呪霊を孕ませる特異体質   作:LABO

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 【1997年12月16日(火)】

 

 

 昨日、なんだかんだで俺の誕生日会があった。毎度おなじみ場所は鈴木さん宅だ。

 前日まで舞香ちゃんは『赤ちゃんに挨拶したい』と言い続けていたのだが、流石に両親に諌められたようでどうにかなった。

 しかしこの感じだと、産まれてからの言い訳に窮しそうで今から戦々恐々である。

 なんかもう、最近は柴先生のこと母親って偽れねぇかな〜とかまで考えている。

 この島の人間関係の狭さを考えると無理なんだけどね。

 

 

 でだ。問題があったのはその後だ。

 

 

 端的に言うと、母親に頬を叩かれた。始めてのDVである。

 夜、誕生日会で家に帰るのが少し遅くなったのだが、それで運悪く母親と鉢合わせてしまったのだ。

 

 理由は分からない。ただ、表情は怒りというか、なんなら憎しみまで篭っていた気もする。

 ビンタされた程度だったが、結構本気で力が入ってた。

 叩かれた瞬間は、最近佐藤先生が忙しくて来てないからかな?とか、想像できる理由が色々過ぎったが、まぁなんも言えなかったよね。

 

 

 で、鍛えているのもあってビンタそのものが響いたわけじゃなかったが、なんか昨日は初めて涙が出てきた。

 ネガティブな言葉にできない感情だった。

 

 

 

そなたを泣かせるとは、わらわがころしてやろうか、その雌犬

 

 

 

 

 

 

 【1997年12月26日(金)】

 

 

 

 昨日母親がついに出産を迎えた。今回担当医をした佐藤さん曰く、予定日から一週間遅れての出産だったようだが無事に出産を迎えられたらしい。

 産まれたのは女の子だった。体重は若干軽かったが、それに負けないくらいの大きな声で泣いていたようだ。

 

 らしいという言葉は、まだ俺が赤ちゃんと対面できていないからついている。

 当たり前の話か。これも佐藤さんからの言伝になるのだが、俺が対面できるのは早くても二週間後くらいなんだとか。

 今回の出産も母体にとって高負荷だったようで、入院の期間が長引くそうだ。

 

 

 俺の日常生活については、佐藤さんがこまめに様子を見に来てくれると言っていたが──俺はそれを断った。

 疲れた母親の傍には父親が必要だろう。だから、母親を優先してあげてくれ、と伝えた。

 そんで最後に、まだ躊躇が無いわけでもなかったが、お父さんと呼ぶと、佐藤さんは感極まった様子で泣いていた。

 

 佐藤さんが病院に戻ったあと、俺もなんか泣いてしまった。

 無事に産まれてよかったなぁとか、まあ色んな感情が入り混じったからだ。

 俺最近良く泣いてるんだが、そういう感受性の部分が肉体年齢に引っ張られたりしてるんだろうか。

 

 

 

 それにしてもクリスマスが誕生日なんて凄いなぁ、我が妹は。

 これで実は呪術的素養があって聖なる光みたいな術式持ちとかだったら、流石に涙目である。

 

 

 

 

 

 【1998年1月1日(木)】

 

 

 新年である。あけましておめでとうございます自分。

 まあ新年とはいっても特にやることは変わらないが。

 自宅に一人だから、いつもより空間を広々使えるってくらいだろうか。

 

 今は、朝一で廃神社までお祈りに来ている。廃、とはいえ神社である以上、今年も一年よろしくお願いしますってことで来るのは礼儀だろう。

 

 ふと気になったことがあって、それは、ここが廃神社なら町の人々はどこにお祈りに行っているんだろうということだ。

 行きに町中を通った感じだと、なにやら村長の家に人が集まっている様だったが、詳細は分からずだった。

 

 というよりも、その中に寝ぼけ眼の濱井君の姿を見かけて、それ以上観察するのをやめたというだけなのだが。

 

 

 さて。案の定廃神社に人が来る様子は無かったので、掃除をした後、俺はおせちをここで食べることにした。

 おせちと言っても、有り合わせのものを買ってきて盛り付けただけのものだが。

 

 やっぱり舌が幼いが故なのか、栗きんとんが一番美味しかった。

 

 

妾はこの練り物が好みよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [1998年1月1日(木)]

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 

 新年を迎えたので、記念にと日記を見返していたときのことだった。

 一昨年の誕生日に、実父から貰ってつけ始めたこの日記。

 毎日書くなんてマメなことはできていないが、それでも日常の変化を振り返るにはうってつけだったのである。

 

 で、あればそれでよかったのだが。

 

 何故か途中から、何某かの赤い字が俺の日記に添えられているのを発見した。

 

 

 

 え。

 これ明らかに俺以外の誰かが書いた跡だよな。

 となると、誰かが実はここに来てて、何かを書き足しているってことなのか?

 

 

 ページを捲る。

 赤字は飛び飛びにつけられている。

 初めの方のはボヤケが酷くて読めないが、後半の、というか最近のものはなんとか読めそうだ。

 

 

「十二月十六日……誕生日のこと書いた日、だ」

 

 

「………?ころして………やろうか?」

 

 

 

 なんか滅茶苦茶物騒だ。読み取れた文字が平仮名で、しかも『ころしてやろうか』とかいう物騒な文字列だった。

 ………え?

 

 ぞわり、と緊張が走った。

 

 

 嫌な予感がする。念の為、全身に呪力を纏っておく。

 

 

 

 ページを捲る。

 

 

 

 

「……………今日………」

 

 

 

 一月一日。今日の日記だ。

 俺は生活習慣を変えて以来、朝に日記を書いているので、これはほんの数時間前に書いたものだった。

 

 

 そこに、赤字が添えてある。

 

 

 

 

「……………読め、そうだ」

 

 

 一番新しいであろうその字は、ボヤケはもう殆ど無く、全文を読み取ることができた。

 

 

 

 

『妾は練り物が好き。』

 

 

 

 

 妾って誰だ。なんだ。分からん。

 じわり、と今度は嫌な汗が滲んだ。

 

 

 この日記、賽銭箱の中に隠している。

 そして俺がおせちを食べているのは本殿の方で、賽銭箱は見えないから、これを書き込んだとなると、ついさっきということになる。

 

 

 

 見られている。誰かに。

 見られていたのか。何かに。

 

 

 

 というよりも。

 

 

 

 

 

 

「…………今も、見ているのか────ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────漸く気付いたか。全く鈍いおのこよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 声に振り返り、背後。

 真っ黒な双眸と、視線が重なった。

 

 

 

 

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