ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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二話:二人の道のり

 バスケやるヤツってダボッとした服装を好むよね、なんでだろうか。

 これには一つだけ俺も知ってる理由があって、単純でバスケやってるヒトはダボッとした服装が多いから真似してるだ。俺がそうだもん。まぁもう中学でやめたんだけど、服装の好みってのは中学の時からあんまし変わってない気がする。

 

「まだいたんですか」

「まだいるんだよ、春休みだからね」

「バイト、あるんじゃないんですか?」

「帰省しなって言われちゃったよ」

 

 家の庭にあるリングに向かって、ボロボロになったボールを放り込む。一年のブランクのせいか、ボールの滑りのせいか、随分と下手になった俺のシュートはリングから外れて彼女の足元へと吸い込まれていく。

 ジャージ姿の令王那は、どうやら走っていたようで、眼鏡を外しており、イヤホンをケースに収めながら手のひらよりも大きなボールを両手で持ち、軽く膝を曲げながら放物線を描くように投げていく。

 

「──お見事、流石スポーツ万能」

「やめてください」

「ごめんって」

「謝る気のないごめんですね」

「この前のこと、怒ってる?」

「まぁ」

 

 ネットを通り抜けたボールを拾い、バウンドさせるのを眼で追いつつ令王那と話をする。まぁ、なのか。俺にはかなり、に感じるんだけど気の所為かな。

 中学卒業以来、彼女と直接言葉を交わすことは本当に久しぶりだ。メッセージで親のこととか、何度かやりとりはしたが。

 

「なぁ」

「なんですか」

「パスパレ、一回も一緒に行ったことないよな」

「センパイとは絶対に一緒に行きませんと前にお話したはずですが」

「一人は危ないって」

「お構いなく」

 

 敬語は敬語でも先輩に対する丁寧語的な意味合いじゃなくて他人行儀な敬語で拒絶されるのは流石にショックがでかい。パスパレのこととなると態度が急に硬化するんだもんな。こういう時は共通の趣味で関係改善を図るもんじゃないんだろうか。

 なんて言ったところで次はセンパイと改善する関係はないです、とまたトゲのある言葉が飛んでくるのが令王那って後輩だし、黙ってても何か言葉が飛んでくるのもこの後輩らしい行動だ。

 

「オタクの界隈において女連れはステータスですからね」

「……そういうつもりじゃねぇって」

「知ってます、そういう腹芸が得意じゃないことくらいは」

「得意だったら恋人を引き留める甘いセリフくらい言えたかもな」

「センパイは演技クサくなりますからね」

「笑顔で言うな」

 

 ──ふと、そこで自分が未練のまま暗い顔をしてることに気づいた。ダメだな、こんなんじゃ。まるで地元に帰らなかった理由は元カノのことを思い出して未練がましくああすればよかったと息を吐くことだと思われてもしょうがない。

 冗談抜きで帰るのがめんどくさかったからってバイト入れまくったのに勘違いされてしまうじゃないか。

 

「センパイ、未練あったんですね」

「あったことに俺も驚いてる」

「私も、驚いています。ヒトに執着するんですね」

「指には執着エグいけどな」

「わざわざ言わなくていいですよ、ストップ安なんですから」

「株下がってましたかね?」

「現在進行系で」

「上げといてくれよ後輩」

「私、センパイに投資はしたくありません」

 

 ひどすぎるだろこの後輩。ああいえばこうトゲが飛んでくるんだが。しかもいい笑顔でだぞ。

 そのうえ更にひどいのがこの後輩のヤバいところである。何がってこれがその日最後の会話だからだ。

 何が悲しくて後輩に私、センパイに投資はしたくありませんといい笑顔で言われて会話が終了しなくちゃならんのだ。ムカつく。

 中学の旧友に愚痴ると「仲がいいのか悪いのかわかんない」と言われて俺もわからんとしか返せなかった。

 

「令王那?」

「……せ、センパイ……どうも」

 

 そんな彼女を駅の近くで見つけて声を掛けた。あまりにも遅い時間、見つかれば補導されかねない時間に駅から一人で出てくるもんだから驚いてしまう。

 終電一時間前ってところだ。こんな時間で見かけて声を掛けないわけにもいかないだろう。

 

「こんな時間に帰りか?」

「はい、それじゃあ」

「おいおい、待て待て待て」

「なんですか……」

 

 いやなんですかじゃないでしょうが、間違いなく中学生が一人でうろつく時間じゃない。

 私服姿の令王那はその落ち着いた雰囲気も相まってとてもじゃないが中学生には見えない。それにしたってこんな遅い時間に帰るのを見てじゃあと見送るわけないだろ。

 

「両親は?」

「知ってます、この時間に帰ってることも許可してもらってますし、迎えに来てもらうところです」

「……一人で帰ろうとしてた癖に」

「今日は少し遅くなりすぎましたから」

「だったら余計に一人は危ないって」

 

