ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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十二話:知られたくない

 なんかあっという間にGWも終わってしまって、それからはあんまり語るような中身のある話もなく、ダラダラと駿太と羽沢珈琲店で張り込んでイヴちゃん来なくて、何度か来てるうちに二葉つくしさんに認知されたことをきっかけにマウント取られたことが原因でややケンカしたり、それをくだらないとロックにも令王那にもバカにされたり、コンビニで今井リサさんに出逢って二人でカオナシよろしくコミュ障と化したりというくらいで、ううん、ダイジェストにすると色々あったな五月。

 

「いらっしゃいませ、今日はお一人ですか?」

「いや、後でもう一人来ます」

「かしこまりました!」

 

 そうして六月、ほぼ習慣のようにバイトない日は学校帰りに家を素通りして羽沢珈琲店へと向かう習慣がついていた。おかげでついに羽沢つぐみさんからも認知がもらえるようになっていた。名乗ってないからきっと「学ランを着崩したチャラめの男」という記号だったろうけど。けど六月になったためついに学ランを脱いでシャツと下はTシャツというスタイルに変わっていた。

 

「ご注文は、後にしますか?」

「とりあえずアイスコーヒーで」

「はい!」

 

 かわいらしい笑顔と共に早足で厨房へと去っていくその姿を見て、これで男が少ないってマジかよと頬杖をついた。羽沢つぐみのヒーリング効果のありそうな笑顔を求めて俗世に疲れたサラリーマンとかが押し寄せる流れだろ。

 もしくは彼女の通う学校が共学だったならその学校の男子生徒で溢れてるに違いない。実は男子校通いの俺には関係のない話だが。

 

「いらっしゃいませ……六花ちゃん!」

「どうも」

「一人?」

「いえ……えーっと」

「ロック」

 

 そんな世界平和に貢献できそうなほどピースフルなスマイルをする看板娘が声を掛けたところで俺はその人物に手を挙げて後から来る一人というのがつぐみさんが会長を務める羽丘女子学園生徒会仲間でもあるロックであることを伝える。

 つぐみさんはちょっとびっくりしたような顔をして、首を傾げていた。そういえば、二人で来た時にいなかったっけ。

 

「……友達なんです」

「実は近所で」

「そうなんだ!」

 

 魔法の言い訳、実は近所、便利すぎる。というかそれを使わねばならないほどロックが有名人であるということだけど。

 ロックは俺と同じようにアイスコーヒーを、そしてパフェのタイミングで、俺がチーズケーキを追加で注文したタイミングでガムシロの空が二つ、ミルクの空が三つ置いてある机を見て少しだけ苦笑いをしてきた。

 

「似たようなもんだろ」

「それはそうだけど」

 

 苦いんだもんしょうがない。どちらかというとカフェラテの方が好きだ。

 ただこう、夏はアイスコーヒー、冬はブレンドって言うのがカッコよくねというバカのような考えからこれにしている。ロックだってアイスコーヒー頼みつつガムシロ一つ、ミルク一つだろうが。

 

「榛名さんよりは元の味が残るから」

「俺だって元の味残ってます〜」

「それは味音痴なだけじゃ……?」

「なんだと、こちとら無駄にいいもん食って生きてると両親に言われて育ったんだぞ」

「褒められてないどころじゃないよねそれ」

 

 言い争い以下のくだらないやり取りをしていたが、つぐみさんがケーキとパフェを運んできてくれて一旦止まる。

 RASの練習がない時や別の仕事が入ってロックが生徒会しかないか何も無い時、いや五月も一度しかなかったけど六月に入ってもう一度、その機会に俺とロックはなんとなくで集まっていた。

 

「またいなかったんだね、いい加減諦めた方がいいんじゃないかなぁ?」

「諦めないさ、ついに誰か来てくれるとわかれば一人でも立ち入れるまでに成長したんだから!」

「五月、だいぶ通ってたみたいだね」

「まぁな」

 

 自慢にもなってないし、それでもここのエプロンを身に着けたイヴちゃんには一度たりとも会えてないけどな。

 本当に推しに会えない星の下に生まれたのではないかと本気で考えてしまうね。パレオさんなんて影も形も見てないし、燐子さんと瑠唯さんもプライベートな姿を見たことがない。

 

「せめてパレオさんには会いたいな……」

「せめての使い方が間違っとる」

「だって、ツートンカラーで目立つし、パスパレのイベント出没してるんでしょ!?」

「その日は行けません! って言われるよ」

「俺も通ってるのになんで会えないんだ!」

「知らん」

 

