ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由 作:黒マメファナ
あっという間に夏休みも終わり、九月になった。とはいえ残暑がキツく気温的には秋というより夏に近い。
俺はバイト三昧で増えた給料を手にホクホク、懐が一瞬でも暖かいとなんだかいい気持ちになれるというものだ。まぁ推しに消えるから儚い気持ちだけどな。
「すいません、今日はもう……ってなんだ遼か」
「俺です」
「六花ならもうすぐ来るよ」
「そっか」
日常を過ごしつつ、俺はロックとご飯を食べるために彼女のバイト先である「Galaxy」まで迎えに来ていた。気さくに声を掛け合ってるのを改めて考えると明日香ともなんだかんだと普通に話す関係になったものだ。
「……ねぇ遼」
「んー?」
「ごめん……やっぱなんでもない」
「なんだよ、歯切れ悪いな」
「だって……正直、ちょっと言おうか迷ってること、あってさ」
明日香は気まずそうというか、言葉通り迷っているように俺から視線を逸らしつつそうつぶやいた。俺に対して言おうか迷ってることがある、なるほど全然わからん。
でも雰囲気からして重大でシリアスなことなんだろう、俺は恐る恐る続きを促してみる。
「言ってみろよ、悪いようにはしない」
「それは、無理……遼がこれを知ったら、私が後悔しそう」
「言わない後悔より、言う後悔だってパレオが言ってた」
「それは遼とあの子の関係だからでしょ、私のは……違う」
ほうほう……ん? なんかこれ、告白的な雰囲気じゃないか? いやまて、焦るなよ俺。
明日香と俺は友達というにはちょっと浅い関係ではある。呼び方こそお互いに呼び捨てという気安さだがそれは戸山さんだと香澄さんと被る、ということとさん付けもなんかムズムズするという理由で明日香に、その時にじゃあ俺も同じ条件でということで榛名さんと呼ばれていたところが遼に変わってるというだけ。
「ま、まぁ無理に言う必要もないよ、うん」
「後で遼が知ったら、怖いからなぁ」
「後で知っても明日香を責めない、約束するから」
「……うーんでも、まぁ……うーん」
どうやら相当迷ってるらしい。さっぱり見当がつかないため逆に気になってきてなんとか説得しようとしているとロックがお待たせ、と制服姿で出てきた。
そういや明日香のこと拘束しちゃってたな、悪い。
「いいよ、ゆっくり帰る予定だし」
「なんの話してたの?」
「いや、明日香が俺に話があるみたいで」
「わ、ちょっと……!」
「え、言っちゃダメだったやつ?」
「そうだよ」
そうだったらしい。ロックはきょとんと首を傾げたが、一瞬固まった後で顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。おい、一体何を想像しているんだこの子は。
あっという間に耳まで真っ赤になったロックは俺たちから一歩後ずさりする。
「お、おじゃま、やったやろか……」
「邪魔というか……六花の考えてることと違うからね?」
「ち、違うん?」
「違う、私は遼とそこまで仲良くないし」
「言い方傷つくなぁ」
どうやらロックも明日香が俺に告白すると一瞬だけ勘違いしたようだ。でもその否定のしかただと多分だがロックも前のめりになって話題を変えることが不可能になると思うんだけどどうでしょうか。
「わかった、実はさ……あことゲームのオフ会? に呼ばれてて」
「ゲーム?」
「NFOだよ、あこちゃんはそのオンラインゲームにハマってるみたい」
「へぇ」
結構有名タイトルだった気がする。今までのやり取りなんかで察してはいると思うけれど俺は縁がないしPCじゃなくて家庭用ゲーム機でゲームする派だし。昔はパレオに喜んでもらうためにかわいいポケモン集めて交換してたよ。
「私はやってないんだけど」
「やってないのに誘われたのか」
「まぁオフ会って言ってもあこと二人らしいし、でも三人だともう一人と私ってそこまでしゃべる関係でもなかったからさ、遼がいたら便利そうだなと思って」
「なるほど、俺をオフ会に誘う話がしたかったわけね……で、もう一人って誰?」
「あ……だから明日香ちゃんは渋ってたんや」
「そ、だってもう一人──白金燐子さんだから」
「オフ会か、私も一緒に同行しよう」
ジトっとロックに睨まれた気がするが気にしない。推しに会えるかもしれないチャンスの前ならどんな障壁も気にならないぜ。
即答に決まってるでしょ。なんせ俺は花咲川の文化祭で燐子さんに会えるチャンスをふいにしている。ここはオフ会乗り込んで燐子さんのお手々に自分の手が包み込まれる幸福を体験したい!
