ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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十六話:天国の急転直下

 令王那とのイベントが終わった後はまた日常と雨のせいで家からロクに出なかったため割愛させてもらう。そしてあっという間に時間は過ぎて七月の前半、期末テストの寸前になった俺はテンションが上がっていた。

 なんせ、待ちに待った花女の文化祭の日がやってきたからだ。当日、どういう流れなんだろう。ロックはロックで友達との予定があるって言うしなぁと思ってコンビニ前で待っていた。

 

「おまたせ!」

「いいや、コンビニで買い物してた」

「じゃあ行こうか」

「だな」

 

 デートっぽい、と思ったが声に出さない方がいいだろうと買っておいた水のペットボトルを、家にあった保冷カバーに入れて持ち歩けるようにしてある──それを一口、余計な言葉と一緒に飲み込んでおく。

 というか友達と一緒かと思ったらそんなことなく俺と二人なのか。

 

「他の子は?」

「一人はここで集合、一人は駅、一人は現地集合」

「結構住んでるところバラバラなんだ」

「うん」

 

 名前も顔も俺は知らないがどうやら商店街の子が一人、一人は王子から羽丘まで通ってるらしく最後の一人は二十三区外の狛江市ってところから来るらしい。俺達の最寄りから見てメンバーの最寄りはまさに四方からって感じだなぁと思いながら待っているとお待たせ、と言いながらロックに向かって走ってくる女の子がいた。

 

「ましろちゃん、おはよう」

「う、うんおはよ……あ、えっと」

「どうも……え、倉田ましろさん、だよね?」

「え、あ……は、はい」

 

 見間違えようもない。儚げな雰囲気を纏うあどけないお嬢様という風体の彼女、服装はガーリーで夏らしく眩しい。

 倉田ましろさん、彼女はここからも結構近い月ノ森女子学園の学生五人で組んだ「Morfonica」でボーカルをしている子で、つまりは推しバンドのボーカル、バンドの顔と言ってもいいかもしれない。

 

「いつも応援してます、榛名遼って言います」

「あ……えっと、このヒトが、榛名さん……?」

「うん」

「男の、ヒト……?」

 

 これはあれだな「榛名さん」って友達も一緒でいいかなと問いかけて「ハルナちゃん」という架空の女子を創り上げたパターンの勘違いだな、大丈夫、そんなケースも覚えてる限りでは人生で三回経験してきた。これで四回目だからもう慣れっこだ。

 ロックがいつも話す学外の香澄さんシンパ、要するにオタク仲間というのが彼女なんだ。そうなんだ、モニカのましろさんってポピパのオタクだったのか。

 

「たぶん、明日香ちゃんも……あこちゃんも勘違いしてると……思う、きっと」

「忘れてた……」

「フルネームでも女子に間違えられたことあるし大丈夫」

 

 これはたった一度だけだ。リョウってのも男女どっちでもある名前だしなぁ。もう一つの候補だったハルカもだけど。多分榛名(ハルカ)だった世界線の俺は覚えていられるほどこの体験をしていないだろう。フルネームの女子力が強い。

 とまぁましろさんが慌てたようにグループチャットに訂正を入れてくれたらしい。なんだろう「【悲報】ハルナさん、男だった」とかだろうか。

 

「えっと、榛名さんが……苗字ですか?」

「うん、呼び方なんでもいいよ」

 

 今まで呼ばれたことのあるのは苗字にくん付、さん付、ちゃん付したやつは殺した。遼もくん付とさん付けあったな、ちゃん付けは親戚がしてきた。呼び捨ても勿論あって。後は渾名シリーズだとハル、ハル先輩、かな。ハンネで活動してる時は大体ハルさんかハルハルさんの二択だ。うーん、なんでもいい。

 

「榛名さん、あんまり推しバンドだからって距離詰めすぎないで」

「嫉妬か?」

「ん?」

「怖いから顔近づけないで」

 

 舐めたこと言ってさーせん。ロックはバンドやってない時に知り合ったから朝日で六花になってRASに入ってからロックに変わったね。まぁそんな呼び方の話で時間を潰しつつ電車に乗って数分、最寄りの駅には既に待ち合わせ相手がスマホをいじって待っていた。

 茶髪の短髪の子──まぁここは予想通り、戸山香澄の妹でありロック関連の数少ない顔見知りの明日香だった。

 

「てか遼って同級生だったんだ」

「そうなんだよ」

「……明日香ちゃん、知り合いだったの?」

「ちょっとね、ましろちゃんは平気だった? このヒトと一緒で」

「失礼な言い方してないかい?」

 

 確かに大丈夫じゃなさそうだったけど、明日香がいるならなんとかなりそう。相変わらず香澄さんとは違って落ち着いてる。

 ロックは思いの外友好度が上がっていることを不思議に感じていたようだが、甘いぞロック。俺はそこそこ通ってるからな。そこで鉢合わせしてることもこの数ヶ月で何度かあったんだよ。

 

「最後の一人は誰なの、つかなんでサプライズを三回も食らわないといけなかったんだ俺は」

「知るとテンションが気持ち悪そうだったからだけど」

「……ガールズバンド関係者なのか」

 

 明日香は関係者というよりライブハウスのバイトだけど、推しバンドのギタリストであるロック、推しバンドのボーカルであるましろさん、とくれば、とくれば何? まさか推しバンド(ロゼ)ってこと!? 