 冷た、今の言い方めっちゃ冷たいんだけど。

 だってさウィッグとはいえ、パスパレの現場でもそうなんでしょ。なのに欠片も見たことないんだけど、もしかして俺、彼女と別次元に住んでるんじゃないだろうかと考えたことは一度や二度じゃないよ。

 

「昨日会ったばっかりの私に言われても」

「どんな会話した?」

「えーっと……ってなんで榛名さんに言わないといけないの!」

「チッ」

 

 せめて少しでもプライベートなパレオさん成分を摂取しようとしていたのに、案外勘が鋭いじゃあないかロック。

 パレオさんのプライベートに会えないのはこのロックが情報をロックしてるせいもある。ここ笑いどころだぞ。だがどうしても、ここまで来たら推し指をもっと間近でニチャアと観察したいんだよ! ロックだってその気持ちはわかるだろう! 

 

「……肯定したくないのに否定出来ないのが悔しい」

「まぁロックが同じことするのと、俺がするのじゃ気持ち悪さが違うだろうけど」

 

 それが同性か異性かの違いってことだ。悔しいけど、ロックがポピパのオタクとして間近で接してる姿は肯定されて、俺がイヴちゃんのレーンに並んで握手しながら会話する姿は否定される。

 そこに対してお気持ち以外に否定も肯定もしないけど。だって否定される理由も気持ちもわかるからね。

 

「異性でも否定されない推し方はできると思うんやけど……」

「スタートがフェチズムの場合は?」

「……うん」

 

 諦めたな。いやいいけどさ、俺が一番最初に諦めてるんだから。別に他人の目を気にして推し活してるわけじゃないし、推しの目は多少気にしてるけどさ。

 だから指フェチ、手フェチの話は結構気軽にするけど推しにはしたことない。イヴちゃんも俺が手フェチで指フェチなのは知らないことだからね。

 

「特にパレオさんには知られたくない。というか俺の話なんてしてないよな?」

「前にも言った気がするけど……私の友達がパスパレオタでパレオさん好きなんだって、とまでは紹介できても変態なんですとは紹介できないよ」

「それもそうか……そのニュアンスってことは紹介してくれた?」

「警戒されたい?」

「……それはロック次第じゃない?」

 

 ロックは紹介する時は気をつけてって言わんと、とひどいことを言ってくる。あのね、俺は変態だけど基本は人畜無害よ。どこぞのドジっ子フェチとかいう最高に変態なバイト仲間と一緒にしないでほしい。

 ちなみにその変態の駿太はRASでいうとロック推しらしいぞ。普段の姿だと一番ドジっ子っぽい匂いがするかららしい。

 

「……類友」

「まぁそれはそうだし、それを言うとロックも類の部分に入るよ」

「やっぱり友達じゃなくて知り合いかなぁ」

「保身のために降格させないでもらっていいかな?」

 

 認めろ、ロックも普通に変態だよ。

 とまぁそんな傍目には罵り合いのようなやり取りを中断してくれたのはつぐみさんがおかわりどうですかと笑顔で訊ねてきてくれたからだった。それはまるで助け舟のようであって、俺達の空気も一旦リセットされた。

 

「……そういえば、榛名さんの制服初めてみたかも」

「冬は学ランなんだよな」

「そうなんだ、じゃあ中学も?」

「いや、加茂中はブレザーだった」

「加茂……?」

 

 割りと公立中学って学ラン多いイメージあるけどな、うちは男女共にブレザーだったよ。

 そんなことより首を傾げたロックに俺はそういえば何処の出身かなんて言ったことないなぁということに気づいた。そうそう、加茂川中央中学ってとこ。千葉のくっそ田舎だよ。

 

「加茂川……え、えっ?」

「なに? どうしたの?」

 

 動揺するロックに今度は俺も困惑してしまう。ロックは岐阜県の出身で、馴染みはないはずだけど。

 だがやがてロックは立ち上がり、アイスコーヒーも飲みかけのまま今日は帰ると言い始めた。え、マジでどうしたんだよ。俺の出身中学でそんなヤバいことってある? 

