ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由 作:黒マメファナ
ついに待ちに待ったイベントの日がやってきた。今回はファンミーティングだがハコが大きくなっていたためライブでもやるのかと驚いた。活動三年目、やはり人気急上昇、飛ぶ鳥を落とす勢いのアイドルというだけはある。
開場は11時半から、とするとやはり最低でも10時には到着しておきたいところだ。
「えぇ……早くない?」
「何を言ってるんだロック、始発チャレンジしてる人だっているんだぞ」
「わからん……ウチにはわからん世界の話や」
ロックとアパートの前で待ち合わせて最寄り駅まで歩いていく。電車に乗って、乗り継ぎしつつ一時間ほどだ。ロックは長時間電車に揺られるのが少し苦手らしく、それも相まってテンションが低かった。
「都内だと思ってたのに」
「俺も勘違いしてた、幕張って東京じゃないんだな」
「榛名さんの出身地やけど」
「チーバくんの鼻先とおしりを一緒にしてはいけない」
浦安とかもうほぼ東京でしょ、そもそもあそこのテーマパークは東京って名前ついてるからね!
なんてくだらない話をしつつ改札を抜けると駅構内に美少女がベンチに座ってスマホ横画面で眺めていた。休日出勤なのかスーツ姿のサラリーマンや、大学生っぽい男グループが思わず二度見する。そんな美少女は俺とロックに気付いたようで顔を挙げてかわいらしい笑顔で手を振ってくれた。
「お待たせ、ましろちゃん」
「ううん、さっき来たばっかり、早く来た方が待ち合わせできるから」
「ましろさん、久しぶり」
「お、お久しぶりです……今日は、イベントのチケットまで分けていただいて、ありがとうございます!」
そう、相手は約束の三人目、倉田ましろさん。俺んちの割と近くにあるお嬢様学校、月ノ森の高等部二年で、同級生たちと結成した「Morfonica」のボーカルであり、ロックとはポピパさんの同担、香澄さん推しでもあるためオタ仲間でありバンド仲間でもある。
七月はちょっと挨拶だけであんまり話せなかったけど、改めて見ると、顔がいいわね。
「え、えっと……?」
「榛名さん……見すぎや」
「ああごめんね、ましろさん。それ私服なのかなって」
「え……変、でしたか?」
「いや全然、むしろかわいくてびっくりしただけ」
前回は学園祭ということもあり制服姿だったから新鮮な気持ちでさ。黒の水玉、ドットワンピにはフリルやリボンがアクセントになっている。推しへの意気込みかメイクにもかわいくなろうという意思が伝わってくる。
「かわいい……ありがとうございます」
「む……私服褒めるなんて、そんなデリカシーが榛名さんにあったんや」
「まぁそりゃ多少はね」
「ウチのことは、全然褒めてくれんのに」
なんかぶつぶつ言ってるところ悪いがロックの私服姿なんて今更じっくり観察するようなものじゃないってくらいに見慣れてるし、まぁ、シュシュは手首で眼鏡を外して、コンタクトにしてるみたいだから、そういう違いはあるが。
「六花ちゃんと榛名さんって、仲良しだよね、前も思ったけど」
「不本意なことに」
「不本意ってなんだ」
と言い合いが出来ていたのは電車が来て座ってちょっとするまでの話、ロックは電車が苦手という宣言通り沈黙してしまった。
すると、まぁ間を埋めるためにも俺はましろさんとお話をする。怖がられてないかちょっとだけ不安だったけど、引っ込み思案ながらコミュニケーションを取ろうとしてくれているのは伝わった。
「じゃあ瑠唯さん推しなんですか?」
「うん、色々抜きにしてもバイオリンって珍しいし、結構パフォーマンスもしてくれるでしょ?」
「あはは、私たちはあんまり余裕がない人が多いから、みんな初心者だったし」
「……そうなんだ」
楽器経験者は瑠唯さんと、小学校時代に鼓笛隊をしていたドラムのつくしさんだけ。あとは全員初心者だって言うんだからびっくりだ。まだ活動二年目だけどポピパさんやハロハピと並べられるバンドだし、演奏の感じからは初心者なのが伝わってこなかったよ。
「瑠唯さんは瑠唯さんで、クラシックしか知らなかったし、きっと見えないところですごく努力してくれたんだと思う」
「なるほど、そういう意味でも同期のRASとは正反対かってくらい違うんだね」
「え?」
「あそこってみんな経験者というか、加入前に音楽活動してるんだよ」
