ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由   作:黒マメファナ

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九話:花火のような灼熱の愛の発露

 五月の晴天はそのまま立ち尽くしていたら、ずっといたら日焼けをしてしまいそうなくらいにカラリと晴れていた。そんな太陽の下で俺は今、音楽を浴びていた。

 聴くではなく浴びるという表現が正しいほど、汗がとめどなくあふれるのが気持ちいい。スポーツをしていた時のように、心地よい感覚の中、音に合わせて手を叩く。

 

「Boys & Girls! 知ってたら大きく、知らなくてもノリとバイヴスで着いてきなさい!」

 

 クラップハンド、だけどそこからこの曲の前奏とサビはパラパラを参考にしたフリをオーディエンスは求められる。チュチュさんの煽りに声を出し、そして考案者であるパレオさんが弾けるような笑顔で手を挙げる。

 拳を突き上げるのも、頭を振るのも、狭いながら足でステップを踏むのも好きだけど、こういうダンスタイムみたいなのも好きだ。

 

「Hey! Hey! Go! Go! Go! Bang! Bang! Bang! Shout! Shout! Shout! Hey! Hey! Raise! Raise! Raise! Bang! Bang! Once more again!」

 

 歌詞の通りもう一回、ということで同じようにクラップハンドと一緒に繰り返していく。二度目からはチュチュさんの合いの手が入り、一度目よりも腹の底から期待が湧き上がる感覚がする。始まる、くるぞ、という気持ちが自然と声を大きくさせてくれる。

 初っ端から全力、休む暇なんてない。まさに「RAISE A SUILEN」との体力勝負をさせられるのが、魅力でもある。

 

「Hey! Hey! Here we go!」

「Bang and shout! Hurry, hurry up!」

「灼熱Bonfire──!」

 

 レイヤさんのそのまま曲名でもある力強い声と共に音の爆弾、名前の通り花火のような派手なサウンドが俺の手と足を、疲れていようがなにしようが動かしていく。

 右手を左から右へ、次は左手を右から左へ、両手を重ねてくるりと前に回して戻して頭の上でそのままクラップ四回から手を左右に大きく横振り、これをもう一回繰り返して決めポーズ! ──前述の通りパラパラに近い動きを取り入れた前奏のダンスをステップを踏みながら全力で。これだけでも本当に楽しいし、RASと一つになってる感じがするよね。

 それにしたってパレオさんが、推しがかわいい。もうそれだけで今この一瞬以外の全てがどうだっていい。

 

「よかったの? 招待枠でも、フェスだから自由なのに」

「なんか、それだとRASのためにロックと仲良くしてる感じだって思っちゃってさ」

「別に、友達にチケット送るのは普通だと思うけど」

 

 ──時は少し遡り、羽沢珈琲店で粘ったもののイヴちゃんには会えなかったため気分を変えようと旭湯でサッパリして、熱された身体を夜風に当てていると、フェス直前で遅くまで頑張っていたであろうロックの帰りに遭遇した。キングに送ってもらったようで、俺を見つけると軽く手を挙げて爽やかな笑みを浮かべてきた。カッコよ。

 

「なんだよ、自腹なんて水臭いじゃねぇか」

「オタクは自分のサイフからお金を出すことに意味を見出すもんですから」

「そういうもんか? ま、アガってもらえるようにフェスは張り切りさせてもらうよ」

 

 やっぱりカッコよ、と思いつつキングを見送りロックに向き合う。思えばほとんどロックとはRASの話をしてこなかったんじゃないだろうか。ライブ前は基本的に会えないから、行くよとか来てよみたいな会話も、なんならライブの感想も本人には言って──たわ。これは言ってた。主にパレオさんのことを早口でまくしたててましたね。

 

「榛名さんはやっぱりライブだとテンション上がりっぱなしになるタイプだよね」

「そりゃもう、飛び跳ねてる」

「ふふ、じゃあ意識したら見つけられそう」

「個レスは推しじゃなくても喜ぶからほどほどにしてね」

「個レス……?」

 

 個人にレス、つまり目線を送ることね。これドルオタ用語だけど。あんまり繰り返すと爆レスになる。そんなものはオタクには存在しないです妄想乙。

 なるほど〜と納得したロックだけど、俺は残念ながら見つけにくいところにいると思うんだ。

 

「なんで……って、そっか、パレオさんの真正面だから」

「そうそう、反対側じゃんロック」

 

 配置としてはセンターがボーカルのレイヤさん、真後ろがチュチュさんでその隣にキング、そして左右で観客から見て左がロックで右がパレオさんだ。そしてフェスである以上俺は間違いなく右側にいるからね。

 ロックは俺の宣言にため息と苦笑いをしてくる。

 

「なんだよ」

「ううん、榛名さんはブレないなぁと思っただけ」

「なに急に」

「直前に私と話したら、それじゃあ見つけやすいところにいるねって言わんのかなって」

 

 ないね、それはない。たとえロックから、RASのギタリストから個レスもらえるとしても、俺はパレオさんの推しだから。

 そりゃあ、塩対応と神対応がいて、前者が推しだったとしても後者にクラっと来て推し変しちゃうオタクの気持ちはわからなくないけどさ。別にパレオさんが塩ってわけじゃない。むしろ最高に対応がいいし。ドルオタの気持ちをわかってくれてる感じがすごいするんだよね。

