呪霊を孕ませる特異体質 作:LABO
[1998年1月7日(水)]
「そういえばさ、術式で本能を書き換えたって言ったけど、探女の術式ってどんなのなの?」
探女との邂逅から五日が経った。あれから五日間、俺は冬休みの残り時間のほぼ全てを廃神社で過ごしている。
「妾の術式?ん〜知りたい?知りたい?」
「あっじゃあもういい」
「あっあっなんでじゃあっ、教える、教えるぅ」
時間にして数十時間。たった数十時間ではあるが、しかし濃密な関わりの中で、俺はある程度彼女への理解を深めていた。
例えば────
「妾の術式は『
────こんな風に。弄ぼうとする癖に、こっちが天邪鬼に接すると途端に弱腰になったり。
「ふーん。お前かわいいな」
「ふへ、そうじゃろそうじゃろ!もっと褒めて!」
または、こんな風に煽てると、素直に調子に乗るところとか。
総括するとかなり俗、ないしメスガキ味のある大変面白い奴、というのが現在の印象である。
なんだろ、口調も相俟って、偶におじゃる丸か?と思うこともある。
しかし見た目が妙齢の美女であるからして、ギャップ萌えというかなんというか。
かなり男のツボをつく、魔性な感じに仕上がっている。
そして今は、そんなメスガキ呪霊に邪魔をされながら冬休みの宿題を熟している最中である。
なんだかんだ余裕がない。何故なら今日が冬休み最終日だからである。
夏は寧ろ早めに終わらしたんだけどなぁ。
冬休み前半家で一人だったせいで、テレビを見たり料理をしたりとか、普段あまり出来ないことに時間を費やしてしまった。
故に、今の追い込み。
やること自体は簡単なので、脳のリソースは専ら探女に割きつつ手を動かす。
ついでにマルチタスクの訓練にならないかな、なんて淡い希望も抱いている。
「褒めて〜」
「ハイハイ可愛い」
「ぐふふふふ」
…………呪霊の癖に可愛いのが悔しい……!
夕暮れ時。ようやっと宿題が完了し、俺は家から持参した菓子をつついていた。
冬は呪霊もそんなに出ないし、探女は探女でだらけた時間を過ごすことにノリノリだしで、完全に正月太り待ったなしだった。
まあ学校が始まれば、否が応でも生活習慣を是正することになる。
そうなるとこんなゆっくり時間を過ごすこともできないなー、なんて。少し寂しさを感じた。
「明日からはまた、朝早くに来るよ」
「学び舎も始まるしの。妾はそれで構わぬ」
「ありがと。んじゃそろそろ帰ろうかな」
と。これ以上いると帰るタイミングを逃しそうなので、今日は早めに家に帰ることにした。
この前電話をかけてきた佐藤さん曰く、近日中に母親が帰宅するらしいからな。
明日帰ってくるとは思わないが、家の状態も母親の入院前まで戻しておかないといけない。
「またね、探女」
「うむ。いつでもおいで、愛人」
いつでもおいで、か。
まさか、今んとこ一番素でいられるのが、呪霊のいる廃神社だなんて。
人生ってのはよくわからないものである。
【1998年1月11日(日)】
昨日の夕方、母親が帰ってきた。
出産を経ても俺への態度は変わらずで、しかし逆に安心した。母子共に健康そうだなぁと感じられたからだ。
その後、母親は赤ちゃんを布団に放るとそのまま寝てしまった。
大丈夫か?とは思ったが、赤ちゃんは赤ちゃんで凄く大人しい。
動かないし、泣かない。というよりも、ずーーーーっとこっちを見つめてきていた。
ちっちゃいのに目がくりくりで可愛い。
その後帰ってきた佐藤さんによると、名前は『メバル』らしい。この島の港でも売られているのをみかける魚の名前だ。
命名は母親。その意味は分からなかったが、もしかしたら目が大きいのからそのままつけたのかも、と言っていた。
佐藤さんも凄い甘やかしていて、二人で一生赤ちゃんを構っていた。
願わくば母親がネグレクトしないでくれると有り難い。そういう兆候がないか、しっかり見張っておこうと思う。
それと、年末年始は人付き合いが忙しいからという理由で柴先生の授業が休みになっていたのだが、今日から再開する。
帳については既にバッチリ形になったので、これからは式神術や封印術について教わっていくつもりだ。
