呪霊を孕ませる特異体質 作:LABO
【1998年4月7日(火)】
あれから一週間が経った。
あの後、隠していた日記だけ自宅に持って帰って来ることにした。
隠し場所については、逆にランドセルの中に、教科書と一緒に紛れさせている。
逆にこれが一番見られる確率が低いと判断した。母親は言わずもがな、佐藤さんも勝手にランドセルを漁るような無粋な真似はしないからな。
さて。あれからあったことといえば、舞香ちゃんのさよなら会を開いたことだろうか。
誕生日会に比べてこじんまりと、遥ちゃんの家で行った。
俺も僭越ながら参加させてもらった。
二人とも、後会えるのは見送りのタイミングだけだというのに、沢山笑っていた。
俺もその場を精一杯楽しんだ。その時初めて、二人と本当に友達になれたような気がした。
だから、その次の日、俺達は笑顔で舞香ちゃんの乗る船を見送った。
泣いちゃったけどね。悲しかったけど、どこか爽やかな気持ちにもなれた。
そして……後は、探女のことか。
正直書くことはない。あれ以来、何もしていないし。
探女とは結局もう一ヶ月くらい会ってない。
もしかしたら二度と会えないのかもな、とも考えている。
彼女が廃神社にいなかった理由について、憶測を重ねることもできなくはないけど………なんというか、したくなかった。
できなかった。する気にもならなかった。
結局濱井君の失踪も原因不明のままだ。
……探女が原因なら、もうそれでいい。
濱井君を殺して満足して、そしてどこかに飛んでいってしまったなら。
もう、それでもいい。
俺は新しい日常に慣れるだけだ。それがどんなに苦しくても。
【1998年4月9日(金)】
日記が常に近くにあるようになって、書く頻度が増えた。
一応廃神社に置いていた頃も毎日書ける環境ではあったんだけどな。まあ、話し相手がいたからか。
んで、特に関わる訳では無いが、新しく一年生が入ってきた。
今年は二人だ。そしてどっちの子も村で見かけたことがあった。
男女コンビで、なんかいい感じだったように思う。
何事も無ければ幼馴染みたいな距離感になるんだろうな。
漫画みたいな恋愛をすることもあるんだろうか。羨ましい。
それと遥ちゃんのことなのだが、彼女は彼女で大きく変わった。
まず勉強する時間が増えた。一人で図書館に行ったりもしてるらしい。
曰く、イイ女になって舞香をびっくりさせる、らしい。
別れをポジティブな行動に変えれるって素敵だなと思った。
そして当の俺だが。
やっぱりまだ探女のことを引きずっている。だからポジティブな行動は起こせてなくて、なんならここ一ヶ月は呪霊討伐も行えていない。
今は専ら、家で日記を読み返している。
読み返しているというか、探女が俺と出会う前に書き込んでいた『滲んだ文字』を、どうにか解読できないかと四苦八苦している。
この行動そのものに意味はないんだけどな。
まぁ。最悪初夏が来る前には切り替える。呪霊がたっぷり湧くのが確定してる以上、その頃には呪霊討伐を再開しなきゃいけないしな。
【1998年4月12日(月)】
今日から集団下校が終了する。というのも、濱井君の失踪から丁度一ヶ月を区切りに、事件性が無いとして警察の捜査が打ち切りになったそうなのだ。
というか担任の先生に聞いたところ、本来は失踪の捜索を警察がここまでやることは無いのだとか。
逆にこの島の人口が少数で、人と人との関わりが深いからこそここまで捜査を続けていたんだと。
それを聞いて、これからは加速度的に日常が戻ってくるんだろうなと感じた。
ああでも、集団登校は今月末まで行われるらしい。
目的は新一年生と各学年のコミュニケーションと、防犯意識の形成、ってとこだろうか。
ちゃんと変わっていく部分もあるのかもしれない。
【1998年4月24日(金)】
今日で集団登校も終了した。
今は来週の月曜からの朝をどう過ごそうかな、と考えている。
正直、もう俺にあの廃神社まで行く理由はない。ただ、そろそろ呪霊討伐を始める必要があるのも肌で感じている。
深夜帯は肉体的にしんどい都合、やはり呪霊討伐は早朝に行うべきだと考えているのだが、そうなるとどうしても神社のことが頭を過ってしまう。
…………もう一度、神社に行ってみるべきかな。
探女との思い出を抜きにしても、俺自身あそこをほぼ毎日掃除していたから、そういう意味では愛着もあるのだ。
よし、そうだな。
ちょっと怖いけど、来週の月曜日からまた日課を復活させようと思う。
いい加減前を見なきゃだしな。
ああ、あと探女の書いた文字の解読なのだが、結構進展があった。
というのも、もしかしたらと考えて呪力を目に込めてみたところ、しっかりと文字を認識できるようになったのだ。
もしかしたらなんだけど、あの字は残穢のようなものなのかもしれない。今までは見ようと考えるきっかけもなかったから逆に盲点だった。
んで肝心の内容なんだが、こっぱずかしいことに、基本は俺への好意を表した文章が多かった。ただその中でも一個だけ気になる文章があって、俺が生得術式ないの辛いなぁ、みたいなことを書いた日の文章で”妾が教えてあげる”みたいなことが書かれていたのだ。
文章をそのまま読み取ると、俺が実は生得術式を持っているよ、みたいな言い方に見えた。それがちょっと引っかかっていて──でも確かめようがないから、手詰まりって感じだ。
うーん。あるのかなぁ。
でも原作によれば、確か生得術式って体に刻まれてるものなんだよな?
なら本能で分かるもんなんじゃないのか?もしくは、呪力を体に流すときに無意識に発動するみたいなこととか。
うーん、わからん。まぁでも、それについては長々やっていくとしよう。
現状術式の必要性はあまり感じてないし、最悪もっと大きくなってから五条悟に見てもらえばあるかないかぐらいは分かるだろうしな。
今は一歩一歩だ。残穢を見るという発想を身につけられたことを、今は喜ぼうと思う。
[1998年4月26日(日)]
「…………はい、はい………わかりました、伝えておきます」
朝七時。今日は明日に備えて、いつもの日曜日より早く起床した。
あくびをしながらリビングに向かうと、佐藤さんが電話で誰かと話しているのが聞こえる。
その表情は少し深刻そうで──今までの状況もあり、なんだか嫌な予感がした。
「はい、それでは………いえ、ありがとうございます。はい、失礼します」
「………あの、何かあったんですか?」
「!愛人君、おはよう。あのね……」
電話を切ったタイミングで、佐藤さんに話しかける。
すると、彼は少し逡巡した後、今の電話の内容を話す。
「実はね……今度は、八重さんとこの娘さんが失踪したって────愛人君!?どこ行くの!?」
───八重さんとこの娘、なんて言葉が聞こえた時点で、俺は走り出していた。
終わってなかった。終わってなんかいなかったんだ。
俺が勝手に終わったつもりになっていただけで。
悪夢は終わっていなかった。