ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由 作:黒マメファナ
お互い両想いなことが発覚したパレオと榛名ちゃん
めでたしめでたしハッピーエンドで終わり! と思っただろう!
なんせ俺が同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由は全て解消されてしまった。すれば必然この後はキミの想像にお任せしよう! という展開が待っているのがセオリーだ。
だが、実はなーんにも解決しちゃいないんだよ。理由は判明したし解消されたけど結局俺はドルオタ後輩とオタ活をしてないんだからなぁ!
「というわけでさ、令王那、次のイベント一緒に行かない?」
「え、嫌ですけど」
「……え」
すっかり夏本番、夏休みも終わりが見えてきた八月中盤、つまりはお盆の時期である。
「ど、どどどどうして!」
「よくも言えましたね、センパイ?」
「なんで怒ってんの!?」
「パレ……私のデートの誘い断った回数を数えてくださいます!?」
「パレオ漏れてるよ」
そうですねと回想する。パレオがパレオであることを、ややこしいな──この後輩、鳰原令王那がRASのキーボードメイドであるパレオだと知った日は七月の中頃、あの後すぐに夏休みが始まった。夏はイベントが盛りだくさんだ、夏フェスに肉フェス、ツアーにサマーイベントなど目白押しだ。
「肉フェス以外……いえ、肉フェスも音楽目当てですからバンド以外に海とか山とかないんですか」
「俺、インドア」
「そんなの私だって似たようなものですが」
とまぁイベント尽くしだったこともあり俺はイベントがなければバイトにバイト、短期バイトに闇バイト──はしてないが、ちょっと引っ掛かりそうになり両親とパレオとロックにめちゃ怒られて、またバイトと短期バイトにちょっと副業、という日々を過ごしていた。
「それで設営スタッフやっていたわけですね」
「そうそう」
「そうそう、じゃありませんが。パレオと会うお金を捻出するためにパレオとのデート断ってどうするんですかと問い詰めたい気分なんですけど」
「いや、あのね……それはホンマごめん」
このかわいい大型犬系後輩兼推しはあの日以来、反動のように俺に構ってほしい、一緒にいたいとアピールしてくるようになった。
ただしまだ俺は、推しは推しというスタンスを護るためにちょっとデートは、と逃げたのだ! ふふん、我ながら最低で場当たり的な対策だな。
「なのに? パスパレの現場一緒に行きましょうは二重人格を疑いますけど」
「実はな、ほら……いつも一緒に行く彩推しのやついただろ?」
「ああ、甘粕さんですね」
「通じるのね、紹介したことない筈なのに」
間違いなくロック経由だな。それはさておき、いつもは駿太と待ち合わせて現場へGOするんだが、なんと今度はカノジョと行くから悪いねとか行ってきやがった! アイドル現場にカノジョ同伴ってどういう裏切りなんですかね!
「それで、独り身になられてしまったと」
「……うん」
「ざまぁみろ、と言いたいところですが、ちょっとかわいそうな気がしてきました」
「だろ?」
「調子に乗らないでください、一緒に行くとは言ってません」
冷たい、まるで再会当初に戻ったかのような対応に俺は涙があふれてくる。嘘泣きだけど。
まぁちょっと、一ヶ月は放置しすぎたかなぁと反省していると自転車のハンドルに手が置かれる。うわわ、パレオの手が、大きくて柔らかいんだよなぁやっぱり。
「喜ばないで」
「ご、ごめん……」
「もう……でも私は目立つよ? ほら噂は知ってるだろうけど」
「ああ、パレオの推し方は界隈で知らない人がいないレベルだからね」
パレオの100%状態は推しの色にツートンのウィッグをつけた状態でライブの時に見せるようなハイテンション、その上他の単推しに負けないレベルの推し方で箱推しやってるんだから有名人なんだよなぁ。
「その上いつも一人で参戦なのに、そんなパレオが男連れなんて」
「騒がれるか?」
「でしょうね」
アイドルのオタクなのにまるでアイドルがスキャンダルを気にするような物言いに苦笑してしまう。
いやね、でも一応悪いと思ってるのよ。パレオの誘いを散々躱した罪悪感というか、思ったより拗ねてるからご機嫌取りというか。
「そう思うなら、フツーにデートしてください」
「一応訊くけど、どういうコーディネートしてくるのかな?」
「それは勿論、パレオが思い描く最高のかわいいを表現しますね!」
「……やっぱり」
予想はしてたよ、かわいいに妥協のないパレオがデートという場に於いて黒髪クール系で来るわけがないんだって。