「ね、迷うのもわかるでしょ?」
「本当にわかる、特に燐子さんだと……ねぇ?」
「結果が見えるよ」
「なんのことだよ」
「遼が燐子さんを困らせてる図」
未来予想図というわけか、ははは、俺は紳士的なオタクだぜ。まさか推しを困惑させることなんてするわけないだろうが。
だが明日香どころかロックも俺の言葉を信じてなんかくれなかった。
「燐子さんは結構大人しい感じだし、人見知りするから」
「そうなんだ」
「おっとりしてる、清楚系」
「うーん、見た目のイメージ通りってこと?」
ロックと明日香が同時に頷いた。あれだ、イメージ的には男に免疫なさそうなんだけど、ないんだろうか。すると多分とロックが言っていた。清楚系おっとりお姉さんで手指キレイ、しかもパレオ曰くスタイルは男受けしそうらしいし、なんだか俺が心配になってきた。俺が行って大丈夫なのかそれ。
「さぁ……あこは紹介しようとしてくれてるっぽい」
「あこちゃんは、ちょっと子どもっぽいというか……」
「うーん、パレオより年上で、俺らと同い年な筈なんだが」
とてつもなくロリ枠な感じがするがあこさんは俺と同じ高二、なんなら誕生日単位で言えば俺より年上ということになる。世にも奇妙な物語になりそう。
まぁでも、あこさんが来ていいと言うなら行きますとも。なんならロックもどうだと訊ねたがその日は忙しいらしい。
「じゃあ、後でグループに招待しとく」
「よろしく、じゃあロック、行こうか」
「うん」
「気をつけて帰ってね、襲われないように」
「んなことしませーん」
パレオ相手でも出来ないんだからロックに出来るわけないだろ。
というのは本人の前では間違っても言わない。セクハラにもほどがあるからね。
明日香に手を振って、少しの道を歩いていく。ロックとこの道を歩くのも、夏休みを挟むとなんだか懐かしく感じてしまうな。
「それで、そのパトとトリコが──どうしたの?」
「いや、割と楽しいお盆だったんだなと思ってさ」
「うん……榛名さんも、パレオさんと一緒だったみたいだね」
「近所だしな」
どうやらロックはお盆中、中学時代に地元で組んでいたバンドメンバーと遊んでいたらしい。久々に集まれたようで、普段とはまた違った早口めのおしゃべりに俺も楽しい気分になっていく。俺も久々に中学時代の友達に会ったし、そういう環境が変わっても友達っていうのは大人になっても大事なんだぞって酒の入った親戚に言われたよ。
「大人になっても……か」
「そう考えるとさ、今の友達関係って大人になるとほとんどなくなるんだなと思って」
「……うん」
俺にとっては明日香や、ロック、駿太なんかもそうかも。クラスメイトなんてまず間違いなく高校卒業すれば縁が切れるだろう。明日香や駿太とも、進路によっては二度と会わなくなるなんてこともあるかもしれない。
ロックは、どうだろう。RASが続いてる限りはこうして友達、と信じたいけど。
「誰かと誰かが結婚したのを、手紙で知るような関係も寂しいよな──って、大人になったらそんな寂しい気持ちもなくなってるのかね」
「私は……寂しくなるかも」
「そっか、いやでも俺が結婚しようもんならロックに友人代表スピーチしてもらわないとだし」
「ウチに?」
「もしもだよ、本気にしないでくれ」
