ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

4 / 30
四話:昔の推しと今の推し

 鳰原令王那は俺にとって最初の「推し」と言ってもいい。このどうしようもなく変態的なフェチズムに目覚めたのはピアノ発表会で見た同じ年頃の名前も知らない少女だったが、とにかく成長していくごとに令王那の手指は俺の理性をぐらつかせるほどに美しく、芸術品のようになっていた。

 我ながらクソほどに気持ち悪い自覚はあるが、いたいけな小学生だった彼女にそれを何度も言っていたという過去が一番気持ち悪いのはわざわざ説明するまでもないだろう。年齢が二歳差でなければ通報されていたことは間違いない。

 

「今日から俺らも高校二年生かぁ……」

「進級できたんだね、おめでとう」

「ロック、おいロック。あまりにも失礼だぞその言い方」

「ほら、見た目チャラいし成績悪そうだし……普段から結構頭悪いこと言ってるし」

「見た目チャラいは一番ひどい」

 

 見た目で貶されるのは一番ダメージがでかいんだ。普段から頭悪いこと言ってるのはそう、だけど残念ながら誰かに心配されるような学力ではないんだよ。高校を選んだ理由は推し活が出来るからというバカみたいな理由だけどな。

 幼馴染のなんちゃってクール優等生と同じで俺も中学は優等生で通ってたんだ。

 

「そのイメージなら私も素直に友達って他人に紹介出来るんだけどなぁ」

「なんでお前俺に対しては毒舌なの?」

「貶されないような行動してから言ってね」

「笑顔で言うなよ!」

 

 そんな住みが自転車約三分のご近所さんであり俺はロックが手伝いをしている銭湯に、ロックは俺が働いてるコンビニに出没することも相まって、また同じガールズバンドのオタクということもあり何かと仲良くなってしまった朝日六花を誘い今日はガールズバンドを嗜む女性にとってはもはや聖地と化した羽沢珈琲店へとやってきた。

 

「なんで私?」

「慣れてる」

「まぁ確かに」

「女友達」

「他人には紹介したくないけど」

「言わなくていいことだろそれ……後、気軽に誘いやすい、一番」

「へぇ」

 

 何その感情のないへぇは。一緒にライブハウスで会って飯食うような女友達はいても羽沢珈琲店に行ってみたいって学校帰りに誘える女友達はいないの俺は! そもそも異性友達できにくいタイプなんだよ、俺のおっかけ理由がフェチズムに寄ってるせいでな。

 ちなむ必要はないだろうが、羽沢珈琲店は「Afterglow」のキーボード羽沢つぐみさんのご実家でもあり、幼馴染のバンメンがよく来店する──だけじゃない。なんと我が推し若宮イヴちゃんが働いている場合があるのだ。是非通いつめておきたいが男性一人は割りとハードルが高いと感じるほど女子制服のたむろ場となっている。

 

「これで私が男連れてる、なんて噂になったらどうするの」

「知らん」

「清々しいほど無責任やった」

「俺にはなんの被害もないからな」

「ふぅん……私は榛名さんのSNS知ってるけどね」

「俺にどうしろと」

「恋人でも作って、誘ったらどうですか?」

 

 恋人になんて言えばいい。推しのアイドルが働いてるかもしれないからここでデートしようってか、冗談じゃねぇ。嘘吐くくらいなら女なんていらん。

 俺には推し指さえあればいい。推し指さえあれば生きていけるんだよ。

 

「じゃあ逆に、その推し指さんと付き合う……とか?」

「キモ、妄想乙」

「アイドルのプライベートのために私を利用しておいて……」

 

 指が好きだから付き合ってくださいとか言ってみろ、どんなイケメンなら許されるのかバラエティ番組で顔面偏差値で統計とってほしいくらいだわ。それ以外の要素で惚れさせても一瞬で冷めそうだろその告白。

 確かにさ、推してる指に自分の指や手が触れる瞬間は至高と言っていい。天にも上る気持ちだ。恋人つなぎでもした日にはしばらく忘れられないもんな。

 

「恋人つなぎ、経験あるんだ?」

「イヴちゃんとね、こう……前から。正直ハグより気持ちいい」

「……友達、かぁ」

 

 遠い目をしないでくれ、今のは俺が悪かったと認めるからさ。

 こうクソみたいな話をしてることから察してほしいが肝心のイヴちゃんはシフトないようだ。まぁそうだよな、イヴちゃんはアイドルだけじゃなくてモデルもやってんだもんな。バイトないと暇人の俺には想像も出来ない。

