ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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七月号


十九話:ロックの気持ち

 ──初めて遼くんが後輩のことを語る時には何も思うところはなかった。茶化すような話し方をしていたし、なんならイマジナリーだとすら仮定していたくらいだから当然と言えば当然なんだろうけど。

 でも、それがいつの間にかモヤモヤに変わっていったことに気付いたのは五月のフェスの後だった。

 その後、六月には遼くんの言っていた後輩が彼の推しであるパレオさんであって、そのパレオさんが元カノだって知った時、私は私の感情を自覚し始めたんだと思う。

 

「……ロック、お前ってもしかして」

「あ、あはは……流石に気づきますよね」

 

 パレオさんを見送った後、私はますきさんに目を向けられて認めるしかなかった。

 遼くん、なんて本人を呼んだのは一回だけだったかな、なかなか恥ずかしくて、でも榛名さんなんて他人行儀でいたくなくて。

 いつの間にか一緒に過ごす時間が、離れる時間を寂しくさせていった。私にとって榛名遼という男の子の存在が大きくなっていた。

 

「マジか……ってほど驚くことじゃねぇけど、そのくらいロックと榛名が一緒にいたのは私も知ってるし」

「そうですね、最近は特に」

 

 でも恋愛としてこの気持ちが報われることは、きっとないんだろうってこともわかっていた。だって遼くんはいつだって、パレオさんを見とる。二人で話す時も「後輩(パレオさん)」との思い出なんかを楽しそうに語ってくれるから。

 

「りょーくん帰っちゃったんだ」

「……なんかあった?」

「ちょっとね、体調悪くなっちゃったみたい」

「だ、大丈夫……なのかな」

「大丈夫、ほら」

 

 メッセージには「大丈夫、寝てれば治るぜ!」と明らかに大丈夫じゃなさそうな返事があって、でもましろちゃんは安心したような顔をしていた。

 流石に明日香ちゃんをごまかすのは無理そうだから後で説明するとして、ええとどうやって説明すればいいやろ……ありのままってわけにはいかんとしても、上手く説明できる自信が全然ない。

 

「遼と何があったのか、ちゃんと教えてね」

「う、うん……また学校で!」

「うん、またね六花」

「今日は誘ってくれて、ありがとう、榛名さんにもよろしくって言っておいて」

「わかった」

 

 そのままあこちゃんとますきさんとで電車組を見送る。そういえば明日香ちゃん、ちょっと前までは榛名さんって呼んでたのにいつの間にか呼び捨てになっとる。

 まさか……いやまさか。逆に遼くんもフラットに明日香って呼び捨てしとったから、何かはあったんだろうけど。

 

「どうしたのろっか、うんうん唸って」

「いや、ちょっと……まぁ榛名さんのことで」

「りょーくん、結局りんりん紹介してあげよーって美咲とかこころんとか、はぐに行先聞いてたのにさ」

「ふ、不運や……榛名さんはやっぱり推しには遭遇できん呪いに掛かっとる気がする」

 

 きっとパレオさんとのひと悶着、というかその前にあったであろうパスパレさんとのひと悶着が無ければ燐子さんに会えて幸せな時間を過ごしていただろうに。あまりに不憫で思わず合掌してしまった。強く生きて、遼くん。

 

「んで、メシは?」

「あこは帰るよ、ろっかは?」

「私はますきさんとご飯食べたいな」

「言うと思った、銀河でいいか?」

「はい」

 

 はぁ、パレオさんともちょっとだけ気まずい。ただこれはあくまで個人的なもので、RASに持ち込むのはよくないこと。

 でも、私がパレオさんと会っても上手にやっていける気がせん。それだけ、パレオさんには思うところがある。

 別に、遼くんの味方ってわけじゃないし、彼にも悪いところは幾らでもあると思う。推し方とか、それ以前のパレオさんとの付き合い方とか。

 

「やけど、ウチまでそれを言ったら……遼くんの味方が誰もおらんくなってしまうんです」

「そーだな、私は口出すわけにはいかないしな」

「はい、ますきさんはそれでいいと思います」

 

