ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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七話:当たるも話のタネ、当たらぬも話のタネ

 よく動物に例えると、みたいな話があるが俺は「よくわからないね」と言われがちな人間だ。

 周囲でよく言われるけど令王那は澄ました感じとクールで人に懐かないみたい優等生ってことで大体は肉食系猫科の名前が挙げられる。チーターとか、ヒョウとかね。だけどあいつの本質は大型犬だと俺は密かにマウントを取りたい。

 澄ました感じの奥底には理解されたい、好きなものを好きと言いたいという気持ちが眠ってる。取り繕ってるだけで本当は甘えたがりで懐いたらどこまでもついてきてくれるし待てと言ったら待ってくれる忠犬みたいなヤツだ。

 じゃあ戻って、俺はなんだろうと思って何を血迷ったか動物占いをしてみた。お渡し会とかで話題になりそうじゃん。イヴちゃんとこれで盛り上がれんじゃね、と俺はやってみた。

 

「誕生日……えーっと九月の二十二日……っと、なんだこれ、どう見ればいいんだ?」

 

 どうでもいいが榛名遼で遼もハルカと読めてどっちも春なのに誕生日は秋なのかよ、というツッコミを人生で二度受けたことがある。しょうがない、季節で名前を決められてるわけじゃないんだもの。そもそも名字(はるな)は親からのもらいもんだよボケがと思ったのももう懐かしい記憶だ。

 無料の診断なんて気の持ちよう以外のなにものでもないし生年月日でキャラ決められちゃたまったもんじゃないが話のタネにはなる。

 

「お渡し会でそんなくだらない話をしてきたんですか……」

「今思うとすごく雑な消費してたと思うよ。おかげで話が終わるのに五回通ったもんな」

「本当におバカさんですね、センパイ」

 

 言うなよ。泣いちゃうぞ。後輩の前でジタバタ床に寝転んで泣きわめいてもいいんだな? 

 ──と今日の話し相手は旭湯だというのにロックではなくまさかの後輩、令王那だった。もう四月も末でこれからGWが始まるということでイベントの帰りに東京で出来た友達の家に泊まるらしく、迎えに来るまでの間にこうしてのんびりと後輩とおしゃべりに興じていた。リアフレ宅に泊まりってなんかいいね、令王那が同性だったら俺も混ぜてもらいたいくらい。

 

「で?」

「でって?」

「話の続きですよ」

「なんかな、基本的な性格、他人に見せてるキャラ、意思決定の性格、無意識に憧れてる性格、隠れ特性の五つに別れているらしい」

「最後はポケモンの話ですか?」

「違うわ」

 

 そのツッコミを待ってたんだけどね。残念ながらイヴちゃんには通じなかった。

 とりあえず今の五つの性格がそれぞれライオン、狼、子鹿、象、また子鹿という診断結果だった。んでこっから先は有料とかふざけたこと抜かしたので別のサイトで答え合わせをしてやったんだよ。

 

「後は動物のイメージそのままみたいな感じ、ライオンは人にも自分にも厳しいプライドの高い見栄っ張り」

「センパイのことですね」

「俺の性格診断だって言ってんだろ」

「はい、ですから当たっているんですねって笑っているんです」

「こんなのはだいたい当たってる気分になるもんだろうが」

 

 俺にプライドなんてあるのかと自分では疑問だったけどな。それで、他人に見せてるキャラってのが「狼」だった。これ、しかも一匹狼ってことらしい。

 要するに変わり者で孤高、群れないことにプライド懸けてる系のことを言ってるっぽい。悪口だろ。

 

「見栄っ張りで、人と違うことにプライド懸けてる……いい占い師を見つけたみたいですね?」

「ネットで生年月日ポチっただけだって……まぁいいや、それで子鹿は内弁慶で、人見知りなんだけど仲良くなるとフレンドリーになる、依存しがちな甘えん坊らしい」

「そんな裏があったんですね、センパイは」

「ネットの占いを真に受けるタイプか?」

「いえ、話を合わせてあげてるんですよ」

「ありがとな、こんちくしょう」

 

 その子鹿が意思決定と隠れた性格の二つで、憧れが象だったな。穏やかだけど信念を通す、やり遂げるってタイプで聞こえはいいが頑固で人の話を聞かないって問題点もあるみたいな感じだった。

