ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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二十六話:推し×推し

 パスパレのイベントはすごい人で溢れていた。最近収まらないとは思っていたが、まさかここまでの規模になっているとは。

 こうなると個別に対応しているメンバーは一日にどれだけの人と握手をして会話をするのだろうか。俺には想像すらできないし、杞憂したりカレシ気分で心配して遠慮することはしない。ただただ全力で楽しむだけだ。

 

「あ、ハルさん! いつもありがとうございます!」

「今日も、素敵ですイヴちゃん! ああ、握手も幸せ!」

「ふふ、握手だけでそんなに喜んでくれるのは、ハルさんくらいです♪」

 

 らしい。ここまで変態的な性癖をオープンにしているのはまぁその辺にいたら困るだろうけど。それが俺のアイデンティティならば否定することもない! イヴちゃんに認知できるのならどんな扱いでも俺は一向にかまわん! 

 

「そういえば、パレオさんがさっき来ていましたよ!」

「……うん?」

 

 だが今日はイヴちゃんから話を振られて固まる。はてパレオ、俺より先にイヴちゃんのところに来るとはやるじゃないか……いや俺が完全にのんびり来てるだけなんだけど。

 それはそうとイヴちゃんが楽しそうだから否定しない、オタクとしてオールオッケーなんだけど別のオタクの話をされるのはジェラシーを感じてしまう。

 

「お付き合いされたんですよね、おめでとうございます!」

「してないよ!?」

「そうなんですか……でも、ノロケをもらいました!」

 

 なーにしてんだあのクソオタク! 俺の推しに向かってノロケたの!? というかアイツは推しに向かって俺の話したの!? 相談されたと知った時には胸が痛んだのはもはや笑い話というかあの頃はなぁと思い出話ができるレベルになったが、それはそれでいたたまれないんだけど! 

 

「ち、ちなみに……パレオと俺の話は、もしかしてみなさんご存じ?」

「ハイッ!」

 

 超絶いい笑顔いただきました。ふっざけんなよアイツ! と思ったけど隠したいと思ってるのは俺だけだった! パレオはパレオで悪気なく、悪意なくただ最近あった幸せな話を推しにしているだけのやつかもしれない。俺も日常のちょっとした幸せをイヴちゃんに報告するもんね、わかるわかる。ただそれが俺にも報告来るのは違うんじゃないかなぁ! 

 

「時間です」

「ちが、違うんだよイヴちゃん! まだそういう関係じゃなくて、ちょ、お、俺を信じてくれ──!」

 

 スタッフに剥がされ、俺はそんな捨て台詞を思わず大声で叫んだせいで、SNSで話題になっていた。するなそんなもん。

 俺はトボトボと集合場所にしていた壁際で項垂れた。話したいこと全部ふっとんだ。まさかパレオの話だけで終わるとは。

 

「ど……どうしたの?」

「いやあの……ちょっと色々あって」

「そうなんだ、周りの人になにかされたの?」

 

 コソっと耳元で透き通った青のような声で囁かれちょっと背中が伸びる。というかこれは顔が近くて気恥ずかしいんだけど、ちょっとだけ横目で見るとましろさんはとても心配そうに眉を八の字にしており、笑顔を作って否定する。

 

「大丈夫、イヴちゃんから話しかけられてびっくりしただけ」

「そ、そっか……私も、彩さんにすごく話しかけられちゃった」

「彩ちゃんのところ行ったんだ」

「うん、初めて行ったけど、すぐに私の名前呼んでくれて、なんか、普段の彩さんと違ってキラキラしてて……ふふ」

 

 コクンと首肯して嬉しそうにどんな話をしたのか教えてくれる。これこれ、こういうのがオタク仲間と推し活する醍醐味だよなぁ! 同担なら同担でわかる、それな、という会話をするし推しが違うなら違うで羨ましい、そういう感じなんだみたいな交流にもつながる。

 

「アイドルってすごいんだね、知ってる人なのに色が全然違くて」

「色?」

「あ、ううん……そういう感じってだけ」

「そっか、そうなんだね、俺はプライベートのパスパレはよくわかんないけど」

「うーんと、普段のパスパレは、日菜さんはいつも通りで、イヴさんも変わらないかな」

「なるほど、イヴちゃんのところもっと詳しく」

 

 どうやらましろさんはつくしさんがバイト先に羽沢珈琲店を選んだことがきっかけで通う回数が増えたようで、自然とバイトのイヴちゃんと会うことも増えたとか、他にも花咲川の同学年でバンド仲間はポピパさんを中心に結構仲良しらしく、はぐみさんや有咲さんともイヴちゃんはよく一緒にいるらしい。

 

「いい情報だ……ありがたい」

「お、拝むほどかなぁ?」

「いやいや、プライベートのイヴちゃんもあんな感じの天使だと知れただけでも、神です」

「その場合、イヴちゃんが神なんじゃ……あれ、でも天使なんだっけ?」

 

