ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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二十七話:毒沼

 正直、俺とパレオの関係はここから緩やかにしか変わっていかない。

 劇的な変化とか、ラブコメ的展開──は、あるだろうけど、めでたしめでたしで終わるかいきなり時系列が数年後に飛んで結婚しただの、子どもが生まれただの、そういう話になるだろう。そのくらい、俺とパレオにとって山のない話が続く。

 ──じゃあなんで、俺は語るのだろう。蛇足を書いて遊んでいるだけといえばそうなんだけど、それ以上に俺が放置してはいけない、大事な友達がいるからだ。

 イベントも何事もなく終わった。そう、何事もなかった。強いていえばイヴちゃんと遂に机越しやステージと客席の距離ではないところで出会ったくらいだろうか。

 オフ会の焼肉はパレオと二人きりだと思っていたが、ロックとましろさんも連れてきていいと言われ首を傾げるとなんとパスパレが合流してきたのだ。これには俺も苦笑いです。

 

「千聖ちゃんが嫌われてるー、あはは!」

「日菜ちゃんだって似たようなものじゃない」

「ま、まぁまぁ、あの時のことはもう本人たちが解決しているので、ですよね?」

「はい!」

「私はそこには居合わせていませんが、千聖さんや日菜さんがご迷惑をおかけしまして、私が、ハラキリでお詫びします!」

「そこまで責任取らなくていいからね!?」

「……? ハラキリとは、奢りということですよね?」

「違います」

 

 奢ることを「自腹を切る」とも言うしだからまぁ合ってるのか? だが麻弥ちゃんにもそれだと語弊があるッスよとツッコミを入れられていた。

 そんなワイワイガヤガヤのオフ会だったが、ロックの顔が浮かないことがちょっとだけ気になっていた。

 

「どうしたロック」

「ん? なんもないよ……ウチは、パスパレを推しとるわけやないし、場違いやと思ってただけ」

「ごめん、嫌だったか?」

「そんなことないよ」

 

 やっぱり安易にロックを誘ったのはよくなかったかな、と反省する。

 この空間は楽しい、ましろさんもすごく楽しそうに笑ってるし、パレオは勿論言うまでもない。パスパレのみんなも。

 でもそれって、ここが「パスパレとそのオタク」で集まってるからであって、その括りから外れたロックにとっては退屈に感じてもおかしくない。

 

「ましろさん」

「ん? なぁに?」

「ましろさんって、電車で帰る?」

「途中まで電車で、お父さんに迎えに来てもらう予定かな、一人で電車乗れるって言ったんだけど時間が時間だから心配みたいで」

「そっか……」

 

 そりゃそうだ。第一俺が誘っておいてじゃあ帰りは別々で、なんて無責任がすぎる。このオフ会だって元は予定になかったわけだし。

 だからと言って彩ちゃんと楽しそうに話してる彼女に途中で切り上げろとは言えないし。

 どうしたもんかと考えていると彩ちゃんが声を掛けてきた。

 

「私が途中まで一緒に行くよ」

「え、でも」

「大丈夫、私たちはもう成人してますから!」

「あら、きっと彩ちゃんじゃ心配なのよ」

「そうなの?」

「いえ、違います! そういうわけじゃ」

 

 どうやら俺の意図は千聖ちゃんだけでなく彩ちゃんにも見透かされているらしい。ましろさんがグラスを両手に握りながらきょとん顔なのは解釈一致だけど。

 まぁ最悪、すごく申し訳ないけどましろさんの帰りは確保できた。あと問題なのはコッソリ、後で家に泊まりたいとかいうどでかい爆弾を投下してきた後輩兼推しだ。

 

「嫌」

「パレオ」

「……と言いたいところですが、パレオだってロックさんを案じる気持ちはあります」

「わかってんのかい」

「けれど、これはパレオの憶測ですが……仮にここで二人きりで帰るとなると、パレオの心がザワつきます」

「そうだよな、パレオにとっては」

 

