ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由 作:黒マメファナ
推しとお近づきになれると知ったらみんなはどうするだろう。俺は割りと遠くから眺めていたいタイプだから遠慮する。
クソみたいな占いの話にお渡し会の八割を費やすくらいでちょうどいい。
ガールズバンドなら認知すらもいらない。推せればそれでいい。特にロゼはプロになったから、RASは俺が知った時からどっかに委託してて、モニカはメンバーのハンドメイドでグッズがあって、それを身に着けてオタクやってればそれで幸せだ。
──なーんて思ってた時期が僕にもありました。
「文化祭?」
「そう、花女の文化祭が七月にあるんだけど」
「……ロック、俺を誘うなんて友達はどうした」
「榛名さんは私が誘わないと一緒に行く相手がいないと思ってたんだけど……」
「是非、ご一緒させていただきます!」
五月になり、ロックに花咲川女子学園の文化祭に誘われてしまった。ロックの目的は勿論五人全員が花女のポピパなので文化祭で有志のライブをするらしい。なにそれ、体育館か講堂かしらないけどあっという間に埋まりそうだね。
他にも実行委員会が始動しはじめ、香澄さんとイヴちゃんが入っているらしい。
「……つまり、ずっと文化祭のために回ってる?」
「オフだって」
「俺……行ってもいいのか……」
「あんまり怪しいと通報するから大丈夫だよ」
それは大丈夫とは言わないです。
昨年の文化祭はそれはそれで大盛り上がりだったらしい。花女とロックの通う羽丘が合同で文化祭したそうで。まだRASじゃなかったロックは色々ありつつも楽しめたらしい。
「俺はその頃ロックと知り合いとは言えなかったもんな」
「そうだね、残念だったね」
「何が?」
「去年の花女の生徒会長、燐子さんだったから」
「……マジか」
燐子さんって花女の卒業生なんだ。羽丘の去年の生徒会長が日菜ちゃんだったというのはロックから聞かされていたが、なんてタイミングが悪い、もう二人とも卒業しちゃったんだよなぁ。
とはいえ、イヴちゃんに会えるならぜひとも行きたい。オタクとして参加しないといけない。今猛烈にロックが友達でよかったと感動してるところだ。
「ポピパさんのついで」
「ついでだろうとなんだろうと最高」
「まだ七月だから、また決まったら教えるね」
「ありがとう! 本当にありがとう!」
思わぬ予定が埋まった。それにしても文化祭か、うちは確か九月だったかな。学校によって、五月、七月、九月とバラけてるとよね。俺が知ってるのは二月のところもあったかなぁ。
ただ問題は入り口までしかロックがついてきてくれないところだ。ロックにはイツメンと言える学内の友達二人、それと外部のポピパオタク仲間が一人いる。俺は会ったことないけどいる。
「令王那に連絡したら……いや無理かな」
イベント一緒に行ってくれないのに文化祭なんて行ってくれるわけない。なんなら別々で来る可能性がある。でも知ってるかどうかはわからないからリークしておこう。
LINEをすると爆速で既読ついて、返事が返ってきた。
『知ってます』
「……冷たい」
めげずに誰もアテないんだったら連絡してくれ、と送ったけど既読になったまま返ってこなくなった、めげそう。
まぁこれは七月の話、まだ二ヶ月ほど先の話だからいいとして。
とりあえずはこれから始まるGWシーズンのイベントのおっかけで忙しいので。GWはガールズバンドウィークでもあるのかもしれない。普通のバンドもフェスあるけど。
「今年はロゼが出るからなぁ」
モニカはちょっと活動が抑えめになってしまっているけど「ガールズバンドバトルトーナメント」というトーナメント方式の対バンという大きめの大会の予選に参加してるし、これはRASも出るためなんとしてでもオーディエンスにならねばならない。最悪ロックに頼って招待枠使ってでも行きたい。
「バイト代足りるかな……」
「暇そうにしてるならシフト入ればいいのに、なんならここでバイトする?」
「遠慮しとく」
そんな現在、俺はロックと夜飯の約束をしていたので営業が終わったライブハウスの「Galaxy」で呑気におしゃべりをしていた。話している相手は先月もロックとキングに誘われてラーメン行こうとした際に知り合ったロックのバイト仲間、戸山明日香だった。
同じ年でバンドもしていないこともあり「戸山さん」呼びしていたらお姉ちゃんと被るって理由で今は明日香と呼び捨てにしている。
「榛名くん、そんなに遠くはないでしょ?」
「そりゃロックとご近所だからね、けど徒歩圏内のコンビニバイトが辞められない」
