ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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お久しぶりです。デート回です。


十五話:後輩とのデート?

 本格的に梅雨前線が猛威を振るい始めた六月の中頃、とはいえ晴れの日がないわけじゃない。いやなんだかんだで雨が降らなかったって曇の日も合わせれば外に出れる日はそこそこある。

 そんなはっきりしない曇り空の休日、俺は令王那を最寄りから二駅、ショッピングモールのある池袋で待っていた。

 

「おまたせしました」

「いや、大丈夫」

「では早速行きましょう、時間が惜しいので」

「おう」

 

 他にヒトが居るかと思いきや、ところがどすこい誰もいない。俺の頼りになる友人ロックは今日は友達と遊びに行ってしまっていた。バイトでもしようかと思っていたところだったけれど、こうして令王那と待ち合わせているのには理由があった。それは五月の時からの約束だったのだから。

 

「電話なんて珍しいね、どうしたの?」

『少し、センパイにお願いがしたくて』

「お願いはもっと珍しいね」

『そうですね、できればしたくありませんでしたが』

「泣いちゃうからな後輩」

 

 とかそんなやりとりをしているとやがて令王那はあからさまに咳払いをして話題を戻してくれる。俺はどっちかというとくだらない話をして逸れるタイプだし、こういう時は割と令王那とバランスが取れてるなぁという無駄な感慨に浸れるのでおすすめ。

 ただし全部思ったことをしゃべると最悪の場合は夜道に気をつけないといけないのも事実、今だってまるでデートの誘いだねってセリフを呑み込んだところだし。

 

『パスパレの限定コラボカフェがあるのはご存知ですよね』

「もう予約始まってたよね」

『はい』

 

 パスパレのイベント頻度は本当に絶好調だ。何がってメンバーの疲労が心配になるくらい予定が詰め込まれているのだから。幸い、コラボカフェはメンバーが直接関わることはないんだけど、みんな多方面で活躍している。俺は興味なかった上に友達いないからスルーしたけど日菜ちゃんなんて脱出ゲームをプロデュースしたらしいし。

 

『そちらは当選して、メンバーも集めました』

「え、俺も誘ってよ」

『はい?』

 

 あれ、電波悪いのかな。俺は意外と謎解きとか得意だよ? そう言うと他のメンバーに紹介するのが嫌なのでとあっさり言われた。ロックといい令王那といい、俺をただのどこでも指フェチ発動する変態だと思ってないか? いやまぁね、概ねその通りなんだけどさ。でも幾ら俺でも脱出ゲームしてる時はそっちに集中してるって。

 

『自己紹介の段階でとんでもないことになる未来が既に視えているので』

「未来予知までできるようになったか」

『いえ、センパイの性格を加味しての行動予測です。未来予知と言っても差し支えないと思いますが』

 

 つまりそれはこの後輩は俺の行動など手に取るようにわかるってか。なんかバトルもののラスボスみたいな物言いだよ。

 まぁそれはさておき、これは過ぎ去った事実なのでどうでもいいとして。どうやら脱出ゲームのメンバーは集めたようだがコラボカフェのメンバーが集まらないということだろうと察した。

 

「ロック呼ぼうか? グッズのランダム性考えると頭数増やしたほうが──」

『パスパレのオタでもない方に半額にしても普通のお店の方が美味しいものが出るメニューにさらにグッズまで買わせようと? 友情が破綻しますよ?』

「……そこまで言うなよ」

 

 推しグループのコラボメニューだろ。いや俺も思うけどさぁ。

 でも俺って結局実物が一番なのよ。指フェチだし、手フェチだから。指も手もないグッズとかまぁ写ってるけど、なブロマイドよりも握手に金かけたい派閥の人間なのよね。

 

『はい? 誕生日お祝いのコラボもありますが?』

「──よし、予定合わせようか、やっぱお前は最高の後輩だよ」

 

 手のひらがくるっくる。それもそのはず、六月二十七日は何を隠そう我が推しである若宮イヴちゃんの誕生日なのだから。残念なことにパレオさんの誕生日が解らない以上、おそらく一年で一番金を使うべき場面だ。なるほど、予約は六月になるのね。それならそうと早く言ってくれよ。何日行く? 

 

『……センパイとは一日でいいです』

「俺とは、か」

『はい、行く予定は他にもありますがどうしても一週間に一度は行きたかったので』

「……すごいこと言ってるんだけど、自覚ある?」

『まぁ』

 

 まぁ、で済ませていい場面ではないが。

 ──そんなやり取りで六月の中旬に予定が決まったところで回想終了、当日が今日、というわけだ。

 令王那はいつものツインテールではなく、後ろで一つにまとめていた。ちょっと巻いてるのかな、いつもは女子も男子も羨ましがりそうなストレートではなくふわりとしていた。なんというか、ちょっと地雷系みたいな服装なんかも含めてこれがオタクスタイルの令王那か、と初めて見る気合200%とでも言うべき姿に戦慄していた。

 