 一緒に帰れると思った、なんなら俺んちに転がり込む予定まで立てていた。当然俺は手を出すつもりなんてないが、その時間はすごく、まるで恋人同士のように甘くて幸せだろう。

 それをスルーして、他の子と二人でこのオフ会から抜け出す算段を立てているんだ。嫉妬で済んでるだけパレオは優しいだろう。

 

「埋め合わせはする。デートと、泊まりも」

「いえ、その場合しばらく連絡してこないでください」

「……なんで」

「そんなの……ハルが嫌いになるからに決まっています」

 

 俺が間違ってるのは自覚してる。友達と言っても相手は女の子だ、男女の友情は成立する派の俺としても、このシチュエーションが最悪の展開を生む可能性があるというのは理解しているし、俺は大丈夫と思うことがドツボに嵌るきっかけというのも、わかってる。

 

「大丈夫って根拠なんてない、男女の友情がいきなり劣情に早変わりするなんて、よくある展開だろ」

「よくそこまで理解して、パレオの前でロックさんと二人で抜けるなんて選択肢を出せましたね……」

 

 うわ、めっちゃ怒ってる。こんなに怒ってるパレオを見たのはいつ以来だろうか。

 パレオだってわかってる、俺とロックがどんな友達関係だったのかと、そしてそれが薄い氷の上に成り立っているのだとも。そして、俺がロックを案じて、気遣うのが間違っているわけじゃないと。

 わかってるから、怒ってしまう。それだけで俺のことを信じられなくなる自分の狭量に怒ってるんだ。別に狭くないと思う、なんなら許そうって気持ちがあるだけ器が広いよ。

 

「センパイの行動、ロックさんの行動、それをシュミレートした結果から伝えます」

「お、おう、いつから未来予知キャラになったんだ……」

「──お部屋に上げるまではセーフとします。寝泊りさせた瞬間、センパイとはしばらく絶交です。具体的には年末に帰ってくるまでパレオはお預けとなります」

「なっが!」

「それくらいのペナルティは覚悟してください、という意味です。当然、その間に一度でもロックさんと何かあれば直々に引導を渡しに行きますが」

「……ごめん、パレオ」

「やだ……嫌です、これはもう浮気です、信じられない、ハルのバカ」

 

 俺もそう思う。でも、俺はパレオのために全部捨てる覚悟なんて出来ない。それが好きな人への誠意だって言うなら、俺は不誠実の浮気男でいい。

 パレオのためだけに、ロックと過ごした時間を否定したくない。

 

「ハル……」

「大丈夫……だよ、パレオさん」

 

 と、そこに割って入ってくる人の声がした。ほぼ同じにパレオと視線を向けるとそこには白髪の女の子が立っていた。

 いつから話を聞いていたのか、ましろさんだ。ちょっとおどおどしながらも力強い言葉で大丈夫と言ってくれる。

 

「間違いがないように、私も一緒に帰る」

「ですが……」

「六花ちゃんには悪いけど、今の榛名さんと二人きりにはさせられないと思うもん、私だってそのくらいは……気づけてなくて、千聖さんに教えてもらったんだけど」

「千聖ちゃんが……」

 

 なんとましろさんは千聖ちゃんからの刺客らしい。なんだか色々と気を回してもらって、本当に申し訳ない気分になってくる。彩ちゃんと千聖ちゃんは特に今度、並びに行ってお礼でも言っとかないといけないんじゃないだろうか。

 

「それに千聖さんが、私のシミュレーションによると二人きりで帰った場合、限りなく二人の関係が悪化する可能性が高い、って言ってたよ」

「未来予知、はやってるの?」

「どうでしょう」

 

 はやってたまるかそんなもん、とツッコミを入れたいが我慢しよう。

 ともかく、そういうことらしい。パレオとはまた違った角度からの予知を授かった俺だが、最悪の未来ではロックと二人きりで帰って、家に一泊させた挙句、それでパレオとは正月まで会えず、ロックとも疎遠になってしまうらしい。避けねばなるまいて、そんな未来は。