つまりは推しとデートするハメになるんだよね、いや今でも広義の意味では推しを迎えに行って家まで送っていくカレシムーブかましているわけだが。
「なんて、妥協した方がいいですよね」
「いいんじゃない?」
「いいんですか?」
「だって、かわいいを妥協するのはパレオらしくないよ、推しのアイデンティティは守るのがオタクだからさ」
「……推しをアイドルの現場に誘った人とは思えませんね」
「うるさい」
言葉のトゲの割にご機嫌なのが隠しきれていませんよパレオさん。
いつもの東京では家が遠く、逆にロックと近い俺だけどお盆の間は実家にいるため、当たり前だがパレオと非常に家が近くなる。徒歩一分だ、お互いの両親とも面識があるから行き来も全く問題にならない。
──もしかして、これって結構ヤバいのではないだろうか。前に付き合ってた時には全く思わなかった危機感というか、健全なドキドキが俺の胸を支配する。
「と、思ってた時期が俺にもあったなぁ」
『それをウチに愚痴るのは……なんかやらしくない?』
その夜、俺はロックと電話をしていた。ハンズフリーのイヤホンから聞こえてくる声というのは本人のものに似せた電子音らしいが、耳元でロックの声が聞こえるって考えるとちょっとだけ普段とは違った印象なのはそのせいなのだろうか。
「やらしいってなんだ、言い方が妙にアレなのやめてくれる?」
『家まで徒歩一分、両親のハードルも低い──問題だらけや』
「だと思うじゃん!?」
ところが現実は残酷なことに、お互い割と忙しくて会えないの! そもそも親戚の集まりが、とか色々あるせいで徒歩一分の距離が気軽じゃないの! なんなら東京に居た時の方がチャンスあった気がするよ、ふっしぎー!
『……ウチも女子なんやけど』
「俺にこんな下世話な内容をぶっちゃける同性の友達はいねぇ!」
『友達作ってほしい』
なにおう、事情を正しく理解してくれて、尚且つその当事者=推しというのをすんなり飲み込んでくれるとなると一生に一人できるかできないかの奇跡だろ! ロックとはそういう意味では奇跡の関係ってことだな!
「そういやRASって活動してないんだね、この時期」
『流石にお盆と正月はね、ウチも今岐阜だし……レイヤさんも名古屋、チュチュさんも両親が帰ってきたか、今頃海外に連れていかれてるんじゃないかなぁ』
「そっか、まぁ盆正月くらいは帰るべきだよ、マジで」
『榛名さんが言うと説得力がない』
そうですね、去年帰りませんでしたとも。おかげで両親には嫌味をたっぷり言われまして、まぁ当然っちゃ当然だけど。というか実家帰ってるのか、なるほど、だから今日は標準語割合が少ないのか。地元帰ると方言出るって話聞くもんな。
ロックはふふ、と微笑みをもらした後、優しい声音に変わった。
『よかったね』
「何が?」
『パレオさんのこと、まさか正体明かすことであっさり解決してしまうとは思わんかった』
「ああ、その件な……俺は結構、ロックに感謝してる」
『ウチ?』
あの時の俺とパレオの間にはどうしても推しとか幼馴染とか、そういうんじゃ埋まらない溝があった。それは令王那=パレオだったとしても同じだ。
でもそれを繋いでくれたのがRASで、もっと言えばロックだ。俺と友達で居てくれて、バンドの仲間を大切にしているロックだからこそ、俺はパレオのことでくだらなくて下世話な悩みをもっていられるんだと思う。
「だから感謝してる──ありがとな、ロック」
『……ウチは、自分勝手に榛名さんをなんとかして元気づけようとしとっただけで』
「それでも、俺はロックにありがとうって言いたいんだよ」
『──そっか』
キングに相談したら気にしない方がいい、榛名が気にすると余計にややこしくなるって言ってめちゃくちゃ止められたけど、ロックは時折、寂しそうだと感じる時がある。
顔を合わせていても、ふとした時に寂しそうな顔をされてしまうんだよな。パレオに相談すると浮気ですか、とかいう的外れなリアクションが返ってきたため論外とする。
「なぁロック、ものは相談なんだけど」
『ん?』
「RASって全員揃わない状態で練習ってほとんどないよな」
『ないよ、特にパレオさんとチュチュさんがいない時は絶対にないと思った方がいいんやないかな』
「じゃあ、当然パスパレイベントの時って休みだよな」
パレオが休みの時にRASの練習がない、ということは必然的にパスパレのイベントがある日には練習がないということになる。便利ねパレオの指標は。
俺はそれが知りたかった。勿論自主練習とかその他の予定で埋めてる場合も考えられるけど。
「なら、俺とパスパレイベント参戦してくれ!」
『ええ! ウチ!?』
「お願いだよ、ボッチはもう寂しくて参加できなくなっちゃったし、だからってもう頼めるのがロックしかいなくて!」
『それは……そういうの、ズルすぎる』