 でもここで燐子さんはないことは確定している。同級生、同級生で固まってるんだろ? 待てよ、高校生でプロのドラマーになったって。

 

「初めましてあこは宇田川あこって言います!」

「初めまして、榛名遼です! 個人的には初めましてですけどロゼはいつも応援してます、会えて嬉しいです!」

「わ、私の時とほぼ同じこと言ってる……」

「ましろちゃん、気にするところ間違えとる気が」

「ってか、男女のバランスおかしいでしょ」

 

 しょうがない、俺はロックに案内してもらわないといけなかった。ロックは友達と一緒に文化祭を回りたかった。その両方を満たすためには女子四人と一緒に花女の門を潜らねばならないんだから。惜しむべきはこの学校に主催者側として参加している推しがイヴちゃんだけってところ。去年来たかった……燐子さん的な意味で。

 

「ねーねー、りょーの推しって誰?」

「イヴちゃん、パレオさん、燐子さん、瑠唯さんかな、個人だと」

「りんりん? りんりんなら紗夜さんと一緒に来るって言ってた!」

「……マジ?」

「マジ!」

 

 神よ、あこさんと燐子さんの仲がいいとは聞いていたがこんな奇跡があっていいんだろうか。

 あ、でもこの人混みから探すのは至難の業の予感がするんだけど。後は後ろでぼそっと瑠唯さんは来ないよと言われてしまった。いいんだよ、今日はイヴちゃん見に来たんだから。

 

「文化祭回りに、でしょうが」

「そうだよ榛名さん、本音と建前くらい使い分けないと」

「……ロック?」

 

 ましろさんにまで頷かれ、どうやら明日香は自分が少数派だと自覚したらしい。オタクは強いぞ、数を増やすとロクでもないところあたりが特に。

 こうして純粋に文化祭を回りたい明日香と推しに会いたいましろさん、ロックと俺、何も解ってないあこさんの三陣営に意見が分かれたところで俺は一抜けさせてもらう。

 

「あ、ちょっと榛名さん」

「後は女子チームできゃっきゃしててくれ、俺は茶道部から回ってくる!」

「……清々しいほど自己中心的だ」

「りょーって変なヒトだねロック」

「それは、うん……」

 

 事前情報によるとイヴちゃんは文化祭実行委員の見回り、茶道部、華道部、剣道部の体験会のどれかの四択──って広くね!? 推しがバイタリティ溢れてるのは知ってたけど、にしたって活動範囲エグくね!? 俺は絶望のあまり立ち止まり振り返ったが既に四人の姿はわからなくなってしまっていた。

 

「……羽沢珈琲店の時となんも変わってねぇ」

「あ、ろっかの友達の!」

「あーえっと、北沢さん」

「はぐみでいいよ!」

 

 途方にくれていると知り合いというより、顔見知りレベル、友達の友達クラスの相手に声を掛けられた。どうやら個人で店をやっているようで、北沢はぐみさんは俺に声を掛けてくれた。

 ちょっと助かった。知り合い風な顔してないと、思っていたよりずっと男子少ない。

 

「ろっかと一緒に来たの?」

「はぐれましたけど」

「じゃあ、クイズやってく? 題して、花女クイズ王決定戦!」

「……楽しそうだなって一瞬思ったけど、それ俺が出来る問題ですか?」

「勘でなんとかなるかも!」

「……はは」

 

 笑えねぇ。でも楽しそうではあるので時間になったら行くねと言っておいた。イヴちゃんが何処にいるかわからない以上、実は見回りのワンチャン狙いで留まっていた方がいいんじゃないか、みたいな分の悪い賭けだった。

 というわけでお腹も空いてるしクレープ食べよ。

 

「三−Eアオハル☆ザクロクレープ……ザクロ?」

「あ、いらっしゃい! 美咲〜、お客さんよ〜!」

 

 よし、向かいのフツーのクレープにしよう、立ち去ろうと思ったその瞬間、入り口にいた生徒に捕まってしまった。というか、見覚えがある子だなぁ、多分ガールズバンドで見たなぁという感じだ。飽和しすぎてて推し以外はあんまり覚えてらんないのが悲しい。

