呪霊を孕ませる特異体質   作:LABO

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15・ビター・バレンタイン

 

 

 【1998年1月18日(日)】

 

 

 昨日、式神術に成功した。余りの弱さに拍子抜けだったが、それは自分が強くなっているからだと肯定的に捉えることにした。

 あの後喚び出してみると、無事にあのワンちゃんが出てきてくれた。しかも今度は威嚇とかせずに器用にお座りして尻尾を振っていた。可愛いので全て許す。

 

 んで探女に聞いてみたところ、あの式神は『走狗(そうく)』と呼ばれる種類らしく、式神術では割とポピュラーなんだとか。

 誰の間でポピュラーなんだよと聞いてみたら、なにやら目を逸らして下手糞な口笛を吹いていた。

 

 最近思うんだが、やっぱあいつ普通の呪霊じゃないよな。

 呪霊の本能を書き換えたみたいなこと言ってたし、よく考えたらぽっと出の呪霊が式神術を詳しく知る筈もない。

 何かしらのイレギュラーなのは確かなんだろうが、問い詰めてものじゃのじゃ言ってるだけだった。

 

 

 まぁそれについては俺も同じ穴の貉ということで、腹黒同士上手に仲良くしていこうと思う。確証はないのだが、探女は俺に隠しごとをしていたとしても、やっぱり俺を害する気はないのだろう。

 真人みたいな厭らしい奴だったらあれだが、そのときはもうそのときだ。

 すでに俺は探女の不思議なカリスマに捉われているのだろう。化かされて死ぬならそこまでの存在だということだ。

 

 

P.S.勝手に日記を読んでいたらしい探女に抱きつかれた。かりすまがあってごめんなのじゃぁとかほざいていたので、もう日記でお前を褒めないことにする。

 これも見てるのかもしれないけど、プライバシーの侵害だからな。

 

 

 

 

 【1998年1月26日(月)】

 

 

 昨日柴先生との授業があった。

 式神術について正直なことを言うかどうか迷った。

 だが柴先生には探女のことを伝えていない都合上、彼女からの認識に矛盾が生まれるのを避けるため、式神術は成功しなかった体で通した。

 

 できなかったと言うと、先生は“んじゃそっちの才能はあんまりなのかもね”とだけ言っていた。

 

 うーん。正直今のところ、ちょっと柴先生に対して違和感を覚えている。

 

 というのも探女曰く、先生から教わった『思業式』は、式神関連の生得術式持ち向けの方法だ。

 

 実際生得術式を持たない俺は上手くいかなかった。

 

 しかし式神術の才能そのものが無いのかと言われればそれは否だ。なにせ探女に教わった『悪行罰示』であれば、式神の調伏はうまく行ったのだから。

 

 つまりだ。柴先生の言葉には矛盾する部分がある。

 

 先生は生得術式のことを『念動領域』だと言っていた。実際に昨日見せてもらったが、一定範囲の物を操作するだけで、式神を召喚するとかの術式ではなかった。

 であるならば、使う式神術は生得術式に囚われない悪行罰示であるのが普通なのではないだろうか。

 

 勿論、俺には本当に才能が無いだけなのかも、と一旦は考えた。

 しかし何より自分自身が、思業式は努力云々で成功するものではないと体感してしまっている。

 

 ん。もしかして、念動領域で動かす物って式神扱いになったりするのか?原作で言う所のレジィの術式みたいに。

 

 ……考えてもキリがないな。最悪我慢できなくなったら、本人に全部説明して聞いてしまおう。

 

 

 

 話題を変える。

 式神術うんぬんの問題はあったが、一通りの内容を修了したということで、一旦授業を辞めることになった。

 それにあたって、柴先生から卒業プレゼントをいただいた。

 

 なんと、『穏柄(おんが)』という一級相当の呪具をである。

 

 嬉しかったは嬉しかったが、流石に困惑した。原作知識から呪具が相当高価なものだというのは知っていたからだ。

 しかし先生は理由を挙げ連ねた。

 例えば俺が普段から呪霊の祓除を行って島の治安維持に努めていることや、誕生日プレゼントを渡せなかったことなどである。

 その他にも理由を重ねられて、半ば押し付けられる形で受け取ってしまった。

 

 まあこんな言い方をしておいてあれだが、軽く使ってみた感じだいぶ便利だった。

 なので取りあえずは武器として運用しようと思う。

 

 

 今後見返したとき用兼、日記を覗き見るであろう探女向けに、呪具の詳細を記載しておく。

 

 

 穏柄はネックレス型の呪具だ。しかしアクセサリーがついているというわけではなく、代わりに三角錐型の錫がついている。

 そして錫部分に術式が付与されており、呪力を籠めながら以下の文言を唱えることで、対応した形に変化させることができる。

 

 『(さいとり)』…約ニメートル程の棒状。

 『(からかさ)』…片面に取手のついた盾状。同じく直径ニメートル程。

 

 この呪具の欠点として、構造上呪力を籠めていないと耐久性に難があると言われた。

 気をつけて運用したい。

 

 

 

 

 

 

 【1998年2月4日(水)】

 

 

 

 ここ一週間程、普段の呪霊討伐に穏柄を使ってみた。最初は扱いが難しかったが、ある程度慣れてくるとその利便性が分かってくる。

 なんというか、インファイトしか選択のなかった今までと比べて間合いがかなり広がり、明らかにスタミナの消費速度が変わったのだ。

 更に一撃あたりの攻撃力も増したため、今までは苦労していた堅さの呪霊もワンパンだった。

 

