ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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されど脇役は脇役


二十八話:脇役は踊る

 ロックとコンビニに行くと、先輩にすごい顔をされた。バイト先だからしょうがないけど、絶対勘違いしてるだろうな。

 まぁ時間が時間で、一緒におかしと飲み物を買ったら勘違いもする。

 

「な、なんか……悪いこと、しとるみたい」

「いいじゃん、今日くらい……悪い子になっちゃおうぜ」

「……うん」

 

 俺は現在進行形でパレオに悪いことしてるけどな、というのは音にならずに飲み込んでおく。旭湯の、ロックの保護者にはどう言い訳するんだろうと思ったけど、チュチュさんの家に泊まることもあるらしくて思ったよりすんなり許可はもらったみたいだ。まぁ泊めると決まったわけじゃない。帰ってくれる可能性も十二分にあるがな。

 

「やっぱりポップコーン」

「映画だから?」

「うん、どんな映画視るの?」

「さぁ、ネットで調べて」

 

 ポップコーンに手軽に食べられるスナック、そして2Lのペットボトルの炭酸とアイスも。

 ウチにテレビはないがPCモニターはあるからな、サブスクで探せばなにかしらあるだろうとスマホで調べる。

 ロックが興味のある映画ってなんだろうか、やっぱり恋愛ものか? サスペンスものとか俺は割と好きだけど。

 

「それは、うーん、ホラーとか?」

「ロック得意だったっけ?」

「ううん、一人じゃ絶対見れんやつ、やから……榛名さんと一緒にならと思って」

「流石にそれはやめとこう、じゃあアニメ?」

「んー、ウチが退屈にならんやつだったら」

「それはわからん」

 

 色々話しながらああでもないこうでもないと言って、テキトーにランダムで選んだ結果、まさかのラブロマンスになった。こういうのは恥ずかしくなるやつだが、ロックは別にやり直しを要求することなく、これでいいと言っていた。

 

「榛名さんが誘ってくれるとは思わんかった」

「前、そんなこと言われたからな」

「……あの時は、榛名さんをからかおうと思っただけで」

「でも、いいよって言われたらロックは来る気だったろ」

 

 あの時は確かに冗談だとも思ってた。でもロックが俺の思った通りの感情を抱いているなら、逆の立場なら俺はちょっとでもいいから傍にいたい、二人きりでいい雰囲気で過ごしたいと思う。

 これが俺やましろの勘違いだったら、それはそれでいいんだけどさ。

 

「よっと、これで準備おっけー、ちょっと客席は狭いけど」

「大丈夫」

「そっか」

 

 ロックがシャワーを浴びている間にモニターをご飯用に買った小さな机へと移動させてクッションを下に敷き、ベッドを背もたれにする。まぁ俺は割とPCのデスクでカップラーメン食べたり、アイス食ったりしてるけどね。

 保護者の許可をもらってきた際に持ってきたらしいキャミソールとホットパンツ姿がちょっと目に毒であるため俺が部屋着に使っているパーカーを被せた。ぶかぶか具合で逆になんかアレになってしまったが、今更ロックは返してくれないだろう。

 

「榛名さんは」

「遼でいいよ、たまに呼ぶでしょ?」

「……遼くんは、なんでウチを?」

「深い理由があったわけじゃない、そりゃ、こうするまでに色んなことはあったけど」

 

 今日は拒否しない。甘えるように、それこそ電車の時のように肩にロックの頭が乗ってきたのを俺はそのままスルーする。手が俺の手の上に置かれても、俺は何も言わない。

 同時に確信できた、ロックは恋をしている。その相手がまさかこの変態指フェチ野郎だとは露ほどにも思わなかったよ、ちょっと前まで。

 

「羨ましい」

「あれが?」

「ううん、あれも……ちょっといいなぁと思うけど、ウチはパレオさんが羨ましい」

「羨ましがるような関係じゃないよ」

「……でも、二人はずっとずっと前から一緒におるのが当たり前で、遼くんを当たり前のように好きになって、遼くんに当たり前のように好きになってもらって、離れても、また仲直りして、当たり前のように……ウチがゆっくり積み上げてきた時間なんて、初めからなかったみたいに、両想いになって」

 

 恋愛でもよくある。過ごした時間なんか関係ないって、俺だってそうテンプレなことを言ってあげたい。実際にそういう恋愛があるんだろうけど、少なくとも俺とパレオは過ごした時間が恋愛に結びついている。ロックの言う通り、俺もパレオもお互いを想うのが当たり前であるかのようにそれだけ一緒に時間を過ごしてきてる。

 

「でも今日、やっと……やっと、ちょっとだけ振り向いてくれた。振り返って今、ウチを見てくれとる」

「ロック」

「すき……ウチは、遼くんがすき」

「俺は、ロックのことを、大事な友達だと思ってる。恋愛は、俺にはパレオ以外となんて考えられない」

「……うん」

「でも、こんなこと言ったらロックにも、パレオにも失礼だけど……パレオとの過去がなかったら、ロックを好きになってた、ロックの好きに押し切られてたんじゃないかな」

 