 

「ロックはその点すげーよ」

「何、急にどうしたの?」

「手伝いだけじゃなくてライブハウスでバイトしてるんだろ?」

「Galaxyは友達と一緒にやってるし、ますきさんのお父さんがオーナーだから楽しくやらせてもらってるよ」

「それでRASの練習もあって、一日何時間あるんだよ」

 

 更に言うとポピパのおっかけもして、挙げ句はこうして暇人とカフェに付き合ってくれる。誘って断らなかっただけで俺はロックと距離を取らなくて正解だったと思う。

 迷ったんだけどね。こうしておっかけてるRASのギタリストと個人的に仲良くなってるって事実をどう受け止めるべきか。

 

「ロックがポピパのおっかけしてるのに香澄さんと出かけてるの知ってなかったらこうやって顔を合わせる回数も減ってたのかもな」

「……ウチにとっては苦渋の二択やったってことか」

「減らせてたのかぁって後悔してほしかったわけじゃないんだけど」

「それは冗談として、ここでポピパさんに会って勘違いされなかったら、また暇な時は誘ってくれていいよ」

「冗談か今の」

 

 いや、冗談か。ロックが香澄さんと仲良くならないという選択肢がないから、必然的に俺との関係も現状で満足ってことね。

 というか待って、次暇が重なる時いつだよ、そもそもこんな調子でイヴちゃんに出会える日は果たして今年中に来るのか、疑問が後から溢れてくるんだが。

 

「それなら浮こうかなにしようが、通うしかないんじゃないかな」

「それは……こう、ストーカーっぽくない?」

「今更」

「今更ってなんだよ!」

 

 今更は今更、と重ねてストーカー扱いされる。泣くぞ、高校生にもなって店内で泣きわめいて床に這いつくばって手足バタつかせてやるからな。

 カスみたいな脅しだがロックに精神的ダメージを与えるには成功したようだ。ついでに俺の評価が地に堕ちた。いやそれこそ今更か。

 そんなやり取りを中断させたのは突如、やってきたキャラメル色の制服女子がロックをその乳圧にねじこんだからだった。

 

「あ〜、ロック〜!」

「か、香澄さ──んぐぅ!?」

「おい香澄、真正面は眼鏡壊すからやめろって」

「あはは……どうも〜」

「どうもです、ロックがお世話になっているようで」

 

 ロックが幸せそうでなにより、お前はやっぱ俺のことなんも言えねぇよ。だから友達やってるまである。

 推しのおっぱいに埋もれ、真っ赤な顔で出てきたロックは次に一瞬で状況を把握し、顔が青ざめていた。あーあ、知り合いに見つかっちゃったね☆

 

「えっとロックの、友達?」

「榛名遼って言います」

「は、榛名さんは、旭湯の近くに住んでてそれで知り合ったんです」

「下宿でして」

「へぇ〜、それなのに羽沢珈琲店で二人?」

「そ、それはぁ〜」

 

 人を散々ストーカー扱いするからそうなるんだ。いやぁ飯が美味いなぁ! 

 ──などと言っているとマジで縁を切られかねないのでちゃんと助け舟は出すことにする。

 ロックは割りと貴重な距離感の女友達なんだ、いなくなられたらこっちが困るんだよね。

 

「実は若宮イヴちゃん推しでして、一目ここで働いてる姿が見れないかなぁと思ったんです」

「それで、ここは男一人だと嫌だからって無理やり案内されていたんです!」

「誰が無理やりだ」

 

 俺とロックのやり取りでポニテの女子、おそらくポピパの山吹沙綾さんだろう人がもう一度へぇと声を出す。どうやら五人の中で唯一俺とロックにラブロマンスを期待しているようだ。香澄さんは最初の説明で完全に信じており、ポピパ最推しの市ヶ谷有咲さんは人見知りなのかあんまり近づいてこない。牛込りみさんもあんまり近くにはこないし、花園たえさんに至ってはあまり興味がないようだ。

 

「パスパレのファンってこと?」

「そうそう、そうなんです!」

「しかもイヴかぁ、男性人気だと彩先輩とか千聖先輩って話は訊いたことあるけど」

「あ、榛名さんに理由は訊かない方が……」

「何を隠そう俺、手フェチで指フェチなんです!」

「隠してほしかったんやけど……」

 