「いえ、気合的には20%ですが」

「あと五倍あるの!?」

「そうですね、センパイを前にしているのでパスパレ参戦への気合を極端に制限して来ましたから」

「限定霊印でもうちこんだ?」

「くだらないこと言ってないで、行きますよ」

 

 想像しきれない。というかこれで二割って、令王那の100%はどうなってしまっているんだ。俺が見つけられないのも無理ないのかもしれない。

 だって普段はさ、こうクールぶっててカッコいいだの鳰原さんは女子にモテそうだの言われていたのにさ。今ですらかわいいんだもんね。眼鏡していても、クールの象徴というか優等生の印みたいな黒髪をアレンジしてるのもまたそういう結論に至らせる要因なんだろうか。

 

「なんですか?」

「いや……令王那ってこんなかわいくなれるんだなぁって」

「……普段とは、違いますか?」

「そりゃもう」

「そうですか」

 

 でもしゃべると素っ気ない、いつもの令王那なのがなんだか不思議な気分だ。ただその素っ気なさも今日はちょっとご機嫌で薄まってるような感じもする。そうですか、の語調もこころなしか弾んでいるような気がするのは、俺だけだろうか。

 俺はずっと、令王那の黒は、何者にも染まらない黒だと思ってた。実際に令王那がブレることはなかったし、いつだってこの後輩は、そして元恋人は、立場が変わって口調が変わったこと以外に特に変化はなかったから。

 ──だけど今日の令王那を見ると、彼女の黒は虹色と同義なんじゃないかなんてことを感じてしまった。

 

「当たりましたか?」

「……ダメだ、やっぱ五個じゃこんなもんか」

「当然です。せめて種類分買わないと」

 

 ブロマイドと誕生日限定グッズは選べるからいいとして、問題はトレーディング要素のある缶バッジだった。メンバーそれぞれ二種類の十種ということでとりあえず五個買ってみたものの、いきなり千聖ちゃんがダブってしまった。こんな時でも推しには会えないのかとしくしく泣いてしまいそうになる。

 

「しくしく、ということで36個買ってくるわ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 幾らなんでもそれは、お財布に優しくありませんから、落ち着いてください!」

「うう、だって」

「子どもですか……私もいるんですから、二人で十個ずつ買えば実質二十ですよ?」

「令王那……!」

 

 コラボカフェ、令王那は先週も行ってるはずなのでおそらくコンプしてるだろうに、優しくされるとちょっと泣きたくなってしまう。後輩に同情され、慰められる姿は非常にカッコ悪いことこの上ないが、当たるまで買う、という主義である以上令王那の力が借りられるのはでかい。

 

「まぁ私もコンプしてませんから」

「え、そうなの?」

「はい、どうせセンパイがこうなるだろうと思って、最低限のお買い物しかせずに雰囲気を楽しんできました」

 

 誰と言ったのかは知らないが、令王那はそんなことを考えてくれていたのか、なんだか本当に普段の態度とは裏腹にオタクとしての令王那はいっそ天使のようだ。

 俺とじゃない時の令王那が雰囲気を楽しむ、つまり今の五倍の状態で楽しんでたってことだ。想像がつかん。

 

「想像されては困ります……あ、イヴちゃん出ましたよ」

「マジか、さすが……なんでまた千聖ちゃんなんだ」

「推されてますね!」

「よくない言い方しないで」

 

 千聖ちゃんに推されるってどういう状況だよ。いつもは割とバラける、まぁ所謂確率論に沿った排出をするもんだが、今日に限っては千聖ちゃんフィーバーしてる。あのヒトに推されるってもはや才能かよっぽどの変態かドMかの三択だろ、いやその場合実質ドMと変態は一緒か。

 

「千聖さんは……なんとなくですがセンパイを認知すると構ってきそうですけど」

「嫌な情報」

「嫌なんですか?」

「アイドルから構われるって嬉しいけどさ、推しじゃないし」

 

 推しに構われたい。なんなら女子オタのようにハグされたい。いや、ハグよりもまたあの真正面から恋人繋ぎされたい。あっちの方が個人的には気持ちいいと思う。

 推し、という観点で行けば千聖ちゃんは手が小さくて、なんというか顔も小さい、小柄でありながら芸能人って感じがする。でも手が小さくて、まぁ指はキレイなんだけど手入れされてるキレイっていうか、こう、才能的なのじゃなくて努力で培った手なんだよね。

 

「……気持ち悪い持論ですね、とっても」

「いやわかってるよ、令王那の気持ちはね。でも俺が求めてるのって……引くかもしれないけど令王那みたいに、下地ある手や指なんだよね、才能って俺は表現するけど」

「音楽に愛されてる、でしたっけ」

「覚えてた?」

「一時期、耳にタコができるほどに聞きましたから」

「手に、じゃないからいいよ」

「はぁ……」

 

 ため息を吐きながら令王那が最後の一個を開封すると日菜ちゃんだった。俺も最後の一個をおそるおそる開封するとそこで俺に笑いかけていたのは紛れもなく、推しの、イヴちゃんの笑顔だった。私服風のブロマイドと同じ格好である令王那のものとは違い、ショルダーキーボードを手に持ち笑う彼女を見て、そして持ちて部分が写っている姿を見て、思わず机に突っ伏す。

