ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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一話:同担拒否!?

 音楽が好きだ。その気持ちに嘘や偽りは一度だってない。だからこそお金と時間さえあれば生の音源というものに触れるために足を運ぶ。その中で一番自分の心を掴んだのはギターでもベースでもドラムでもなく、勿論ボーカルでもなく──キーボードだった。

 振り返れば、それは幼少期から始まった気持ちだと思う。物心ついた頃、最初に眼にする楽器といえばピアノというヒトも多いだろう。保育施設や幼稚舎、そういう類の場所に預けられた経験があればピアノ、エレクトーン、ピアニカ、鍵盤楽器とは馴染みがあるものだと思っている。

 その中でも特に、そう特に強烈に記憶に焼き付いているのは小学校の頃だった。その前から興味のあった俺は親の勧めで大して上達もしないのにピアノ教室に一年通っていたのだが、その最初の頃、同じ年のかわいい女の子が弾いていたその姿に俺は夢中になって、かぶりつくようにして聞き入っていた。

 ──音がキレイだったから? いや違う、少なくとも当時の俺という少年は流行りの音楽と夕方時間帯のアニソンとスーパー戦隊と仮面ライダーが音楽だった。

 ──かわいかったから? いや違う、と言いたい。かわいかった、好きだと思ったのはそれよりも後だからだ。きっかけと言われれば自分でも納得してしまうが顔は関係ない。

 

「……キレイ」

 

 少年が見入ってしまったのはその鍵盤──を滑る細くて長い()()()()だった。

 努力でなんとでもなる、とは言うが鍵盤楽器はその構造上とんでもない欠陥を抱えている。俺のように指がキレイでないと、手のひらが小さかったり、指が短かかったりすると運指に影響が出るという欠陥が。それを指して上達しない俺は才能が必要な楽器だと吐き捨てた。

 だが逆を返せばピアノは美しい手を持つヒトを愛する楽器だ。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なんだかジャンプマンガのラスボスにこんな性癖のおっさんいたような気がするが気の所為だろう。

 

「──以上、若宮イヴの素晴らしさを語る上で欠かせない手指の美しさについての考察より、何か質問は?」

「……はい」

「はいそこの同志にして実は指がキレイなキミ」

「……言い方に含みがありすぎです……素人質問で恐縮ですが、これを私に聞かせるメリットとはなんですか?」

「パスパレ好きだって聞いたから、ワンちゃん一緒に現場参戦アリかなぁって」

「ないですね!」

「ないの!?」

「どこをどうしたら意外な顔出来るんですかっ!」

 

 ナイスツッコミ、と褒めてあげたくなった。このキーボードに愛される手指をなさっている黒髪ハーフツインの女子は中学まで近所だった年下女子、鳰原(にゅうばら)令王那(れおな)ちゃん。お互いに顔を合わせたというか同じ小中であり、集団登下校時には一緒に帰ったこともあるため性別が違えど友達でもある。

 

「と、いうか……もしや冒頭のきっかけのか、かわいい女性というのは……」

「そう」

「……そ、そうですか……やはり」

「東京のコンクールで出会った知らない女の子」

「──はい?」

「れ、れおな、顔怖いよ?」

 

 この眼鏡っ娘、笑顔で怒るなんて芸当が出来るようになっていたとは、一年会わなかった間に成長しておる。

 とまぁ今年から高校二年生になろうというところで俺は、二つ下の後輩でもある令王那──令王那サンがパスパレのオタクだということを彼女の両親から聞きつけ、若宮イヴのプレゼンをしていたのだった。

 

「沼に引きずり込む気あります?」

「ないですね、元々沼にいる相手には」

「はぁ……センパイも見ないうちにイヴちゃん推しですか」

「一昨年からのオタクだから見ないうちではないがな、ガハハ」

「……はぁ」

 

 二度目のため息を吐くなよぉ後輩、泣くぞ幾らなんでも。

 まぁこれまでの会話から俺がキモオタなのは理解してもらえるだろうけど、俺はガールズバンドのオタクも兼任している凄腕のキモオタなのはまだ理解してもらえていないだろうと思う。なんせ今初めて言ったからね、令王那もそこまでは知らないハズだ。

 

「……知りませんが」

「鴨川じゃ流行してないか……田舎って怖いな」

「出身地ディスるヒトはもれなく不幸になりますよ」

「なにその怖すぎるジンクス」

「今、私が考えました」

「……あそう、まぁ話を戻すとガールズバンドブームなんだよね、東京(コッチ)だと」

「敢えてコッチと強調する辺り、センパイは幸福になりたくないと邪推しますが」

「すごいよ、制服女子がみーんな楽器持ってんの」

「いいですから、それで?」

 