 

「でも、ましろさんは……まだ」

「ううん、おかげで今度、パレオさんと一緒にご飯食べに行く約束してもらったから」

「羨まし……じゃなくて、申し訳ないな」

「ハルの本音はさておき、これで損をするのはハル一人になりましたね」

「……だな」

 

 元々、こんなの損でもなんでもない。パスパレは、イヴちゃんと話すのは楽しかったけど、やっぱり俺はプライベートの推しじゃなくて、お仕事での推しとテーブル隔てて話すくらいがちょうどいいや。

 改めて、イヴちゃんや麻弥ちゃん、日菜ちゃんにもお礼と謝罪をしてロックに事情を説明した。

 

「……ごめん、遼くん、ましろちゃんも」

「おう、そう思うんなら埋め合わせはよろしくな、ロック」

「私は大丈夫、六花ちゃんが心配だったから」

「詳しい話はあとでな」

 

 頷き、また電車に乗り込む。その間に俺は、嫌でも気づいたことがある。

 パレオの拒絶感、ロックと二人きりの話をすると面白くなさそうなパレオは、最初は嫉妬してるからなと思ってた。本人も浮気ですと茶化してた部分もあったしな。

 ただ、今日のパレオのリアクションと、パレオが来た時のロックの反応、千聖ちゃんやましろさんのリアクションで俺は、一つの仮説が真実味を帯びていることを悟った。

 仮説、なんてカッコつけたけどなんてことはない、最初は男なら誰でも思うことだ──あいつ、俺のこと好きなんじゃねと。

 

「ましろさんがいてくれて助かったよ」

「役に立ったならよかった」

「相変わらず寝るの早いんだから、コイツは」

「でも、ふふ……榛名さんの隣にいるからかも」

「俺はちょっとだけ困るよ」

「……榛名さんは、パレオさんと両想いなんだね」

「まぁわかるよな、ほぼ恋人みたいな言い争いしてたわけだし」

 

 パレオは自分の正体を明かしてからも、ずっと不安だったんじゃないだろうか。俺が付き合わない、まだ整理がつかないと言った時からずっと。

 原因は、この隣にいるロックと俺の関係だ。友達だ、と言っているし俺は否定しない、ロックもやめたいとか言いつつ否定はしない。けど、七月の文化祭後くらいからロックは俺の前でかわいくあろうとしているフシが、あったんじゃないだろうか。

 

「めちゃくちゃ俺の自意識過剰だったらハズいけど、今日のロックの服もかわいい、前だったらこんな気合の入った格好してこなかったよ」

「卸したてなんじゃないかな、服は……そのくらい」

「意識してたってことか」

 

 眼鏡とシュシュは、ロックにとってのパレオの武装みたいなものでもある。あれを全て取っ払った状態がRASのロックであり、仮面を脱いだ真の姿ともいえる。

 それが今、ロックにはギリギリ手首にハマってる程度だ。

 

「ましろさんも気合入ってると思うんだけど」

「私は、かわいい服が好きだから」

「そっか」

「うん、私服ダサかったら恥ずかしいし……でも子どもっぽいのかなって思う時もある」

「そんなことないと思うけど」

 

 フリルとリボンが恥ずかしいと思う時期は来るのかもしれない。でも、似合ってるなら似合ってるでいいと思う。好きで似合ってるなら、文句なんて出ないし、少なくとも俺は似合ってるしかわいいと思うんだよね。

 

「……そういうこと言うと、私も好きになっちゃうかもよ」

「口説いてるつもりはないんだけど……」

「知ってる、でも私はそうやって肯定してくれる男の子とか、近くにいなかったから……騙されてもいいなって思っちゃう」

「天然タラシみたいな言い方してくる」

「榛名さんは、毒なんだよ……甘くて、優しい毒、匂いで誘って、食べちゃう」

「食虫植物かよ」

「それそれ、そんなイメージ」

 

