ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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十三話:雨の語らい

 梅雨だ、梅雨は嫌いだ。何がって湿度と雨がじとじとしてるくせにちょっと暑いところが嫌い。

 まず髪が広がって制御不能のわかめ怪人になる。この時点でクソ。

 ただ傘を差す時にその柄を握る手指が美人さんがたまにいるところはグッドポイント。そうはいないのが悲しいところだけど。

 

「後は野外イベント雨だと前が見にくいところね、よくない」

「指が見れないからね」

「わかってきたなロック!」

「それはもう前から知ってる……それに理解してるわけじゃないよ」

 

 かわされてちょっと落ち込んだ。いいんだ、理解されないことくらいわかってるもんだ。

 ちょっと拗ねて見せると苦笑い気味だがフォローすることなくロックはアイスコーヒーに口を付けた。

 ──話を戻そうか、雨の何が嫌いって通学が自転車に頼りっきりだから雨降ると休みたすぎて家出るのが遅刻ギリギリになるところだね。だからって自転車を雨で濡らすの嫌だしさ。

 

「わがままや……しかも自業自得」

「ロックだって、ギター背負っていくのに雨降ってると足が鈍るでしょ」

「……確かに」

「ほらな、理由としては同じようなもんだよ」

 

 遅刻ギリギリにはならんと言われたらそっか以上の言葉は出ないけどね。ほら、そもそも今日なんて電車で来ちゃったわけだし──イヴちゃんはいませんがね。呪われてる、それとなーくつぐみさんに訊ねたら昨日来てましたよと言われて爆死した。嫌だ、このまま推しが喫茶店の店員してる姿を見れないまま死ぬなんて嫌だよ! 

 

「どうやって訊ねたの……?」

「いや、ここにもう一人銀髪のハーフっぽい子いませんでしたか、って前に丁寧に接客してくれたんでお礼を言いたかったんですけど、みたいなこと付け足してさ」

「……擬態しとる」

「いくらなんでもイヴちゃんに会いたいんだ〜! とはならんでしょ」

「なったら通報されてると思う」

 

 俺もそう思う。第一に迷惑だしオタクとして推しに迷惑をかけるなど許されざる行為だから弁えてるよ。

 昨日に戻ってやり直したい。そしてイヴちゃんならニコニコ顔で接客してくれるだろうという自信がある。なんせ俺はイヴちゃんに認知されてるからなぁ! 

 

「きょとんとされたら?」

「帰ります」

「そっちの方が平和かも……」

「そういうこと言わないでおくれよロック」

 

 俺はね、割とピュアなハートを持ってるの。これがお仕事上知ってる振りだったら俺は目も当てられないグロテスクな死に方を選ばせてもらうよ。そう、推しに会うといえばこの間学校帰りの明日香とばったり会って話し込んでたら香澄さんが突撃してきてそのまま駅まで一緒だったって話はしてないよな。

 

「羨ましい……はそうだけど、私は割と香澄さんとは会ってるし、ポピパさんのライブの後楽屋におじゃまさせてもらうこともあるからね」

「……うぐ、それは羨ましいからRASでもやりたい。俺に楽屋入りを許してくれ」

「絶対ダメ」

 

 だよなぁ。パレオさんに直接、今日も最高にかわいかったし素敵な指でしたって言いたい。キーボードを滑るあの細くて長い、なにより美しく整えられた指が見れる瞬間、そしてそれを彩る笑顔、どれを切り取っても最高しかないという推しへの愛を軽率に伝えたい。面と向かって伝えてみたい。

 

「迷惑です」

「……敬語になるほど?」

「うん、そもそもチュチュさんが許可しないよ」

「そうだよな、結局ロックの友達で、キングともちょっと知り合いって程度だもんな」

 

 それで楽屋に入っていけるわけない。せめて五人全員と知り合いになっておかないと、パレオさんに感想を伝えるためにはパレオさんと知り合いにならなければならないとかいう堂々巡りに頭が痛くなりそうだよ。

 しかも知り合いになるというのが偶然出逢って意気投合するとかそういうレベルだ。ロックは教えてくれないし、他のルートも軒並み塞がれてるからな、ロックに。

 

「やっぱLOCKは伊達じゃないか」

「面白いこと言ってるつもり?」

「全く」

 

 こう、パレオさんとなんとかして偶然を装ってでも出会うための条件とかないのかな、とくだらないことを目の前の友人を置き去りにして考えていると、連絡が届いてちょっとだけ微妙な顔をしてしまう。

 その様子にロックも首を傾げているが俺はなんでもない風に誤魔化した。

 