 不機嫌というか、話を早く進めろということらしい。イライラすんなよ、男子ウケどころか女子ウケ抜群のクールビューティーが勿体ない。それが分厚い外面なのは知ってるけど。

 ──まぁさておき、そんなブームを指好き系男子である俺は追いかけているんですよ。指のために。

 

「シンプルにキモいですよセンパイ」

「辛辣だ」

「当たり前です……で、どのバンドを追いかけて、沼に浸かってほしいんですか?」

「待て、それは今決めるのか?」

「……考えてなかったんですか」

 

 一番は王道中の王道「Roselia」のキーボード、白金燐子さんだ。あのお嬢様のような風体から考えられないエネルギーとおっとりしてるのに手がおっきいんですよ! 指もチョー長いし、白くて細めなのにしっかりしてて、白鍵を叩く時に曲がっている時の美もさることながら、黒鍵

 と白い指が伸びた芸術品のコントラストもまぁ美しい。後は小指、特に小指の細長さがシンプルに言って絵画のような麗しさ。

 でもこれだとありきたり、まだありきたりなんだよ。

 

「……すみません、Roseliaがありきたりというのは百歩譲ってもいいとして、語ってる内容が何も理解できないんですけど」

「それはまたおいおい」

「いやもう二度と語ってほしくありません」

 

 奇をてらうって観点から行くとお嬢様学園で結成された「Morfonica」の八潮瑠唯さん。

 彼女はキーボードじゃなくてバイオリンなんだけど、ネックを持つ時のと弦を抑えてる時の血管、これ。脈動と静止、その両方を一人で司ってるかのような、何処かエロシティズムさえあるワード血管。

 そして弓を持つ手にも注目したいよね。ライブパフォーマンスでくるくるって回す時の手! 手の動きですよ後輩! 

 

「……あの、バンドの話は?」

「してるじゃん、今!」

「センパイがしてるのは指と手と血管の話でしたけどね!」

「違うんだよ!」

「何がですか」

「でもモニカは奇をてらい過ぎているというか、結局キーボードじゃねぇじゃんバッカじゃないのとフラれること請け合いなんだよ」

「……体験談?」

「んなわけ!」

 

 これはそう、高度な未来予知と言っておこう。本当のフラレワードはもっとシンプルだったことは令王那も知るところだろう。

 それはそれとしてこっからが本命なんだ。と言っても王道と言えば王道なんだけど、それ故にスルメ、いやジャーキーのように噛めば噛むように味わい深い指なんだ。しゃぶり倒しておきたい。

 

「指をバンドに置換しておいてくれますでしょうか、余計に変態ですよセンパイ」

「違う、手指(バンド)だ!」

「絶対にそのルビは間違っています」

 

 去年の冬、語っていない市ヶ谷有咲さんを擁する「Poppin' Party」と前述の白金燐子さん擁する「Roselia」と対等、いや俺個人的にはそれ以上に争ってみせた()()()()()を今こそ令王那にオススメしたいわけだよ。

 それまでの「Roselia」や「Afterglow」といったバンドたちを王道とするならば邪道、定説の破壊者、それでいて強くて響くサウンドと爆裂する個人技、そして観客を一つにする声と音、サブカル系としてはコイツを待ってたんだと打ち震えたバンドだったよ。

 

「……え、えっと、なぜそれを私に?」

「キーボード」

「……ま、またキーボードですか」

「指がどうとか、まぁこれは令王那を誘う上では必要な情報じゃないというのはこれまでで理解できた」

「あ、出来たんですか、それはよかった」

「だからシンプルに、令王那が欲しいワードをチョイスしておく」

「はい」

「まず、キーボードがかわいい」

 

 そう、かわいいんだよ。俺としてはその手元にガン見してること多いからあんまり気にならないんだけど。

 クールビューティ担当の令王那だが、割とこれは分厚い外面であることは小中と近所だったこと、そして今もパスパレが好きという時点でかわいいものが案外好きというギャップ萌え属性を有していることにほかならない。故に、彼女にあのバンドのキーボードの良さを伝えるには技術よりも、指よりも、かわいさとパフォーマンスを伝えることが近道と判断した。

 

「か、か……かわいい、ですか……」

「後は体力と体幹がすごくて、そのままピョンピョン跳ねてるしひたすら動いてるの、マグロかってくらいに」

「喩えが下手くそすぎませんか、せめてもうちょっとかわいく喩えてください」

「……そう言われてもな」

 

 何故か怒られた。鮪じゃかわいくなかったか。

 まぁいい話を戻そう。バンド全体に言えることだけどオーディエンスを味方に付けるのが最初から上手だった。だからこそ新生バンドでありながら先月本戦があった「ガールズバンドチャレンジ」で上位に食い込み、下積みのあったポピパやロゼとタメを張って武道館ライブをしたんだと思うんだけど。

