ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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頑張るロックにトドメを刺すためにやってきた地獄の使者!


二十一話:地獄で仏

 推しが、幼馴染で後輩の鳰原令王那だった。

 こんなアホなことがあるんだろうか、いやあるんだよ。今現実になってる。

 後輩セコムと化したRASのみなさまに家凸されたと思ったら、そこに乱入者──それこそがパレオさんだったのだ。

 

「というわけで、みなさまはお帰りください~、ここからはパレオとセンパイの二人で解決させますので!」

「ロックんちで待機するか」

「そうだね」

「いいわよ」

「ええ!? ウチはいいってゆっとらんよ!?」

 

 パレオさん、いや令王那? もうわからん、頭がこんがらがるからウィッグしている間はパレオさんって呼ぶことにしよう、そうしよう。わぁいパレオさんだ! 推しが今目の前に、家にいるぞぅ! ちょとこれは記憶消しすぎだな。

 

「……行くぞロック」

「……はい」

 

 最後にロックが部屋を出て、俺とパレオさんだけになった。後で代表してロックに色々感謝しておこう。いやびっくりしたし、正直迷惑だった部分も多いけど、誰かに話すことですっきりしたのは事実だ。お礼に何かしてあげれればいいんだけど。

 ──それより、今は目の前の問題に対処しないと。

 

「さてさて~、何から話しましょうか……というか、大事な部分はマッスーさんとお電話した際に大体聞いてしまいましたから、パレオのお話でもするとしましょう!」

「……あ、なんか、テンション違う」

「何を隠そう、これが令王那(パレオ)の素というか、本来の内面だったりするのです! センパイがご存じの通りクール系優等生はパレオの厚い厚い鉄面皮ですからね」

「な、なるほど……なんか慣れないけど、わかった」

 

 つまりはトーンが高くてハキハキしていて、一つ一つがいちいちかわいいこの生き物が令王那の本当の姿、というわけだ。鉄面皮厚すぎっていうか二層構造だったわけね! 時折機嫌がいい時の口許の緩みとか、テンション上がった時の反応は仮面の下から漏れ出ていたものと解釈していいんだろう。

 

「きっとセンパイは令王那と呼べばいいのか、パレオさんと呼べばいいのか迷っておられるかと思いますので、よろしければパレオから提案しても?」

「どうぞ?」

「では、気軽にパレオとお呼びください♡ 今後もパレオのことを思い浮かべる時はパレオとお呼びいただけると嬉しいです!」

「よろこんで」

 

 推しにそう言われちゃしょうがねぇ! まぁいいや、よろしくなパレオ!

 というわけで頭を切り替えて、推理モードに移行する。まぁこれも一種の武装だなと、物腰丁寧なところにぎこちなさがある、パレオがパレオと呼ばれたいこと、というか元の自分を結構嫌っていた部分あったからな、チュチュさんと出会って見つけた「本当の、そしてかわいい自分」を表現しているとみていい。いや実際かわいいし、ドキドキが止まらない。というか普段は絶対にしない爪の手入れ、めっちゃかわいいね。キミどこ中? てかラインやってる? 

 

「ネタが古いですセンパイ」

「よし、それだパレオ、そのテンションで固定してくれ」

「……まぁいいですけど、これ、かわいくなくないですか?」

「いや、俺にとっては自然体のパレオが一番だよ」

「──っ! お、推しを口説くなんて、オタクの風上にもおけない変態ですねセンパイは!」

 

 おお、ちょっとテンションが高くて面白い。

 ってパレオで遊んでる場合じゃないな、話が全然進んでない。なんか喧嘩別れっぽい雰囲気出してたのに一晩寝たらほのぼのしちゃってるじゃないか。シリアスを保とう、頑張れ俺、推しの前だろうがなんだろうがこいつは後輩! 