 言い方は悪くなってしまうけどますきさんは関係ない。遼くんとは知り合いで一緒にご飯を食べに行ったこともあるけれど、あくまで友人未満の関係であって、特にパレオさん関係の話はデリケートな部分だから触れるには相応の関係性を求めている人に限られる。

 

「けど、私も口を出せることがある」

「はい?」

「あんまり拗らせてほしくねぇんだよ。榛名と、じゃなくてお前とパレオが」

「……それは」

「色恋でダメになるバンドなんて、腐るほどある。でもRASは違うって、信じさせてほしいんだよ」

「ますきさん」

「レイのやつも、事情を知ったら似たようなことは言うと思う」

 

 レイヤさんとますきさんは、どっちもサポートとして様々なバンドを渡り歩いてきたし、今もそうしてる。私も、最近ではサポートに呼ばれることもあって、色んなバンドの裏事情というか、外には見えない部分が分かる。

 奇跡的に私の知り合いのバンドはみんな仲がいいというか結束力があるけれど、中にはふとしたきっかけで瓦解してしまうバンドもあって、そういうのを見ていると自分のバンドはそうじゃないって思いたくなってしまうのかも。

 

「大丈夫です……ウチは、戦う前から負けとる」

「……ロック」

「わかってるんです、これがスッキリ解決しても、遼くんは私を好きになんてなってくれない。もし付き合うってなればそれは、パレオさんとです」

「けどそれじゃあ、ロックの気持ちは」

「いいんです」

 

 自転車で三分の距離、近いけれどそれ以上はない。

 だって私は、一度だってあの人の推し活に誘われたことなんてないから。パスパレさんだって、本当は誘われればついていって、布教してもらってその方法に呆れつつツッコミを入れて、私自身も推しなんて作ってみたりして。そしたら今度は一緒にポピパさんのライブに行って、そうやっていつも隣に居てほしかった。

 ──そんなもしもは、最初から遼くんの頭にはないんだから。

 

「わかってて、パレオと榛名を向き合わせるために……か、スゲーよ、やっぱロックはロックだ」

「……ふふ、ダジャレですか?」

「いやそうじゃなくて、つかロックのロックとそのロックは意味が違うだろ」

「そのくらいわかってますよ!」

 

 所詮私は友達、オタク友達であって、推しにはなれないし勝てない。

 だったらせめてオタク友達を叩いてでも起こして、頑張れって言ってあげたい。迷ってるならその背中を蹴っ飛ばしてやりたい。

 ──あの日、チュチュさんからRASに誘われて迷っていた時に背中を押してくれた、大切な私の推しと同じように。手を差し伸べてあげて、そうして私らしくパレオさんの方へ投げ飛ばしてやるんだから。

 

「ならさ、いい作戦思いついた、私はロックの味方してやる」

「ますきさん?」

「手段はもう選ばねぇんだろ? 明日は丁度自主練、おそらくパレオは来ないだろうから……な?」

「へ?」

「アイツの家知ってんのはお前だけだ」

 

 それってまさか、所謂家凸というやつではありませんかますきさん。ニヤっといい笑顔を浮かべたますきさんの作戦は確かに劇薬だけど、色々と誤解をしている遼くんを立ち上がらせるには手っ取り早いのかも。

 そう思った私は夜遅くだったけれどチュチュさんのマンションまで来ていた。

 

「こんな夜になんの用?」

「パレオはいるか?」

「いないわよ、泊まると思ったらパスパレと一緒ですって!」

「うわぁ、榛名さんどんまい」

 

 地獄の責め苦に耐えたらワンチャンパスパレ集合した中に入れたかもしれないということを知ってまた合掌する。本当に不憫や、遼くん。

 パレオさんの名前を出すと唇を尖らせてちょっと面白くなさそうなチュチュさん、だけど一人で相当暇していたのか──もしかして仕事していたかもしれないけれど、すんなり上げてくれた。

 

「で、ハナシって何? パレオかと思ったらワタシ?」

「まぁな、なっ、ロック」

「う、ウチに振るんや……えと、チュチュさんって、榛名遼って人のこと、知ってますか?」

「ハルナ……ああ、パレオから少しだけ、確かパレオのセンパイだったかしら」

 

