ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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三話:ヲタトーク

 本名を隠したい時──って言うとすごくカッコいい響きがするが身バレ防止のネットでのハンネの話なのが現実である。

 そうハンネがね、俺は基本的に「HALHAL(ハルハル)」って名乗ってる。理由としては超絶単純で本名が関係している。俺の本名は榛名(はるな)(りょう)だ。そしてこの名前にはもう一つの秘密が眠っているのである。

 またカッコいい言い方をしてしまった。要するにウチの両親が名付けの際に気が早すぎて男女どっちかわからんうちに「ハルカ」という名前を考えたらしい。この時点で正気とは思ってない。なんでヒトの名前で韻踏もうとしてんだコラ、と話を聞いた時に思ったもんだ。

 まぁそれはそうとして字をアテた時に目に入ったのが「遼」という字だったらしい。遼はこれでハルカとも呼ぶこともそこで初めて知った。

 ただややこしいからと音を「リョウ」にしたとおまけのストーリー付きだ。そのくだらなくせっかちなエピソードにちなんで俺は「ハルハル」と名乗ることにしている。まぁ大体半分にされて呼ばれるんだけどさ。

 

「でもイヴちゃんに呼ばれるのはむしろありがたいんだよなぁ、ハルさんって呼ばれるのマジでいい。しかも手ですよ、握手会出来たり手に触れる機会がオタクに存在していいんですかね、思わず帰りに匂いを嗅いじゃいそうになったよね」

「……榛名さん友達いないの?」

「やだなぁロック、友達のつもりだったんだけど俺」

「私も、今さっきまでは友達だったかなぁって」

「今さっきまで!?」

 

 なーんて驚くと思ったか甘いぜロック! 一緒に行った友達にもそれ言われたから俺にダメージはないぜ! 

 だが男友達であり同じ穴の狢でもあるパスパレオタクに言われるのとロックに言われるのはちょっと事情が違う。いやそうでもないな、この子はこの子でポピパさんの敬虔な信者だったわね。

 

「ポピパさんはいいですよ〜」

「沼から手を伸ばしてこないで」

「私的にはおたえさんの手がいいと思うんだ」

「おたえさん、青いギターのヒトだよね」

「そう!」

 

 まさか手を推してくるとは、わかってるじゃないかロック。

 音楽やってるヒトはみんな大なり小なりいい手をしているんだけど、俺好みはその中でもちょっと特殊なんだよね。

 どう特殊とは言いにくいんだけどさ、言語化が難しいんだよなぁ。芸術的感性なんて言うと性癖を美化しすぎだと自戒しているがまさに音楽を聴いて「震える」って感覚だ。それは技術をこねくり回したからって必ず生まれるものでもない感動って抽象的な感じ方であって俺のフェチズムも同じ系統だ。

 

「単純に手が大きければいいって話ではないんだね」

「そうだし手より指に重きが置かれるかな」

「指が長い方がってことでも?」

「単に長ければいいわけじゃない」

「黄金比とか白銀比とか、そういう見え方の美的感覚に近いんだね」

 

 そうそう、だいたいそんな感じ。俺は万能の天才じゃないからその美的感覚を数学的に解き明かしたり、具体性を求めたりはしないけれど言いたいことはそれに近い。

 俺は今追いかけてる推しは何人かいるけど手をパッと見せられて、一番美しいと思うのは白金燐子さんかな。あの人は指の長さ、手の大きさのバランスだけじゃなくて手首から腕にかけてのラインも扇状的だ。

 

「……思わず手首を隠したくなる解説や」

「優美って言葉があれほど似合う手指もそうはないよ」

「私は変態って言葉が似合うと思う」

「慣れた」

「慣れんといて」

 

 総合すると触れ合えるお手軽さと北欧系美人らしいすらりとしたフェアリーハンドの持ち主、パスパレの若宮イヴちゃん。

 優美で上品ながらエロティシズムさえあるイノセントハンドの持ち主、ロゼの白金燐子さん。

 可憐で活動的ながら力強さと強固な意志さえ感じるブレイブハンドの持ち主、RASのパレオさん。

 激情と静謐を内包しつつ正確無比な弓さばきからあふれる遊び心まで持ち合わせるロイヤルハンドの持ち主、モニカの八潮瑠唯さん。

 以上が俺の推し手指たちです。その中でも昨日はイヴちゃんに会って来てテンションが高いんだよね。

 