[1998年1月11日(日)]
「や、久しぶり。年末年始はどうだった?」
「家に母親がいなかったので、それなりに満喫してましたよ」
「いいな〜。私は年末年始忙し過ぎて、、、」
「仕事ですか?」
「忘年会」
そう答えた柴先生は、目にずっしりと重たい隈を作っていた。
さながら原作の家入硝子ばりである。女医って隈のできる職業なのか。
「大人の付き合いってやつですか」
「まぁそーだね。特に私の場合、東京に行かなきゃいけないタイミングもあったからさ……医者と呪術師、二足の草鞋履いてるとそんなもんよ」
相対的に君が一番癒やしだよ〜、と抱きつかれる。普段の先生はここまで隙だらけではないので、よっぽど疲れているのだろう、と思った。
そして頭に相対的にって言葉がついてるあたり、本当は家で寝てたいんだろうな〜と少しの罪悪感も抱いた。
そんな感じで三十分。漸く一通りの愚痴を撒き散らし終わった先生に、式神術と封印術の基礎を教わる流れになった。
「じゃあまずは座学とさせてもらうけど、この二つには『縛り』の概念が強く関わってくるんだ」
「縛り、ですか」
「そう。ある条件付けを行う……例えば式神術だと、形という縛りを与えることで、動けるという結果を得ることになる」
そう言うと、先生は呪符を取り出した。
そこに呪力を込めると、呪符が燃え上がり、ぼん、という破裂音と伴に子犬のような形の式神が出現した。
「お〜」
「可愛いでしょ?尤も、式神とはいっても、それに関連する生得術式を持たない限りその用途は限定される」
「愛玩用ってことですか?」
「この子はね。までも危険な場所に先行させて様子見したりとか、逃走時に撒き散らしてダミーにするとかくらいはできると思うけど。戦闘能力を持たせるのはちょっと難しいかな」
式神を片手で撫でながら先生は続けた。
式神、とは言ったが、彼女のそれはかなりリアルな犬の動きを再現していて、言われなければ本物と思ってしまうほどだった。
「でもその子、凄いリアルな動きですね」
「そういう目的で作ったからね。これでも式神術は割と得意分野なのよ。それでも、鳴き声まで再現することは出来なかった。縛りの足し引きの限界ってやつね」
なるほど。俺はここまで色々な知識を教わってなんとなく、術式が才能の八割とか言ってた理由が分かる気がした。
呪術というのは、そもそもが術式前提の技術群なのだ。式神術然り、この後教わった封印術もそう。
だから、術式が無いとどの技術も無料体験版みたいなとこまでしか覚えられないから雑魚扱いになる。それに良い術式、即ちノウハウがあって技術が適用できる術式じゃなければ、その探求に時間が必要で、どうしたって強くなるのに時間がかかるから外れ扱いされることになる、のではないだろうか。
そうなると、心情的には無論反吐が出るが、原作の御三家のあの感じもなんとなく納得がいく。
そういう意味で甘くないのだ。どんなにフィジカル鍛えたって、術式というパワーの前では一歩遅れを取るしな。
「柴先生って、術式持ってるんですか?」
「持ってるよ。『念動領域』っていって、範囲内のものを操作できる術式なんだけど……いかんせん集中力が必要でね、あんま強い術式ではないんだよねぇ」
そう言う先生の顔には、なんというべきか。今までの苦労が浮かんでるって感じがした。
才能が無い側な俺としては、そういうのを見せられるとやりたいことに迷いが生じてくる。
反転術式のアウトプットまで憶えて調子に乗っていたが、そこまで術式ファーストの世界なのであれば、ちょっと足を踏み入れるのは考えたほうがいいのかも?
あ、いやだめだ。前世で原作を最後まで追うことはできなかったが、確か日本壊滅がどうこうみたいな話になってた気がする。
じゃあ強くならなきゃじゃん。
「………はい、じゃあ本日はここまで!次は〜、二十五日かな?」
「はい、それでよろしくお願いします」
「了解!楽しみにしてるよ」
またね〜、とほんわかした表情で手を振る先生に感謝の意を告げて、俺は先生の家を出た。