「掛け持ち」
「そんなワーカーホリックじゃない」
明日香に苦笑いされる。だってさ、とりあえずは今のコンビニバイトと親の仕送りで生活出来てるし。これでもグッズをなんでもかんでも買わないようにって節約してるんだから。節約なんて言わないかもしれないけど。
それにガールズバンドが中心のライブハウスのバイトなんて遠慮する。しかも残りのバイト要員ロックと明日香でしょ。
「今の男しかいなくて休憩中とかに女と性癖と下世話な話しかしない環境が好きなんだよ」
「……最低な環境」
「男だからね」
女子が化粧とファッションと恋バナが楽しいのと一緒だよ。この間なんて子どもの頃見てた番組の話で盛り上がったからね。
明日香はため息を吐いて、そんなもんかと笑った。
そんなもんだ。俺と明日香は知り合いかもしれないけど、会話が長続きするタイプじゃないね。
「確かにね、榛名くんのフェチの話、全然理解できないし」
「それは理解してくれるヒトに会ったことない」
「よく恥ずかしくもなく言えるよね、それなのにさ」
「恥ずかしいとは思ってないからな」
「あ、そう」
なんせ俺はもうかれこれ十年もこの性癖と付き合ってるからね。ピアノ教室を辞めなかった理由も、もしかしたらここでなら推し指に出会えるかもって下心だったくらいだしね。
俺にとって指が好きというのは当たり前にある感情だよ。
「なんか仲良くなっとる……?」
「あ、ロック」
「そんなことないよ」
仲良くなってるんじゃなくてキミを待ってたんだよロック。そしてそんなことないは傷つくからやめてくれ。
そういや今日はキングいないんだね、久しぶりに一緒に飯を食いたかったんだけど。
ロック曰くキングはレイヤさんと一緒にサポートに出てそのまま二人でご飯行ってるらしい。
「明日香ちゃんもどう?」
「……ロックとはいいけど榛名くんとかぁ」
「なぁ明日香って俺のこと実は嫌い?」
「別にそんなことないけど……ロック見てたらこんな感じでいいんだなぁって」
「覚えていいことと悪いことってあると思う」
明日香は、なんというか香澄さんとは性格が全然違うよなぁ。お姉さんはどっちかっていうと人懐っこい猫って感じだけど明日香はクールな猫って感じだと占い曰くライオンで狼の俺が言います。
とか言いつつ俺が奢るということになると着いてくるところは割りとちゃっかりしてるというか、なんというか。
「大丈夫、今度返してあげるから」
「じゃあ奢られるなよ」
「私は奢ったことあるけど奢られたことはないなぁ」
「……え、なにこれ二人分奢る流れ?」
しかも、ロックには直接奢ったことはないがやまぶきベーカリーのパンを二度奢ったんだがな。
文句を言うと明日香とロックは顔を見合わせて笑う。痛い出費だが我慢我慢、明日香と知り合っておけば二ヶ月後の文化祭で知り合いが増えていい感じになるだろう。後はロックのオタク仲間とクラスメイトだがこの二人に関しては名前すらも教えてくれない。
俺ってやつはどんだけ信用なんだろうか。
「榛名さんは隙あらば推しと繋がろうとするタイプかと」
「推しって、榛名くんの推しは誰なの?」
「RASのパレオさんと、ロゼの燐子さん、モニカの瑠唯さんとパスパレのイヴちゃん」
「あー、それじゃあロックが教えないわけだ」
「でしょ?」
「うん、私も詮索しない方がいいと思う」
「どうせ二ヶ月後に会うことになるのに?」
どうやら二ヶ月後まで待たせることが大事ということらしい。推しに近いのか、それは信用なくて当然かもしれない。
そもそもロックとまともに友達出来てる、いやまともかどうかはさておき友達出来てるのはロックがパレオさんの情報を徹底的に伏せてるからなんだよなぁ。
「そういえばイヴさんには会えた?」
「いや、まだ」
「羽沢珈琲店のこと?」
「そう、この間勇気出してバイト仲間と行ったんだけどさ」
いたのはモニカのドラマー二葉つくしさんだった。ちょっと残念な気分になったけど、まぁこれはこれで推しバンドのメンバーなのでなんか得した気分になったし肝心のバイト仲間はモニカ推しだったので嬉しそうだったし。いいかなぁって。本人はドジっ子発動してコーヒーぶっかけてくれないかなぁとかワクワクしてたよ。
「榛名くんの友達ってやっぱり榛名くんの友達なんだね」
「類友」
「……ウチも?」
「ロックも変だよ」
ガーンと効果音が聞こえそうなほどショックを受けないでください。
ロックは変というより個性的だよ。そもそもポピパさんに遭遇した時とオタ活してる時のお前は大概だぞ。
ところで明日香って最寄り遠いって噂を耳にしたんだけど時間大丈夫?
