ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由 作:黒マメファナ
いつも通りぐだると思うので期待せずに。
──やってしまった。自己嫌悪です。
マッスーさんとロックさんがセンパイを連れていったことは知っていました。だからそこに行けば会えると思い、チュチュ様を誘導しつつ少しだけ話しかける予定だったのに。
「すみませんチュチュ様」
「謝る必要なんてないわパレオ」
「……では、ありがとうございます」
「ん」
寛大なご主人様に感謝しつつ、今さっきの自分の行動のせいですぐにでも地面にのたうち回ってしまいそうなくらい恥ずかしくなってきた。
ええ、ええそうですとも。ステージの上からでもバッチリ、見えていました。パレオを応援し、叫んだおバカなセンパイのことなんて見つけられなかったわけがない。
それが嬉しかったからって、センパイにかわいいと思ってもらったことが嬉しかったからって。
「……あくまでパレオのことを、推しとしてかわいいと言っただけなのに」
「厄介な悩みを抱えているわね、少なくともワタシに相談しても解決はしないわよ」
「あ、それもう……チュチュ様に人間関係を相談することはないかと〜」
チュチュ様はぼっち気質──いえ、孤高を愛するご主人様なのはこのパレオ、既に知っておりますので。
そうは言いつつもチュチュ様にも言っていなかったセンパイの、榛名遼の話をしていく。ちょうど、今のようにセンパイと呼び、敬語で話すようになったのはチュチュ様にパスパレの愛とエレクトーンの腕を買われた頃のことでしたね、とざっと説明するとなんだかお腹が痛そうな顔をされていた。
「……ワタシのせいで拗れたってこと?」
「いえっ! パレオが自分を偽るのをやめるために、センパイとの関係はよくありませんでしたし、ちょうど時期が被ってるというだけで因果はありませんから!」
「ん、でも……そうね。敢えてレオナとパレオを分けてる理由は、推しがどうのってハナシだけじゃないんでしょう?」
「チュチュ様はキグルミの
「キョーミないわね、そもそもキグルミに」
そうですよね。けれど私の出身県にあるクセに「東京」を名乗るあのテーマパークでパレードやショウ、果てはその辺りに出没するキャラクターのキグルミのお仕事をされてる方は家族にもその事実を伝えてはいけないという守秘義務が発生するという話を耳にしたことがあります。
まぁあの夢の国のオタクさん達の中にはその「中身」に関するオタクもいるのですが。それは置いといて。何が言いたいかと問われるかもしれませんが、キグルミが夢を与えてくれる反面
「ですから、パレオが実は令王那でした──なんて、センパイにとっては推しからの裏切りに等しいんですよ」
冷静になってみればこんな滑稽なことはない。かわいいだなんて言われて浮かれていたけれど、それは私にではなくあくまで推しに向けた言葉であって。センパイは私のことをかわいいとは言わない。いつだってかわいくない私しか見せていないセンパイに言ってもらえることなんて、あるはずないけれど。
「だからってずっとはムリね、そのセンパイはすぐ近くにいるのよ?」
「出来るだけ隠し続けます。バレたら、バレたでその時考えますし、チュチュ様にご迷惑はかけませんよ!」
これは私の問題だからチュチュ様どころか誰の手を煩わせるわけにはいかない。中途半端に逃げてしまった鳰原令王那のやり残しなんとかするのは、私しかいない。
推しは推せるからこその推し──そんなのは私自身が一番わかってることだから。
ガールズバンドの寿命はそこまで長くない。
今はアマチュアからプロ入りだとか、セルフプロデュースとかで長生きしそうなバンドは沢山あるけれど俺がハマる前、黎明期は三年持てば良い方だったと長老からSNSで伺った。その彼は一年前の三月、つまりは年度的には二個前に卒業と留学をきっかけに解散したバンドのファンだったんだとか。二年前の夏で閉鎖された「SPACE」というライブハウスではいっつもハコが埋まるくらいの人気バンドだっただけに、大ガールズバンド時代だったらもうちょっと違う未来があったのかなぁと遠い目をされていた。
「だから推しは推せる時は推せ……かぁ」
テンプレだが、それは実感を持つものだ。俺の例で挙げるならモニカだろう。あれは「月ノ森のバンド」という部分がかなりの割合を占めている。だから彼女達が卒業したならば、そこで続けるのかどうかという岐路に立たされることになるだろう。
その時の選択がなんであれ、俺もいつかは同じことを言う立場になるんだろうか。
