ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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デート回しとかないと、これ終わるまでしない気がしてきたので。


二十三話:子どものデート

 お盆休み中、すごく暇な思いをした子どもは多いと思う。俺は祖父母とも同居していたから元々自分の部屋があって何もなくて退屈、という思いはしなかった。母方の祖父母は遊ぶ場所にもモノにも困らない場所に生活していたし。

 そして俺の記憶ではお盆はほぼ常にパレオがいた。それ以外でも一緒に居ることは多かったが慣れない親戚の人がいる家は居心地が悪くて、同じ思いをしていたであろうパレオを連れ出してその辺でボール遊びに興じていたもんだ。

 

「大人になったらこういう集まりにも参加させられるのか、と思った時もあったなぁ」

「高校生や中学生はまだまだ子ども、ということですね」

「それはそれでありがたいんだが」

 

 手伝わされることなんかは増えたものの、結局日中にやることはないため俺はパレオを誘って駅近くにあるショッピングモールへやってきた。何かをするには小さいが、それでも駅からすぐのところにあるから、暇つぶしには最適なんだよな。

 

「暇つぶしなら、今なら海があるのに」

「地元だぞ、知り合いいるのに幼馴染と海デートなんてしたら大変だ」

「と言いつつココも見つかれば噂にはなると思いますが」

「いーや、海水浴場は言い訳できないがショッピングモールは言い訳できる!」

 

 その根拠とはズバリ、シチュエーションの差だな。ショッピングモールなんて中学からの帰り道にあるし、ぶっちゃけデートシチュエーションとしては弱い。偶々会っただけ、ちょっと買いたいものがあった、暇だった、幾らでも言い訳がきく。

 だが、海水浴場は別だ。水着や日焼け止め等々、事前準備が欠かせずかつ、女子と二人きりなんて見つかれば言い訳のしようがない。

 

「それに」

「それに?」

「気合の入ったデートに令王那で行かせるわけにはいかないだろ」

「……ハルに、そういうのは似合わないね」

「いいだろ! ちょっとくらいカッコつけさせてくれよ!」

「うんうん、カッコいいよハル」

「心を込めて!? 好意をもっとこう、全面に出して!?」

 

 めちゃくちゃ作り笑いでカッコいいとか言われても嬉しくもなんともないからね。

 いやここで惚れ直した、とか顔を赤らめられたら言い訳できないくらいデートになるからダメだけどさ。

 まぁ幸いなことに今日はお盆、幾ら田舎とはいえ中学時代の同期や後輩、パレオの同期や後輩と遭遇することなんてそうそうないだろ。そこでコッソリイチャイチャすればええんや、勝ったなガハハ! 

 

「あれ、鳰原さん……えっと、その人ってもしかして?」

「もしかしなくても都会に染まり、髪色変えてチャラくなっただけの榛名先輩です」

「え……あ、なーんだ、委員長か!」

「なーんだってなんだ」

 

 速攻で知り合いに遭遇しました。パレオと同学年で委員会の子だったな。

 落胆されるのは納得いかないんだけど、なんだよその「真面目委員長の鳰原さんが派手なカレシ連れてると思ったらコイツかよ」みたいなリアクションはよ。

 

「久しぶりに見たら……変わりましたね」

「はっはっは、俺は真面目キャラじゃないんだよ、実は」

「あ知ってました、残念枠でしたから当時から」

「……そうなの?」

「はい、それはもう、センパイの素は先生以外にはバレていましたよ?」

 

 パレオに追い討ちされた。気づかなかった、後輩は完璧に優等生の仮面を被れているのに俺ってやつは。

 それから後輩ちゃんと別れてすぐ、今度はまた別の後輩に出逢った。

 

「あ、榛名! 久しぶり」

「お、三月ぶり?」

「だねー、その様子だと……鳰原さんとは無事?」

「そのリアクションも違う!」

 

 彼女は前に帰省した際、パレオが最近、学校終わりに速攻電車に乗って帰りは遅いという情報をくれた、言うならば俺とパレオが今の関係になれた最初の情報をくれた子だった。はきはきしたやつで、結構心配していたみたいだ。

 

「その後の話できなかったけど、令王那のことは心配しなくても大丈夫」

「そうみたいだね、昔の距離感だったから」

「……センパイ」

「じゃあ鳰原さん、またね」

「はい」

 

 何かを察したらしくそそくさ、と去っていく姿を見送って見えなくなった途端に、パレオは俺の手に触れて指を絡めてくる。

 まぁうん、俺も分かり始めたことがある。パレオは独占欲強めで一歩間違えれば束縛しちゃうタイプなんだと思う。重めって言うと失礼だけど、付き合ってないのに「浮気?」と問われたことも何度かあるしなぁ。

 でも嫉妬アピールがかわいい以上にその術は俺に効く、やめてくれパレオ。

 