「後輩だよ」

「……後輩」

 

 あれ、てっきりいつものイマジナリーいじりくるかと思ったのにそんなことなかった。むしろ何かを考え込むような顔をしてしまったのでもしや実在したことを信用してくれる何か証拠でも勝手に見つけたのかなと喜んでいると、ロックは何かを探るような表情で、そして慎重に言葉を選び犯人の供述を見抜こうとする探偵のように訊ねてきた。

 

「榛名さんって、中学の時後輩と交流あった?」

「……あったと思うよ。二年の時は生徒会もしてたし、三年生の時も委員会とか顔出してたから」

「じゃあその、後輩さんも?」

「いや後輩は小学校入る前からの知り合いだよ、同じ鍵盤楽器だって両親同士が仲良くなったらしくて」

 

 実際はピアノとエレクトーンのため令王那と俺はほぼ接点はなかったが。

 そんなことはさておき、ロックはうーんと考え込んでしまう。どうしたんだろう、この間といい俺の中学時代に何がひっかかってるんだろうか。

 

「ロックはそんなに俺の後輩が気になるのか」

「気になる……うん、気にはなっとる」

「あー、でもな……この前ロックのこと紹介しようかって言ったら遠慮されたんだよな」

「そう、なんだ」

 

 ロックが友達だけど紹介しようかって言ったら、興味もなさそうにいいですと答えた。実はチュチュさん以外に興味ないのか、身長高めだし低身長の子が好きなのかもしれない。逆にパレオさんみたいなヒトはあんまりなのか──でも、パレオさんのことやけに詳しい様子だったし。

 

「なんせチュチュさんだけ様付けでさ」

「──様付け?」

「そう、すげー冷静な顔でチュチュ様って言うの」

「な、なるほど……それは、確かに──内緒にって言うに決まっとる」

「なんの話?」

「ううん、なんも」

 

 ロックがなんか勝手に納得していたのに首を横に振った。

 なんもないのに口ぶりは完全に何かあった顔だ。俺にだって友達の顔色は伺える。幾ら自分勝手にしゃべるようなバカだとしてもね。

 少しだけ無言の時間があって、それからふと訊ねてくる。言葉を纏めていたようだ。

 

「どんな子なの? その、後輩さんは」

「指がキレイ、すごい」

「……あの」

「そうじゃないな、ごめん──えっと、なんというかハリボテの優等生の仮面を被ってるやつでさ」

 

 本人は嫌な顔するだろうけど、クールでカッコいいと女子にも男子にも割と人気な彼女、令王那は俺から言わせればまさにハリボテの優等生だ。今でこそ波立たず穏やかな口調と冷静ぶってはいるが本当は明るくてかわいらしいものを好む性格だ。それを誰にも知られまいとヴェールの中に隠して徹底した「黒」を表に出す。そんなやつだ。

 

「その……令王那さんが後輩の名前、なんだね」

「うん、パスパレが好きでさ……でも絶対に一緒にはイベント行ってくれなくて」

 

 嫌われてるのか、好かれてるのかも正直よくわかってない。本人曰く、嫌いだったら話しかけないとは言うが俺に立ち入らせまいと牙を剥くし、反応も全体的に冷たい。

 何より、今は徹底して俺が半分だけ踏み込めていた令王那の素顔にほとんど触れてないんだから。

 

「悪い、こんなん愚痴に近いよな」

「ううん……榛名さんは、その後輩のこと好き、なの?」

「好きか嫌いかで言われれば、好意的ではあるってところかな。フェチズムを度外視しても、中学の時の関係はそうでないと成り立たないもんだし」

「……中学の時の、関係?」

「──付き合ってたんだよ、ちょっとだけね」

 

 今考えれば、何を血迷ったんだと後悔すらしてるけど。俺は中学に入って、少女として羽化し始めていた令王那にときめきを持っていた。好きだと感じてた。気の迷いだと言われればそうとしか思えないほど、俺は先輩と後輩という立場を越えて微笑み合う幼馴染が好きだった。指が、なのか人格かなのか自信はない。

 

「最低や」

「だろ? だからうまくいくわけないんだよ」

 

 無駄に行動力のあった俺は中学の真新しい制服に袖を通した令王那に告白し、戸惑いつつ頷かれたことで有頂天になっていた。付き合い始めたのはちょうど今くらいで、その令王那から別れを告げられたのは年が変わってすぐだ。まぁまぁ長続きしたろって友達には言われたよ。けど、俺からすれば半年ちょっとの付き合いになんの意味があったのか全くわからなくてさ。