 どんなイメージだとツッコミたくなるが、どうやら俺は純粋無垢な女の子を掴まえてしまう悪い男らしい。はは笑えないね、だからパレオやロックが引っ掛かって明日香は引っ掛からないのか、するとましろさんも危ないかも。

 

「その時は、勝手に恋して、勝手に失恋する……悲しいと思うけど、きっと榛名さんに知られたら、またパレオさんに怒られちゃうでしょ?」

「俺がね」

「うん、好きな人が怒られるの、嫌だから」

 

 ましろさんは、そう言って大きな瞳をちょっとだけ潤ませた。隣で俺の肩を借りて、腕を組んで寝息を立てているコイツは、もっともっと前から溺れてるのだろうか。

 俺はもう満腹なのに、満たされてるのに。ずっと溶かされ続けてるのか。

 

「ましろさん」

「さん、はいらないよ。もう私と榛名さんは……友達だもん」

「今それ言われると、すごく微妙な気分だな」

「えへへ、しょうがないね……えっと遼?」

「呼び捨て」

「明日香ちゃんの呼び方、ちょっと憧れてた」

「じゃあ、ましろ?」

 

 俺が呼び捨てにするとましろはにっこりと笑顔になった。友達の距離感ミスってるところあると思うけど、これもましろのあざとさというか良さなのか、これで自分の武器を理解した瞬間、初恋キラー間違いなしだな。

 

 

「また」

「うん、またねましろちゃん」

 

 ましろは手を小さく振って改札を抜けていった。俺たちは乗り換えなわけだけど、ロックがすごい顔でこっちを見上げてくることに気付いて説明しようかどうか悩む。

 そこからは二人きり、まぁ後は数分のことだし、多分話題はこれだろうからな。ここまで予想済みだったとしたらあの二人は未来予知系の能力者だろ。

 

「……呼び捨て」

「なんか流れでな」

「流れで呼び捨て……パレオさんに言いつけていいやつ?」

「いいやつ……だと思う」

「だと思うの時点であかんくない?」

「言わないで……」

 

 ロックに問い詰められるが話題逸らしには本当に役に立つ、ここで万が一雰囲気に流されてロックが告白なんてしようもんならそれこそパレオがヤキモチで暴れ出すこと間違いなし。だが、ましろの件は大丈夫だろうか。

 

「それじゃあ、また今度話を聞かせてもらうから」

「ああ」

「またね……榛名さん」

「ああ……」

 

 旭湯の前で別れる。

 ──これでいい、これで最悪の未来は回避できた。ましろのおかげと千聖ちゃん、パレオのおかげでなんとかなった。でも、これで本当に正解なのか? 

 あくまでパレオはロックの味方はしない。それどころかこういう場面では自分のことしか考えない。自分がヤキモチを妬かなければなんでもいいだろう。それでいいと思う。

 だけど俺がそれに流されていいんだろうか。ただ恋人になる予定の両想いの女の子を友達より何においても優先しなきゃいけないものなんだろうか。

 

「ロック」

「……なに?」

「待って、少しだけ……飲み直さないか?」

「お酒飲んでないのに、おかしな言い方」

「あんま食ってなかったろ、コンビニでいいからさ……なんか買って、映画でもみながら」

「それって……榛名さんちで?」

「そう……俺んちで」

 

 ロックは頷いた。そう、これでいい。これが最悪の未来に繋がっているとしても、いないとしても、俺はロックの本当の気持ちが知りたかった。

 毒に身を焼くだけで息絶えることのできないロックを、せめて俺の手で介錯してやりたい。残酷な言葉だが、俺はこれ以上抑圧されるロックを見ていられなかった。

 

 

 

 

 

 




榛名ちゃんは推され体質
そして次はロックのターン!
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