 流石のパレオさんもチュチュさんには話してたんだ、と安堵する。パレオさんにとって絶対的な存在である彼女にまで隠していたら絶望的だったけど、これで希望とますきさんの無茶な作戦は実行できそうな予感がしてきた。

 パレオさんがチュチュさんを大好きなように、チュチュさんもまたパレオさんのことを大切に想っているのだから。

 

「なるほどねぇ……それでRASの活動にまで支障が出るかもしれない、と」

「そうだな、後はロックとパレオの関係も悪化するだろうな」

「それは心配してないわ、ねぇロック」

「は、はい! もちろんです!」

 

 言えない、気まずくて練習どうしようとか思ってたことなんて絶対に言えないんやけど! 

 ──それはともかくとして、この話の流れで大事なのはどっちに非があるとか関係なしに遼くんがパレオさんを傷つけたということ。ましてやそれが原因で今、自分が放置されてパスパレさんと遊びに行ってるとあればチュチュさんの怒りは頂点に達するだろう。

 

「レイヤ……は、もうそろそろ寝てる時間ね、それなら明日事情を説明して──」

「え、レイヤさんも巻き込むんですか!?」

「トーゼンでしょ! これはRAS全体に関わるハナシ! とすればフルメンバーで圧を掛けるべきだわ!」

「チュチュさんの個人的な話やと思うのは気のせいでしょうか」

「気にすんな」

 

 気にしますけど! 当初の計画だと攻撃役チュチュさん、ブレーキ役ますきさん、フォロー役私という役割分担で話し合いの場を強制的に設けるという話だったのにいつの間にか「RAS」で襲撃を掛ける話になってますけど。

 ますきさんは軌道修正を諦めた、というより最初からしようとしていないようでボルテージの上がるチュチュさんに賛同してしまった。

 いや、でも込み入った話やし、あの冷静なレイヤさんが安易に乗ることなんてない筈──それどころかチュチュさんを宥めてくれるに違いない! この勝負、ウチの勝ちや! 

 

「うん、わかった、私も行くよ」

「OK! なら早速向かうわよ!」

「なんで!?」

 

 翌朝、レイヤさんにそれぞれチュチュさん、私、ますきさんが凡その事情を説明した後のリアクションに私は思いっきりツッコミを入れてしまった。

 だが当のレイヤさんは不思議そうに私を見て首を傾げていた。

 

「なんでって、RASに関わることだから、無関係じゃないでしょ?」

「な、なるほど……確かに筋は通っとる」

「それに、チュチュはあまりに攻撃的すぎるからますきだけじゃブレーキとして不安だし、逆にロックだけだとその榛名さんって人に寄り添いすぎて、最後には代理戦争になるから」

「うぐ……的確」

「攻撃的すぎるってなによ!」

「いやそのまんまだろ」

 

 何も言えなくなってしまうほど冷静な状況判断だった。レイヤさんの言う通り三人で行けば最後にはきっとチュチュさんと私が言い争うことになりそうだ。そうなれば今度こそRASの信頼関係にも響く。ますきさんが懸念していた色恋でダメになったバンドになってしまう恐れまである。

 

「んじゃあ、レイは私と一緒にブレーキ役か?」

「ううん、チュチュの言葉をマイルドに伝えるスピーカー係かな?」

「必要ない! 凹むならそれまで!」

「それはダメ、あくまでこれはパレオとその彼との間、プライベートなんだから」

 

 レイヤさんが「RAS」としての意見というか、遼くんに会いに行く理由を纏めていく。やっぱり、こういう時にレイヤさんのリーダーシップは頼りになる。

 良くも悪くも暴走しがちな私、ますきさん、チュチュさんをパレオさんとはまた違った形で時に諫め、時に前を走るところが尊敬するところだ。

 

「じゃあ、行こうか」

「はい!」

「おう」

「……で、家は何処よ」

「あ、そういえば忘れとった。ウチしか知らんのや」

「案内しなさい!」

「は、はぁ……」

 

 チュチュさんに言われて今更ながらこれでいいのかと思ってしまった。

 間違いなく、遼くんにとっては泣きっ面に蜂となりかねない。特にチュチュさんは怒り心頭だし、レイヤさんがいるとはいえ。

 