 そんなこと言われても、なんだかんだと訊かれたら答えてあげるが世の情けってロケット団も言ってたでしょ。

 訊かれたら答える。コミュニケーションとしての第一歩でしょ。だから俺は隠すことなく、恥部など何もないようにイヴちゃんの指がいかに素晴らしいかを語り始めた。

 

「ろ、ロック……友達、なんだよね?」

「やめたいと何度か思っていますが、残念ながら」

「なんで、なんで指が好きなの?」

「香澄! 変態に食いつくな!」

「有咲、それはそれで言い過ぎだと思う……」

 

 有咲さんに変態認定された。悲しいけど、敢えて大きく否定はすまい。そもそも特殊なフェチズムであることは何度も言ってるけど自覚してる。自分の嗜好が他者に、万人に受け入れられるものじゃないとは解ってる。だが得てしてフェチズムってそうでしょ。そもそも大きいおっぱいが好きだったとしても小さいおっぱいが好きだったとしても、それはお互いに相容れないんだから。万人に受け入れられる性癖なんてない。後おっぱいの大きさはどうでもいい! 

 

「そういえばパスパレ好きと言えば、じゃあパレオちゃんとも仲いいの?」

「あ……香澄さん……」

「はっ、香澄さんってそういえば二ヶ月前の大会の時に一緒の舞台に立ってたし、ロゼとかRASさんともお知りあいなんですか!」

「うん、どっちともみんな友達だよ!」

「あ、じゃあ白金燐子さんとかぁ、パレオさんにも会えるということでは……?」

「榛名さん? はしたないって話、前にしなかった……?」

 

 ちょっと猫なで声が気持ち悪すぎたのかロックさんがお怒りになられてしまった。そもそもキングとロックの二人で情報をシャットアウトされてはいるんだが、なるほど、こういう交友の広げ方があったかぁという気分である。個人的にはパスパレオタ仲間としてもパレオさんとはお近づきになりたい。あるいはもうガチ恋してしまいたい欲まである。

 

「パレオさん、中三なんやけど……」

「二つ下なら問題ない……俺中三の時に中一のやつと付き合って……中三?」

 

 これは偶然、令王那と同じ年だ。

 思わず固まってしまったのは、パレオさんを最初に見た時に実は令王那を想起してしまったからだ。性格こそ全然違うが、女性にしては高身長でそれより更に大きいであろう手とそこから美しく伸びるパワフルでしなやかな指、ショルキーを使うパフォーマンスなんて見てしまえば、観客に手指を晒すことになってしまい夢中になったのと同時に、令王那に抱いていた彼女が弾いてくれたらという願望のままだったこと。

 

「榛名さん?」

「あ、いや……まさかな」

 

 ──もし、パレオさんが令王那だったら、なんてタチの悪い妄想だ。共通点はたしかにたくさんある。パスパレが好きなこともその一つに挙げられるだろう。俺は実のところ令王那の推しが誰なのか知らないからなんとも言えないけど、おそらく彩ちゃん日菜ちゃんの辺りで次点でイヴちゃん。そうじゃなかったら箱推しか? みたいな。

 それに生憎のところ、ロックに訊ねてもパレオさんの情報はもらえない。これは正しい情報統制であると同時に今は少しだけどじれったく感じていた。

 

「香澄さん、この人ストーカー気質で変態だから、なるべく個人情報を与えないでください」

「わ、わかった? うん、わかった!」

「わかってるかな〜?」

 

 こうして、二度目でもあるパレオさんの個人情報を得ることは叶わなかった。

 だがしかし、今の俺からすれば貴重な情報でもある年齢、そして同時にモヤモヤっとしたものが残ることになった。

 こうなると、会いたい。パレオさんに是非とも会って、このモヤモヤを晴らしたいという気持ちになる。推し指に近づきたいからでもなく、ただパレオさんを最初に見た時にチラついてしまった令王那のことを払拭したいという気持ちだった。

 自分がパレオさんを推してる理由が、まさか後輩の影を見てるだなんて知られることも正直言って嫌だからな。

 

「そんな神妙な顔しても、教えないからね」

「やっぱりダメか〜」

「友達が犯罪に走ろうとしてたら、止めんと」

「俺がパレオさんに近づくことが犯罪っていうのはひどすぎるだろ」

 

 いや、推してる理由はあくまでも指がキレイだったからだ。別のことを気にしたらから気になっただけ、容姿だとか令王那のことだとか関係ない。

 俺はそう言い聞かせるので精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




別沼とはいえオタク同士、割りと仲良し
一応メインはパレオと榛名ちゃんですが、お話の都合上パレオの出番が少ないです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。