 まぁ、やると決めたらやるって性格は憧れるよ。診断的に狼とライオンに当てはまればすごく芯の通った性格だもんな。

 

「でもセンパイは体裁捨ててでも信念通すタイプですよ」

「プライドあるからな」

「……だから損してるとも言いますが」

 

 推しが命、推ししか勝たんって言うなら自分の評価が下がろうと、それで自分がゴミに成り下がろうと推すに決まってるんだよなぁ。模試とイベント並んだらイベント行く覚悟ならあるよ。流石に定期試験でその勇気は出ないけど。

 命って言うなら、一生推すって言うなら覚悟決めろよ。俺はイヴちゃんと推し指に命懸ける覚悟してるから。

 

「気持ち悪いですよ、だからストーカー予備軍なんですよ」

「追っかけしてるドルオタは大なり小なりそうだろ」

「……まぁ」

 

 な、ほら! つまりイベントのためにこんなところまで来て、挙げ句友達の家に泊まるお前もストーカー予備軍なんだぁ! と戯けていると流石に本気で怒られそうなのでやめておこう。

 それより今日はロックいないんだよな、ここでロックにも後輩が実在するんだよってところを見せたかったんだけどな。

 

「後はロックに借りたマンガを返さねば」

「……マンガ借りてたんですか」

「そう、少女マンガ」

「……えぇ」

 

 引くなよ後輩、案外面白かったんだから。この間キングに遭遇したけど彼女にも強くオススメされてしまった。でも冬から返してないんだよね。向こうが目指せ武道館してて、それが終わったら学年末、卒業式、修了式と続いてしかも俺は実家に帰ってしまったんだから。実は旭湯行ってもそう会えるもんじゃないんだよね、この間会った時に返せばよかったと後悔してるところだ。

 

「最終手段としてはロックに取りに来てもらうしかない」

「そういう手管で女性を部屋に連れ込むんですね、最低です」

「ゴミを見る目でみないで、未遂未満の真っ白な俺に向かって」

「それにしてもセンパイはロックさんと仲が良すぎでは?」

「沼は違えどオタク同士ってやつだよ、令王那が今もこうやって話をしてるのとそんなに変わんないんじゃない?」

「……全然、違うと思います」

 

 きっぱりと否定されてしまった。

 でもお互いがお互い全く別のオタクトークをしてる時があるんだよね。俺がパスパレの話と指の話をすると、ロックがポピパの話をする。あれ、そう考えると令王那とは違う気がしてきた。

 

「パスパレは一緒なの、嫌なんだよな」

「はい、そう言ったはずですが」

「……RASもダメ?」

「むしろパスパレがダメで、RASがいい理由はなんでしょうか」

「ほら、ドルオタじゃないわけだから」

「関係ないです」

 

 幾ら俺だってね、ライブ中に手指ばっかり見てフィーバーしてるわけじゃないのよ。パスパレは割りとそんな気がするけど、少なくともRASはパレオさんの指だけでハマったわけじゃない。レイヤさんの声もベースも、キングのドラムも、ロックのギターも、チュチュさんのDJも、勿論パレオさんのキーボードも全てが合わさった音が俺の中にあった「何か」を呼び覚ましたんだよ。沸き立つような、手を突き上げずにはいられない、熱って言えばいいのかな。

 

「令王那と一緒にそれを共有出来たらなぁって思っただけでさ」

「……なるほど、RASだけは違うと」

「モニカもロゼもだけどさ、特に音楽から入ったのはRASだけなんだよ」

 

 実はね、と付け加える。ロゼはあの武道館の場で見た燐子さんの指に惚れ込んで、モニカは「CiRCLE」で偶々見た瑠唯さんのバイオリンからだ。

 言うならばあの二人の指があるから追いかけてるようなもので、って言ったら失礼だけどさ。

 

「本当に、二つのバンドメンバーに失礼な物言いですよ」

「だよな……」

 

 でも俺にとって指あっての二つのグループなのに対して、RASはパレオさんの指はあくまで推している要素の一つでしかないんだ。

 俺にバンドの技術の機微なんて理解できない。多少耳はね幼い頃から音楽の中に生きてきたから相対音感はあるけどさ、なんせエレキ系の楽器は令王那のエレクトーン含めて一度も触ったことがないからね。