 それだけ、ロックと俺はたった一年、パレオの十分の一にも満たない年数で積み重ねてきた関係がある。それは俺が正月まで好きな人に会えないかもしれないというリスクを背負ってでもロックの手を取った理由だ。

 

「ううん、パレオさんの過去がなかったら、ウチと遼くんは、他人のままやった」

「RASのロックさんで終わってたかもな」

「近所に住んどることも、ウチは知らんまま、遼くんはウチを推しがいるバンドのギタリストとしか認識せん」

「そう、なんだろうな」

「だから……ウチは、今の遼くんでよかった」

 

 繋がれた手は、一夜の幻でしかない。この香りも、ロックの涙も、きっと夜が明けたら全部、過去になる。

 全部が全部、恋が報われるわけじゃない。たとえ好きになったとしても、伝えずに勝手に失恋すると言ったましろも、こうして手の届くところにいるロックも、叶わぬ恋をする。

 

「今夜だけは、パレオさんより、ウチを見てて」

「今日だけだ、それで……ロックが前を向けるなら」

「うん」

 

 俺はロックを愛せない。それは、ロックに落ち度があるわけじゃない、趣味が合わないわけでも歩調が合わないわけでもない。

 ただ、俺にはパレオがいるというだけ。世の中には、どこかではきっとそれでもいいと二人の女性に愛を囁く人がいたり、浮気という形で不誠実に続いていく関係があるのかもしれないけど、俺はそんなに器用じゃない。

 大きな大きなパレオの愛を受け止めるだけで、俺は手がいっぱいになっちゃうから。

 

「んん、遼くんティッシュとって~」

「はいはい──ってめっちゃ泣いてる」

「いや、なんで遼くんは泣いとらんの? 人の心ある?」

「あるわ」

「これで泣かん人おるんや……」

 

 どうやら悲しいビターエンドかと思いきや大逆転ハッピーエンドが気に入ったようでロックは俺のベッドの枕許に置いてあったティッシュを俺の二回分くらい消費する。なんの回数かはお察しください。ちなみに俺は花粉症です。

 

「むしろ逆転だ、ってなった時湧き立った、スタンディングオベーションだな」

「そういう感動もあるんや……確かに」

「はは、アイス食べるか?」

「食べる」

「持ってくるよ」

「……あ、遼くん、ウチも」

 

 なんか裾をつまんでついてくるかわいい生き物が爆誕してしまった。スビズビの鼻声で、どうやらとてもじゃないが俺には見せられない顔らしく死角に逃げ込まれるが。

 うーん、こんなの繰り返してたら移り気になるかも。パレオが懸念するのもよくわかるね、これは正月まで会うのも連絡するのも禁止されるって。

 

「遼くん」

「ん?」

「ウチの、友達でいてくれて、ありがとう……」

「そんなの、俺が言いたい。こんな性癖歪んだ変態のことを見捨てず、呆れ顔しながら隣にいてくれた、時には怒ってくれて、くだらないことに付き合ってくれて、最高の友達だよロックは」

「──ずるい、嫌いにならせてくれんのや」

「無理だね、俺だってロックが好きだからな」

「……本当にずるい」

 

 肩に真正面から頭がのっかってきて、俺はそれを受け止める。

 種類が違うのをわかってて、それでも好きと敢えて言葉にする。気まずくなって、一緒にいられなくなるのは嫌だ、俺はロックと友達でいたい、せめて高校を卒業するまでは、ロックとの日常を守っていきたいから。

 

「ええ、正月まで……なっが!」

「そうなんだよ」

「ご、ごめん……ウチのせいで」

「いいって、俺が選んだことだし……欲張りだからさ」

 

 結局、泊まる雰囲気になったため夜更かしをして雑談を繰り広げていく。夜遅くまで人がいるってのは不思議な気分だけど、悪くない。友達と夜更かしなんてまるで修学旅行みたいでワクワクしてしまうのは、俺が子どもっぽいからだろうか。

 ──まぁ話してる内容はアレだけど。

 

「ウチも一緒に謝って──そしたら、パレオさんの怒りも引っ込みがつかんようになってしまうかも」

「間違いなく」

「い、いっそ……浮気、する?」

「しない、それはしない」

「でも、パレオさんの言いなりすぎると思う……幾らなんでも、三ヶ月って、しかも遼くんもうすぐ誕生日だし、クリスマスもあるのに」

「だから、約束を破るのは俺じゃないよ」

 

 俺の誕生日に連絡するのを我慢出来たら、俺もちゃんと約束を守ってクリスマスもボッチ決め込むかロックとクリスマスを過ごす。だがそれを我慢できないのがパレオというやつだ。あれは最近完全に大型犬に成り下がってるからな。三ヶ月もお預けなんて出来るタイプじゃない。

 

「まさか、そこまで見越して……?」

「いや、よくよく考えたらそうだなぁと今思っただけ」

「なるほど……」

「でも俺はパレオが横暴だとは思わないよ、ロックのこと見捨てる選択肢なんていつでも選べたんだから」

 