 考え込んでしまったけど、俺そんな意味をじっくり考えて発言してないんであの、天使と神様がどうとか、よくわからん。

 やがて、ロックも戻ってきて、俺とましろさんの様子にドン引きしている。

 

「なにしとるん?」

「ましろさんを拝んでる」

「拝まれてる……?」

「そ、そっか……」

 

 理解をやめるのやめてくれるかな。

 いや、それにしても歩く人がましろさんやロックに視線が誘導されるんだな、おもしろ。

 パスパレは割とガールズバンドのオタクを兼任している人がいるから、特にましろさんを見てモニカのボーカルじゃね、となる人はいる。アフグロとか、それこそポピパさんとか、メンバーの日菜ちゃんはロゼの紗夜さんの妹で、千聖ちゃんはハロハピの花音さんとは大の仲良し。そういう繋がりがオタクを別沼に浸からせるんだよね。

 

「RASのオタク兼任してるのは俺以外に見たことないけど」

「珍しい部類やと思う」

「でもパレオが現場にいるから、そこから沼ってもいいと思うんだよね」

 

 残念ながらRASはパーソナルデータが露出することは少ないのだが、パレオはきっと今もどこかで目撃されているし、目立つからRASにいると知る人はいると思うんだけどなぁ。パレオはいいぞ、俺が保証する。

 

「モニカ、ちゃんと有名になってたんだね」

「そりゃそうでしょ、月ノ森といえばお嬢様学校、クラシカルは嗜んでもバンドなんてガチャガチャして野蛮ですわ、みたいなイメージあるのにそこでバンド組むんだもん」

「……わぁ、とっても偏見」

「でもあながち間違いじゃないんだよね、それ」

「そうなんや」

 

 え、マジなん? お嬢様学校、恐ろしいところ。

 そこでバイオリンがいるってことで話題になる、特徴的な歌詞と世界観が刺さる人には刺さる。あとはビジュアルもいいし、応援したくなる頑張り屋でかわいいところとかも。

 

「かわいい……私も?」

「何言ってるの、ましろさんが一番目立つポジションなんだから」

「そ、そっか……なんか、照れちゃうね」

 

 かわよ、俺が守護らねばなるまい。騎士の顔つきになっていると、ロックが呆れ顔をして俺も表情を崩した瞬間──背中に悪寒が走った。

 これは、間違いない。()()()()()()──ッ! 

 

「どうしたの榛名さん」

「……視線を感じる」

「え、どういうこと、怖い話?」

「ある意味ホラーかも」

「や、やだ……榛名さん、うぅ、確かになんか圧を感じる気がする……」

 

 やっぱり俺が守護るしかない。こんな手震わせながら裾を掴まれたらそう思うだろう。だからちょっとくらい言い訳をさせてほしい。決して俺にはやましい気持ちは一切ない。チュチュさんに誓って言える。これはそういうんじゃない。

 

「そもそも……ましろさんがいらっしゃるとは、聞いていませんが」

「ひっ、なんか、女の人の怨念が籠った声が……!」

「落ち着いてましろちゃん、なんなら姿も見えとるよ」

「なんで六花ちゃんはそんなに落ち着いて……あ」

 

 あ、となりますよね。そこには鬼の形相をした黄色と白のツートンカラーをツインテールにしたちょっと身長高めの女の子がいるのだから。

 大丈夫、取って食ったりはしないはず。万が一相手に害意があったとしても殺されるのは俺一人だから。俺はキミを守護って死ぬよ。

 

「火に油や」

「……大丈夫です、センパイの言葉は戯言がかなり多いので、多少は聞き流せます。二度までなら、守るとかなんとか言っても許せます」

「心の中含めると三回」

「──怒られたいんですか、センパイ?」

「……へ、あ……えっと、パレオさん?」

「はい、パレオです~♡」

 

 変わり身はや。どうやらさっきの声もパレオのものだと気づいたようでましろさんはちょっとだけ頬を染めながら俺の裾から手を離した。

 まぁとてもいいタイミングですねと言いたいところだが俺は言葉を慎重に選ばなくてはならない。好感度調整はお手のもの、下げるのが簡単なら上げるのもまた簡単というわけさ。

 

「イヴちゃんにずっとパレオの話されたんだけど」

「かわいいですよね、ずっとにこにこしながらパレオがセンパイの話をするのを聞いてくれました、まさに天使です、センパイを拝んでおきましょう」

「し、思考回路が一緒や……」

「俺じゃなくてイヴちゃんを拝め、神聖視しろ」

「そうでした!」

「……ついていけん」

 

 ロック、パレオはこういうやつだが俺もこういうやつだ。俺とパレオが悪ノリした状態で生半可な理解が通用すると思うなよ! 俺たちの領域には誰もついていけねぇんだ! 

 ──とまぁ、とりあえず推しの話はセーフだな、この悪ノリは俺にとって爆弾処理でもある。ドキドキする、このスリルたまんねぇな……! 