レイヤさんとキングは加入以前からサポートという形で活動していたし、ロックは中学でもバンド活動を、親に反対されてたらしいけど強行してたみたい。ロックすぎるだろ。
んで俺の推し兼幼馴染のパレオはパスパレの弾いてみたを動画投稿サイトにアップしてた過去を持つ。チュチュさんはRAS結成に向けてDJを練習してたってパレオは言ってたけど。
「そうなんだ」
ましろさんは驚きと納得半々くらい入り混じったように目を大きくした。まぁ言われれば納得という部分が多いだろうけどね。できたてホヤホヤで「ガールズバンドチャレンジ」の決勝にポピパさんと同着二位、そこで他の二つのバンド、特にすぐあとにプロ入りしたロゼと張り合えるレベルのバンドだ。
今年の「
「……トーナメント」
「ああ、ごめんデリカシーなかった」
「ううん、RASさんと当たって、私も突き付けられたから──ああこのバンドは強いんだって」
「正直、俺はずっとオーディエンスやファン全員が最強を求めてるわけじゃないって言ってるんだけどね、トーナメントなんてスポーツの世界だよ。音楽でやることじゃない」
あれはあれで盛り上がったし、参加バンドの知名度上昇には貢献してると思うよ。でもじゃあ負けたバンドって格下なの、って言ったら違うじゃん。
アフグロがRASに劣ってるわけじゃない、モニカがRASに劣ってるわけじゃない。それぞれ方向が違って、個性があって、正解があるわけじゃないのが音楽だと俺は思ってる。
「──なんて、ピアノコンクールで勝てたことのない俺が言っても説得力ないけど」
「そんなことない、素敵な考えだと思う」
控えめに笑うましろさんの様子と口調で、ちょっとは打ち解けてきてるんだなぁというのが伝わった。なんだかんだと
「私、榛名さんのこと、ちょっと怖いって思ってて」
「う、やっぱり?」
「チャラそうだし……身長もおっきめだし」
「やっぱりこのプラチナブロンドが悪いのか、シルバーと悩んだんだけど」
「どっちもどっちじゃないかな……」
実はなんだけど俺もパレオと同じようなもんなんだよな。もっさりした黒髪が元々コンプレックスで、同時に田舎っぽいって謎の考えを持って高校進学の時にナメられない、都会に馴染むんだって意味で染めたんだよね。まぁ結局この色が気にっててバイト代も費やしてるくらいなんんだけど。
「しょうがない、本格的に秋になったら暗めの髪色に変えよう」
「それがいいと思う」
「ワインレッドか、バイオレットもいいな……イヴちゃんカラー」
「うぅん、なんか……違う」
違うらしい。でももう色を戻すという選択肢はないのでこのまま突っ走るしかないんだ。
それにしてもすっかり寝落ちしていらっしゃるんですがロック、やっぱり朝早すぎただろうか、無邪気な寝顔をしていらっしゃる。
「本当に仲良しだよね、六花ちゃんと榛名さん」
「色々あってね」
最初に会ったのは絶賛ホームシックを発病している時だった。その中でも何かリラックスできる方法を考えようと言う時にバイト先の人からのびのびできるお風呂があれば結構どうでもよくなるとかいう参考になるのかならないのかわからん情報を信じたのが始まりだった。
「ああいうちょっと、なんていうのレトロな銭湯って入ったことなくてさ、その時たまたまお店の手伝いをしていたロックに色々教えてもらったんだよ」
「そうなんだ」
あの時はレトロな銭湯にかわいい女の子がいるってことでびっくりして、緊張してしまっていたね。まぁでもこんなのなんでもないただの初対面で、次に会ったのは俺のバイト先、つまりコンビニだった。
財布を忘れたところをスタイリッシュに助けるという場面だ。
「カッコいい」
「俺が忘れた方なんだけど」
「……カッコ悪い」
「そうだね」
バイト先なのに財布ねぇ! って慌てていたらすっと払ってくれた。それはすぐにバイト中に帰すことができて、その時にちゃんと会話したんだよな。
夏前のこと、まだRASのロックになる前の、朝日六花との出会いはそんな感じだ。
「でも本当に、いつの間にか友達になってて、ロックのおかげでホームシックもすっかりなくなったし感謝してることばっかりだ」
顔を合わせればそんな素直にありがとうなんて言えっこないけど、俺はきっと毎日だってロックにありがとうって伝えても足りないくらい感謝してる。それこそ、俺がパレオと素直な状態で話せているのもロックのおかげだし、こうやってましろさんと話せるのだってそうだ。