 

「それで後輩、いや予想はできてるけど何処から話聞いてた?」

「予想通りマッスーさんが席を外した時からです」

「ですよね!」

 

 じゃあ一番聞かれたくないというか、聞かれたらハズいところから聞いてますよね!

 だから妙にそわそわしてるんだな、お前、笑うつもりだろう! 人の勇気を振り絞った告白を笑うなんて鬼! 悪魔! 推し! 

 

「笑いません、でも勇気を振り絞ったって、パレオに聞かせるためじゃないですよね」

「いや、だって……」

「ロックさんに愛を囁くんですか、パレオという恋人がいながら浮気ですかセンパイ」

「元恋人な! 今は推しであり後輩であり幼馴染!」

「はい、元であり、未練たらたらの後輩であり幼馴染です」

「……あ、え」

 

 パレオの言葉に一瞬、フリーズした。

 え、コイツなに言っちゃってるの? 未練たらたら? えっとつまり? いや嘘、はいダウト、嘘乙。今の冗談はたとえパレオだったとしても笑えないからな。

 

「パレオも、気づいたのはつい最近です。きっかけは……なんだったのか忘れました」

「それはマジで嘘」

「察しがいいのか悪いのか、嘘吐いてでも、本当のことは言いません」

 

 その微笑みは確かに後輩と同じで、よく一緒にいる時にしてくれた顔だった。

 俺としては謎すぎて困惑していたこと、疑問だったこと、パレオという一言で全てが片付いてしまった。パレオは俺のことをよく知りすぎている。多分バレたら喜々として俺が中学の同級生に布教したり、逆に後輩として接することができなくなって一年ぶりに会えて、コッチで紡いだ時間が全部また逆戻りして疎遠になるのが嫌だったとか、そういうのだろう。

 布教は、こういうバラされかたしなきゃしてただろうしパレオだと知って距離置こうともなっただろう。流石すぎる慧眼だ。

 

「推し活、パレオでしてるんだもんな、俺と行けるわけないわ」

「それはもう、身バレの危険性最大ですので、本当にヒヤヒヤでした」

「パスパレとプライベートで関係があるのも納得した。横のつながりってやつだな」

「はい、パレオはこれでもRASのキーボードメイドですので、元々認知されていましたし、バンドでこの近辺を歩く機会は倍増じゃききませんから」

「成程なぁ、すっきりした」

「それは……本当に今まで黙っていてすみませんでした」

「いいよ、パレオは間違ってない。知ったら絶対に中学の後輩、めっちゃかわいいし最高のパフォーマンスしてるから一緒に行こうぜ! って誘ってたよ」

 

 そっかそっか、あの令王那がパレオか。

 好きを口にできなくて、表に出せなかった後輩が今や好きとかわいいを武器に弾いて踊って動き回る、アグレッシブでバイタリティマックスの最強キーボードなんだもんな。

 ──ん? 待てよ、パレオ=令王那ということは? 俺は割と布教というかパレオ本人に感想とか褒めちぎったような。

 

「……ふふふ♡」

「うわー! 忘れて、記憶消して! いち、にのポカンで忘れよ!?」

「誰がポケモンですか」

 

 終わりです、もう終わりです。オワオワリです! 

 かわいいとか愛してるとか、めちゃくちゃ後輩にしゃべりまくってたけど俺! 未練たらたらの元カノに推しの愛をぶっちゃけてる時点で結構ヤバイことしてる自覚あるのにそれが本人だってどんなミラクルも起き放題だよ!? パーリーピーポーだよ!? 