 

「その盛り上げ隊長的なんだよね、DJの子と一緒になって」

「チュチュ様ですね」

「……なんだ、知ってたのか」

「え、ええまぁ……はい」

 

 しかも知ってただけじゃない。チュチュさんを様付けとは、既に沼に浸かっていたらしい。かわいいもの好きの令王那ならこのバンド──「RAISE A SUILEN」はノーマークだと思っていたのに。これじゃあもう手札は尽きてしまったじゃないか。

 まぁでもさっきの話題にあったキーボードの子、パレオさんを筆頭にチュチュさんも、なんなら普段のロックも充分にかわいい部類には入るもんなぁ。

 

「……ロックさんとお知り合いなんですか?」

「え、うん。旭湯って銭湯があって、そこで住み込みしてんの。俺が偶に広い風呂に入りたいって思った時に通ってる」

「……え、えぇ」

 

 ロック曰く、あそこはRASメンがよく入りに来ると言っていたが流石に異性狙いで風呂通いは変態のギアが振り切れてる。後はその繋がりというか同じく近所のキングね。ロックと話してたら絡まれた。

 恥ずかしい話、これは既に沼にいる令王那に言うのは憚られるんだけど、ロックに会った方が最初で、後で本人からRASを勧められたんだよね。だからバンドメンバーと多少知り合ってしまっているわけで。

 

「ぱ……パレオには?」

「会ってないね、チュチュさんとパレオさん、後はレイヤさんも姿も見かけてないよ」

「ホッ……じゃなくて、その、お二人からパレオ、さんのことを伺ってたりは?」

 

 何が気になるんだろうか、まさかこいつオタクの分際で俺経由で推しと繋がろうとしてる?

 ──だが残念だったな後輩、俺はロックと姐さん(キング)にも性癖がバレてるためパレオさんの情報は絶対に教えてはいけないものとして扱われているのだ、どうだ参ったか! 

 

「……変態が、センパイが変態だったことが……現状を、生んでいたんですね……」

「そういうこと」

「そういうことじゃないです、センパイのバカ!」

 

 こわ、後輩よ。チュチュさんとパレオさんどっちも推しなのか知らないけどそれで俺に当たり散らすのは間違ってるんだぜ。

 ため息を吐きつつ、俺は久方振りに帰省したことをよかったなぁと感じていた。

 あの頃の令王那と変わらずに、まるで空き教室で駄弁っていた時のように彼女はクールビューティの仮面ナシでしゃべってくれるんだから。

 

「……なんですか」

「いや、昔の令王那を思い出してて」

「──流石に、二年前より大人っぽくなったとでも褒めてくれますか?」

「……指、前よりキレイにしてるな──って、ちょっとちょっと待って、その頭より高くしたカップは何に使うのカナ〜?」

「いえ、センパイを真人間にするために使おうかと」

「バカは死んでも治らないもんな」

「はい♪」

 

 まずい、命の危険を感じる。

 令王那の前で指を褒めるのは身長を褒める、スタイルを褒めるのと同レベルでアウトだったんだ。ただしこれは俺に限る。俺が指に興奮する、するってほどじゃねぇわ。フェチズムなのを知ってるからこそ褒め言葉として認識してもらえない。

 こうなればかの偉大な孫氏が記した兵法に基づいて策を練っちゃおうかね、フフ、気分は武田信玄だ──三十六計逃げるに如かず。

 

「じゃ、もう帰るわ」

「二度とウチの敷居を跨がないと誓ってくだされば無傷でどうぞ」

「どんだけ怒ってるんだ」

 

 どうでもいい補足というかもはや蛇足だが、孫氏はそもそも戦いにならないように策は練るべき、戦いたがるヤツはバカと序文に残している、俺の意訳だから全然違うとか言われても知らんが。

 まぁ俺のように無用に争いになるような言葉を慎むのもまた、人間関係には必要なんだ。流石孫氏、かの武田信玄が愛読したどころか軍旗にしちゃっただけはあるね。

 ──まぁそもそも、この冒頭の時点で俺はとんでもないミスをしている。しているせいで、俺はライブではしゃぎまわるだけの青春を過ごせず、ラブコメに巻き込まれるわけなんだがね。

 さしずめなんちゃってクールキレイ系後輩にRASを勧めたらとんでもねぇラブコメになった。なんてどうだろうか。売れないね絶対に。

 





理由①:間違ってもパレオ=鳰原令王那だと知られてはいけないから。

ということで後輩女子=令王那とオタ活したい高校生との無駄な攻防戦が主な内容です。
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