呪霊を孕ませる特異体質 作:LABO
【1998年2月16日(月)】
昨日は父親の一周忌で、自宅に父親の友人らを招いて食事会をした。
勿論俺もそれに合わせて、大人達に挨拶をしたが、一方で今俺の頭の中にあるのは、昨日舞香ちゃんから聞いた話についてだけだった。
一昨日の舞香ちゃん曰く。
最初に疑問を抱いたのはクリスマスだったそう。
クリスマスパーティの最中、うちの母親が産気づいたこともあって鈴木パパは休日出勤したらしい。
それ自体は舞香ちゃんも納得しているのだが、なんと翌日帰ってきた彼は、仕事に行ったのにクリスマスプレゼントを貰って帰ってきたんだとか。
貰い物はネックレス。誰から貰ったのかは教えてもらえなかったが、今のところ鈴木パパはほぼ毎日そのネックレスをつけているみたいだ。
この時点で、俺も大分浮気してそうだなぁと思ってしまった。
本当はそんなことないんじゃない、みたいなことを言いたかったのだが、俺も遥ちゃんも何も言えなかった。
んで、話はそれだけじゃ終わらなかった。
まず、それ以来鈴木パパは、何故か舞香ちゃんとお風呂に入らなくなった。
休日も、以前なら家族と過ごす時間の多かった彼が、行き先も告げずにどこかへ行ってしまう。
そんな日々が一ヶ月続き、遂に鈴木ママの方がガチギレしてしまったらしい。
最近の生活について聞いた感じだと、もうほぼ家庭内別居だった。
舞香ちゃんの日常は、この一ヶ月で大きく変わってしまった。
そして先日、鈴木ママが実家に電話して、離婚の相談をしているのを盗み聞いてしまい。
自分がなんとかしなきゃと考えた舞香ちゃんは、こっそり職場に見に行ったそうだ。
そしたら。
彼女は見てしまった。
可愛い女医さん───恐らく柴先生が、鈴木パパの胸元に手をやっているのを。
昼休憩中の診察室を窓越しに覗いたらしい。
すると室内には柴先生と、鈴木パパが二人きりで。
柴先生は鈴木パパに抱き着いて、診療室のベッドに二人で倒れ込んで、それで。
それ以上は見てられず、その場から逃げ出してしまったらしい。
……いや、思いもよらなすぎるだろ。まさかバレンタインに、こんなドロドロな話を聞くとは思わなかった。
湯煎したチョコレートかよ。お熱いことですなぁ。
そんなことを思いつつ。取りあえず昨日は一旦話を聞くだけで解散した。
そして家に帰ってよく考えたが、残酷な話、俺や遥ちゃんにできることは無い、と思う。
精々が舞香ちゃんのメンタルケア。でもそれも一時的なものだ。
もう知ってしまった以上、傷ついてしまった以上。現実的に考えると、今回のことで受けた傷は舞香ちゃん自身が抱えて、時間をかけて、人と関わって癒やしていくしかないのではないか、と思う。
はぁ。しんどい話だぜ。
まさか、呪術を教えてくれた綺麗なお姉さんが職場不倫してて──しかもその相手の娘さんが同級生で。
泣きながら話してるのを聞くハメになるなんてな。
あー、どうしよう。いっそのこと柴先生に直接聞いてみるか?
そしたら真実がしれて、実は舞香ちゃんの見間違いで、ホントはお医者さんごっこしてただけだったんです!みたいなことになんねーかな。
なる訳ねーだろクソが。
ああくそ、感情が荒ぶっているのを感じる。舞香ちゃんの言葉に嘘はないと思ったが、かと言って柴先生をそういう目で見たくない自分もいる。
いっそ見間違いであればと思う一方で、この島で女医に当たる人なんて、柴先生しかいないってのもよーく知ってる。
どうすりゃいいんだ、一体。
【1998年2月26日(木)】
ここ最近、頭がこんがらがる日々が続いていた。
舞香ちゃんは日に日に沈んでいて、遥ちゃんもそれに充てられて雰囲気が暗い。
担任の先生も疑問に思ったのか、今度は俺が知ってることはないか、と質問された。
一瞬ホントのことを言うべきか迷って──辞めた。
理由はわからない。多分、言ったって無駄に噂を広めるだけだと思ったからだ。
そして考えて、考えて。
もうむしゃくしゃしたから、本人に聞こうと思った。
だから先月の授業ぶりに、柴先生に会いに行った。
昨日の十六時くらいの話だ。
最初は家に行った。だがチャイムを押しても留守だったので、次に病院に行った。
病院について。入口から入ろうとして、ふと気になって、舞香ちゃんが言っていた状況を再現してみようと思い病院の裏手に向かった。
これもその時は理由が分からなかった。多分、本人に聞く前にやっぱり確かめたかったんだと思う。もしかしたら舞香ちゃんの見間違いなんじゃないかって。
そうしたら、診察室には柴先生と───母親がいた。
母親が病院に通っているなんて知らなかった。
産後経過の確認?それとも何かの相談を?
と考えたところで母親と視線がカチ合いそうになって、慌てて隠れた。
結局昨日は、柴先生と直接話すことができなかった。
母親と何を話していたんだろう、と思う。