 

「そもそも中学生の付き合うなんて、ましてや中学一年生と付き合うなんて、ちょっと仲良しと何が違うのか説明すんのも難しいくらいでさ」

「恋人らしいこと、出来なかったってこと?」

「手を繋いで帰ったくらい。幼稚園児でもできる触れ合いで精一杯だった。けどそれすらも、すごく特別なことのようだったよ」

 

 でも特別なことなんて何もない。好きって気持ちすら本物だったのか、好きだって思ったから錯覚した好意だったのかもわからないままで。令王那に「先輩と後輩になりましょう」と言われ、嫌だというみっともなさもなくて、ちっぽけなプライドのままわかったとうなずいてしまって今この状態だ。

 

「けど恋人ってなんだよってことに答えられなかった。令王那の考える恋人がなんなのかわかんなかったんだから、フラれて当然なんだ」

「そんな……」

「考えてみろ、俺がリア充できると思うか?」

「……無理、かなぁ。想像できないかも」

「だろ?」

 

 その想像通りにできなくて、しかもお互いに踏み込まれたくないところまで踏み込んじゃったもんだからもう大変だよ。特に令王那には不快な思いをさせまくったと思う。

 それこそ俺は我慢できずに令王那の優等生の仮面が嫌だと喚いたようなもんだからな。

 

「ごめん、なんだか複雑な話だったなんて」

「いいって、普段の俺には想像できなかっただろ?」

「うん」

「そこは即答しないでもらえると嬉しかったなぁ」

「榛名さんの好きは、どれも変わらないと思ってたから」

「わかんねぇよ? 令王那への好きは、パレオさんやイヴちゃんと同じもんかもしれない」

「──そもそも好きかどうかわからないって言ってたのに?」

「そういうのは覚えなくていいってば」

 

 結局、付き合っていく中で好きってなんだろう。本当に好きかどうかすらもわかんなくなったんだ。パレオさんやイヴちゃんに抱いている好きとは明確に違うんだろうね。

 友達に、第三者に、ロックにこんな話をするのはちょっと気が引けたけどなんか吐き出したらスッキリするもんなんだな。なんか、令王那に向き合う時も軽く済みそうだ。

 

「ありがとな、ロック」

「ううん、大丈夫」

 

 イヴちゃんは結局羽沢珈琲店に出没することはなかったけど、俺としては自分なりの令王那との関わりを振り返るいい機会になったと思っている。

 ロックを利用したみたいになったが、気になってたことは解決したみたいだし、ロックを巻き込んで三人でならパスパレのイベント付き合ってくれるのかなぁとか無駄なことを考えていた。

 

 

 

 


 

 

 

 電話が掛かってきて、相手がロックさんだった時点で覚悟はしていた。

 そして案の定センパイから私のことを聞かされたという話から始まっていた。思っていたよりも多くのことを話していたんだなというところにセンパイがロックさんを信頼していることを察せた。

 

「……そうですか」

『うん……でも、言えなかった意味も理解出来たから』

「はい、すみません──嘘まで吐いてしまって」

 

 理解してもらっていてもそれは謝るべきだと判断する。

 ロックさんやRASのみなさんに「令王那」の関連で巻き込みたくなかったなんてわがままだ。だって、もうロックさんはセンパイの友達なのだから。遠回りをしないで言っておけばよかった。

 

『──パレオさんは』

「はい」

『榛名さんが好き、だったんですか?』

「……それは、わかりません」

『わからない?』

「子どもの初恋です、本当に初恋だったのかすら、あやふやですから」

 

 そう、だから私はきっとハルの思う「リア充」になれなかった。子どもだからどうしたらいいのかわからなくて戸惑うばかりで、踏み込もうとしてハルを傷つけて、自分は踏み込まれるのが嫌だなんてわがままも懐いてしまって。どうしようもなくなった私は半年ちょっと経ったところで別れを切り出したのだから。

 

『……いつか、私は二人が隠し事なく笑いあえたらいいなぁと思います』

「そんな日が来るといいですね」

 

 私のせいでダメになってしまった関係だ。今更ハルが許してくれるなんて思ってもいない。

 ──ましてや今は隠し事が更に増えたのに、それを隠したまま気持ちを打ち明けてしまえば、間違いなく今度こそ私とハルの関係は修復が出来なくなってしまう。細い糸でいい、二人分をギリギリ繋いでいられる赤い糸ならばそれで。多くは望まないから。

 

 





というわけでずっと隠していた関係は「元恋人同士」でした〜
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