 

「はぁああああ、かわいい……そして薬指がいい」

「すいません、小声でお願いしてもいいですか? 具体的な指まで指定されると流石に……」

「小指もいい」

「……私が当てた分のイヴちゃん、あげませんよ」

「すいませんでした」

 

 令王那は呆れ気味でありながらもちゃんと手渡してくれる。実は令王那にこうやってお渡しされるのも若干オタクになりそうなのは置いておこう、やっぱり指キレイだよなぁ令王那も。なんなら、すごく失礼かもしれないけどイヴちゃんとは種類が違う部分はもちろんある。でも俺個人としては令王那の手指が好みなんだよなぁ。

 

「さて、センパイのせいでイヴちゃんが一切私の手元にないわけですが」

「それは、頑張って……イヴちゃんまた集めるの?」

「はい、トレーディング系列は箱推しにとってコンプすることが前提ですから」

「む、無限回収も視野に……?」

「まぁ早速千聖さんを大量にダブらせた方いらっしゃいますし?」

 

 結局、二人で25個開封し彩ちゃんが二種類四つ、日菜ちゃんが二種類五つ、千聖ちゃんが二種類九つ、麻弥ちゃんが二種類五つ、イヴちゃんがちょうど二種類一つずつという偏り方を見せていた。千聖ちゃんに吸われてる。俺なんて十個開封で半分くらい千聖ちゃんだったし、ちょっと怖い。

 

「さて、そろそろ帰る?」

「そうですね、センパイと長居しても仕方ないですし」

「ひどい言い草だ、誘っておいて」

「なら今度から誘いません」

「それは違うと思う」

 

 別に嫌だって言った覚えはない。後輩とパスパレオタクとして、いや本人曰くいつもの八割減らしいけど──でもやっと、初めてこうしてオタ活が出来た気がする。パスパレが出るイベントじゃないし、本当によくよく考えると食べてちょっとスマホで写真撮って、カンバッジに一喜一憂してただけだけどさ。

 

「楽しかった」

「……そうですか、よかったですね」

「おう、これからどうするって言っても令王那的にはもう帰らないと遅くなるか」

「はい──と、言う予定でしたが、少しだけ気が変わりました」

「と言うと?」

「センパイはこの後、何かありますか?」

「いや、ないよ」

 

 ロックは友達と遊びに行ってしまっているし、駿太は彼女とデートしてるのでやることと言ったら羽沢珈琲店で推しを待つくらいしかない。しかもこの微妙な時間だしまぁ帰ってダラダラするかゲームするか、ってところだろう。

 そういう意味での「ないよ」という俺の返事をまるで知っていたかのように、令王那はではと薄く微笑みを浮かべた。

 

「少しショッピングにお付き合いいただけますか?」

「え……あ、まぁいいけど」

「どうせ明日もコッチに来る予定があるので、泊まってしまおうと思いますから」

「……え?」

「センパイの家に、じゃありませんよ?」

「い、いやそこはわかってた、わかってたよ?」

 

 睨まれて慌てて否定する。いやわかってませんでした。この後輩にはびっくりしたところで察していただけていると思いますが。

 第一、俺の部屋に令王那を上げるスペースはあっても泊めるスペースはない。同性なら寝袋でも持ってこいや、で済む話ではあるんだけど、生憎お客様用の布団とか用意してないんだよね。

 

「着替えとか大丈夫?」

「それは、下着を買うところを見てあげる、というセンパイの下心ですか?」

「そんなわけないでしょうが、純粋な疑問だよ!」

「ふふ、冗談ですよ──友達の家に置いてありますから」

「結構な頻度で泊まってるよね、迷惑掛けてない?」

「お世話してる側なので、私が」

「えっ……あ、ああ、前に言ってたマンション持ちの」

 

 一瞬だけヒモカレシという単語が頭に浮かんだ。マンション持ちのお友達は同性であることは令王那の口から聞かされてるので、そこが怪しい百合の咲く関係でなければ令王那に他意はないのだろう。

 でもその友達のことを話すときの令王那ってなんかいきいきしてる気がするから、もしかしたらそういう関係なのかもしれない。

 

「さて、そうと決まればまだまだ付き合ってもらいますからね、センパイ!」

「……ああ、令王那が満足するまでな」

 

 いつもよりちょっとだけテンションの高い令王那が指を差した方向へと進んでいく。なんだか昔見た屈託のない笑顔なんて向けられてしまえば、俺も少しだけ恋人だった頃を思い出してしまった。幻覚だってわかってる、そもそも令王那と恋人だった頃にこんなかわいらしい笑顔を向けられたことはないから。

 ──そして、笑った顔はやっぱりなんだか俺の推しに似てる気がした。

 

 

 

 

 

 

 





推し活100%の姿は髪色変えてカラコンつけて、ハイテンションでニッコニコ、つまり「パレオ」なのでセンパイに見せられるわけがないんだよなぁ。

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