 そう言うと後輩は後一回二回くらい何か言いたげにしてから口を閉じて大人しくなった。この時間から千葉方面からの電車なんて、友達と遊びに行くようなタイプじゃないし、それだったら友達いるはずだしそもそも絶対にオタク隠してるからなぁ。俺が知ってるのは偶々部屋を見たことがあったってだけで。

 

「……悪い遊びとかしてないよな?」

「してません、センパイじゃないんですから」

「俺もしないよ?」

「どうですかね、高校生になったからって髪の毛染めて、ピアスまで開けて」

「これは俺なりの武装というか、なんというか……話そらすなよ」

「残念、バレましたね」

「親が許可したって言ってもさ、素行の悪いヤツとつるんでたらって思われて当然の時間だよ」

「……素行不良、まぁ……うん……?」

 

 これで相手がいることは確定のようだ。しかも大丈夫と言い切れない程には素行が悪いらしい。ヒトのことを言えないが縁を切った方が良さそうな連中なんだろうきっと。

 後は、治安の悪そうなところに連れられて派手な格好するとかさ。

 

「治安、悪い……派手、は派手……あの妙に否定しづらいんですが……わざと言ってます?」

「否定できないのヤバいでしょ」

「センパイは妙なところで切れ味が悪いの、忘れていました」

「じゃあ教えてくれたっていいんじゃない?」

「嫌です」

「キミ俺のこと嫌い過ぎじゃない?」

 

 そこで令王那の足がピタリと止まった。二歩前に出た俺が振り返ると彼女は「クラス委員長でクールな眼鏡の優等生」である鳰原令王那の顔をしていた。

 笑顔ではあるが、その顔に本当の気持ちはなに一つ込められてない──ただ諦観と怒りに似た気持ちが彼女の仮面(ペルソナ)を彩っていた。

 

「私が榛名(はるな)先輩のことを嫌うわけないじゃないですか」

「……令王那」

「先輩がいてくれて助かりました、本当はほっとしてましたよ」

「──そっか」

 

 こうなった令王那はとにかく頑固だってことを俺は嫌というほど理解しているつもりだ。この仮面を壊せるのはそれ相応に令王那と向き合って、令王那の本当の気持ちを言葉に出来るやつだけ。

 少なくとも俺には絶対に不可能だ。そしてこれが、鳰原令王那の指が好きであっても苦手な理由でもある。

 

「いつまでここにいるんですか?」

「明日」

「……そうですか」

「そのリアクションは喜んでるの、疑ってんの、どっち?」

「どちらもです」

「残念ながら真実、明後日にはパスパレのトークイベントのために横浜にいなければならないんだな」

「なるほど」

「一緒には、まぁ無理か」

「無理ですね、私はセンパイの同志足り得ませんので」

「……残念だ」

 

 指フェチの同志は集おうとするのが無茶ってもんだ。そんなバカな真似はしない。

 だが、パスパレの同志なら或いはなれるのかもなんて淡い期待を抱いていた俺は大馬鹿野郎なのかもな。

 そもそもここから横浜はちょっと遠すぎるし、東京周辺でイベントする以上バイト出来ない中学生の令王那じゃ昔のパスパレならまだしも今の頻度は決定的に資金不足に陥るだろうし。

 

「ぼっちが嫌なら近場で恋人か友達を作って参戦していただけると助かりますね」

「うーん、ロックに誰かいないか聞いてみようかな……周囲にパスパレのオタクいる? ってさ」

「……え?」

「なんで訊き返したんだよ、だってまだ学校始まってない以上、すぐ相談出来るのってロックだけだし」

「はぁ……推しバンドのメンバーに対して気安いんですねセンパイ?」

「ええ、めっちゃ怖っ」

 

 何が地雷だったんだろうか。全くもって皆目検討がつかないんだよなぁ。

 ただ、いつの間にか強情な仮面は剥がれておりちょっとだけほっとしたのは内緒だ。

 その代わり今度の令王那はより鋭利な刃物を持ち出してくるわけだけど。

 

「そもそも知らないんですか、パレオのこと」

「パレオさん?」

「SNSでパスパレと併せて検索してみてください」

「……んっと……なになに?」

 

 ざっとスクロールした情報によるとRASのパレオさんはとんでもなく重度のパスパレオタクで、いつもライブで違う被っているツートンカラーのウィッグやカラコンまで変えて推し色として参戦してくる猛者だったというらしい。へぇ、知らなかった。明るいところでファンの目撃情報も多く、またプライベートでパスパレメンバーとも交流がある。

 

「う、羨ましい……」

「ロックさんに訊ねたら十中八九彼女を紹介されるでしょうね」

「つまり頑張ればイヴ×パレオに遭遇出来る……?」

「え、そっち?」

「推し指×推し指……それは何? 聖域、楽園?」

「気持ち悪いんで……えっと結構本気で」

 

 令王那がドン引きすることはないと言いたいが、送ってもらっている相手が変態ならばそのリアクションも仕方のないことなのかもしれない。身の危険を感じるというやつだろうか。