 

「その様子だともしや、みんなに惚気てるのか」

「はい、そりゃもう、お盆の時のお話をしなくちゃいけないと思いまして」

「絶対にイヴちゃんのところにしかいかない。もう日菜ちゃんにイジられるのも千聖ちゃんのネタになるもの嫌だよ……」

「と、トラウマになってますか?」

「ちょっと」

 

 あれは怖かった。需要と供給のバランスが大事だということを嫌というほど思い知らされた瞬間だよ。

 これに関してはパレオの弱いところでもあるので申し訳なさそうな顔をする。よし、語気が弱まったな。

 

「ところでパレオはどうして?」

「そうでした、パレオはましろさんを見つけて、それで……センパイが浮気をしていらっしゃったので、ちょっと釘を刺しておこうと思いまして」

「とんだ誤解だな、ましろさんとはなんでもない、ねましろさん?」

「う、うん……それよりパレオさんと、榛名さんの関係って?」

 

 そういやそうだった。やべ、忘れてた。

 ロックもどうやら忘れていたようで、そうだったみたいな顔で俺から目を逸らしてきた。いちから説明するのダルいな。

 

「こいつとは家が近所の幼馴染で、最近パレオなのを知ったんだよ」

「そ、そうだったんだ」

「元カノ、の方はご説明されないので?」

「ややこしくなるから黙ってたんだよ!」

「なるほど、ハルは配慮が行き届いていて素晴らしいですね♪」

「どうも、たった今、台無しになったところだけど」

 

 わざと言ってやがるな、それだけパレオも嫉妬してる、余裕がないということでもあるのだろう。かわいいやつだ、許す。

 ただましろさんを怖がらせてしまったのでそれはごめんなさいしようね。

 

「グッズは買ったんですか?」

「うん、ロックはいらないって」

「そうですか、ましろさんは?」

「あんまりお小遣いなかったけど、ほしいものは買えたかな」

「彩ちゃんはそういうの報告してあげるとかなり喜ぶのでチケットがあればもう一度行ってみては?」

「あ……持ってない」

「でしたらどうぞ、布教はオタクの性ですので」

 

 そう言って自分のために用意したであろう彩ちゃんの整理券をあっさり手渡し、ましろさんを見送る。

 な、こういう配慮あるんだよコイツは。鉄面皮を被って鍛えた優等生としての目端の利き方は尋常じゃないからな。

 

「厄介払い、なんて悪い言い方してしまいますが」

「じゃあ、私も席外すね」

「いえロックさんは別に」

「ううん……大丈夫」

「ロックさん」

 

 ロックもまたいなくなってしまって、これに対してはパレオが寂しそうというかちょっと気まずそうな顔をしていた。ロックのやつ、いらん気遣いしてるな。

 パレオが話すのにましろさんを遠ざけたのはあくまでいつものパレオだけでなく素が少しでも見えるからだ。何も知らないましろさんには見られたくなくても、ロックは別にパレオの素を知ってるだろうに。

 

「ロックさんとは、仲良くやっていますか?」

「まぁ、こうやってイベント付き添ってくれるくらいだし」

「パレオは、ロックさんがちょっとだけ羨ましい時もあります」

「そう?」

「はい」

 

 ロックと俺の関係は、きっとパレオが思う程羨ましいものではないと思うけど。

 でも隣の芝は青く見えるものだ。俺にはわからないけど、ないものねだりをしたくなる時もあるんだろう。

 

「そういえば、やっと会えたな」

「……そうですね」

「それが推しに100%全力のパレオってわけか。いや確かに、コラボカフェの時に全然本気じゃないって言ってた意味がわかったよ」

「わかっていただけたならよかった」

「オフ会が楽しみになったよ、いつもよりさらにかわいいからさ」

 

 ここで秘儀を発動する。好感度爆上げワード、かわいいだ。かわいいを追求し、黒髪ではない姿はそのための表現だと言う彼女にとってその誉め言葉がなによりも嬉しいものだ。あまり連発すると効果が薄れそうであるため俺も滅多には言わないが、ここぞと言う時には抜かせてもらう伝家の宝刀だ。

 

「……今でも、ちょっとくらいなら触ってもいいですよ?」

「やめておこう、公衆の面前でにぎにぎして呼吸が荒くなる」

「変態ですね」

 

 この通り、変態発言もスルーしてもらえる。それどころか腕に触れてくるという始末だ。俺の理性を破壊しようとしないでほしい。

 とまぁここまで上げるとちょっと上げすぎなので最後に下げておこう。このままじゃオフ会で襲われかねない。

 

「でも最近、イヴちゃんが俺の性癖に気付いたみたいで握手が深いの」

「そんなキスみたいに言わないでいただけますか?」

「パレオのおかげで最近、性癖に深みが増してる気がする」

「……そうですか~」

 

 まぁこれで調整完了ということで、人として大事なものを犠牲にしている自覚はあるが俺とパレオがお互いの両親に胸張って報告できるくらいの健全な関係を続けていくにはこれしかないんだよね。

 ──だんだん、ちょっとこれも場当たり的で止められなくなり始めてる自覚はあるけど。

 

 

 

 

 

 





中学生と健全なお付き合いができなくなり始めてるなんて最低ですね
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