 ただもうなんか雰囲気的にいいですと言いにくい。ザクロの酸味が青春っぽいってことなのか、というか味が微妙に想像しづらい。

 

「はいはい、一枚でいいですか?」

「はい」

「さぁ、見ててちょうだい!」

 

 黒髪で生徒会と書かれた腕章付けてる子にお金を手渡し俺をこのクレープを買わざるを得なくさせた張本人はその金髪を器用に纏めてエプロンと三角巾を装着、素早く生地を広げていく。おお、手際いいなぁ。

 そう考えていると屋上から大声が響いてきて、思わず上空に目線を向けた。なるほど、ああいう企画もあるのか。いいなぁあれ。イヴちゃん愛してる〜って叫べるってことでしょ? やりたいけど後が怖い、特にロックとか令王那とか。

 そういえば令王那はもういるんだろうか。

 

「はい、どうぞ〜」

「ありがとうございます」

「あー後よかったらさっきの屋上でやってる『叫べ、青春の今』って催しなんで、是非どうぞ」

 

 思考したところでクレープを手渡されつつそうオススメされて頷く。うーん、ロックに冷たい目をされないって保証があるなら叫びたい。イヴちゃんへの愛じゃなくても手指への愛でも可かもしれない。さっきの黒髪の子、ちょっといい指してたな。

 そんなゴミみたいなことを考えつつはぐみさんのところへ戻っていった。思ったより美味しいなこれ。

 

「あ、それウチのクラスのやつ!」

「はぐみさん、E組だったんですね」

「そうそう! みーくんがね、生徒会長やりながらみんながクレープ焼けるようにって頑張ってたんだよ」

「みーくん、さっきの黒髪のヒトかな? ピンクの髪留めしてる」

「その子!」

 

 美咲、って呼ばれてたし美咲さんがみーくんなんだろう。マジかあの子生徒会長だったのか。役員なのは腕章でわかったけど。なるほどな、だからあの時さらりと別の宣伝もしたのか。そんなことを考えつつ、豪華景品という文字に釣られていると、後ろからはぐみさんの名前を呼ぶ──()()()()()()がして振り返った。

 

「はぐみちゃん!」

「ひなちゃん先生! 彩先輩も!」

「なんか久しぶりだね〜」

「あら、私達もいるわよ」

「集まったせいでちょっと騒ぎになりましたが……フヘヘ」

 

 ──この瞬間、俺の思考は止まった。

 いやまぁ個人的にはイヴちゃん推しだけど、パスパレは音楽抜きで、指抜きでおそらく後輩の影響でやや箱推し気味なんだよ。だから俺は軽率に振り返ったことを後悔するハメになった。

 

「あら?」

「あ、このヒト知ってる!」

「……え、日菜ちゃん誰?」

「イヴちゃん推しだよ、イベントに結構来てる!」

「つまり……ファンってことっスか」

「……そうね、ふふ、こんにちは♪」

 

 見間違えようがなく、今実行委員をしているイヴちゃん以外のパスパレメンバーだ。丸山彩ちゃん、氷川日菜ちゃん、白鷺千聖ちゃん、大和麻弥ちゃん。

 俺からすればこの四人が並んでいるという圧が、序盤で顔見せされた四天王の登場シーンのように感じられた。しかも全く話したことのない日菜ちゃんに認知されてる。

 

「こ、こんにちは……」

「りょーくんってパスパレのファンだったんだ」

「そうなんですよ、はぐみさん」

「残念、イヴちゃんは忙しいみたいね……けれど」

「これはむしろ……イヴさんが実行委員だからいるって感じッスか?」

「えー、なんで知ってるの〜?」

「イヴちゃんのことを知ってる友人がいるのでしょう?」

 

 あれ、なんか尋問されてる? しかもなぜか千聖ちゃんから特に。

 まぁ隠しておくほどのことでもないため、俺は正直に全部話した。ロックに教えてもらって、ロックに誘われてロックとその友達と一緒に来たってことを。そうすると千聖ちゃんは心底意外そうな顔をして一瞬だけ止まった。

 

「……なるほど、六花ちゃんの知り合いでもあったのね、だから」

「千聖ちゃんも、えっと」

「あ、えーっと、榛名遼です……」

「榛名さん、のこと知ってるの?」

「ええ、すれ違ったことあるわよ、旭湯で」

「そうなんですか!?」

 

 素っ頓狂な声が出た。俺が気づかないことなんてある!? しかも千聖ちゃんだよ? 今もオフのハズなのに顔を隠してないせいでまばゆいばかりのオーラを感じる白鷺千聖ちゃんと旭湯ですれ違って気づかないってどういう状況だよ。