 よくよく考えなくてもイヴ×パレオとの遭遇を狙おうとしたら自然となるものがあるもんな。ストーカーって言うんだけど、あれって犯罪だもんね。

 

「未来の犯罪者と暗がりで二人きりは怖いな、たしかに」

「そうなりますね、ならないでいてくれるといいんですけど」

「……令王那はもうエレクトーンやらないんでしょ?」

「通報したほうがいいですかね」

「それは早計ってもんだよ」

「今私の指の話、しようとしましたよね?」

「はい、しました」

 

 令王那が鍵盤に指を滑らせているのを最後に観たのは卒業式の時だった。ピアノを弾く彼女の姿に俺はやっぱりキレイだと卒業とは全く別の方面で感動してしまっていたわけで。小さな頃からエレクトーンをやっていて、俺も上達しなかったけどやってたんだよ──でも上達しなかった俺とは違って、令王那は鍵盤に愛される手指を持ってて、きっとこの性癖(フェチズム)は一種のコンプレックスが思春期に捻じ曲がって形成されたんだろうとも思う。

 そんな話を彼女に振れば怒られるんだけど。まぁ変態に変態が興味持つ部位の話をされたら誰だって嫌なもんだろう。

 

「まぁバレーでもバスケでもさ、気をつけなよ」

「はぁ」

「突き指とかしたら最悪形が歪──すいません、許してください」

「センパイは相変わらず最低です! もう家もすぐそこなので、失礼します!」

「……知ってるって」

 

 家の場所なんて当たり前のように知ってるよ。そこまでの道だって眼をつぶっても歩けそうだし、それに俺が最低なのも知ってる。

 最低の変態で、怒るのわかっていてまた同じ話をして。

 明日になれば俺はアパートに戻って、令王那とこうして顔を合わせることもなくなるからって嫌われようとする自分がなんて情けない変態なんだろうなって思ってしまう。

 

「やっぱ俺、ストーカーとかで捕まりそうだな」

 

 中学の時の友人から「最近、あの子は学校終わると速攻で電車乗って、帰りはかなり遅い時間らしい」って情報に踊らされて一時間ほど待ちぼうけをしていたんだから。

 偶然を装って、暗い夜道を二人で歩く。我ながら女々しくて、気持ち悪いヤツだよ。

 でも結局肝心なことは聞けないまま、お節介というかただのストーカーは無事に再び都会へと出荷されていく。だから次は夏か、それとも冬かという話だったのに。

 

「……通報しても許されますよね、私」

「許されるだろうけど、許して、偶然なんだって」

「二度続けば偶然ではなく必然です」

「じゃあ必然……やっぱ今のナシでお願いしようかなぁ」

「吐いた唾は飲み込めませんが」

 

 今回は本当に偶然なんだって、とも言えない。前回が偶然じゃなかったことを自ら証明するなんてしようものなら語るに落ちるというやつである。名誉を取り戻そうとしてさらなる汚名を被るくらいならこちらから泥を浴びてやろうじゃないか。生憎と変態の称号なら既に実績解除済み、ブロンズトロフィーだ。

 

「……よくはないですが、いいです……どちらまででしたっけ」

「高田馬場だよ、令王那は?」

「教えませんよ、なんで訊くんですかむしろ」

「そりゃそうか、別の車両の方がいいかな?」

「どこで乗り換えますか?」

「上総一ノ宮……と南船橋」

「……ならいいです。そこまで気を遣わなくても、どうせ暇なので南船橋まで話し相手になってあげますよ」

「東京方面まで一緒か、本当に何処まで行ってるんだよ」

「詮索するとストーカーと判断します」

 

 外房線の長い道のりを二人で揺られるということになる。俺もバイクがあればもっと時短出来るんだけど、免許取る時間とお金、そしてリスクと維持費が見合ってないと判断しやめた。そもそも高校までそう距離もないし駅近だから大体電車で済ませちゃうんだよな。

 それから、俺と令王那は一時間揺られた後、一度乗り換えて南船橋で俺が降りるまで一緒だったものの、特に何かずっと会話するわけでもなく時折パスパレの話をして過ごしていった。

 武蔵野線に乗り換えながら、毎日これは絶対に無理だなと閉まるドアから見えた黒髪と、慣れた様子の横顔を思い出しながら日常へと戻っていった。

 

 

 

 





○実在する地名を用いていますがフィクションです、勿論。
 安房鴨川駅〜高田馬場駅まで三時間ちょっと、パレオは〜大塚駅までなので同じく三時間ちょっと。彼女はこれをかなりの頻度で往復しているという設定なので、すごいなぁという気持ちです。中学生だよ?



どうでもいいかもしれませんがオリ主くんフルネームは榛名(はるな)(りょう)くんです。基本的に名字で呼ばれるので榛名ちゃんと作者は呼んでいます。
元々は別の作品のキャラクターとして用意していた名前でしたがボツになったので流用。





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