「それで思うわけよ、推しの手指も、永遠じゃないんだな」
「……最高に気持ち悪いアンニュイだよ」
「どうも」
「でもそうか、ボクの推しのドジっ子が見られるのも、後一年かもしれないんだね」
「お互い様だ、ボケ」
羽沢珈琲店にて、友人、男友達とコーヒーを啜っていた。今日はどっちの推しもいないため割りとテンションが低いが。
彼、
「なぁ駿太」
「なに?」
「肩身狭いな」
「そうかな? ボクは気にならないけど」
「そうかよ」
女子からの愛称はアマちゃん。SNSでは
ふとし、って名前のくせに細身で中背、おとなしいが人懐っこい男の吹奏楽部の副部長だ。だがモテるせいか異性なれしてるし彼女がいるらしい。リア充である。
「気になるっていうなら遼が派手なんだよ」
「シティーボーイになろうと必死な田舎民を嘲笑って楽しいか?」
「そんなつもりはないよ」
男と顔を突き合わせて推しのいない珈琲店でおいしいコーヒーをすする、なんて無駄な時間なんだろうな。
でまぁ話を戻すわけだが、推しは推せる時に推せ──なんて古臭くもある言い回しでも考えさせられることってあるんだなぁってことなんだけど。
「結局のところガールズバンドも流行だからね」
「タピオカみたいに盛り上がりはしなくてもある程度定着するか、マリトッツォみたいに見なくなるかってか」
「前者であってほしいところだね」
そもそもティーンズ女子に大人気のガールズバンドなわけだけど、それも一種の部活みたいなもんだしな。俺が中学でスパッとバスケを辞めたように、卒業という節目に終わるバンドが多いのは事実だろうから。
そしてその前に俺も高校を卒業したら推せなくなるかもしれないってことも重要なことだよな。
「コンビニ寄っていきたいんだけど」
「バイト先でよくね」
「今がいいんだ、欲しいものがあってさ」
「ふーん、まぁいいけど」
「それに、もしかしたらオタクには耳寄りな情報が入ってさ。居るかわかんないけど」
頭に疑問符を浮かべつつもコンビニに入ると「しゃーせ〜」とめちゃくちゃ間延びしたやる気のない店員の声がして、駿太はペットボトル飲料が冷やしてある冷蔵庫まで早足で向かい、俺を手招いてきた。
え、なんなん。なんでテンション上がってるんだ? 突如奇行に走られると俺も何言ったらいいのかわからん。
「違うよ……ほら」
「ほら……ってあの店員、見たこと……ああ、アフグロ!」
「そう!」
アフグロは商店街周辺に住んでる幼馴染で、現在は羽丘に通う仲良し五人で組まれたバンドでなんと結成して五年にもなる長続きしているバンドでもある。その中であの子の名前は青葉モカさんだ。相変わらず俺は推し以外にはあっさり出逢えてしまえるんだなぁ。
とはいえ「Afterglow」は明確に推してます、応援してます! ってわけじゃないからいまいちテンション上がりにくい。
そんなことを考えていたところ、別の来店客が来て駿太が大げさに反応した。
「しゃーせ〜……あ、六花だ〜」
「お疲れ様です、モカ先輩」
「きゅーじつなのにせーふくだ〜、せーとかい〜?」
「はい、まだ慣れないことも多くて……ん?」
あ、見つかった。
親しげに話していたところを視線を感じたのかロックこと朝日六花はくるりと後ろを振り返って俺を見つけてすごく、すごく不審者と目が合ってしまったような顔をしていた。不審者だなんて失敬な、せめてストーカーか熱狂的ファンと言ってほしいですね。
「なにしとるん?」
「ん? いやバイト仲間の、こいつがさコンビニのコラボグッズが欲しいらしくて」
「なるほど〜……ちなみに」
「CiRCLEの合同ライブで惚れ込んだ七バンド全般、特にモニカとパスパレのオタク」
「……あはは、どうも〜」
「えっ、えっ、あっ……」
はいオタク、唐突なことに言葉がでてこないやつだ。よくわかるぞその気持ちは。俺は唐突に出会った時のために「ずっと応援してます」がすらっと出るように練習してるから無敵なのだ。がっはっは。
それはそれとして、ロックもやっぱりファンいるよなぁ。そりゃRASのクレイジーなギタリストだもんね。
「し、知り合い……?」
「うん、下宿先が近いんだよ」
「え、えっといつも榛名さんがお世話になってます! 朝日六花です!」
「あ、あ、甘粕駿太って言います……」
「甘粕さんですね!」
本名同士で名乗ってる。ちょっとおもしろいけどそういえばロックも対人関係進めるのに勇気がいるタイプの人間だった。
まぁここじゃ迷惑なので帰り道歩きながら俺とロック、そして駿太は交流を深めていた。大丈夫、こいつは俺と違って自分の性癖を初手で暴露するようなダメ人間ではないから。