 

「でも俺はパレオさんが好きなのはそうなんだけど、ちゃんとRASのサウンドも好きだから」

「調子いいこと言ってる」

「本当だよ、ブチ上げてくれるの期待してるよ」

 

 ロックとは、そりゃあ個人的な友達だ。でも同時に俺は初めて「dub」で見た「R.I.O.T」の衝撃が忘れられないんだ。

 歌詞も、リズムも、何も知らなかったハズなのに気づけば身体を動かして、歓声を上げていたあの時の輝きが今も俺の胸の奥で鳴り続けてるから。

 

「もう一回、踊るわよ!」

 

 終わりにチュチュさんの言葉と共に前奏が繰り返される。

 配信されてる動画の、レコーディングされたものにはないけどライブは毎度こうやって二回目があるため周囲と一緒になってリズムを刻みながら全力で踊る。

 既に汗で髪が雨に降られたのかってくらいになっているがお構いなしだ。

 

「パレオ────!」

 

 曲が終わり、歓声と拍手、そしてメンバーを呼ぶ声に混じって俺も全力でパレオさんへの声援を届けていく。

 そうしたらタイミングが良すぎたのか、それとも思いっきり声を張り上げたせいか、ぱっとパレオさんが俺のいる方へと顔が動いた。どんだけ動いても、俺たち観客が荒い息を吐いているというのに、それより運動量のある彼女は全く疲れを見せず、それどころか最高にかわいい笑顔で手を振ってくれた。

 

「はぁ〜、パレオさんかわいかった、いやもう手を振った時の指とも相まってごちそうさますぎる……宗教入りそう、なんかの」

「今の榛名だったらむしろ立ち上げそうなノリだけどな、新興宗教」

「誰もついてこないと思うんで遠慮しときます」

「というか、気の所為じゃないのかな?」

「いや気の所為だったとしても俺がレスもらったと思えばそれはレスなんだ!」

「厄介や……厄介なオタクすぎる……」

 

 全部で七曲、堪能させてもらって俺はホクホク顔でキングとロックに感想を伝えていた。

 いや、やっぱり踊れる「灼熱Bonfire!」もいいけど個人的にはやっぱり一曲目の「UNSTOPPABLE」だね。なんでってパレオさんのソロがあるから。背面キーボードというパフォーマンスからのヘドバン、最高すぎて酸欠になるかと思ったよ。

 

「お前、あたしらと飯食ってんならもう一曲あんだろ!」

「そ、そうだよ!」

「アレですね、いやアレも思いっきり頭振らせてもらいましたよ」

 

 ロックとキングが揃ってカッコいいといえばやっぱり最初のドラムとギターがもうトップギアまで身体を持ってきてくれる一種のヒーリングサウンドだよね。その後頭全力で振るから全部もってかれるし声枯れるかと思ったけどね。

 いやぁ本当に「OUTSIDER RODEO」は治安が悪いって言われるだけはあるよ。この二人がメインだもんな。

 

「でも正直、Bonfireの後のパレオへのコールはあたしも聴こえてたな、気の所為じゃなきゃ」

「ならパレオさんにも届いてるってことですかね」

「そうに決まってるって思った方がいいんだろ?」

「ま、ますきさん」

「いいだろ、榛名が悪いヤツじゃないのはロックが一番知ってることだしな」

 

 キングから慰めというか、励ましというか、そういうフォローをもらった。当初はパレオさんの指への愛をぶっちゃけ過ぎたせいで警戒されてたけど、どうやらちょこちょこではあるが付き合っていくうちにコイツは大丈夫だって思われたらしい。

 姉御肌だしな、影で姐さんって呼んでるし。絶対怒られるからキングとロックの前では言わないが。

 

「なぁ、ロック。あたしは別に榛名ならパレオに危険はないと思うんだけど」

「ダメですよ、それでチュチュさんに怒られるの私もなんですからね!」

「そもそも俺は変態でストーカー予備軍との評価をされてるので危険かと」

「自分で言うんや……」

 

 そりゃあね、パレオさんだよ? 知り合えたらどうなるかわかったもんじゃない。

 仲良く一緒にパスパレ行けるってなったらイヴちゃん推せばいいのかパレオさん推せばいいのかわかんなくなってその場で自爆すること間違いなしだ。

 

「厄介なオタクだからね俺は、ロックとキングと一緒に話すのも別にパレオさんとお近づきになりたいわけじゃないからさ」

「そっか」

「でもパレオさんって最近、結構な頻度で旭湯に入ってから帰ってるってチュチュさん言ってたよ」

「じゃあそのうち会いそうだな」

「そうなの!?」

 

 ちょ、ちょっと通っちゃおうカナ〜という気分になってしまいロックにジト目を向けられた。

 しょうがない、幾らカッコつけてもオタクの性だもの。

 それにしてもRASがいつも使ってるスタジオがどこにあるかは知らないけど旭湯に寄って帰るってことはもしかしてパレオさんって結構最寄り近いのでは? 

