呪霊を孕ませる特異体質   作:LABO

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主人公:山園愛人(やまぞの まなと)
1990年12月15日産まれ



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 【1996年12月15日(日)】

 

 

 誕生日プレゼントに日記帳を貰ったから、今日からちょくちょくつけていくことにする。

 スマホもねぇ、友達いねぇ。家では母親ネグレクト!な俺の現状では、何かを書くものがあるというだけでかなりの暇つぶしだ。

 漁の合間の忙しい時間を縫って買ってきてくれた父親には感謝しかない。

 

 さて。とはいっても書くことがない。なさすぎる。

 今日やったことといえば、勝手に秘密基地にしてる廃神社の掃除をしたくらいだ。それも言ってしまえば日々のルーティーンだし、最低限それくらいはやらないと呪われそうだからやってるだけである。

 

 この日記帳についても、もし家に隠して母親に見られでもしたら焼却処分されてしまうかもしれないので、同じく秘密基地の賽銭箱に隠しておくことにする。

 多分見る人はいないと思うし。

 

 

 あーこわ、来月からまた父親が長期漁に出てしまう。今回の漁では三カ月くらい帰ってこないらしい。

 それが寂しいとかはないが、最近母親からの態度がきつくなってきているのもあって、そろそろ手を出されるんじゃないかという恐怖がある。

 

 

 

 無事に小学校入学を迎えられればいいんだけど。

 

 

 

 

 

 【1997年1月7日(火)】

 

 

 今朝、父親が長期漁へと出かけた。

 母親は玄関で抱き着いて泣き喚いていた。いや子供かよ。とは思ったんだけど勿論何も言えなかった。

 

 玄関が閉まって、こちらを振り返った母親と目が合ったんだが、なんだかこっちを凄い目で見てたな。

 少なくとも自分の子供に向ける視線ではなかったような気がする。

 

 

 きっと今日からこいつと三カ月一緒かぁ、とか思ってたんだろうな。そんなん俺だってやだよ。

 とは思ったんだけど勿論何も言えなかった。

 

 

 何も言えなさすぎだろ俺。

 

 

 

 んでその後母親はぼそぼそ言いながらソファに体育座りしながらずっとこっちを見つめてきた。

 それが怖すぎて俺はとりあえずいつもの廃神社に逃げてきたのだ。

 

 はぁ。寒いな。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 家に父親がいることもあってここ三週間は一人になれる時間がなく、随分と久しぶりの日記になってしまったが、一方でその期間、俺は日記に何を書くかを考えてきているのだ。

 

 

 それはずばり、今後の生き方の計画について、今のうちに整理しておくということだ。

 

 目標といってもいい。折角の第二の人生なのだから、完璧に勝ち組な人生ってやつを送りたいじゃないか。

 今日はその為の現状確認と、やるべきことをまとめようと思う。

 

 

 では、まず現状について。

 俺の名前は山園愛人。一九九〇年一二月一五日生まれの六歳児で、父親は漁師、母親はバーで働いている。

 家庭はちょい貧乏。但し今住んでるのが人口二百かそこらの小さい島村だから、その中では裕福な方ではある。

 んで俺は前世の記憶持ちね。大体二〇二三年中盤くらいまでの記憶がある。未来の知識持ちといえば聞こえはいいが、俺自身は結構浅い人間だったため活かせる知識はそんなにない。

 精々早いうちからYoutubeを始めれば有名になれるかも、とかそんくらい。

 

 

 次に、目標について。

 やっぱ社会的なステータスはしっかりほしいよな。所謂『3k』ってやつだ。

 その為には幼いうちからちゃんと食って寝て運動して成長期を最大限活用するのと、小学校の内から勉強しまくって、できれば東京の進学校まで行きたいところではある。

 でまぁ、最終的に金融系の仕事に就くか官僚とかになれたら最高だな。

 あとなんか武術系の習い事したいよな。ガタイの良い奴に気持ちで負けないように。帯とか段みたいなのはいらないけど、路上で強いやつになりたい。

 

 あーあと青春したい。具体的に言うと中学高校くらいでできればモテたい。んでそのまま可愛くて清楚で黒髪巨乳で処女の同級生と付き合って、その子で童貞卒業してそのまま結婚したい。

 

 

 うわぁ。

 書いてて自分でも大分気持ち悪いし、なんというか俗物的だ。

 でもなぁ。こんなとこでかっこつけてて後から後悔するよりは、今の内からがっつり目指して、失敗したら笑い話、の方が人生として充実してそうではある。

 だからここでは全部さらけ出す。で、この人生は()()()()()()()()()()()

 

 

 とすればだ。えーっと、何をすればいいんだ。

 よく考えると問題だらけだな。まず前提としてネグレクト気味というのもあって、進学校に行けるのかどうかが分からない。

 都会に行きたいとか言われて金を出すか? あの母親が。

 まぁ俺と物理的に離れられるという捉え方をすればワンチャンあるか。

 

 うーん。なら現状は今のままでいるしかないか。ネグレクトの目を掻い潜って栄養をなるべく摂取して、良く動いて良く寝る。で、学校が始まったら先生からの憶えがいい優秀な子になって、先生越しに三者面談とかで進学を匂わせられるようにしよう。

 

 

 よし。そうと決まればまずはタンパク質の確保だな。幸いこの島は自然豊かで、狸とか兎とかの獲物には事欠かない。

 ネグレクトの激化で飯抜きの可能性とかも考えると、そういうのを取れるようになっておきたいな。

 

 

 

 P.S.【悲報】冬なので野生動物がいない【頭わるわる】

 

 

 

 

 

 【1997年1月8日(水)】

 

 

 はい。昨日考えた作戦が、当日で頓挫した俺だったが、ならばということで運動をする方に意識を切り替えることにした。

 その為に行うこととしては、ONE PIECEでの幼少期ルフィ達を参考にすることにした。

 つまり、森の中を走り回って全身運動を行い運動神経を鍛えるのだ。パルクール的な要領で、怪我をしない程度に段差を登ったり降りたり、三次元的な動きを意識して行っていく。

 この世界は現実だから、漫画みたいに木から木へ飛び移るなんてことは出来ないだろう。が、そこまでは辿り着かなくとも身軽な身体を手に入れられれば万々歳である。

 

 まあそれで、一旦昼飯を食べる為に泥まみれになって家に帰ったら、母親がもっととんでもない目で見つめてきたが。

 迷惑かけません。自分で洗いますって言ったら舌打ちだけして視線を外された。

 これどういう拷問?