「知ってて、やってます」

「だろうね」

「でもハルは変態です……これで興奮してしまわれるんですから」

「手フェチ、指フェチにとって推しと恋人繋ぎはハグとかキスに相当するぜ」

「……ふぅん? じゃあイヴちゃんとも、キスしてしまった、と?」

「語弊がありまくりだろ、それは」

 

 そうだった、イヴちゃんと恋人繋ぎ握手したことあるって自慢したことあったわ。嫉妬の炎を静かに燃え上がらせてにぎにぎしてくるのかわいいな、コイツ、思わずムラっとして手出しそうになるけど推し、相手は推しだし中学生なんだよね。

 

「ん?」

「……どうした?」

「なんでしょう……ハルから今まで感じたことのない圧を」

「気のせいだろ」

「誤魔化しましたね」

 

 それは俺の手フェチや指フェチなんかよりももっと業の深い、だけれど健全な感情です。

 よかったぁ、流石のパレオもソッチ方面には疎いか、詳しかったり下ネタ連発したりするパレオとか絶対嫌だわ、解釈違いすぎる。

 

「とにかく、ハルはパレオだけを推す必要はありませんが、パレオだけにガチ恋であってほしいです」

「してないよ」

 

 なんか勝手にガチ恋勢認定されてんだけど。うぅん、推しとしてのパレオにガチ恋してるわけではなくて、複雑な感情がせめぎあってんだよね俺の中では。

 切り離して考えることがなくなったが故に、推しのパレオさんへの気持ちと後輩で幼馴染の令王那への気持ちがごっちゃになってて整理がつかなくなってんだ。だから両想いなのは確実なのに付き合ってないんだけど。

 

「これでハルを誰かに取られるのは……困ります」

「それは安心していいよ」

「本当ですか? ここで白金燐子さんや八潮瑠唯さんに会っても同じこと言えますか?」

「言える」

「お二人ともスタイル抜群……特にお胸の方は圧倒的ですが」

「そうなんだ」

「……そうでした、間近で見たことないんでしたね」

 

 有咲さんはデッカかったのをよく覚えてる。あとはましろちゃんが案外あってびっくりした。ロリ巨乳ってやつだね。だけど俺、別に巨乳好きなわけじゃないし、大きいおっぱいが大好きだったことは一度もないね。

 どうやら、パレオは胸囲に関してコンプレックスらしい。いやまぁパレオはまだ中学生だし、しょうがないよ。

 

「スタイルの良さで浮気なんてしない、それは絶対に言えるね」

「では、最高レベルに美しい手を持った方でしたらどうでしょう」

「……そんなんで揺れるわけ、ないだろ?」

「もう揺れてますよね」

 

 揺れてないし! 想像しようとして想像しきれなかっただけだもん。

 指フェチ手フェチとして、間近で見た推しの指というのは、実は二人だけなんだよね。あとはSNSのチェックでの情報とか、ライブのモニター越しの指なのよ。

 

「握手会みたいなイベントもないしね」

「バンドですからね、お二人とも」

「その点、パレオは想像以上に麗しくて、雰囲気効果もあって最高の気分だよ」

「それはそうです、こんなサービスをして差し上げられるのは、パレオだけです♪」

 

 正直言えば、オタクとして推しにこんなサービスを受けるのは違うと思うところはある。俺の中のめんどくさいオタクの部分が暴れ出しそうになることもある。

 でも俺の隣で微笑むパレオはただ単なる推しじゃなくて、俺への好意を隠さない、大事な幼馴染であり後輩でもあるのだから。

 

「でも余裕ないから、あんまりこう……節度は持とうね」

「ハル?」

「いやあの、わかってないんだよねパレオ」

「……なにをおっしゃっているのか」

 

 うーんピュア! 邪なのは俺だけ、邪なのは俺だけ、変態なのは前から、よし。

 煩悩をなんとか指への性癖に変換して健全にやり過ごしつつ、俺はパレオと昔できなかったような、おままごとのようなデートをした。手を繋いで、服を見るだけ、似合うと褒め合うだけ、ちょっと小腹が空いたら喫茶店であーんとかさせ合いながら休憩して、小さなゲーセンでクレーンゲームをして──そんな子どもの考える健全なデートすら、前に付き合った時はできなかったことを悔やみつつ、俺はパレオの横顔を観察していた。

 

「お盆ももう終わりますね」

「そうだな」

「……また忙しくなりますか?」

「そうだな」

 

 すっかり暗くなった帰り道、繋いだ手を意識しないようにしながらなるべく平静を装って会話をする。

 残念なことにお盆が終わればまたバイト三昧だ。ただ短期はもうないからコンビニでいつもより長めのシフトに入ってる程度だけど。前半に比べたら遥かにマシだな。

 ただ、それがパレオに耐えがたい寂しさを与えてしまっているらしい。落ち込んだような顔に、やっぱり大型犬っぽいよな、しかもかなり甘えん坊で人懐っこい大型犬だ。

 