 

「いや、パレオならち──」

「──ま、ますきさん! あんまりそういうの教えたらダメですって!」

「ち?」

 

 ち、から始まる駅が最寄りなのか。今度調べてみようかなと思っているとまたもやロックに睨まれた。すいません、詮索はしません。

 ただキングはどうやらあんまり警戒しなくなったようで、そのうち口を滑らせてパレオさんの情報が回ってきそうな気がするな。今もうっかり最寄りしゃべりそうになってロックに口をふさがれてるし。

 

「榛名はそのうちうっかり遭遇するだろうし、意味ないんじゃねぇの?」

「そんなことないですよ、榛名さんは推しに巡り合わない運命にあるみたいなので」

「そんな悲しいこと言うなよ」

「じゃあ誰か推しに会ったことある?」

 

 推し──即ちパレオさん以外にもイヴちゃん、燐子さん、瑠唯さんの三人で俺は一年、結構近くで生活してるのに一切出会ったことがない。特にバイト先に出向くようになったイヴちゃん、そして割りと近くの学校に通っている瑠唯さん。

 だーれも会ったことねぇよこんちくしょう! 

 

「……残念だったな」

「ですから、積極的に教えようと会えないと思うんです」

「確かに」

「確かに、とか残念とか、キングの発言が一番ひどいんですよ」

 

 いや、よくよく考えたら推しに会えない運命とか言い出したやつが一番ひどいに決まってるわ。つまりロックが一番ひどい。

 どうやらレイヤさんに会わせてもらえないものあの人が一番ド天然でおそらくパレオさんのこと訊かれたらホイホイ答えそうというところかららしい。

 待って、ステージのイメージと全然違うんだけど。

 

「ロックとレイは似たようなもんだ」

「逆にじゃあ三人は変わんないんですね」

「そうだな」

 

 なるほど。パレオさんも普段からあんな風にかわいいんだなぁ。

 いいな、でもあの笑顔を間近で見せられたり握手されたら卒倒しそう。いや耐えれるか、イヴちゃんと至近距離で話してなければ耐えられなかっただろう。やっぱりパスパレは最高だな! 

 

「あ……」

「あれ、令王那」

「どうも、今帰りですか?」

「うん、ロックとキングとご飯行っててさ」

「そうでしたか」

 

 そんな帰り道、キングがロックを後ろに乗せてバイクで帰っていくのを見送って新宿で電車を待っていると横には見慣れた後輩が立っていた。

 この時間にここにいるのは不思議だ。もしかしてフェスに行かなかったのかな。

 会場は東京じゃなくて地元千葉だ。内房線の蘇我が最寄りのため東京戻るより実家に帰った方が近いはずだけど。

 

「私だって、友達付き合いがありますから」

「そうだったね、ごめん」

「いえ……二駅ですか?」

「うん、令王那は?」

「大塚です」

「そっか、前行ってたマンション持ってる友達?」

「……はい」

 

 なんだろう、ちょっとだけ令王那の態度にトゲがないというか。眠いのかなって思うほど、レスポンスが素直だ。

 友達、というのに一人なのが気になるけど。そう訊ねようかどうかと迷っていると令王那にセンパイと声を掛けられ、電車の来ない線路ではなく隣の後輩に目線を向けた。

 

「何か、気になっているようですけど、訊かないんですか?」

「ああいや……一人なのかなぁって」

「センパイを見つけたので、待たせています」

「……どうして」

「どうして? ハルと話したいと思うのは……変?」

 

 肩が思わず上がった。久しぶりに呼ばれた気分だ。それと同時に令王那が後輩としての令王那ではなく、もう一つの顔をしていることに気付かされた。

 ──敬語になったのも、センパイと呼ばれるようになったのも、中三の終わり際からだ。他のヒトが居る前では今みたいな話し方だったけど、二人でも変わらなくなったのはそれから。

 

「令王那は、俺のこと嫌いだと思ってたから」

「嫌いだったら……話かけたりしない」

「何かあった?」

「あったから、ハルのこと、センパイって呼べない」

 

 えぇ、俺ってなんかしたんだろうか。いや俺がGWに令王那と会ったのは今日が初めてだ。会話をするのは勿論、この電車を待つ時間で初めて。

 俺はどうしたらいいんだ。

 

「RASのお二人から、パレオのこと訊いた?」

「いや、教えてもらってないよ。なんにも」

「──そう、そっか」

 

 この質問の意味も理解できない。あれか、俺がパレオさん推してると時折令王那の顔がチラつくって言ってたからその関係か?

 意味がわからないけど、電車が来るまでのほんの短い間、令王那は俺の小指を握ってきて、何も言えなくなる。推し指、身近にあった推しといえるフェチズムが増幅したであろう原因の指に包まれるドキドキと、令王那の異変がわからないという困惑でいっぱいでそれ以上何もしゃべることは出来ず。

 どうやって家に帰って寝たのか、よく覚えてないほどの衝撃だったよ。

 

 

 

 

 

 

 




久々にライブを書いた気がする。ごまかした自覚はあるよ。

パレオの異変はなんででしょうね。
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