「うん、いざとなったらお父さんに迎えに来てもらう」
「なら、池袋あたりでなんか探すか」
「ショッピングモールかな」
「いいね」
キングがいると間違いなくラーメンになるからな。できればラーメン以外を選びたいところだ。ロックも実は前まではラーメンが苦手だったらしいし。
ロックが肉とか言い出し、俺が即座に却下する。んな金はねぇんだよ。
「高校生らしさが欲しい」
「ファミレスとか?」
「そうそう、俺が奢れる範囲の食い物にしてほしい」
ひとり千円食えると思うなよこの野郎。
寿司なら一皿百円のやつだけな。ロックと明日香なら十皿も食べないだろうし。
するとふと明日香がハンバーグが食べたいとか言い始めた。お前それ千円越えるやつでは?
「また別の奢るからさ」
「……わかったよ」
「バイト、頑張って」
珍しくロックから応援してもらったが自分で出す気はないらしい。後は明日香のまた今度が二ヶ月後の屋台にならないことを願うばかりなんだけど。
俺にはそんな未来が想像出来たけど、できれば現実であってはほしくない。
「パレオさんはロックが榛名くんと友達なの知ってるの?」
「知らないよ、ストーカーになったら言うかもしれないけど」
「ならないよ、予備軍扱いは甘んじて受けるとしても」
言わばロックと知り合ったことで完璧にパレオさんへの繋がりをシャットされてる状態だ。いやまぁね、ロック的にも俺をパレオさんにどうやって紹介すんのって話でもあるのよ。どうする、キミの指が好きで好きでたまらないヒトが友達なんだって教えるの? どう頑張っても厄介事しか生まないだろ。
「俺もロックとかパレオさんみたいな贅沢がほしい」
「榛名さんは無理かも」
「それならせめてバンドやるとか」
「オタ活してる以上の金なんてねぇよ」
バンドって機材とか高いでしょう。ロックのギターもめちゃ高いって聴いたことあるんだからな。
メンテナンスとかもバカにならないし、第一俺には才能がないの。音楽のカミサマに愛される手指は持ってないってのがコンプレックスでもあるんだから。
「榛名くんって手小さいよね、たしかに」
「言うなよ……気にしてるんだ」
バスケをするのにも向いてない、音楽も向いてない。なんでこう俺が好きになったものに向いてない手をしてるんだろうって中学生の頃は自分が嫌いでしょうがなかった。それでも与えられる音楽に元気をもらったのは確実だから。
今はこういうのも自分なんだって諦めのような前向き精神で生きてるよ。
「そうだ、架空の後輩は?」
「架空の?」
「実在してるって言ってんだろうが」
ロックに令王那の写真を見せるべきだろうか、いや持ってないし撮らせてって言えばなんて返事がくるかは考えなくてもわかってしまうからな。けど近くに出没するのにロックに一切姿を見られたことないっていう現実が俺ももしかしたら令王那ってイマジナリーなんじゃないかと思ってしまった。イマジナリーの後輩くらい優しい後輩がいいな。こう、かわいい系で「先輩」の響きに甘えが交じる感じのやつ。はは、妄想乙。
というわけで新キャラは戸山明日香でした〜
タグのキャラ出てこねぇな。