 だとしても音楽は聴く人に様々な感情を与える。一つひとつはただ調律されただけの耳障りのいい振動でしかないのに、楽しくなったりワクワクしたり、しんみりしたり、そういう気持ちを動かされるためにライブに行ってるのかもしれないね。

 

「勿論、そんな気持ちを沸き立たせてくれる音を奏でる手指が最も美しいのは言わなくていいことだろうけどね」

「言わなくていいことですね、本当に、心の底から」

「冷たいな」

 

 冷たくて結構、とでも言いたげに令王那は眼鏡の奥から大きな瞳をこちらに向けて細めてくる。

 ところで、結構しゃべってるけど友達遅くない? そろそろいい時間だけど。そう訊ねると令王那はスマホを一瞥して首を横に振った。女の子なんだよね、相手も。逆に心配なんだけど。

 

「もしかしたら迷子になっていらっしゃるのかも」

「それで……よく迎えに行くなどと」

「最後の手段は残されているので、センパイが心配することはないですよ」

「漫喫とかやめとけよ」

「大丈夫です、ホテル……ではありませんが知り合い……いえ、友達が持ってるマンションが大塚駅の近くにあるので」

「……マンション持ってる友達ってなに」

 

 既に緊急時に連絡して許可はもらっているらしい。令王那がセレブの友達を持ってる。今なんとなくバイトも出来ないはずの年齢の彼女がこうやって頻度高く電車を往復出来ている理由がわかった気がする。その友達が関係してるんだろうな。

 でも最悪の場合だったら駅までは送ってくよ。そのくらいは先輩としてさせてほしい。

 

「ええ、そうならないことを祈ります」

「そうだな」

 

 令王那は、いつの間にかこうして色んな友達を得ている。俺だってライブで会う友達くらいはいるがそれでも、令王那のようにイベントが終わっても泊まりで語らうような友達はいない。

 一人暮らしだから羨ましいとは言われるけど、その領域にはまだ誰も足を踏み入れさせてはいない。

 

「センパイは見栄っ張りで友達の数イコール価値だと思ってるところがあるのに、肝心なところでは一人の領域を持っていますからね」

「変わりものだからな」

「やっぱり、占いは当たっているんじゃないんですか?」

「なんとでも言えるよ」

 

 根本的に占いは信じないタイプだ。星座も、血液型も、生年月日も姓名判断も。

 そりゃ話のネタにはする。面白い、こうやって令王那が食いついてくれるしイヴちゃんも結構楽しそうに話を聴いてくれてた気がする。逆に言えば、それ以外のためには使いたくないね。人生の指標にするなんて以ての外ってやつだ。

 

「令王那は、どうなるんだろうな」

「さぁ、どうでしょうね」

「裏表あるからなぁ」

「まるでセンパイにはないかのような口ぶりですね」

「ないね」

「ありますよ」

 

 即座の反論に、俺は否定するよりもどういう論拠があるのかが気になった。

 最初の記憶にあるのは俺が小学生の時、令王那はまだ小学校にすら入ってなかったからもう十年以上前のことだ。更にそれより以前から俺と令王那は会っているらしく、それから中学を卒業するまで彼女とはほぼ毎日顔を合わせていた。

 だからこそ、俺と令王那はお互いに()()()()()()()()()()()を知っている。令王那は嫌がるだろうけど、俺と彼女はそれほど近い距離にあったんだから。

 

「センパイは見栄とプライドの塊です。それは誰にも見せてない裏の顔だと思いますが」

「褒めてないだろうね」

「それは……それにセンパイは思いの外寂しがりだと、久しぶりに話した時にそう思いました」

「一人暮らししてみろ、きっとどんだけぼっち気質でも寂しいぜ」

「それを埋めるための手段だったんでしょうね、パスパレの他にガールズバンドにハマったきっかけは」

 

 こういう、ああきっとこういうところが俺と令王那が上手いこと関係が続かなかった要因なんだろうな。

 俺も令王那も根本的には隠し事をするタイプで、相手の隠し事を暴いてしまえるタイプだ。性格悪いとなんと言われようと、俺達はそれをやめられない。詮索することが癖になってて、ああやって慧眼で以て白日の元に晒そうとする。しかも無意識に。