今さらっと自然に、パレオとという前提がついていたのに気づいて恥ずかしくなってしまった。パレオと俺が式を挙げるのなら、適任はロックしかいないだろうけどね。
イタいこと言ったなと照れ隠しに手を振って否定するが、ロックは下を向いてしまう。
「ロック?」
「……いかんいかん、なんか悪い未来ばっかり考えとった、榛名さんが余計なこと言うから」
「俺のせいか、そりゃ悪かった」
「ふふ……でも、パレオさんと上手くいっとるんや」
「恋人とかじゃないけど、推しとそういう関係になるって折り合いがつかないんだよ」
「それで断れたのは、流石にパレオさんがかわいそうやと思う」
ところがアイツは俺の気持ちをわかって猛攻を仕掛けてくる強かなやつだったよ。というかさっき俺はさらっと推しとの結婚式妄想したのか、その字面だけだとキモすぎなんだよなぁ。やめよやめよ、また俺の情緒が破壊されてしまう。
「ウチと、って未来なんて……ないんや」
「すまん、解釈違い起こしたもう一人の俺とバトってて聞き逃した」
「どういう聞き逃し方なん、それ」
俺ってやつは実のところアンチガチ恋勢だったりするので、最近はそっちの人格がパレオさんと付き合う妄想するな、イチャイチャする妄想するなと煩くて。
パレオは後輩なんだよと言っても聞き入れてくれないから困ったもんだよ。
「……何を言ってるのかわからん」
「だろ、俺もわかんねぇ」
「榛名さんはまったく」
「まぁまぁ、明るくいこうぜ、まずは目先のメシだ!」
「……うん!」
ロックはそこから元のロックに戻って帰省した時の話、ポピパさんとドキドキワクワクの一日を過ごした話、パレオが最近超絶ご機嫌な話などを教えてくれた。
特にポピパさんとの話は最高にテンションが高くて、よっぽど楽しかったんだなぁと暖かい目をしてしまう。
「推しのイベントといえば、来週のメンバー集まったの? まさか明日香?」
「興味ないって」
「バッサリかよ、らしいけど」
「それで……驚かんとってな」
「驚いた!」
「まだなんもゆっとらん!」
失敬、今のはあざとくツッコミ待ちでして。関西風の訛りだからかな、ロックにツッコまれると気持ちいいんだよね。
そう言い訳すると明らかにドン引きしたような顔をしてきた。はて、俺は何かまずいことを言ったでしょうか。
「気持ちいいって……純粋にキモ……ち悪いね」
「キモいねって言いかけたろ……まぁいいけど」
「いいんや」
「それより誰が来てくれるんだよ、まさかまたサプライズか?」
「ううん、ましろちゃん」
「……ましろさんか」
前回は件の文化祭の時に顔合わせをして、ロクにしゃべらず俺が離脱してしまった。
次こそは円滑なコミュニケーションを取るべきだろう。相手がぶっちぎりの人見知りという問題が残るが。しかも初対面の時に女の子だと思われていたところからの男だからな。第一印象もそんなによくないだろ。
「うん、チャラそうで怖かったって」
「……なるほど」
「榛名さん、イメチェンした方がいいんやない?」
「田舎から都会に行くから、せめてナメられないようにしようとした俺の努力」
「バカっぽい理由だね」
「お前! 言っていいことと悪いことがあるぞ!」
キモいは許すがバカっぽいは許せないんだ! バカじゃないもん、ちょっと優等生の仮面の下がアホだっただけだもん!