 さて、それとは別に、学校関連で一つ気になることができた。

 それは同級生の騒がしい方──舞香ちゃんについてである。

 どうも彼女、最近ずっと物憂げな表情を浮かべているのだ。

 最初は恋愛系のあれそれかと思ったのだが、どうも違うらしく、ならばと直球に聞いてみても、あの子には珍しく話を濁されてしまった。

 仲のいい遥ちゃんや、なんなら担任の先生にそれとなく聞いてみても、その原因は分からずじまい。

 

 一体なんだというのだろう。何もなければいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 【1998年2月14日(土)】

 

 

 

 昨日の学校終わり、いつものように一人で帰路につこうとしたところ、同級生女子二人に呼び止められた。

 何やら今日──すなわち二月十四日本日に、話したいことがあるので遊ぼうと言われた。

 その時は特に考えることもなく了承してしまった。

 が、よく考えたら今日ってバレンタインじゃないか、と気づいた。

 

 

 それから色々と考えることはあったんだが、ここに来て俺はある仮説を唱えたい。

 それは、『舞香ちゃんの悩みごとの原因、俺だったんじゃないか説』である。

 

 つまりだ、舞香ちゃんは俺のことが好き、ないし気になっててあんな変な感じになっていたんじゃないか、という想像である。

 自意識過剰か?と思わなくもないが、まあいうて小一だしな。

 しかもここは人が極限に少ない島だし、俺は多分、舞香ちゃんから見て父親の次に関わりの多い『性別:男』なのだ。

 

 そして極めつけは、バレンタインに呼び出されているという現状だ。

 これは逆に、恋愛関連以外の原因を疑う方が難しいまである。

 

 

 ネックなのは、今日の予定には遥ちゃんもいるっぽいということか。

 あーでも勇気が出なくて友達と、みたいな理由も想像できるし、まあそういう想像も一応しとくか。一応ね。

 

 

 いやー、流石にそんなことないと思うけどね?

 なんてことない振りして結構ドキドキである。

 相手小一なのになぁ。

 

 あ、俺も小一か。まあ流石にそういう対象として見ているかと聞かれると否なので、もし告白みたいな流れになっても断るつもりではある。流石にね?

 

 

 だから探女さん、そんなに呪力を昂ぶらせて俺を睨まないでください。

 ホントに、女の子ってませてんなぁくらいにしか思ってないので。

 

 貴方多分相当上澄みの呪霊なので、呪力の圧力で動けません。

 

 

 

 

 

 

 [1998年2月14日(土)]

 

 

 

 日記を書いたあと、探女とひと悶着あって暫く。オンタイムのつもりで約束の場所──舞香ちゃんの家近くの公園──に行くと、そこには遥ちゃんの姿だけがあった。

 

「ようやくきたかしゃいぼーい」

「ごめんごめん、ちょっと色々あって。お待たせしました?」

「今来たとこだぜ」

 

 

 これ言ってみたかったんだよなー、とか言ってる遥ちゃんの様子は、至極普段通りである。

 そしてそれとなく観察してみても、どこかにチョコ的なものを持ってる様子は無かった。

 

 うーむ。ならやっぱり舞香ちゃんが、ってことになるのか?

 

 

「……えーっと、舞香ちゃんは?」

「まだ来てないぜ」

「ですよね」

 

 

 どうやら、舞香ちゃんは遅刻してくるらしい。

 な、なんか嫌だなぁ、この待ち時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、二人とも……遅くなった」

 

 

 俺が着いてから五分と少しして、舞香ちゃんはやってきた。

 約束の発起人なのに遅れてやってきた、ということを弄ろうかと思ったが、そんな考えは彼女の表情を見た瞬間、すっと鳴りを潜めてしまった。

 

 

 

 

「ま、舞香ちゃん……?」

 

 

 

 

 

「っ……っず、うん゛、ごめんで、ごめんね、休み、やずみなのに゛い」

 

 

 舞香ちゃんは泣いていた。

 それも、尋常じゃない勢いで。

 

 

 遥ちゃんと二人、慌てて彼女に駆け寄る。

 バレンタインデー云々なんておチャラけた考えは、とっくの昔にどこかへ吹き飛んでいた。

 

 

 

「まいか?どうしたの、大丈夫!?」

「うん、うん、、だいじょ、だいじょぶぅ」

「えと、ハンカチ使う?」

「いらない゛ぃ!」

「あっ、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ひっく、ぐす………」

 

 

 約束の時間からおよそ一時間。漸く舞香ちゃんが落ち着いてきた。

 しかし公園内には、重苦しい空気が漂っている。

 いつもは率先してふざける遥ちゃんも、今は一言も言葉を発しない。

 そして俺は勿論、数時間前までの浮かれた自分をぶん殴りたくて仕方なかった。

 

 

 こんな小さな子が、こんなに泣くまで何かを抱え込んでいたなんて。

 気付いていながら見逃した。楽観的憶測を元に。

 挙げ句の果てには、俺のこと好きかも、みたいな気持ち悪い想像までして。

 

 気持ち悪いなほんと。前世の記憶まで持って生まれた癖に、そんな所で躓くのかよ。

 口では気遣うような言葉をかけながら、俺は頭の中でそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

「……大丈夫?話せる?」

「…………うん、話せる。ありがとう」

 

 

 それから更に数分。遂に舞香ちゃんは、涙の原因を語った。

 

 

 

 

 

「あのね……パパが、浮気してて。浮気して、て。ぱぱとままがっ、離婚しちゃうかもしれないの………っ

  

 

 

 

 ───────マジか。

 

 

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