「なんとかするために家に行くんじゃない?」

「そ、そうなん……ですよね」

「不安そうだな」

「トドメ刺したりしそうで」

「トドメって」

 

 多分、遼くんは傷心中だろうし、全部マイナスの方面に取られたり拒絶されたりした場合、チュチュさんの強硬策で状況が悪化する恐れはある。

 案内しながら、チラリとチュチュさんの様子を確認する。腕を組みつつ明らかにイライラしとる。

 

「今更ですけど、本当にいいんですか、こんなことして」

「いいんじゃねぇの、今回はあいつらだけの問題じゃなくなっちまったからな」

「大丈夫かな、私は正直、その榛名さんって人のこと良く知らないけど」

「私も本人とは知り合いだけど、パレオとの関係には詳しくねぇしな」

「ワタシにはソイツがどんな男かなんてどーっでもいいわ!」

「ちゅ、チュチュさん……声大きい、近所迷惑になってしまう」

 

 遼くんのアパートが近くなって、ドキドキする。

 でも私は、またいつもの二人になって欲しいと思う。普段のパレオさんと遼くんがどうかは知らない。それは二人だけの世界で、ウチが入りこめる余地なんてどこにもない。

 私が知ってるのは、パレオさんがとっても明るくて、好きに一途で元気な女の子だってことと、遼くんがいつも笑っていて、くよくよしない前向きで好きに一途な人だってことだけ。

 だから、そんな二人の笑顔が曇るのは見過ごせない。

 

「お、おい足音……デカイって」

「怒りの表現よ!」

「わ、わぁ、大激怒や……」

「ウチのパレオを泣かせた奴には地獄を味わってもらわないと気が済まないじゃない!」

「実は……これがパレオにバレた時にどうなるか、というのも怖いけど」

「た、確かに」

 

 最後までパレオさんには何も言わんと出てきてしまった。遼くんが出かける前に首根っこ掴まえておきたいというチュチュさんのねらいだったけど。

 もしバレて、バレたら……あれ? 

 

「ってウチが悪い流れや!」

「あはは、そうだな、榛名の家とか色々チュチュに教えた張本人だもんな」

「う、うぅ……榛名さん、ゴメン!」

 

 冷静になると個人情報安易に漏らしてしまっとる。遼くんにとって私にも中々アパートのどの部屋までは教えてもらってなかったくらい、推しであるRASが近くに来ないように努力しとったの忘れてた。まぁ、マンガ返してくれんかった時に強引におじゃまさせてもらったんだけど。

 ──パレオさんにも遼くんにも謝ることがたくさんあるなぁと反省しているとチュチュさんは一息つく間もなく遼くんの部屋の玄関前に取り付けてあるインターホンを押す。確かドアホンだった気がするからカメラを確認して仰天していることだろう。本当にゴメン。

 やがて、スピーカーから遼くんの声が、困惑した声が聞こえてきた。

 

『は、はい……えっと?』

「は、榛名さん……その、ごめんなさい」

『何故謝るんだロック』

「アンタがリョウね」

『はいそうですが……えっと、チュチュさん?』

「OK自己紹介はいらないようね、それじゃあ──面貸しなさい」

 

 今の遼くんの状態が地獄に叩き落されたとするなら、さしずめウチらは地獄を住処にする鬼やろか。特にチュチュさんのネコミミヘッドホンが鬼の角に見えていることだろう。

 何度目かわからない合掌を、最後は心の中でしておく。ご愁傷様、ウチのせいなんやけど。

 

『えと、き、着替えるんで……少し、待っててください』

「いいわよ、少しなら待っててあげるわ」

『し、失礼しまーす……』

「──シャワーでも浴びてたのかな?」

「……多分」

 

 か細い声での返事とレイヤさんのリアクションにますきさんが少し噴き出した。

 よかったのは変な方向で緊張感がないことくらいか。そこは遼くんだから、まぁしょうがない。

 ファイト、ウチは心の中で応援しとるから。あくまで、心の中で、やけど。

 

 




最初で最後であろうロック視点でした。まぁフラグはね、立ってたよ大分前から。

次回はついに地獄の家庭訪問が始まるよ!
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