 

 

 しかしどうやらネグレクト気味とはいえ、こちらから関わらなければ何もしてこないというのは朗報なのかもしれない。

 あんまそういうスタンスというか、自分を嫌ってくる人間と深く関わった経験が無いため判断が難しいな。

 

 

 何はともあれ方針は決まった。今は只管身体を動かしまくりながら、良く育てるような生活を心掛けて行くことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 【1997年1月28日(月)】

 

 

 おかしい。最近凄く違和感を感じる。

 といってもネガティブな違和感ではないのだが。簡単に言うと俺自身の身体能力についてだ。

 

 確かに、俺自身運動神経の発達、ひいては身体能力の向上を目標に日々運動を重ねてはいる。

 しかしその上がり幅が、正直言ってありえないレベルなのだ。

 

 きっかけはランニング中に転んだことだ。前日に雨が降っていて泥濘んでいたこともあり、運悪く滑って転んで斜面を転げ落ちることになった。

 正直、大の大人でも骨折は免れないレベルだったと思う。転げ落ちるだけではなく、複数回木にぶつかったりしたのだから。

 しかし俺は傷一つなく、なんなら痛みもそこまで感じなかった。

 

 

 ……おかしい。確かに運動開始よりは身体を動かせるようになっている自信はあるが、とはいってもそれはあくまで常識の範疇の話だ。

 

 実際俺は死んだと思った。足を滑らせて宙に浮いてから、最初に地面にぶつかるまでの一瞬で走馬灯が過ぎったし、その間に強く恐怖したことも覚えている。

 

 

 …………何なんだろうな。実際命が助かったのならそれに越したことはないんだが。

 ただ、走馬灯を頭の遠いところで眺める中で、なんだか物凄い冷静になるタイミングがあったような?

 死の恐怖だとか、こんなくだらないことで、みたいな後悔だとか情けなさだとか。そういうのをなんというか、手の中で支配できてるみたいな、そんな感覚があった。

 

 

 ふーむ、要解明である。

 もしかしたら、俺が普通な世界に生まれ変わったと思いこんでるだけで、何かしらのファンタジー要素も兼ね備えた地球なのかもしれないな、ここは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【1997年2月14日(金)】

 

 

 今日は朝から母親の話し声で目が覚めた。

 どうやら電話の相手は父親で、バレンタインということももあり電話する時間を設けていたようだ。

 俺に向ける視線や声とは違い、母親が父親に向けるソレは甘ったるくて、傍から見てると胸焼けしそうに感じる程である。

 

 なんか心がささくれ立つ。でも、彼女が俺を愛せていないというのであれば、きっとこんな不本意な生活ではストレスも溜まってるんだろうな、と思った。

 

 だから両親の至福の時間を邪魔しないように、腹が減ってるのを我慢しつつ、今日は朝食を食べないで外に出た。

 なんてことない日なのに、生まれて始めて孤独ってもんを感じた。

 

 

 それはさておき、俺は今日も今日とて廃神社周辺でトレーニングの日々である。

 あれから二週間、色々と試行錯誤してみて分かったことがある。

 

 というのも、どうやらあの違和感は気のせいじゃないっぽいのだ。

 つまりは実際に、見えないエネルギーみたいなのがあるっぽいということ。

 ぽいというのは、ビデオで見たりとかの客観的な記録ができないから、今できることがどこまで行っても主観の体感でしかないからつけている。

 

 ただ、明らかに不思議パワーは存在している。

 しかもどうやらこれは感情に起因するようで、前回は死にそうになった恐怖から発現したのではないか、と仮定している。

 

 それからも、前世であったしんどい系の過去を思い出しながら木を蹴りつけていると、明らかに威力が違うときがあったのだ。

 

 そして今日、感じた孤独をエネルギーに変えてみるつもりで、『震脚!』と叫びながら足を地面に叩きつけてみると、そこまで柔らかい土でもないのに五センチくらい足がめり込んだ。

 当然ながら痛みはそんなに無かった。

 だから恐らく、爆発的な感情を動力源としてこの“気”っぽい何かは扱えるようになっているのだと考えている。

 

 

 今日、これを確信したとき、朝感じた孤独感なんてのは気づいたらどっかに飛んでいっていた。

 

 この能力、使いこなせるようになってみたい。心はワクワクでいっぱいだった。

 という訳で本日より目標に、この能力を十全に扱えるようになる、というものも追加することにする。

 

 

 目指せかめはめ波!出んのかわかんねぇけど!

 

 

 

 

 

 

 P.S.そういえば朝の電話から聞こえてたんだが、どうやら父親が近々一度帰港するらしい。何やらエンジンに不調があって?みたいなことを母親が話していた。

 そうなるとまた暫く神社には来れなくなってしまうな。

 折角ファンタジーを発見できたというのに、この世界はままならないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【1997年2月16日(日)

 

 

 

   

 

 

 父親が事故で亡くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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