 

「取り乱しているところ申し訳ないのですが、センパイの声は結構通る上に静かになるタイミングを選んでくるのでステージ上からでも聞こえてますよ」

「やっぱり?」

「はい」

「……じゃあ、どのみち知られてたってことか」

「はい、センパイからの愛はパレオに届いておりました」

 

 推しに認知されてた! いや先輩だから当たり前なんだけど、俺がパレオ本人にパレオの布教する前にはもう知ってたってことか。

 訊くまでもない、パレオの表情がもう、そう物語っていたから。

 

「じゃあ、俺から言いたいことはなんもないよ」

「……けど、千聖さんの件は」

「ああ、お前がRASのパレオだって前提があればそれも納得できる。そのことを主に相談していたんだろ?」

「そうです、けど」

「けど?」

「パレオは、センパイに謝らないといけないことばっかりです」

「いいよ」

「まだ何も言ってないのに!」

 

 いいんだよ、もう怒ってもないし気まずくもない。ずっと心に巣食っていたモヤモヤはチュチュさんたちが来てくれたことと、パレオが来てくれたことですっかりなくなってしまった。

 これからはまた、元通り推し活を生きがいにする変態指フェチオタクとしてハイテンションに生活していくさ。

 

「ところでさ」

「はい?」

「パレオって、後輩モードの時より今の方が丁寧に指回り整えてるよね!」

「……は?」

「ずっと気になってたんだよ、爪の手入れとかさ、やっぱキーボード弾くから? こうツヤツヤしているというか、うまそうというか」

「センパイ?」

 

 話がひと段落した、と判断し俺はずっと、パレオがここに来てからずっと気になっていたことを切り出してみた。うまそうはちょっとダメだった気がするが、でもこう後輩の指もキレイだし触れようもんならドキドキしっぱなしだったけど、そこにキレイを保とうとする努力の跡が見えてしまうとこうなんというか、また別の味があって、推し効果もあるんだろうね、今までは遠くで眺めるしかなかった指、手が間近に、触れ合えそうなところにあるんだよ。

 

「ちょっと、いやほんのちょっとでいいから……夢にまで見た推しの指、間近で見せてほしいんだけど……センパイ特権でさ、ね?」

「ふふ、ぜーったい、嫌です♡」

 

 こうして勇気を振り絞ったお願いは見たこともない程に怒気を含んだ笑顔で跳ねのけられてしまった。

 ただそれで毒気を抜かれたようにパレオは俺のよく知る仕草でため息を吐いてきた。

 

「ハルは、これで話終わりにするつもりですか?」

「え、あ……いやまぁ、今日は色々ありすぎたからさ」

「自分で告白しといて、自分勝手」

「告白のつもりはなかったんだけど!」

 

 いや本人に聞かせるつもりがなかったというだけで告白ではあったか。楽しそうな顔しやがって、それだけで俺はパレオの気持ちが肯定的か否定的に傾いているかがわかるというものだ。こんな顔、初めて見たが知ってもいる。これは好きという気持ちを頑張って隠そうとしている顔だからだ。

 

「返事とかは、いらないから」

「どうして? パレオは、お返事してもいいんですけど」

「わかってて訊いてるだろ、俺は推しと付き合うとかそういう妄想をするタイプじゃないんだよ」

「……パレオは推しですか?」

「推しだよ、後輩で幼馴染で、元カノで……好きな人ではあるけど」

 

 幾ら好きでも推しは推し、しかも相手はパレオだ。こんな厄介オタクが付き合いましたなんてバレた日には大炎上で顔バレバイトバレ学校バレからの住所特定、ライブにもおちおちいけなくなってしまう。勿論、そこまで最悪にはならないかもしれないけど、そういう危険性があるというのが目の前の彼女なんだよなぁ。

 

「わかりました、ハルの気持ちはよく伝わった」

「うん、だから」

「でも、パレオはハルが好き、ずっと──ううん、別れて、改めてもっともっと好きになった」

「いや俺は、パレオに好かれることなんもしてないけどな」

「そうだね、でもハルにしかない強みがあるでしょ?」

 

 強み、はてなんでしょうか。つまりパレオを惚れさせるほどの強みってことだよな、俺の長所というかアイデンティティなんてクソオタクであることと指フェチ手フェチであることくらいしかないんだけど。え、他になんかあったっけ? 