──まぁそれはさておくとして、予想以上に予定が詰まってきたな、これは頑張って稼いだバイト代が爆殺されてしまう。
「九月は予定いっぱいや」
「ホントに」
「……パレオさんも気合入っとるし」
「パレオが?」
何に気合を入れているのだろう。直近だと当然ながらパスパレのイベントだよな、後はなんだろう、と思ったら多分俺の誕生日だな。そういや今月だったわ、忘れてたよ今まで。
独り暮らしだと祝ってくれる人も、元々友達もいないもんで。
「そういえば、ウチは榛名さんの誕生日知らんかった」
「俺? 九月の二十二日だけど、祝ってくれるの?」
「友達、だからね」
「サンキュ」
ロックはSNSに情報が開示されているので俺は誕生日を知っているし、七月十七日だからちょっと前に祝ったばっかりだ。
人の誕生日は覚えるの苦手だけど、ロックと推しの誕生日はバッチリ頭に入ってる。思えばロックはそんだけ友達としての関係値が深いということだろうか。
「親友ってやつなのかもな、俺にとってロックは」
「なんか嫌だなぁ」
「ひど!」
「同じ変態だと思われちゃうし」
「思われないだろ、同じオタクなだけで」
内側に厄介オタクが住み着いている俺が仮にも推しバンドのメンバーなのにも関わらずこうして気兼ねなく友達関係でいられるのは、歩調が合うということを意味している。
一緒に歩くようになって、いつの間にか距離が縮まっていても気にしなくなって、合わせようと思わなくても小柄なロックの歩幅に合わせて歩いていられる。
「ここ」
「ファストフード店か……バーガーでよかったのか?」
「うん、それともレストランとかの方がよかった?」
「いや、お財布的にはここでありがたい」
「ほら、推し以外にはケチな榛名さんだから」
「そう言われると、売り言葉に買い言葉だ! って」
煽られるとピザとかパスタ頼むとひとり1500円余裕で越える店くらい奢れるし! なんなら焼肉食べ放題とか回転寿司も奢れるし! となってしまうのが俺の悪い癖だと思う。
奢ると言った手前、その人にケチと言われるのはかなり業腹だよ。なんなら今から俺が男を見せてやろうか。
「見たいとどうなるの?」
「この後スイーツも奢ってしまう」
「なら、見たいなぁ」
「よっしゃ、アイスも買おうぜ!」
「ノリノリや」
「当たり前だろ、嫌々じゃケチなヤツだろ!」
はい、今日2000円が消えます。それでもまだマシというレベルだが、バイト三昧だったとはいえ、一人暮らしの高校生にはキツい出費だぜ一食2000円はよぉ。
だがロックはそんなノリノリの俺を見て、くすくすと楽しそうに笑ってくれた。
「でも、なんというか男を見せるっていうか……男の子っぽいところを見せられとる気がする」
「子どもっぽいってこと?」
「うん」
「なんだと」
やはりバーガーとポテトのセット+スイーツ+アイスじゃ足りないということか。さぁ言え、何が望みだ。
今日の俺はロックの煽りを全部真に受けてやるからな、覚悟しやがれ。男を見せてやるからな。
「じゃあ、この後榛名さんのお部屋で──映画見ながらアイス、とか?」
「え」
「たまには夜更かししてみない? ウチと二人で」
「な、なに言ってんの? 頭大丈夫かロック?」
急に飛び出してきたとんでもワードの数々に俺は頭が爆発した。さっきまで友達の屈託のない笑顔だったはずなのに、一瞬でロックの、ライブで偶にするような色っぽい流し目を使ってくる。意識してる、してない? ちょっと待って、急にこんなのは刺激が強すぎるというか劇薬すぎるよ?
「ふふ、あははは……やっぱり榛名さんは、精神年齢が子どもや」
「う、うぐ……否定できねぇ」
軽率に男を見せるとか言っといて、しかも二度も。なのに向こうが女だと意識した瞬間にあわあわしてしまうんだから文句の一つも出てこねぇ。
そして、俺は今までロックを女友達とは思っていたが異性として意識してなかったことに気付いた。気づく前だったら部屋に上げて一緒に映画鑑賞してたかもしれん。
「う、うぅ……やっぱりMのセットは多いよ、榛名さん」
「ごめん、ロックの小食度合いナメてた、ポテトもらう」
「うん」
「じゃあスイーツは?」
「いる、アイスも」
「……別腹サイコー」
とかドギマギするまでもなくロックは元のロックに戻ってしまって、それから俺たちはいつも通り何事もなくご飯を食べて、コンビニでアイスとスイーツを買って、旭湯の前で別れた。
勿論、後で頭を抱えてベッドを転げまわることになるんだけど。パレオに相談しようとしてやめるくらいの分別がついていることを誰か褒めてほしい。
榛名ちゃんは性癖拗らせすぎて、ある意味純真無垢なところがある