「……パレオさんのこと、教えなくて正解だったと思わされるよ、なんでこんな変態と知り合いになってしまったんや」

「しれっと友達から知り合いに降格させたな今」

「友達を紹介しにくい友達は友達じゃないのでは、って思い始めてるからかな?」

「悲しいけど真実」

 

 なんせそのパレオさんがガチのパスパレ推しだってことも俺は知らなかったわけだからね。知ってたら紹介してほしいと二重の意味でお近づきになろうとしただろう。いやまだ遅くないから、やましいことはなんにもないから出会いの場をセッティングしてはくれませんかロック。

 

「あのね榛名さん、確かに私は推しに近いと思ってる。道端で香澄さんに会ったら真っ先に香澄さんの方から声掛けてくれてハグまでしてくれてちょっと甘えたような声でロックって呼ばれるだけでも幸せを通り越すくらいに登ってしまいそうになるのにさらに身体的接触(ハグ)までしてくれるなんてファンサの域を飛び越しすぎて香澄さんの住んでる星に連れていかれてそこで結婚式挙げるくらいの幸福があるんだけど」

「うーん、息継ぎなし、ロックも充分俺の側(ヘンタイ)だよ」

「でもガチ恋可能性のあるヒトだからこそ、推しは遠くで愛でるべき!」

「……説得力ねー」

 

 確かに、パレオさんが演奏するライブに初めて行ったのは「ガールズバンドチャレンジ」の予選終了寸前のライブハウス「dub」だった。ロックに教えられて行こうと思ったんだけどその前まではパレオさん休みで、本戦よりも近くで指を観察出来たのが幸運だったんだと思う。

 その激動する手指に、動き回る姿に、誰よりも楽しそうに鍵盤を叩き腕を振り上げ、ステップを踏む彼女に俺は──恋をした。

 

「恋ってのは比喩的だけど」

「でもそういう出会いって、一歩知り合えばガチ恋になるんや」

「ロックみたいにな」

「うん」

 

 認めちゃったよ。けどまぁ、あのハーフツインと瞳は誰かを思い出さなくもない。今までは思いもしなかったけど、久しぶりに話したら思い出が更新されたせいか。

 いや思い出すだけでロックから漏れ出た話を総合すると令王那とは性格が似ても似つかない。そもそも東京在住じゃなくて千葉の田舎だからな。

 

「どうかした?」

「いや、中学の後輩にかわいくないヤツがいてさ」

「口ぶり的に女の子?」

「そうそう」

 

 成績優秀、スポーツ万能の委員長なんて、学園モノによくあるテンプレの真面目な幼馴染だ。制服を着崩すことなく、努めて冷静にクールに。気を張ってるだけでかわいいものが好きだったり、カツとか食うとキャベツの千切りを優先的に食べる変なところがあるだけの普通の女の子の話をした。

 

「ふ〜ん」

「なにニヤニヤしてるんだよ」

「榛名さんにもそういう子がいるんだなぁって」

「そういう子ってどういう子だよ──そいつもパスパレ好きなんだけど、絶対に一緒には行かないってフラれたんだよなぁ」

「まぁ榛名さんは変態だし」

「だからってさ」

 

 話が盛り上がって、俺はロックと別れて、夕方の銭湯から自宅へと自転車を走らせる。驚くことなかれ、自転車で二分もあれば俺んちなのだ。近所過ぎて時折通うようになってしまった旭湯の手伝いをしている番台さんとも随分仲良くなってしまった。

 あの頃はRASなんてバンドにハマるなんて思ってなかったし、自分がパレオという新しい推しを見つけるだなんて思わなかった。見た目が令王那を過るなんて、今日まで考えてもなかった。

 

「令王那がなぁ、パレオさんくらい明るくてやりたいこと出来る女の子だったら、さぞ学校でも息がしやすいだろうに」

 

 きっと令王那には余計なお世話だと突っぱねられることだろう。でもアイツは自分で作った優等生の仮面が外せなくなった。

 本当は周りの子のようにスクールバッグにパスパレのグッズでも付けて歩きたいくせに、仮面が許してはくれない。だからこそ俺にもパスパレのイベントに行ってることを知られたくすらなかったんだろう。いや本当は、あの部屋を教えることも。