「え? すまん、難聴系主人公になりそう」
『独り言やから、聞かれた困る』
「そうか」
ロックの声をマイクは拾ってくれていなかったようで、何を言ったのかはわからなかったが、文句を言われている予感はしている。
ダメ元で誘ってるしな、ロックはめちゃくちゃ忙しいだろうし。流石に生徒会としての活動は夏休みだからなかったとしても、バイトに旭湯の手伝い、バンドもやってるんだから。バイトを七種こなした俺とは暇人度合いが段違いだ。
『七種……』
「いや正確には六種だな、掛け子は結局してないから」
『……笑い話やないよ?』
確かに笑い話じゃない。その証拠に今のところ知り合いの100%に怒られた。なんならサマーイベントでイヴちゃんにまで怒られた。パレオが愚痴ったんだろうけど、推しにリークするのはやめてほしい。
『それで、いつ?』
「九月の……え?」
『なに?』
「いいの?」
『ぼっちが嫌って言ったの、遼くんやろ』
「ま、まぁ」
いやだってダメ元だったし、でもまぁいいならいいんだよ? 俺は嬉しい、ちょっと下心で言うと駿太がカノジョと一緒に行くというマウント取られた気分を解消することができます。ロックもビジュアルがいいしな、普段は地味めに偽装しているがRASの時はもうバチバチよ。
『……ウチをアクセサリーにしようってこと?』
「誤解です、駿太がマウントを取ってきても精神を保てるようにと思って……」
『甘粕さんはそんなことせん』
「確かに」
『やっぱり二人は嫌』
「ごめん、いやホントごめんだけど俺、もう一人友達連れてくんのも辛い」
『はぁ……ウチが声かけとく』
「あざす!」
何からなにまで頼りっぱなしで申し訳ない。しかも別に推してないアイドルのイベントになんて。こんなの普通は恋人でも断りかねない誘いだってのに。しかもデート回避のために友達まで誘ってくれる、最強にデキる女だぜロック!
「今度お礼はするよ、絶対、必ず」
『楽しみにしとる』
「期待はしないでくれ、メシ奢るとかその程度だよ」
『ちょっとくらいワガママ聞いてくれるってことくらいは、期待してもいい?』
「そりゃ、もちろん」
謝礼としてロックにメシ奢るのにロックの好きなものじゃなきゃ意味がないんでね。そのくらいの空気は読める男だぜ俺はよ。
その後、俺はロックと日付と集合時間を決めておく。ロックと俺は駅かどっちかの家集合でいいとして、ルートを教えておかないと付き添いの予定がわからなくなってしまうしな。
『それじゃ、おやすみ』
「おう……悪いね、急に」
『電話にしたいって言ったのはウチやから』
「そうだったか?」
『記憶失うの早すぎ……それじゃあまた』
「ああ、またな」
電話を切って、俺はベッドで仰向けに寝転んだ。
──実は夏休み入ってから、ロックとあんまり顔合わせなかったんだよな。なんならあのパレオの正体知った事件以来か。
今回は俺としては良ききっかけになると思って提案してみたいけど、電話越しのロックは思っていたより、いやそれ以上に明るかった。もしかして取り越し苦労だっただろうか。
「おっと」
考え事をしていたら再び電話が掛かってきた。ロックが何か伝え忘れたか何かかと思ったら、スマホの画面には「パレオ」と表示されていた。
どうしたんだろうか。俺は上半身を起こしてイヤホンを耳に挿し直した。
「もしもし」
『あ、やっと出ましたね! 誰かとお電話中だったのですか!?』
「え……あぁ、ロックと」
『ロックさんと……なんかやらしいですね!』
「どこが!?」
このハイテンション具合、どうやらパレオ状態を我慢していた反動のようだ。俺に知られないようにしていた間はどうやって抑えてたんだこの衝動は。まぁおそらくアイツの部屋にあるファンシーでかわいらしい抱き枕だろう。
『もしや、パスパレのイベントを?』
「そう、誘ってみた」
『それでOKしてもらったものの、二人きりというのは気恥ずかしいので誰かほかの方を呼んで三人~四人くらいのグループになろうということで話がまとまったわけですね』
「すまん、盗聴器でも仕掛けてある?」
『そんなドストレートな犯罪行為をするわけありません、ハル相手に』
「俺以外が相手でもやめようね」
怖いよその察しのよさ。というかもう読心術だよ、サイコメトリーだよ。
本当は好意を隠さなくなり、付き合ってはいないものの事あるごとに「浮気?」とか詰めてくるパレオだから言うとヤキモチ妬くかなとは思ったが、あっさりとせいぜい浮かれてくださいねと言われてしまい拍子抜けしてしまった。
え、もしかして俺、愛想尽かされたとかじゃないよね? パレオに嫌われんのは絶対に嫌なんだけど。
作者の都合ですがさすがに当て馬で終わりはかわいそうだしという気持ち
でもここでパレオが負けることはない。