 

「それは、パレオの全てを知ってること♡」

「全て……?」

「RASのキーボードメイドとしてのパレオも、パスパレオタクとしてのパレオも、それどころかかわいくなかった頃のパレオも、かわいくないからかわいいものに憧れていたパレオも、全部知ってるのはハルだけ」

「それだけ?」

()()()()がパレオにとってはすごく大事なことなんです!」

 

 ぶっちゃけパスパレオタクとしてのパレオはよく知らない、とは言えなかった。多分返しでこれから知っていけるでしょとか言われる。

 パレオって押しが強いんだよなぁ、あのクールビューティーモードじゃ想像つかないけど、いや俺んちに無理やりやってきてメシ作ってたな最近も。あれも好意アピールだったってことね、なるほど。鉄面皮のくせに行動は素直なんだよな、やっぱ大型犬イメージは間違ってないな。

 

「なんなら、パレオのご主人様になってみますか?」

「あのね、キミまだ中学生でしょうが」

「そうだね、高校二年生さんはそんな中学生にぞっこんのようですけれど?」

「ははは、そう言うと犯罪チック~、やっぱり付き合う方向はナシだな」

「うちはうち、よそはよそですよ、ご主人様ぁ」

「その呼び方、二度とするなよ?」

 

 シャレになっとらん。そういうエロいプレイかペット系カノジョを道端で拾うとかいう頭のおかしい導入でしか聞いたことのない呼び方はやめんか。俺は好きです、ペットプレイ。

 じゃなくて、チュチュさんに悪いです、流石に。

 

「パレオは今、とっても嬉しいです。雨降って地固まるとは言いますが、まさにそんな感じで、モヤモヤしていたこと、結局スッキリしちゃいましたし」

「確かになぁ、でもこういう状況じゃなきゃ、最悪のバレ方からの布教コースだったよ」

「じゃあやっぱりパレオは間違ってない、ということですね!」

「悲しいことに」

 

 俺とパレオは改めて、先輩後輩の関係であり両想いながら色々と複雑な事情と利己的な理由で恋人関係は結ばず、先輩後輩以上恋人未満みたいな曖昧な関係を続けていくことで合意した。

 そして二人きりとか特殊な状況ではない限り、つまりは素の黒髪である限りはパレオのことを「令王那」として扱うこと、イベント等その他の「RAS」として活動している最中はいちオタクとして振舞うから特別扱いはしないこと、目移りしたなら話し合って筋は通すことなど様々な条件を書面で確認させられた。役所かよ。

 

「目移りって、まぁいいけど」

「センパイ、どうやら絶賛モテ期らしいので」

「そうなの!? どこ情報?」

「秘密です」

 

 俺の方はそれを実感してないからソースを教えろよ! と迫ったものの嫉妬するからという理由で拒否された。まぁ、そりゃそうかと論破された俺は大人しく彼女を旭湯にまで送り届けていった。といってもかなり近くなんだけどさ。

 

「ハル」

「ん?」

「ふふ、やっと遠慮なくコッチの名前で呼べそうですね」

「ちょいちょい漏れてたけどな……パレオなりの線引きだったってことか、センパイ呼びは」

「そりゃもう、ハルには嫌われてると思ってましたから」

「お互い、バカみたいなすれ違いしてたんだな」

「パレオは意味のあるすれ違いだった、と思うようにしています。その方が、今が幸せなのにも意味があるって思えますから」

「じゃあ、俺もパクらせてもらおっかな」

「どうぞ」

 

 朝早くから凸られて疲れたけど、この太陽の下で明るく手を振っていく彼女を見られたんだから一応三文の徳、ということにしておこう。

 七月ももうすぐ後半、どうやらもうそろそろ、雨が続く季節も終わりを迎えるらしい。俺は朝から照り付ける日差しに汗を掻きつつ、自転車で三分の道を駆け抜けていった。

 

 

 

 




こうして二人は順調に交流を積み重ねていくのでした。

また明日!
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