「なんだか普段だと眼鏡だし、雰囲気違いますね」
「よく言われるんですけど……そんなに違います?」
「今はほんわかしてるというか、かわいらしい感じなんですけど」
「かわいらしい……えへへ」
「でも、ライブの時はもう最高にクールで、澄まし顔で頭ぶんぶん振るし、パフォーマンスの時は寝てみたり、置いてみたり、とにかくバリエーション豊かで見ていて飽きないんですよ!」
──なんか、なんかちゃんとオタクと推しって感じだ。俺にはああいう頭のいい感想は言えないな。しかもさりげにかわいいとか言ってるし。いやね、そりゃイヴちゃんにはかわいいって言うよ。アイドルだもん、かわいいしカッコいい、モデル時代の切り抜きも舐めるように見てるし。主に指を。
「じゃ、ボクはここから電車で帰ります」
「おう、今日も付き合ってもらって助かったよ」
「利害の一致、でしょ?」
「それじゃあ、ロックさんの演奏、また楽しみに待ってます!」
「うん、是非RASのライブに遊びに来てくださいっ!」
そう言って別れていく。残るはオタクの分際でロックの友達名乗ってる俺と、推しバンドのギタリストなのにこうして顔を合わせることも多い異性友達のロックだけ。
なんだかなぁ、俺ってやっぱりオタクでもファッションなんだろうな。
「どうしたの?」
「いや、自己嫌悪中」
「そうだよね、榛名さんっていつも私のこと推しとは思えない顔してるもんね」
「……うるさいな」
図星過ぎてまた悪態が口から出る。イヴちゃんや他の推しに図星を突かれようと絶対に出てこないであろう言葉が、俺とロックの距離の近さを物語っていた。
令王那に対して迂闊に推し指って言えないのと同じだな。推しって言葉の割に距離が近くて、推してんのか友達付き合いの冗談なのか時々わかんなくなる。ましてやあの距離感は特に。
「……パレオさんが少しだけ羨ましいって思う時もあるんだよ」
「ロックが?」
「だって、私の名前、ライブで呼んでくれたことないでしょ?」
「……パレオさんにしかないよ」
「あれだけ、熱く語ってくれるのに結局パレオさんだけなんや……ってますきさんも文句言ってたよ?」
「ぐうの音も出ねぇ……」
でもさ、仮にロックって呼ぶのはなんか、やっぱりこの隣にいる眼鏡でおとなしめの彼女の顔がチラついちゃうんだよな。ポピパイメージの星型の飾りのついたシュシュで髪をまとめて、穏やかに笑う少女、それは駿太が言ってたようにRASのロックとはイメージがかけ離れていて。カッコよくて、クールで、大好きだとすら思うその言葉も一度だってロック本人には伝えたことがない。
「榛名さ……
「……ロック?」
「こんなこと言っちゃうとファンのヒトに申し訳ないんだけど……身近なヒトの応援が一番、次も頑張ろう、次はもっとアツい音楽を、私の音楽を届けたいって思う原動力になるんだよ」
「身近な……」
「うん、それこそ友達とか」
「……ありきたりなことしか言えないよ」
「それでいいよ、ありきたりでも友達に言ってもらえたら違うから」
あーあ、こんなにお膳立てしてもらって、わざわざ推しから言葉を掛けてもらわないと言えない、言えてもテンプレだなんてなんてくだらないオタクなんだろうか。本当に自己嫌悪だ。
ああでも、俺はロックに友達として言葉を待ってくれてよかった、嬉しいと思ってるんだな。やっぱり、オタク的にも失格だ。
「フェス、最高にアツかったよ」
「うん」
「楽しかった。汗掻くのも、踊るのも、手を挙げるのも、全部が、一秒たりとも楽しくなかったことなんてなかった」
「うん」
「……次は、ちゃんとロックの名前叫ぶよ」
「……うん!」
「愛してるよーって」
「それはいい」
「そうか」
「うん……ふふ」
友達として応援するのと、オタクとして応援するのは違う。
違うからこそ俺は今までロクに彼女とRASの話をしてこなかったし、しても別のメンバーの、まぁ主にパレオさんだけど、そういう話ばっかり。
でもこれからは、ロックに素直な感想をぶつけられるんだろうか。それはそれで、すごく楽しみにしている自分がいた。
パレオと榛名ちゃんの関係を作者が意図的に伏せてるだけでそこまで複雑ではないのに対して、割りとロックと榛名ちゃんの関係の方が煩雑な気がします。
それと甘粕駿太くん。もう一つ候補だったバンドリ二次の主人公として立案しましたがあえなく(榛名ちゃんに負けて)ボツになったので脇役に降格させられました。
名前は甘粕→天かす→天春と駿太→しゅん→春の組み合わせで榛名ちゃんと同じ「ハルハル」だったりします。