 

「嫌われてるな、俺」

「──誰に、ですか?」

「……そりゃあ勿論、今話しかけてくるヤツにだよ」

「自覚があってなによりです」

「まさか、俺んちの近くで会うなんてな」

「私はこれから帰るところですが」

「今帰ったらまた九時とかだろ」

 

 そこにいた人物に、驚かなかったわけはない。むしろよくも心臓が飛び出ることなく普通に会話出来るなと自分を褒めてやりたい一心だ。そこにいたのは、闇に溶けそうなほどに黒い髪を今日は珍しく纏めている鳰原令王那だった。リュックに私服、ということはやはり東京へと連日電車に乗って来ていたということになる。しかも俺の最寄りも使うくらいに近く。

 いや、このタイミング、自転車に乗ろうとしたところで声を掛けられたってことはもっともっと近くにいたってことだ。

 

「……旭湯にいたのか」

「このお風呂、私もよく利用しますから」

「よく、今まで会わなかったな」

「ええ、本当に()()()()()()()()()()()()()()()()

「俺が変態なことと関係あるのか」

「大いに」

 

 だが気が変わってくれたらしい。なんの気まぐれかは知らないけれど、令王那がいる。

 本当は質問したいことが山程ある。毎回、こんなところまで電車なのかとか交通費どうしてんだとか、どうしてわざわざこんなところまで平日休日構わず来てるのか、とかな。

 

「……何も訊かないんですか?」

「詮索したらストーカーなんだろ?」

「そうですが」

「優等生に疲れて悪い友達と遊び歩いてる──って言うなら先輩として止めたいが、両親が認めてるなら違うんだろうしな」

「先輩として、ですか……どっちが優等生ぶっているんだか」

「令王那の方が完璧だよ」

「私にとってそれが侮辱だと知っていて言うのは性格悪いです。変態以前の問題です」

 

 令王那は優等生の自分が嫌いだ。というかそもそもそこまで自分が好きなタイプじゃなかったはずだ。

 だけど今の令王那はそれが改善されてるように思えた。まじまじと見たら通報されそうなくらい嫌われているため具体的何がどうなってるかとかはコメントを差し控えさせていただくけどね。

 

「心配ですか、私のこと」

「そりゃあね、こんなところまで一人で往復してるって言うなら尚更」

「……善人のような口ぶりですね」

「悪人のつもりはないな。知らない相手じゃないわけだし」

「なら……気まぐれに私を駅まで送っていくことを許可します、それなら多少は安心するでしょう?」

「なんだか気になる物言いだね」

 

 まるで偽善者の罪悪感を減らしてあげますよ、とでも言いたげな誘い文句だ。

 ただその表情に乗っているものは優等生としての仮面ではなく、俺の知る令王那に近いものだった。

 であれば本当は絶対に嫌だとか、そういう気持ちではないらしい。今日は機嫌がいいのかも。

 

「ついでに近くのコンビニで何か奢ってくれるとセンパイへの好感度が上がりますが」

「やめて、そのコンビニが俺のバイト先なんだよ」

「へぇ……」

「ちょっと待って、なんで今一瞬だけ悪い顔したのかな後輩」

「いえいえ、センパイのこれからのお仕事に支障をきたすようなことなど、これぽっちも、なあんにも、考えていませんとも♪」

「笑顔がロクでもないこと考えてる証拠だよ! ほら、この間のパスパレのトレーディングで被ったのあげるから!」

「えっ……いえ、コホン。そんなので釣られてあげるほど安い後輩ではないですよ」

「……手ぇ差し出して言うことじゃない」

 

 後で振り返ればこの時は相当機嫌がよかったんだと思う。なんでかは俺に察することは不可能だけど。

 なので久しぶりの旭湯でのんびりとお風呂に浸かったからだということにしておこう。

 疑問は沢山残るし、このタイミングで旭湯でバッティングするレベルなのに今まですれ違うこともなかったことにおかしいと思わないわけではない。

 けどまぁ、色々あった相手だが元祖推し指、いや推し指という概念を生み出した原因である令王那が元気そうならもういいかと思い始めていた。

 

 

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