妹のレティは勿論、昔馴染みのエルザも首を傾げる

 

「どうしたんだい?イッシュ」

 

沈黙を破ったのはカナ。同じ姉貴分としての立場から意外にも関わりがある故に何気ない様子で問いを投げかけた

 

「前に仲間のウォーリーから聞いたことがあるのよ。リチャードって名前のお兄さんがいるって……まさか、アナタが?」

 

かつての仲間、楽園の塔で苦楽を共にしたウォーリーに聞かされた名前と一致する名を持つ男。その名を聞いた瞬間、ホットアイの表情に変化が見えた

 

「ウォーリー?誰だっけ……それ…」

 

「う〜ん……なんか聞き覚えが……」

 

「四角みてーな顔してたかな」

 

「「………ハッ!アイツかーーっ!!」」

 

一方で対峙したことがある筈の竜兄妹は忘却の彼方に忘れ去っていたウォーリーを思い出そうと頭を捻っていた。その様子を見かねたマキナが特徴的な部分を口にすれば、頭の中にようやく思い浮かんだらしく、二人揃って手をポンっと叩いた

 

「弟は………ウォーリーは………今どこに……?」

 

「ショウとミリアーナと一緒に旅してっし、鬼元気にね!」

 

「そうね。だから、心配しないで……あの子はあの子也に自分の道を歩き出した」

 

「ホットアイ……いや、リチャード。ウォーリーとお前の道が交わる日を願っている、私自身………いや、ウォーリーの友としてな」

 

生き別れた弟が今も何処かで元気に旅をしていると知ったホットアイの瞳から、大粒の涙が流れた。闇に堕ち、金に執着し、黒く染まった手。それでも尚、何時の日か叶うと願い続けた一つの願い、弟との再会。そして、奇跡は起きた。弟の友に会えた、弟は元気だと分かった、弟は自分の道を歩いていると知った、其れが涙を流さずにいられるかだろうか?答えは否である

 

「これが…光信じる者だけに与えられた、奇跡と言うものデスカ…!!」

 

膝から崩れ落ち、大粒の涙を流し続ける。奇跡に深い感謝が溢れる。巡り合い、その全てに感謝しながら、ホットアイは評議院と共に歩いていく、明日に、未来に向かって、彼はリチャード・ブキャナンとしての新たな一歩を歩み出した

 

「も、もうよいだろ!術式を解いてくれ!もらすぞ!!」

 

「訳わかんねー脅しはやめろかな」

 

「うみゅ?もらす?なにを?」

 

「マナは深く考えなくてもいーし」

 

「そうだよ!マナちゃん!」

 

「おやっさん……どんな時も物怖じしねーとは……さすがだ」

 

「おめぇ……バカなのか?」

 

尊厳の欠片も無い一夜の脅しにマキナが突っ込みを放つ隣で首を傾げるマナツの耳と目をレティとウェンディが塞ぎ、何に感動しているかも不明なバレルにスコルが引き気味に突っ込みを放つ

 

「私たちの本来の目的は六魔将軍(オラシオンセイス)ごときではありません」

 

「ごとき!?ごときと言ったか!?今!」

 




連行されるジェラール、それを止めようとするレティとウェンディ、自分の気持ちを隠したイッシュ、その時……緋色の妖精はなにを想う…?

マキナの賑やかさに元気をもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす
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