「……榛名さんは、六花ちゃんが好き?」
「男女的な好きはない、けど……親愛は抱いてるよ」
「そっか」
ましろさんの訊ねてきた好きは絶対に男女のものだろうと判断し否定しておく。好意を抱いているのはパレオだけど、俺とパレオの関係を知っているのはRASのメンバーと明日香、後は多分パスパレも知ってる。
とはいえ、パレオと俺の関係はあんまり口に出すことでもない。推しと付き合ったガチ恋勢なんて思われるのもシャクだし。
「じゃあ、えっと……私とも友達になってほしい、かな」
「え?」
「だ、だって……あんまり、オタク趣味の友達が、できなくて」
「なるほど、パスパレ仲間もいないと」
頷いた。アイドルとかアニメとか、そういうサブカル系が好きらしいましろさんはその趣味を共有できる友達を求めているらしい。お嬢様学校にはそういう趣味が合う人は少ないだろうし。
俺は頷いておく、まぁなんだろう。ここで袖をそっと握ってくるあざとい仕草を無碍にできる男は多分いないし。
「なんか……急に仲良くなっとる」
「色々あってさ」
「ふぅん、パレオさんに言いつけてもよさそうな感じ?」
「いいけど」
俺にはやましいことは一切ない、だからいいんだけど間違いなくパレオは暴れてくるだろう。そりゃましろさんはかわいいし、引っ込み思案だけど話が合えばすぐ距離が縮まるから、きっと勘違い製造機になれる素質がある。俺も一瞬だけ実は一目惚れされてしまったのかと勘違いしたくらいだからな。
「そういえば、明日香ちゃんのこと話したらヤキモチ妬いとったよ」
「んー、余計なことを」
「な、なんだか榛名さんの周りって女の子が多いような……」
女の子が多いのではなく交友関係が極端に狭くて、パレオかロックの関係からしか広がらないこと、そしてロックは女子校通いのうえ上京してるから男性の知り合いがいない、パレオは自分を令王那と知る人物とは徹底して交友を制限しているため、必然パレオとしての知り合いに限られるってだけだ。
「ましろちゃんだって、もしも榛名さんに友達を紹介しようとなると、女子でしょ?」
「確かに……」
「私も後は生徒会関連からくらいだから」
なんとか解決してくれたらしい。あぶねー、もうちょっとで俺が女を侍らす悪いやつになるところだった。ちゃんとバイト先や学校では男子とばっかり関わってるっての。そもそも学校は男子校だしな!
「でも榛名さんのバイト先、女の子多いよね」
「そうなの?」
「だってあそこ、羽丘からも花咲川からも近いし」
「ついでに言うと月ノ森からも近い、偶にしか来ないけど」
「
ということらしい。男の一人暮らし先の近くが女子校まみれとか、知ってたら遠慮していただろうが当時は周辺の学校とか興味もなかったからな。
だからコンビニの面接した時に男手はありがたいって言っていたし、先輩も同性をありがたがってくれた。いい職場だと思ってる。
「そういえば、パレオさんと予定あるの?」
「ん? 特にないけど」
「……そっか」
なんだか含みのある発言を疑問には思ったが、目的地についたことで訊き返すことはなかった。ましろさんに聞かれるのもなんだか気まずいし。
それにしても、同じ目的地のオタクが増えてくると、見目麗しい女の子を二人も連れているという優越感がないとは言えない。まぁそもそも駿太へのカウンターとしての側面が強いから、しょうがない。元々動機が不純なんだ。
「よくないと思う」
「なんとでもいえ」
「マウント? はダメだと思う、仲良く推し活しよ?」
「そうだよな、マウント取ってるオタクとか醜いわ!」
「……榛名さん」
上げた好感度は下げて調整、これ大事です。
ましろさんも俺の性格をちょっとはわかってきたようで、苦笑いをするにとどまってくれた。ロックはもはや呆れ顔である。これでちゃんと友達やってくれるんだからありがたいよ本当に。
「友達……何度やめたいと思ったことか」
「気持ち、わかるなぁ」
「わからないで、わかるけど!」
なんだかんだで、友達とわいわい推し活するのも楽しいもんだ。大人数グループをちょっと厄介に見てたけど、同好の士というのはそれだけで楽しい。
できればここにパレオがいても大丈夫だったら言うことないんだけどな。
理由:どのみちパレオとオタ活するのはハードルが高いから
設定開示したかどうかさだかではありませんが榛名ちゃんはパツキンのチャラ男風の男子校通いです。