 

「……あ、連絡来ました。どうやら着いたみたいです」

「帰り道は、令王那は大丈夫なのか?」

「ええ、多分二人ではなく道案内出来る方が一緒ですから」

「ならいいけど」

「はい、ですので……知り合いに見られたくないので先に帰ってください」

「……ひどい言い方だな、先輩に向かって」

「ごめんなさい」

 

 謝られると、それ以上は何も言えなくなる。だって結局、知り合いに見られたくないほどの先輩なのは俺で、令王那が謝るようなことじゃない。本当ならここまで長居する必要もないのに未練がましく令王那と話がしたかった俺のせいだからな。

 立ち上がり、俺は一度だけ振り返ってから旭湯を後にする。別に見送ってくれるとは思ってなかったが、何処へ行ったのか令王那の姿はもうなかった。

 

 

 


 

 

 センパイが去っていき、黄色と水色のウィッグを装着し私が「パレオ」としての準備を終えた時に、ちょうど花音さんが入ってくる。

 予想通り迷子になってしまわれたようで、千聖さんが一緒に来てくれていた。

 それにしても、タイミング的にセンパイとすれ違っただろうか。千聖さん推しではないとはいえ、パスパレ相手なら興奮する変態だと認識していたけれど。

 

「今の人……」

「なるほど、例の先輩というわけね」

「はい、あの……」

「大丈夫、何も話しかけられてないから」

「ファンなのに私にも全く気づかなかったわね」

「そうでしたか」

 

 ちょっとだけほっとする。まさか私がパレオでパスパレとプライベートでも知り合い、だなんて知られようものならオタ活以前の問題になる。

 あの人はオタクだからプライドと見栄を全開にして、きっと本当に私には話しかけてもくれなくなるだろう。センパイは推しにガチ恋はしないタイプで、プライベートの推しだろうと遠くで見守っていたいタイプでもある。

 

「花音が一人で迎えに行けるなんて思ってないから大丈夫よ、ねぇパレオちゃん?」

「はい、むしろ最初から千聖さんを頼るのだと思いこんでいました」

「ふえぇ……パレオちゃんまで……」

 

 パレオとしては、千聖さんに直接お部屋まで案内してくださるなんていう幸福に巡り合えてハッピーですが、万が一お仕事が長引いていた場合はどうするつもりだったのでしょうか。いえまぁ最悪の場合はセンパイに話したようにチュチュ様のおうちに転がり込もうと思ってはいましたが。そう、チュチュ様に大丈夫でしたって連絡しておかないと。

 

「二人で銭湯だなんて、なんだか邪推してしまいそうね」

「まさしく邪推でございますね、ご近所なだけですよ」

「そう、ご近所の銭湯にわざわざ立ち寄ってしまうのね」

「ロックさんの下宿先ですし、ここはとっても落ち着きますから」

 

 千聖さんの、推しからの邪推を躱していく。あの相談をしてからというもの、今日のイベントでも彼はどういう格好をしていたんですか? とパスパレモードのまま逆に質問されて凍りついてしまった。知りませんと全力で否定しておく、本当に知らなかったし探してもいませんので。パスパレのイベントでまでセンパイに振り回されるのは困ります。

 

「イヴちゃんにそれとなく訊けないもの、あなたに直接訊くしかないでしょう?」

「ふふ、じゃあ私も気になっちゃうなぁ……」

「か、花音さんまで……そんなに面白いお話はできませんよ」

 

 推しの家にお泊りという最高のイベントだというのに、訊かれるのはやはり女子だけあって恋愛だと判断すると食いつきがすごいです。パレオは違うと再三言っているのに! 

 けれどまぁ、なんだかんだでセンパイの謎の占いから始まるトークで盛り上がってしまうのは、私も女子だという証左でしょうか。

 ──ごめんねハル、言ってた通り占いは推しとの話のタネになったよ。

 

 





※実際のサイトをモデルにしていますがフィクションです。当たり前だよなぁ?

理由③:パレオは推し、令王那は後輩。そこが混ざって推しになりたくないから。

チラっと言いましたが榛名ちゃんは九月二十二日生まれです。フィーリングです。
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