「じゃあ、パレオにシフト教えるよ」

「え……いいんですか?」

「いいも悪いもないだろ……だって、俺も会いたくなるだろうから」

「な、夏休み前半のあれはなんだったのかという感じです……でもやっとハルのデレ期が来ました……!」

「デレ期て」

 

 こうやってお盆にパレオと会うことで推しであり後輩という、ごっちゃごちゃした感情の整理というか切り替えと切り分けを行えそうだからな。

 なんだったら六月の時みたいに家に来てくれてもいいと思う。パレオのご飯おいしいし。

 

「俺の一人暮らしだとどうしても栄養偏るしなぁ」

「いいですが……でも、知りませんよ?」

「何が?」

 

 そう訊ねると、パレオはにっこりと笑ったと思ったら手を離して、俺より三歩分、前へ距離を取った。

 そして、なんだろうと思う間もなく振り返ったパレオが俺の胸へと飛び込んでくるからびっくりしてしまう。なんとか受け止めることは出来たが、ギリギリすぎるんだが。

 

「なに、してんの?」

「ほら、パレオはもう……ハルへの想いを隠しませんし、ハルも、パレオが好きでしょう?」

「……ですね」

 

 ほぼゼロ距離、15センチ未満の近距離に顔があって思わず敬語になってしまう。

 上目遣いとかいう破壊力抜群の仕草は、今までになかったというか経験のない俺には気の利いた返しすら思い浮かばない。

 だというのにパレオは笑顔のまま背中に回していた手を俺の心臓あたりに押し当てた、と思ったらまた俺の手を握ってきた。

 

「え、ちょ……パレオさん?」

「さっきのでも理性が限界なのに……家に連れ込んじゃうんですか?」

「え……」

「節度をもってね、と仰っておりましたのに」

「げ……気づいてたのか」

「ふふ、気づいてしまいました」

「ごめん」

 

 まさか気づかれていたとは、流石にそこまでピュアじゃないか。

 だがパレオは嫌がるどころかふふふ、と笑って余計に密着してくる。ここ、往来なんだけどと思ったけどここは田舎、暗がりの道は車も人も通らない。

 

「ハルは、そういうことに関してはどう考えているんですか?」

「まだ、早い……というか、なんというか」

「まだ、ですか」

「言葉の綾です」

 

 ダメだ、ドツボに嵌って抜け出せてないんだけど。

 相手は中学生であるのもそうだし、まだ付き合ってる恋人関係ですらないわけで。でもそれがわからないというわけでもなく、また欲がないわけでもないのが事実だ。

 

「そうですね……パレオも、あの頃とは違うと思っています」

「そうだよな」

「隠すような仮面もありません、丸裸です」

「あの、ワザとそういう言い回しするのはやめて、解釈違い!」

「むぅ、言葉の綾です」

 

 そんなやり取りをしていると、なんだかドキドキしていた気持ちが安心で中和されていく。

 俺は息を吐き出し、ゆっくりと吸ってから再び横並びになったパレオと家への道を歩き始めた。

 

「──卒業したら、パレオも東京に来るつもりだろ?」

「はい、RASの活動もありますし、チュチュ様と一緒に両親の許可も取っています」

「だよな、だから……関係を進めるのはその時、ゆっくり話し合おう」

「……はい」

 

 今後の予定なんてどう変わるかわかんない。それこそRASが世界規模の最強バンドとなって日本から海外を拠点になるかもしれないし、逆に何かが起こって解散してしまうかもしれない。

 だから、その時はその時、パレオが進路を確定させて中学の卒業を待つだけとなった時に、もう一度ちゃんと話し合いたいと思う。

 俺だってまだまだ子どもで、お付き合いとか言っても将来とか考えても絵空事にしかならないから。

 

「パレオは、それが聞けただけで充分です。ハルがパレオとの将来を考えてくれてるだけで……幸せです」

「大げさだなぁ」

「今日だけで好感度爆上がりしておりますよ、自覚してください!」

「えぇ! じゃあ減らしとかないとな」

「よっぽどのことがない限り減りません!」

「最近さ、新しいガールズバンドのライブ行ってさ、指キレイなキーボードの子見つけた。なんか仮面付けた、ゴシックなバンド」

「……天才ですね、センパイ」

 

 好感度も調整しておいて、俺はお盆終わりに再び東京の一人暮らしに戻っていった。

 とはいえ、パレオともちょくちょく会うことになるんだけど。

 そうやって俺の夏休みは色々と考えることと、バイト三昧で終わりを告げることになった。夏休みで俺が言えることはただ一つだ。今キてる新興勢力は『Ave Mujica』のツインテキーボードの子、オブリビオニスさんだからな! 覚えとけ! 

 




地元なんだから水族館くらいいけよ
あとは推しを増やすな。
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