 

「ごめん、お金は後で返すから!」

「えっ、ちょ……ロック!」

「六花ちゃん!?」

 

 何もわからないままロックは走り去っていってしまい、俺は一瞬だけ本当に払ってくれるんだろうな、このまま気まずくなって会わないとかないよなと思ってしまい、それを後悔した。

 そういうことじゃないよな、ロックがどうして動揺したのかそれが知りたいのに。

 

「お騒がせしました」

「そんなこと! 六花ちゃんにも何か、きっと事情があったんだと思いますから」

「……そうですかね」

 

 つぐみさんにも慰められ、俺は自転車を漕ぐ気力もなくトボトボと歩いて家まで帰っていった。

 ──勿論、結論だけ先取りすれば俺が原因ではない。一年ほど友達をやってきた中でまさかその簡単なやり取りをしてなかったことがめぐりめぐって俺が真実に気づかない下地を作っていただなんて思いもしないし、まさかロックも俺が語る通称イマジナリー後輩がロック本人の知り合いだなんて考えてすらなかっただろう。

 

 

 


 

 

 

 RASの練習のため、みなさんを待ちつつ私はいつものようにチュチュ様にジャーキーを差し上げる。

 ──五月は本当に色々ありました。自分をリセットしきれないままセンパイの部屋におじゃまして、ご飯まで作る奇行に走り、まるで私の方がストーカーかのようにセンパイを追いかけて、偶然を装い待ち伏せをして、何度かセンパイの部屋でおしゃべりをしてから駅まで送ってもらうというダイジェストにしていいのだろうかと考えるほどイベントがもりだくさんだった。

 

「あの……パレオさん」

「ロックさん?」

「ちょっと、話したいことというか、相談があって」

「パレオに、でございますか?」

 

 そんないっぱいいっぱいの日常の中で漸くセンパイを見ても動揺せずに済むようになった六月、スタジオにやってきたロックさんに声を掛けられた。

 その顔は本当に迷っておられる、あるいは動揺と困惑が出ており、ただごとではないという確信とそれをチュチュ様やマッスーさん、レイヤさんではなく敢えてパレオということに対して慎重に問い返した。

 

「実は、その……友達のことで」

「友人関係のご相談を、パレオに?」

「はい──というかむしろ、パレオさんに関係することで」

「パレオに」

 

 ロックさんの地雷を踏まないように話すその内容でやっと何故パレオが選ばれたかを納得した。なるほどセンパイのことか。けれど私に相談ということは、結構、更に慎重にならなければいけないということでもあった。

 なんせロックさんがセンパイの関連でパレオとの共通点はパスパレのオタクであることと、推しと推される関係だということだから。

 

「パレオさんは……今、中三やったよね?」

「ですね」

「去年の、冬のことで……ウチはよく覚えとるんやけど、中学校の名前とか」

「加茂川中央中学──ですが」

 

 なるほど、ロックさんは冬のあの時、チュチュ様にとって私など必要なくなったのだと「パレオ」であることをやめようとした時にマッスーさんと共に迎えに来てくださっていたから。その時に中学まで来ていたのだから名前を覚えられていても仕方ないことですね。

 そして、センパイが中学の話をして気づいたということでしょうか。むしろ一度もそういう話をしたことがない、ということに少し驚きもありますが。

 

「ロックさんのお友達が中学の先輩でしたか、それは──すごい偶然ですね」

「榛名さん、榛名遼って言うヒトなんやけど」

「二つ上ですからあんまりですね」

「しかもパレオさん推しだって」

「一方的に知られているだけでしょうか?」

「そうじゃなくて、パレオさんのことは何も知らないみたいです」

 

 どうやらロックさんはセンパイに同じ中学だということを伝えていないようだ。それなら本当に誤魔化しようがある。センパイから追及されないだろうし、鳰原令王那と榛名遼の関係を知る由もないロックさんには何を言っても嘘か本当か精査することは出来ないのだから。

 ああ、でも──あとどれくらい誤魔化せるのだろうか。一歩一歩、センパイは私に近づいてきている。パレオが、推しが中学の時の後輩だと気づくまでもうそれほど時間はないのだと思い知らされた。

 

「どんな人物かは知りませんが、パレオが中学の後輩だと知ったら同じ中学の友人に言いふらしかねませんので、どうか黙ってていただけると嬉しいです」

「……勿論、榛名さんってそういうことしそうやし」

 

 ──パレオは、私はハルとロックさんが近所でありRASを知る前からの顔見知りであるという言葉上の関係は知っていても、実際にどれほど仲がいいのか、どんな会話があるのか、どれほどの距離感なのかを知らない。だからロックさんの言葉に私は少しだけ動揺していた。

 私もそう思う。いや私は確信している。ハルは言いふらす、だから釘を差したつもりなのだけれど、ロックさんの肯定が私には胸をチクリと刺されるような痛みを感じていた。

 

 




知られたくない。

パレオが令王那であることを。

榛名ちゃんがどういう人間であるかを。
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