 ちょっとショック受けてると四月におねーちゃんとすれ違ったよと日菜ちゃんから補足された。このヒトたち記憶力どうなってんですかね。

 

「ご、ごめんなさいはぐみさん……この状況そろそろ耐えられないんで不参加でいいッスか?」

「えー」

「いいじゃない、少しお話したかったし」

「んー、千聖ちゃんが何を気にしてるのかわかんないけど、面白そう♪」

「ジブンと日菜さんは花女のOGではありませんので、大丈夫だと思いますよ?」

 

 こうして、推してるアイドルのみなさんと花女クイズ王を目指すことになってしまった。こういうのってバラエティで公開収録見るだけで充分なんだけど、俺やだよ、巻き込まれるの。

 これほど切実に、ロックと分かれたことを後悔することはないだろう。そしてロックと言っていた推しに近すぎるのはよくないという言葉を身に沁みて感じるだろう。よくない。

 

「そうね、なんて言ったらいいのかしら、あなたの後輩と私の親友が友達同士なの」

「……後輩、令王那のことですか?」

「そう、令王那ちゃん」

 

 あっさり二問目で敗退した俺の隣になんとすぐに千聖ちゃんが敗退して座ってきた。ひぃ、このヒトの距離の詰め方がアイドルとオタクのそれをかなりの勢いで飛び越えてるよぅ。

 だが、その口から語られたのは意外な名前だった。令王那、俺の後輩がなんと俺とはぐみさんくらいの距離感に千聖ちゃんがいたらしい。

 

「えー、パレちゃ──ん?」

「日菜ちゃん、ちょっといいかしら?」

 

 だが横から入ってきた日菜ちゃんの口を少し慌てたように塞ぎ、俺には聞こえないように何かを言い含めているようだった。ちなみに彩ちゃんは正解し続けてる。学校生活が楽しいし好きって言ってたの、本当だったんだなぁ。

 まぁそんな現実逃避が出来たのは三分もなく、二人が戻ってきて苦しい時間が再開された。

 

「令王那ちゃんの先輩なんだ、へぇ! すごい偶然だね!」

「偶然、とは言いがたいですけどね……あはは」

「偶然じゃない、というとどういうことでしょうか?」

 

 ただでさえ精神的によくない状況なのに麻弥ちゃんにまで集まられて空気が薄くなっていく。ダメだ、ファンサだって思えない、これはよくないよ! アイドル三人に囲まれてるのに、全然、ちっとも楽しくないんだけど。命の危険とその他何か色々と危険が迫ってきてる気がする。というか令王那ってパスパレ全員に認知されてるのすごいね、あいつの箱推しってそれぞれへの推し度合いがそこらの単推しくらいってことだよね。

 

「俺は……いや本人の前で言うの嫌なんですけど、パスパレの追っかけをするために東京に来たんで。同じパスパレの、それもオタク度で言えば明らか格上の令王那と繋がりがわかって当然といえばそうなんですけどね」

「なるほど、後先考えてないですねぇ」

「本当に、でも先のことは先になってから考えたいタイプなんで」

 

 それを可能にしているのは鼻につく言い方だが地頭というやつだ。授業真面目に聴いといて、後で自分のノート見返しておけばこの期末前にちゃらんぽらんに遊んでても校内で一桁はカタいくらいの学力がある。そもそも俺は教師にもっと上を目指せよ! と熱血指導されて、どうしても自分の将来のために上京は必要なことなんですと優等生ぶって説得した立場だし。

 

「ふ〜ん、その割には一緒に居るところ見たことないよね」

「嫌がられてるんで、令王那に嫌われてるって言ってもいいかと」

「先輩なのに?」

「色々やらかしてますからね、俺は」

 

 日菜ちゃんは記憶力よすぎでは、たしかに俺はイベントで一度たりとも令王那と会ったことも話したこともない。本当に先月のことがイレギュラーだ。それでもオタク100%の令王那ではなくて俺と一緒に居るからと抑えていたんだ。

 それはまぁ言わなくてもわかると思うが、中学時代にやらかしてフラれてるからだ。わざわざパスパレのみなさんに令王那は元カノでフラれてるんでプライベートでちょこちょこっと話す程度ですよとか言わないけど。

 

「そのリアクションだと日菜ちゃんや麻弥ちゃんは彼女から彼のことを相談されていないのね」

「えっ、相談って」

 

 ふふふ、と意味深な笑みを浮かべる千聖ちゃんに俺は本当にここにいていいんだろうかという感覚がしてくる。今更だが、推しを探す旅に出たはずなのにどうして推し以外のアイドルに出逢ってしまったんだろうか。

 彩ちゃんが順調に正解していく姿を見ながら、俺は猛烈にここから逃げ出したくなっていた。





まさかの地獄状態
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