 そう、俺が選んだだけ。パレオの横暴に屈してるとかじゃないし、それをたとえロックだったとしても咎められるのは違う。

 俺はパレオと一緒にいたい。これからあいつが中学を卒業してその後にどうなるかはわからないけど、もっともっと、恋人として過ごしたいという選択肢を選んだのも俺だし、そんなパレオのわがままは聞き入れることを決めたのも俺、だったらパレオのありがたい警告を無視して他の女の子を家に上げて泊めたのもまた、俺の選択であり俺の責任だ。

 

「信じとるんや……パレオさんのこと」

「あいつは信じさせてほしい、裏切られたら信じられないと泣いたけどな!」

「気持ちはわかる、逆やったら信じられん」

 

 譲歩して家に上げるまではセーフ判定もらってんのにそこを一歩踏み越えてるからな。信頼はガタガタだろうね。まぁ泊まる流れになる遥か前に、誘った時点でそうなりそうと連絡しているわけだけど。

 

「返事はなんて?」

「約束ですからね、とだけ」

「……二人はそれでうまく行っとるんやろ? わけわからん」

「ま、俺とパレオにしか見えないもんがある……でもこれは、恋人関係とかそれに近しいものじゃなくてもそうだと思うよ」

「そっか」

「俺とロックにも、俺たちにしか見えないものがあると思ってる」

 

 自分の言葉でなんとなく、なんで俺がパレオを蔑ろにしてまでロックの手を取ったのかが分かった気がした。

 言うならばこれは俺とパレオが色んなわだかまり、隠し事を明かして想いを伝え合って、ゆっくりと愛を育むラブロマンスと仮定した場合に、他の登場人物の感情をおいてけぼりにしすぎてるんだろう。

 ロックは俺によって感情を乱されて、泣きたい気持ちや嫉妬、振り向いてもらえないというもどかしさにもがいているのに、俺とパレオの間には割って入ることすらできない。最初から必要かどうかすらも怪しい脇役だ。

 

「でも現実に、ロックは俺の友達だ。その繋がりは俺にとって大事なものだから」

 

 だから蔑ろにしたくなかった。たとえパレオと俺のラブロマンスには入る隙間はなくたって、それで何もかも、想いもなにもかもを蔑ろにされる謂れなんてないはずだから。

 想いを遂げることはできないけれど、せめて昇華させるくらいは、そのきっかけは作りたかったんだろう。

 

「……そういうところが、すきになった原因なんやけど」

「ましろ曰く、食虫植物らしいぞ俺」

「ウチにとっては底なし沼や、ハマって出られん」

「底なし沼の抜け出し方は身を預けることらしいな」

「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「おっと、本当に今日だけにしてくれよ」

「はぁい」

 

 俺はいつか、このロックのぬくもりを忘れるんだろう。ロックもいつか、俺のぬくもりやこの思い出を忘れるのかもしれない。

 でも俺は忘れないと思う。こうして朝日六花という少女に出逢って友達になって、好意を向けられたこと、その想いを受け止めて断ったこと、忘れない。

 

「結婚式の披露宴に招待でもされたら、昨晩のこと笑い話にしていいかな?」

「ははは、笑い話になるといいな、その時にはパレオが」

「ならんかも」

「じゃあやめて、本当にお願いします」

 

 朝日が昇って、日が高くなり始めた頃、俺とロックはほぼ同時に目を覚ました。結局、あのまま、抱きつかれたまま眠ってしまったらしいことを悟り、俺はパレオになんて言い訳しようか必死に考えることになった。

 

「遼くん──ウチは、ながーく、引きずっとくから!」

「いやそれは早めに新しい恋を探す宣言にしてもらえる?」

「でも、ながーく、友達でいてね!」

「──勿論!」

 

 こうして、ロックの恋は破れて、いや俺が破って捨てた。最後の最後までワンチャンありそうな空気を出しておいて結局、俺はロックを振った。

 見送って、それから俺はパレオに電話を掛ける。ブロックされてる可能性はあったが意外にもすぐにパレオの声がした。

 

「もしもしパレオ──今、ロックを家に送ったところ」

『そう……そうですか』

「ごめん、泊めたし一緒のベッドで寝た」

『──っ、それを、わざわざパ……私にして、なにがしたいの?』

「謝りたい、好きな人に、俺を好きでいてほしい」

『ハルの言葉、今の私には信じられないよ……どうしてそんなことが言えるの?』

「待ってる、今日はずっと暇だから、一日家にいる」

『……行かない!』

 

 そう叫んで、パレオは電話を切った。

 パレオとのトーク画面に新しく、短い通話時間を知らせる表示を見ながら、俺は届くはずがない、でも届いていてくれているであろう言葉を零すのだった。

 

「──会いたいんだよ、パレオに」

 

 こんなことで終わるはずがない、そう信じたいのは俺だ。

 怒りも、落胆も、不信も全部パレオが俺を好きだからこそだと、信じたい。

 ずるい確認方法だと自分でも思うよ。だから本当に来なかったとしても、俺はパレオを責めないし落胆することもない。

 まぁ最悪、誕生日は明日香やロック、ましろに祝ってもらおう。サプライズでイヴちゃんとか来てくれたらいうことなしです。

 

 

 

 




そろそろ終わりが近いぜ
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